古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第264話

 サリアリス様との密会を終えた、ローラン公爵の配慮には感謝するが色々と企みに巻き込まれている気がする、流石は公爵家と言う事だろう。

 正当後継者がヘリウス殿では未だ教育が必要だと言っていた、バルバドス師もそうだが家を継がせるとは大変なのだろう、僕も何れは我が子にバーレイ男爵家を継がせねばならない。

 

「未だ早い、僕は未成年で子供すら居ないじゃないか!」

 

 宮廷魔術師の僕の場合は後継者も魔術師である事が望まれる、何故なら僕の築いた宮廷魔術師としての基盤を継がせるから……

 

 だからバルバドス師も親族とはいえ魔術師じゃない相手との養子縁組に消極的で本妻殿が焦るんだ、家督を譲った相手と縁がなければ意味がない。

 逆に子供も孫も魔術師なのに要求される能力が無くて困っているのがサリアリス様だ。宮廷魔術師筆頭の後継者だから普通じゃ駄目だ、没落とは言わないが利権の殆どを失う。

 

「それでも財産は莫大だ、残りの人生は遊んで暮らせる位に……」

 

 だが総じて泡銭(あぶくぜに)は使い込んで散財し残らない、金を得る手段の無い貴族など先は知れている。

 人様の家庭の悩みを考えていたら自分の屋敷に到着してしまった、そして未だ家臣希望者が居るのか。

 

 門の前には数人の男女が待ち構えている、家臣については来週のマグネグロ様との結果次第だな、相手も嫌がるかもしれないし僕にも余裕が無い。

 

「リーンハルト卿、話を聞いて下さい!」

 

「私はクロッサス男爵の三男、バミューズです。是非とも家臣に加えて下さい」

 

「リーンハルト様、俺は武芸に自信が有ります」

 

「一度だけで良いので話を聞いて下さい、お願いします」

 

 門を開けると馬車を取り囲む様に寄って来るが、先にゴーレムポーンを周囲に錬成配置し近付かせない。一人でも相手をすれば歯止めが効かなくなる。

 不誠実な対応だとは自覚しているが敵対派閥から送り込まれる可能性も捨て切れないから、人選はジゼル嬢任せになるだろう。

 

 屋敷からタイラントが駆け寄って来て連中に説明をしている、渋々だが散って行ったな。何時も彼には苦労を掛けてるので感謝の気持ちとして賃金を上げよう。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 冒険者時代の友人を自宅に招く、言葉としては簡単だが実際は少し大変だ。

 彼等は貴族の子女や平民だ、僕が気にしないと言っても彼等や部外者達が身分違いと思ってしまう。

 思うだけなら良いが彼等を糾弾する連中が居ないとも限らない、メディア嬢からも釘を刺されている、曰く『気さくだと評判です』と……

 

「宮廷魔術師第六席、伯爵扱いの僕には付き合うのに相応しい相手が居るそうだ、半分は正論だが嫌になるな」

 

 歓迎の準備はサラ達が行うので僕は邪魔しない様に執務室に追いやられた、主はドンっと構えて居なければならない。

 そして家を存続させる為に嫌な事にも付き合わねばならないか……

 

 机の上に置かれた手紙、王家主宰の舞踏会には強制参加だ、しかもマグネグロ様との模擬戦の後だから話題独占だな。

 今から胃が痛い、戦う方がマシと感じるのは僕もデオドラ男爵に毒されているからじゃないよな?普通は自信が無い方を嫌がるんだ!

 

 モリエスティ侯爵夫人のサロンに招待された、この女性は貴族の女性達から一目置かれている曲者(くせもの)だが貴族社会の事で知らない事はないと言われる程の情報通らしい。

 招待されて断る事はデメリットしか無いとまで言われている、らしい。

 

 この二通には出席する旨の返事を書いた、胃がシクシクと痛むのは自分の能力じゃ逆立ちしても敵わないからだろうな、ドラゴン種にだって単騎で挑めるのに華やかな女性には弱い。

 

「後はバーナム伯爵からの派閥顔見せの舞踏会への招待、これも強制参加だが舞踏会が武闘会って読めるのは目の錯覚、見間違いだ」

 

 此方も出席する旨を手紙に認(したた)める、そろそろバイオリンも今の流行りの曲を覚えないとボロが出そうだな、幸いバイオリン本体は贈り物の中に有ったし今夜から始めよう。

 

 次は挨拶を交わした程度の方々からのお茶会や舞踏会のお誘いだ、お茶会には必ず自分か親族の娘が待ち構えている、舞踏会など親戚一同でおもてなし?

 駄目だ、十四通も有るがジゼル嬢と相談し必要なのだけ出よう。

 

「大分依存してるな、僕は魔法馬鹿だから勝手に動くと悪い結果にしかならない。薄々周りも気付いている、僕を動かすなら本人よりジゼル嬢に頼めと……」

 

「本妻の尻に敷かれてる宮廷魔術師と噂になっているそうだ、ハンナが嬉しそうに教えてくれた。

ロッテも僕の側室になりたければジゼル嬢に認められるのが最短だと噂されていると教えてくれた、ジゼル嬢にお茶会の申し込みが殺到してるとも合わせて……」

 

 あれでジゼル嬢は負けず嫌いで愚痴は言えども弱音は吐かないからな、今度それとなく聞いてみるか。

 

 しかし血の繋がりを重視するのが貴族社会なのは分かるが未だ早いだろう、地盤も固まってないんだぞ、失脚したらとかリスクを考えないのか?

 いやそれも考えて早い者勝ちと娘を送り込むんだ、失脚すれば離婚して取り戻せば良いのだろう、嫁いだ女性が実家に帰るのは絶縁と同義だからな。

 

 最後は家臣第一号のペアのお嬢様達への実家に挨拶と贈り物だな、エルナ様が交渉に支度金代わりの金貨一千枚と魔力が付加された武器と防具数点で了承して貰えた。

 だが僕が家臣を募集しているのがバレた、しかも厚遇する事もだ。暫くは売り込みが多くなるだろう。

 

「む、魔力反応だ。どうやら一番最初のお客様はコレットか」

 

 わざとだろう、魔力を隠蔽せずに晒しているのは敵意の無い証だ。出迎える為に執務室を出る、手紙書きは終了だ。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「あら、我が主様が自らお出迎えですか?」

 

「美少女魔術師ですわね、もしかして我が主は年下好みですか?」

 

 執務室を出て急いで廊下を進み階段まで来た時点で新しく家臣に迎えた二人の才媛に捕まった、君達の実家経由で家臣希望者が殺到しているのだが本人達は誇らし気なんだよな。家臣第一号ペアだからか?

 

「アシュタル殿、ナナル殿、コレットは男性で女性に間違われる事にコンプレックスを感じてます。不用意な発言は控えて下さいね」

 

 彼のコンプレックスについて説明をしておく、彼女達が同性扱いをすれば傷付くのは分かりきっている、はっきり言ってコレットは見た目は美少女だ!

 

「私達は呼び捨てにして下さいな」

 

「そうですわ、周りに示しがつきません。何なら閨に引っ張り込んでも引き込んでも構いませんのよ」

 

 ぐぬぬぬ、僕の与えた試練を完璧に終わらせた為に家臣として迎えた二人だが、言い争いでは勝てない事を理解した。

 自身の能力を生かせる場所を用意したのだ、もう僕の側室や妾になどなるつもりも無いのにネタとして弄られるんだ。

 結局男は女に口では勝てないんだよ……

 

「分かりました、善処します。くれぐれも女性と勘違いしては駄目ですからね?」

 

 そう言って階段を下りると畏まって固まっているコレットの両手を握り締めて上下に動かす。

 

「良く来てくれた、歓迎するよ。コレットが一番最初なんだ」

 

「お、おおお、お招き頂き、あああ、有難う、御座います」

 

 緊張の為か言葉遣いが変だが嫌がってはいないのが嬉しい、だが魔術師のローブの下の服装は何て言うか女性っぽいな。

 男性っぽくなりたい割には淡いピンク色のシルクのシャツに白いスラックス、真っ赤な布を帯みたいに腰に巻いている。

 

「そのコーディネートは自分で?」

 

 ちょっと活動的な美少女にしか見えない、不思議な事だが男と知っている僕が錯覚、いや認識を阻害されているみたいだ。

 

「うん、こんな顔だから似合う服が中々無くて、でもお店の人に頼むと似合うけど女性っぽくて……」

 

 俯く姿は完全な憂いた美少女にしか見えない、きっと母親似なのだろうから気にしない。何て言って良いか分からずに言葉を探していると新しい魔力反応をキャッチした。

 

「む、この魔力反応はリプリーか。どうやら二番目は『静寂の鐘』みたいだな」

 

 時間ぴったりに皆さん訪ねて来るな、その後ろには『野に咲く薔薇』の三人も見える、そして最後はエレさんと『マップス』の連中だな。

 ヒルダさんを先頭に右側にリプリーとポーラさん、左側が兄弟戦士のヌボーとタップが並んでいる。

 

「ようこそいらっしゃいました、歓迎しますよ」

 

 タイミング的には此方もコレットと並んで出迎える事になってしまった、思えば全員集まるのは初めてでお互いを知らない事に……不味い、下話してないから。

 

「スゲー美少女ですな、新しいパーティメンバーっすか?」

 

「気を付けないとハーレムパーティって悪い噂がですな」

 

 兄弟戦士、ヌボーとタップからの口撃にコレットが両膝を床に付いた?

 

「ぼ、僕はですね……」

 

「僕っ娘か?リーンハルト卿の趣味は流石の一言です。痛い、痛いって!」

 

「黙りなさい、馬鹿兄弟!リーンハルト君が無節操な女たらしな訳ないでしょ」

 

 ヒルダさんとポーラさんに割と本気で蹴られ叩かれているが仄かに嬉しそうなんだよな、説教すら御褒美とは呆れる多様性だ。後ろが控えてるから早めに事態を収拾しないと。

 

「勘違いですよ、コレットはれっきとした男性です」

 

「「「え?」」」

 

 全員が疑問を浮かべた事により、コレットが更に落ち込んでしまった。殆ど土下座みたいになってる。

 

「え?いや、本当です。彼は母親似なだけです、ほらコレットも俯いてないで立って!」

 

 コレットの背中を擦ってから両脇に手を入れて持ち上げて立たせる、ドワーフ謹製『剛力の腕輪』の効力は素晴らしい。

 

「むぅ、結構仲良しさんなんですね?」

 

 何故かリプリーが拗ねた?

 

「え?ああ、何と無く目が離せないと言うか……手の掛かる弟みたいな?」

 

 我が弟であるインゴを思い出させる、外見は全然似てないのだが気弱で優しい所とか性格は似ていると思うんだ。

 

「リーンハルト卿、お招き頂き有難う御座います」

 

「急に予定を変えさせて申し訳なかったですね」

 

 アグリッサさん達が貴族の礼節に則った挨拶をしてくれた、彼女達は貴族の令嬢だが実家の口出しを抑える為に冒険者ランクCになったんだっけ。

 僕謹製の錬金鎧兜にマントを羽織っている、だが着替えを持参する様に伝えてある。流石に鎧兜を着たままで夕食とは行かないしメンテナンスは時間が掛かるから。

 

「お三方は先に着替えて下さい。サラ、彼女達を客間に案内して着替えを手伝ってくれ」

 

「畏まりました。お嬢様方、此方で御座います」

 

 アグリッサさん達がサラに案内されて二階の客間に行く時に、アシュタルとナナルを睨んで行ったが訳有りかな?

 最後はエレさんと『マップス』の面々だが、此方は気合いを入れてお洒落したみたいだ。何故かエレさんと幼馴染みの二人、ヘラとマーサはお揃いのドレスを着ている。

 

「やぁ!もう勧誘は無理だぞ」

 

 何時も出会うと勧誘されるが、流石にもう無理だからな。冗談っぽく言ってみた。

 

「お、お招き頂き有難う御座います。勧誘なんて、滅相も御座いませんです、はい」

 

 凄く萎縮されてしまった、だが女性陣は目がキラキラと輝いている。貴族の屋敷に招かれるのは初めてだってエレさん経由で聞いていたが興奮し過ぎだと思うぞ。

 

「玄関先で盛り上がっても仕方無いですね。アシュタル、ナナル、彼等を食堂へ案内してくれ」

 

「「はい、畏まりました。我が主よ」」

 

 はいはい、僕を困らせて楽しいのですね?その真面目ぶっても口元がヒクヒクしてますよ、笑いたくてね。

 だが久し振りに冒険者時代の仲間と騒げるのは楽しい、王宮務めは胃痛との戦いだし来週はマグネグロ様と戦うし……

 

「リーンハルト様、僕の事を弟って思ってくれるんですか?本当ですか?ならば僕を雇って下さい」

 

「ちょ、少し落ち着いて!」

 

 腰にしがみ付かないでくれ、君は外見は美少女だから端から見るとだな!

 

「お願いします、お願いします」

 

 当初の予定通りコレットを自軍に引き込む事が出来た。

 


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