古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第263話

 今日から四日間は王宮に行かずに自由なのだが、色々と予定を入れられて調整をする事になった。

 初日は午後からローラン公爵家にお邪魔してサリアリス様との所謂『逢い引き』だ、当時は仲々会える機会が無かったのでお願いしたのだが宮廷魔術師になったので問題無くなった。

 だがマグネグロ様への対応について話し合う必要が有り丁度良かった、夕方は友人達を招いての細やかな食事会。

 その時に『野に咲く薔薇』のアグリッサさんやニケさんの鎧兜のメンテナンスも行う。

 

 明日は冒険者ギルド本部とライラック商会にアースドラゴンを引き渡す、当然だが討伐権利は無いので僕がデスバレーで狩った事での素材販売だ。

 このアースドラゴンの納品により僕の冒険者ギルドランクがBに上がる、単独で大量の納品による特例みたいな物だが当然イルメラ達には反映されない。

 彼女達の為にもギルドポイントを貯めて早くランクCに上げたいので、その後は魔法迷宮バンク攻略を進める。

 

 三日目はバーナム伯爵の派閥の御披露目だ、舞踏会ならぬ武闘会になるだろう、じゃなければ昼間から開催しないし、夜は懇親会になるから丸一日潰れる。

 先日若手の派閥加入希望者の実戦試験が有り上位三人が相手をしたが歯応えが無いとボヤいていた、つまりバーナム伯爵とライル団長、デオドラ男爵の三人の不満は溜まっている。

 

「つまり模擬戦をさせられる危険性は大だな、だが僅か三日で宮廷魔術師団員と宮廷魔術師第六席だったリッパー殿に喧嘩を売ったんだ。僕も十分に毒されている……」

 

 戦闘狂がtop3の派閥って実際はどうなんだろうな?他からすれば相当扱い辛いだろう……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 暫く振りにローラン公爵の屋敷を訪ねる、前回は家督争いの揉め事に巻き込まれたんだよな。

 

 立派な門を潜り抜け屋敷迄の間の手入れの行き届いた庭園を見ながら思う、落ち着いたら貴族街への引っ越しの屋敷探しを急ごう。

 多分だが旧コトプス帝国の残党が占拠したハイゼルン砦の奪還や、それに連動する敵の対処に僕が駆り出される確率は高い。

 予想では二ヶ月後位だと思う、難攻不落のハイゼルン砦だから先発隊が攻め切れない場合の増援。

 または先発隊として行かされる可能性も有るな、どうしてもアウレール王がウルム王国より先に砦を落として確保したいと思えば……

 

「少数精鋭、常備軍か聖騎士団との合同作戦も有り得るか?」

 

 広い敷地の為に門を潜っても屋敷迄は暫く馬車が走る、此処まで広大な屋敷は求められてないと思う、いや思いたい。

 もし宮廷魔術師第二席にもなれば立場や権力は伯爵扱いでは収まらない、侯爵級位になるから誰もマグネグロ様の事を抑え切れなかった。

 

 屋敷の正面玄関に馬車を横付ける事を許された、これは来客として上位に位置してると扱われている。

 前回はヘリウス様と同行したから許されたが本来なら格上の相手であるので馬車停めに廻される、舞踏会等の招待者が多数訪問する場合は分け隔てなく正面玄関に停められる。

 勿論上位貴族は後からゆっくりで下位貴族は先に忙しくだが……

 

「ようこそいらっしゃいました、リーンハルト様」

 

「お招き頂き有難う御座います」

 

 例の執事が出迎えてくれたが妙に下手に出てると言うか微妙な対応だ、構わずに案内を他の執事に引き継いで深く頭を下げた状態で固まっている。

 何も言わずに案内に従い移動する、前に高飛車な態度で接したが自分よりも立場が上になってしまい対応に困ったのだろう。

 

「サリアリス様は?」

 

「既に来られています」

 

 む、待たせる訳にはいかずに予定より十五分も早く来たのにか?

 

「サリアリス様は主と約束が有りましたので、一時間前に来られました」

 

「そうですか、待たせなくて良かったです」

 

 格下が格上を待たせる事は出来ない、先方もそれを理解し相手により時間を変える、細かいがコレも柵(しがらみ)だ。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 豪華な応接室に通されて十分くらい待つと、ローラン公爵とサリアリス様が一緒に部屋に入って来た、立ち上がり一礼する。

 

「待たせて済まなかったな、リーンハルト殿」

 

「先に少しローラン坊やと話しておった、来週の件じゃな」

 

 気さくな対応だが会話の内容は物騒だ、来週直ぐに宮廷魔術師第二席のマグネグロ様に挑むから勝てば配下の引き抜きを頼むって事だ。

 僕の隣にサリアリス様、向かい側にローラン公爵が座る、ヘリウス様が居ないのは聞かせる内容ではないからだな。

 正当後継者とはいえ、未だ辛く厳しい内容になるだろうし……

 

 メイドさんが紅茶と焼き菓子を配り終わる迄は無言だ、一礼して部屋を出て暫くしてから漸くローラン公爵が口を開いた。

 

「リーンハルト殿、ニールを可愛がっているか?アレは君に随分と憧れて執着していたぞ」

 

 え?第一声ってニールの事?ローラン公爵が彼女の事を気にしていたのか?真面目な顔だし妾として可愛がっているのかとか軽い話ではないよな。

 

「えっと、デオドラ男爵に預けて魔法戦士として鍛えて貰っています。元々素質が有ったのでしょう、理想的な環境でメキメキとレベルを上げています」

 

 ローラン公爵が深い溜め息を吐いた、彼女の事情をしっての扱いの悪さを気にしているのだろうか?

 

「今はジゼル様に任せていますが、来年彼女を本妻に迎えた後に側室にします」

 

「そうか、アレの父親とは少しばかり縁が有って気にはしていた。将来有る若者に嫁がせるつもりで世話をしていたのだ、大切にしてやってくれ」

 

 そう言って軽く頭を下げたが善意で受け取るか含みがあると受け取るか……最初は柵(しがらみ)無しと言ったが今は縁有る娘だとお願いされたんだ。

 しかも格上の相手が軽くとはいえ頭を下げた、リズリット王妃といい自分の立場を理解して元手無しで縛り付けてくる、乱発しない分効果は高い。

 

「ええ、大切にさせて頂きます」

 

 そう言って僕は深く頭を下げる。良かった、ローラン公爵の影響下からニールの母親は引き取って面倒を見ていて本当に良かった。

 しかし側室が増え過ぎるのが不安だ、歯止めが効かなくなる前に改善しないと後々問題になるのが目に見えている、胃がシクシクと痛くなってきたが耐える。

 姿勢を正してローラン公爵の目を見る、向こうも雰囲気が変わった。

 

「本題ですが……来週早々に僕はマグネグロ様に勝負を挑みます、旧コトプス帝国の残党が活発に動き始めました。

現状で軍部と宮廷魔術師達の不和は国益を損ないます、それに我が師であるバルバドス様との因縁の相手。負ける訳にはいきません」

 

 脱線したが本題はマグネグロ様の勢力の引き抜きのお願いだ、負けた後に巻き返しを防ぐ為にも勢力の縮小は必要だ。最悪の場合は生死を問わない勝負に持ち込む必要が有る。

 目を閉じて考えている、幾らサリアリス様と事前に話し合いをしてもメリットとデメリットを比較しているのだろう。

 

「勝てるのか?相手は長年宮廷魔術師第二席に居座っている強力な魔術師だぞ、しかも属性の相性も悪い」

 

 確かにポッと出の未成年が長年宮廷魔術師としての実績有る相手に勝てるのかは疑問だろう、だから宮廷魔術師団員と多対一で戦い席次が上のリッパー殿と一対一で戦ったんだ。

 

「四大属性の優劣は無いと証明する為に多数の火属性魔術師と戦い、更に格上の風属性魔術師を倒したのです。幾らマグネグロ様が火属性魔術師最強と言っても……勝てますよ、負ける理由が無いですから」

 

 ローラン公爵から視線を逸らさずに勝つと宣言する、正確には勝率八割程度だが弱気は厳禁だ。

 

「いやはや、息子の恩人は凄い自信家だな。あの『噴火』の二つ名を持つ男に負ける理由が無いと言い切るか!良かろう、奴が無様に負けた後の配下の引き抜きには力を注ぐ、出来るだけ確保しようぞ」

 

「有難う御座います」

 

 深く頭を下げる、僕と懇意にしてると思われているローラン公爵家からの引き抜きに応じるなら、僕とは敵対しないだろう。

 だが僕と明確に敵対するバニシード公爵に引き抜かれた連中は逆だ、宮廷魔術師団員の派閥は割れるだろうな。

 

「礼を言われる筋合いは無いな、自勢力に多くの魔術師を引き抜くのにはメリットが有る。そしてマグネグロ殿を倒す事自体には協力を求められてない、一方的に有利なのは此方だ」

 

「いえ、敵対する連中が明確になるだけでも助かります。流石にローラン公爵家に引き抜かれた連中は派閥の意向に沿うでしょうから……」

 

 中途半端なコウモリが困るんだ、敵なら敵らしく敵意を向けてくれれば対処し易い、変に擦り寄られて半端な対応をされて裏切られる方が嫌だ!

 

「リーンハルトよ、お前の最大の協力者は儂じゃ。マグネグロを倒せば儂が配下の馬鹿共に最終警告をする、敵か味方か選べとな。

その後に引き抜きを始めれば奴の配下は散り散りになる、親族しか残らないだろうよ」

 

 うわぁ、キツイだろ。所属派閥の長が倒されて席次が第六席に下がった後に筆頭と新しい第二席から目の敵にされる、ならば公爵家の比護を求める奴は多い。

 

 後は僕への憎しみが勝れば残留か敵対派閥のバニシード公爵家を頼るかもな……

 

「有難う御座います。多分ですがアウレール王はハイゼルン砦の奪還に意欲的ですよね?我々、宮廷魔術師の派遣も濃厚でしょう。

そしてユリエル様かアンドレアル様が候補に上がると思います、『台風』も『魔弾の射手』も攻略戦には定評が有ります」

 

「そしてリーンハルトも宮廷魔術師達を引っ掻き回した責を問われて行かされる可能性は高い、試金石を兼ねてな。成果を出せば煩い馬鹿共の口を封じる事も可能じゃよ」

 

 サリアリス様の言葉は僕も考えていた、此処まで騒ぎを大きくして無罪放免とはいくまい。必ず反対勢力から突き上げられる、そしてそれを黙らせるにはハイゼルン砦の奪還は最高の成果だな。

 エムデン王国の悲願とも言って良い過去の汚点の精算だ、誰からも文句は出ない、いや出せない。

 

「宮廷魔術師になる為にドラゴンスレイヤーになり、宮廷魔術師の引き締めの為にハイゼルン砦を落とすか……波乱万丈な生き方だな。だがローラン公爵家も武門の一族だ、手伝う事にしようぞ」

 

 思った以上の遣り手だぞ、確かに武門の派閥だが協力してくれれば手柄の半分以上は格上のローラン公爵の手に入る、公爵五家の順位巻き返しにもなるだろう。

 流石に僕一人ではハイゼルン砦攻略は難しいしバーナム伯爵の派閥での援軍では数が限られる、ローラン公爵家の援軍は欲しい、欲しいのだがデメリットも多い。

 

「有難う御座います、その時はお願いします」

 

 だが援軍を断って敵対されるのも困る、ここは折れるしかないな。バーナム伯爵もニーレンス公爵も援軍を寄越す可能性も有るし話し合いだな。

 

「うむ、任せるがよい。さて、我が子ヘリウスも会いたがっていた。別室で待たせているから会ってやってくれ」

 

 ヘリウス殿か、天然で純粋に慕ってくれるけど苦手なんだよな。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 我が子に会いに部屋を出る最年少宮廷魔術師殿の背中を見る、未だ未成年なのに先程まで話し合っていた内容は異常だ。

 実績有る宮廷魔術師第二席に問題無く勝てると言った、いや勝つ事自体は問題にしていない、その後の事を気にしている。

 

「サリアリス様、彼は何者なんでしょうか?」

 

「ふむ、新貴族男爵の長子とは思えない出来の良さじゃな。魔術師としては申し分無いし礼儀作法も知識も豊富、文化的素養も有るらしい。

リズリットがの、散々調べても何も出てこなくて儂に泣き付いてきたぞ。何でも『あの少年を我が子ミュレージュの傍に居させたいが大丈夫か?』とな。

あの剣術馬鹿に何かしら与えてあげたいのじゃろう、国は無理でも友ならと……」

 

 ほう?リズリット王妃が接触したのか。だが注目すべきは王族の動向じゃない、サリアリス様が何故それを教えたかだ。

 彼女は相当リーンハルト殿に入れ込んでいるな、危険な位に入れ込んでいる、六十過ぎまで自分が認める魔術師が居なかった為に反動が酷くなっている。

 

 危険だな、危険過ぎるぞ、彼等との距離を良く考えないと暴走に巻き込まれるかもしれんな。

 

 


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