古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第265話

 冒険者時代の友人達を招いた、来年廃嫡される新貴族男爵の長男から冒険者ランクC、その後に新貴族男爵に叙されて最後は宮廷魔術師だ。

 よくもまあ僅か三ヶ月で身分や立場がコロコロ変わってしまった物だが、それでも誘いには応えてくれた、身分差も有るとは思うが素直に嬉しく感じている。

 

 そして何故か僕の腰にしがみ付いて慟哭するコレットに困惑する、元々雇いたかったので有難いのだが何かしら理由が有るのだろうか?

 

「落ち着け、コレット。何か理由が有るのかい?家臣に迎える事は歓迎するから教えてくれないか」

 

 何とか引き離して話を聞く、愚図るコレットの話を纏めれば実の父親からのクラン勧誘が酷いそうだ、確か『希望の光』だったっけ?

 自分のクランと構成員が大切でコレットと母親には興味が薄かったそうだ、だがクラン運営が厳しくなった為にコレットのゴーレムに目を付けた。

 ゴーレム三体とコレットなら安全に低レベルのクラン所属の冒険者に経験値を積ませられる、今まで家庭を顧(かえり)みず今更ゴーレム目当てに擦り寄る父親が大嫌いだそうだ。

 最も嫌なのは女性と見間違えられるコレットの容姿をエラー(失敗作)と罵ったそうだ、土属性魔術師となる前の幼少期に……

 

「コレットは僕の、バーレイ男爵家の家臣だ。父親が何か言ってきたら構わないから僕の名前を出して良いよ、近くに新居も用意するから母親と共に引っ越してくれば良い。その代わりに僕の為に働いて貰うからね」

 

「うん、うん。あんな奴は父親なんかじゃない、僕や母さんを放置して捨てて自分だけのクラン運営にのめり込んだ奴なんて嫌いだ!」

 

 その後に出るわ出るわ、父親の愚痴のオンパレードが……自分がクランの長となり自由に動かしていたが運営不振による崩壊の危機に過去に捨てた家族に助けを求めた。

 だが一方的な協力要請で歩み寄りも謝罪も無かったのだろう、幼少の頃の暴言と母親をも捨てた父親とは和解は難しいか……

 

 コレットと母親の庇護なら問題無い、逆に家臣として優秀な土属性魔術師が雇えた事に感謝だな。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「コレットちゃん、家庭の事情で悩んでたのね」

 

「家庭を蔑ろにして困ったら泣き付く父親とか最低だわ」

 

「私達も家の為にって会った事も無い相手と結婚させられそうになったのよ、だから冒険者としてランクCとなり口出しを潰した。他人事には思えないの」

 

 最初からグダグダだった懇親の為の夕食会だが無礼講との免罪符を渡して和気あいあいに終わった、今夜は全員泊まって貰うので問題無い。

 イルメラとウィンディアが『静寂の鐘』のヒルダさん達をエレさんが『マップス』の幼馴染み二人組達と其々お茶会に突入し僕は『野に咲く薔薇』のアグリッサさん達のお相手をしている。

 僕の場合は鎧兜のメンテナンスだけどね、因みにコレットは自棄酒を大量に飲んで既に寝てしまった。

 ヒルダさんとアグリッサさんに(可愛いと)気に入られた事が止めとなり堪えたらしい……

 

「大分無理をしましたね?表層に多数の傷、何ヵ所かは凹んでいる。これは致命傷までとは言わないがダメージは大きかった筈ですよ」

 

 このハーフプレートメイルに付加した効果は、固定化で強度を増した事と衝撃を受けた場合に魔力石を消費して更に強度を増す事だ。

 二重の防御力UPをしても装甲が凹むとなれば普通は致命傷だぞ、指でなぞると直径10cm程度の範囲で1cmは凹んでいる。

 

「最初だけよ、そのハーフプレートメイルじゃなきゃ死んでいたのは確かよ。それ以降は慎重に戦ったから今は大丈夫」

 

「自分達の力を過信したのは反省してるわ」

 

「勇気と無謀は別物、無様に逃げ出して生き延びて理解したわよ」

 

 真面目な顔で反省してるけど一度死にかけたって事だよな、僕もデスバレーでシザーラプトルに負けたから彼女達の気持ちは良く分かる。

 確かに傷や凹みは有るが丁寧に手入れはされている、それに無茶をした為にか関節部分の磨耗が激しい。

 特にライズさんの左腕のガントレットの傷が酷いな……

 

「ライズさんの左腕のガントレットの損傷が酷いのですが、何か有りましたか?」

 

「ああ、私は左手を使い敵の攻撃を弾くからな。だからだと思う」

 

 は?盾を使わずに?

 

「補足するとね、ライズは敵の懐に潜り込んで腕を弾いて防御を崩してから攻撃する事も有るのよ」

 

 盾を使い弾き飛ばすのではなく敵の懐に潜り込んで腕で弾くの?それって捨て身過ぎない?

 

「ライズさん、すみませんがアグリッサさん相手にゆっくり同じ事をしてくれませんか?」

 

「え?それは構わないが……アグリッサ、頼む」

 

「ええ、別に秘技とか秘伝じゃないから問題無いわよね?」

 

 互いに5m程離れてゆっくりと両手を振り上げ、ゆっくりと振り下ろすアグリッサさんにライズさんは姿勢を低くして接近、振り下ろす腕を左腕を振り上げて弾きそのまま身体を半回転させて右腕を脇腹に当てた。

 今はスローだが実際は瞬発力を使い飛び込んで素早く身体を半回転させて腕を跳ね上げてガラ空きの胴体に攻撃を加える。

 姿勢を低くして膝を極限まで曲げて伸ばす、身体を半回転させるから腰の部分の可動域が限界に近い。

 

 貴族服に着替えて貰ったからスカートなんだよな、殺陣(たて)をするのは違和感が有る、脚の動きも半分は想像で補ったのだが大丈夫だろう。

 

「大体分かりました、関節の可動域が狭いですね。特に腰から下の部分は少し手を加えます、左腕と左肩は装甲を少し厚くしてショルダーガードを増設。

無防備な背中を晒す事になるのか、衝撃緩和の魔力付加を強くすれば何とかなるかな?」

 

 彼女のハーフプレートメイルに改造を加える、機動力重視だから重量軽減の魔力付加の効果も上げる、レベル39は伊達じゃない。

 

「あの?色々と危険な台詞が聞こえてますよ、駄々漏れですよ?」

 

「流石は宮廷魔術師様って事よね?」

 

「聞こえてないわね、フルカスタムのハーフプレートメイルを作って貰えるって御礼はどうしたら良いの?」

 

 踏み込みを強くする為に脚の裏にスパイクを設置、装甲の厚みのバランスを崩した為に左腕が少し重い、バランス調整の為に右腕のガントレットに仕込み武器を追加した。

 だが重量軽減の魔力付加の効果が格段に上がったので従来よりも20%軽減している、これは今の僕が作れる最高の鎧兜だ。

 

「完成しました、試着をお願いします。サラ、彼女の案内を頼む」

 

 額に浮いた汗を拭う、久し振りに良い仕事をしたな。

 

「えっと、着替えてくれば良いのですね?」

 

「ええ、次はニケさんの鎧兜ですね」

 

 女性三人組の『野に咲く薔薇』だがライズさんが攻撃の要でニケさんは防御の要だ、アグリッサさんは司令塔だが彼女のハーフプレートメイルも損傷が多いな、渡したラウンドシールドも同様だ。

 

「ふむ、パーティの守りの要だけあり損傷が多いですね。だが致命傷は無いみたいだ、特に関節の磨耗も少ないし……流石と言って良いですね、ニケさんは鎧兜の耐久性を極力損なわない戦い方をしている」

 

 此方は普通に修理で構わないみたいだ、だが左手に固定の小盾を増設するかな。後はラウンドシールドの補修をして終了だ。

 

「ニケさんの分も完了です、左手に固定の小盾を増やしました。後は補修だけで問題無かったです」

 

「あ、有難う御座います。小盾は欲しかったので助かります、接近されるとラウンドシールドでは取り回しが……」

 

「はいはい、リーンハルト様!最後はリーダーの私の番です」

 

 アグリッサさんがニケさんの言葉を遮(さえぎ)り右手を上げてその場で飛び上がりアピールするが、年頃の淑女がスカートで跳び跳ねないで下さい。

 

「分かってますから落ち着いて下さい」

 

 彼女は司令塔だから前の二人よりは損傷が少ないので最後に回したのだが、リーダーとして先に直した方が良かったのかな?

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 三人のハーフプレートメイルのメンテナンスを終えた、試着して貰い着心地を確かめて貰ったが問題無いみたいだ。

 今回はライズさんのハーフプレートメイルを大改造した、機動力重視とはいえ相手の懐に潜り込んで左腕で敵の腕を弾く……

 ダメージ無視のゴーレムの戦い方とは似て非なるモノ、基本的にゴーレムは盾で相手の攻撃を受けるだけで避けはしない、それは制御が追い付かないから。

 

「あの、腕を組んでジッと見詰められると困ります」

 

「品定めされてるみたいで困ります」

 

「私達も貴族の子女ですがリーンハルト様とは釣り合いませんよ」

 

 そう言えば彼女達の実家ってバーナム伯爵の派閥との関係ってどうなんだろうか?敵対派閥の親族だからといって付き合いを止めるつもりはないけど知らないのは不味いよな。

 

「何を言っているのか意味が分かりませんが、一応確認ですが実家はバーナム伯爵の派閥とは敵対してませんよね?」

 

 む、少し困った顔をしたな、もしかして敵対派閥だったのか?

 

「それは大丈夫、寧ろ派閥構成員よ。でも家名は……」

 

「ああ、それなら大丈夫です。別に家名は聞きませんよ」

 

 両手を前に突き出して振って教えなくて良いと伝える、逆に聞いてしまっては配慮しなきゃ駄目な感じになるし……

 彼女達も家を飛び出した立場だから知られたくないのだろう、最悪の場合は妾とか言い出す奴も居るだろうし。

 

「ごめんなさい、実家とは縁を切ってるし迷惑を掛けたくないの」

 

「でも安心して、大した家柄じゃないから。リーンハルト様をどうこう出来ないから!」

 

「恥ずかしながら私達は新貴族の男爵の娘達なのよ、だから宮廷魔術師のリーンハルト様には何も言えないと思います」

 

「そ、そうですか?」

 

 我が娘を頼みますとかは言えないよな、現状では僕に娘を押し付けられる奴なんて数える位で他は断れるからな。

 逆に自発的に側に置いている娘達の方が気に入ってると思われて押し込んで来るだろう。

 

 本当に貴族の柵(しがらみ)って面倒臭い、一度は逃げ出した身だけに分かる、逃げられないから余計に嫌なんだ。

 シュンって下を向く鎧兜を着込んだ妙齢の女性陣をみて可笑しくなる、何か言われても拒めるから問題無いだろう。

 

「気にしてませんよ。それとライズさんのハーフプレートメイルの新機能ですが、右手の手首に有るリングを回すとですね……」

 

 ライズさんの手を取り手首に付けたリングを右側に回す、すると手甲の部分から鋭い針が飛び出す。

 

「え?針?隠し武器?」

 

「この直径3cm長さ15cmの円錐形の針には錬金によるランダムな即効性の毒素を相手に注入します、強度も高いですから3mm程度の鉄板なら貫通出来ますよ」

 

 ランダムで一種類の即効性の毒素を注ぎ込む、四種類の麻痺毒を仕込んでいるので倒す事は出来ないが戦闘不能には追い込める。攻撃の要である彼女ならば上手く使いこなせるだろう。

 

「マジックアーマーに隠し武器、それも状態異常の効果付き?」

 

 む、何だか神妙な顔をして並んでから頭を下げられたぞ。費用を請求されるとか思ってるのか?

 

「いや、お金なんて取らない……」

 

「「「リーンハルト様!」」」

 

「はっ、はい」

 

 言葉を遮られた、そんなにハモって大声ださなくてもだな、友人達からお金を儲け様とは思っていないので安心して欲しい。

 

「その、幾らルトライン帝国魔導師団のマジックアーマーを預けたからって、受けて良い好意の範疇じゃないと思うの」

 

「あの鎧兜の買値よりも価値有る鎧兜を三つも受け取るのは心苦しいと言うか……」

 

「対価にすらなってないわ、だから私達に出来るお礼がしたいのです」

 

 いや、お礼って言われても好きでやっている事だし、僕にとってマリエッタの使っていた鎧兜には大きな意味が有ったんだ。三人で目配せして頷いているけど、何を考えているんだ?

 

「私達をリーンハルト様のお抱え冒険者にして下さい」

 

「えっと……」

 

 お抱え冒険者って事はコレットみたいな家臣じゃなくて『リトルガーデン』と同じ扱い、つまり普段は自由にして貰って何か有れば対価を払い優先的に対処して貰うで良いのかな?

 


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