古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第258話

 

 王宮出仕三日目の午後、配下となった土属性魔術師の指導をしている。

 驚いたのは噛ませ犬的ポジションだったセイン殿の成長の著(いちじる)しさだ、最初は微妙なグレートホーンも三体から五体に増えて一回り大きくなっている。

 両側に張り出した肩には鋭い突起が付き、最大の武器である角は長く太く鋭くなった。

 これなら重装騎兵隊の突撃をも跳ね返す事が出来そうだ、土属性魔術師団員の中核を担える程に成長したな、いや化けたと言い換えても良い位だ。

 

 他の連中が錬成したゴーレム達を見る、軍事行動を前提にしている為か人型タイプが多い。

 基本的な鎧兜にロングソードにシールドを装備して、一人が三体から五体を制御下に置いている。

 異形タイプは人型を基本に手が四本だったりカマキリの鎌だったりしているか、セイン殿と同じ様に四本足の動物タイプだったりだが大型の場合は一体しか制御出来ないみたいだ。

 熊を模したタイプも居るが大型で防御とパワー重視、接近戦しか出来ないから使い道が難しい。

 あと忘れてはいないが、デスキャンサーも隅の方で更に巨大化した右手のハサミをチョキチョキしている、アレは余り変化が見られないな。

 

 だが此処で人型ゴーレムの利点を説明し強制的に変えても意味が無いんだよな、個々の理想とするゴーレム道が有るので正解は一つじゃない。

 

「リーンハルト様、皆に手本を見せて下さい」

 

「手本?」

 

 錬成されたゴーレム達を触って探査魔法で調べていたが長過ぎたのだろうか、セイン殿に手本を見せろと言われた。

 確かに自分達が錬成したゴーレムを延々と弄くられて調べられたら色々と照れたり困ったりするのだろうか?

 

「ええ、そうです。実戦は二回見ましたがゴーレムの錬成そのものは余り見せて貰ってません」

 

 何故、後に手を組んで胸を張って発言するんだ?軍隊スタイルか?

 

 他の連中は横一列に並んで頷いているのを見ると僕の力の底を見たがっているのだろうか、基本となる大量運用は見せてないし……

 練兵場に居る他の連中や観客席にもチラホラと人が集まって来てるし、カーム殿を先頭に水属性魔術師達など近付いて来ている。

 

「つまり力を示せって事だな。良いよ、分かり易く教えて上げよう。これも一つのゴーレム道だよ」

 

 そう言って空間創造からカッカラを取り出して頭上で一回転させて降り下ろすと、先端の宝環がシャラシャラと澄んだ音を奏でる、僕はこの音が好きだ。

 

「クリエイトゴーレム!不死人形達よ、無言兵団よ。集団戦の真髄を見せてみろ」

 

 現状での全力は見せない、ゴーレムナイトでなくゴーレムポーンを横二十体、縦に三列並びで六十体錬成する。武装はロングソードにラウンドシールドだ。

 

「馬鹿な、三秒で六十体だと?」

 

「これがゴーレムマスターの二つ名の由来、無言兵団は古の魔術師と同じか……」

 

「早い、そして制御ラインが多過ぎて分からない、少なくとも二百本は越えてるぞ」

 

 先ずは彼等と向き合う僕の後側に整列させる、強さはレベル30以上の戦士職と同等程度に抑えた。

 

「僕は基本的にゴーレムによる集団戦を得意とする、任意に武装を変える事で近距離から中距離迄の戦闘を可能にするのが特徴、つまり汎用性を追及したんだ」

 

 一斉にロングソードを抜いて袈裟懸けに一振りした後にロングボゥ装備に切り替えて予(あらかじ)め練兵場の中央に錬成した高さ3m横幅3m厚さ1mの土壁に向けて矢を放つ。

 

「武装の高速切り換えなんて、見た事も聞いた事も無いぞ」

 

「水平射ちで矢が半分以上土壁にめり込んだぞ、何て貫通力だ」

 

「しかも連射だと?合計百八十本の矢を短時間で射てるのか、しかも全部当たっているし」

 

 驚くのは未だ早い、次は投げ槍だ!

 

 ロングボゥを魔素に還し投擲用の槍に持ち変える、一連の武器変更も三秒以内に可能だ。

 

「一斉投擲!」

 

 合計三十本の投げ槍が土壁に突き刺さり脆く崩れた、最後に三十体のゴーレムポーンを瞬時に魔素に還し改めて別の場所に錬成する。

 

「これがゴーレム使いの可能性の一つの集団運用だ、任意の場所に素早く錬成し敵の構成に合わせた武装で襲撃する。

あとは前に見せた攻城戦級の大型ゴーレムとの組合せをしたり臨機応変に対応出来るのが最大の特徴だね」

 

 今の僕の実戦対応の最大運用数はゴーレムポーンで三百五十体、ゴーレムナイトで二百体、防御特化型も同数の二百体、ゴーレムルークは六体が限度だ。

 これはレベル39になった後に色々と調べた、因みにゴーレムポーンもゴーレムナイトも戦士職のレベル45相当だがレベルと制御力を下げれば制御数は増える。

 ゴーレムポーンならレベル30で四百体、レベル20なら五百体、雑兵相手なら数で押せるだろう。

 

「こんなところで良いかな?」

 

 カッカラを一振りしてゴーレムポーンを魔素に還す、観客席の何人かは出口に走って行ったな、誰かに報告するのだろう。

 全力の二割程度しか見せてないが慎重な相手なら何割か増して対応策を練る筈だ、流石に五倍は見積もらないだろうな。

 

「流石ですわね、ゴーレムマスター様」

 

「カーム殿達も鍛練ですか?」

 

 相変わらず痴女半歩手前のセイレーンの薄絹を羽織り殆ど下着と言うか破廉恥な衣服が透けて見えているので、然り気無く視線を外す。

 後に同じ派閥の二人の男を従えているが視線が下を向いている、つまり臀部をガン見しているんだ。貞淑な子女の多いエムデン王国で彼女は突き抜けている。

 

「ええ、僅か三日間で私達宮廷魔術師団員を引っ掻き回しているリーンハルト様に触発されての自己鍛練ですわ」

 

「魔術師とは魔導の深淵を追い求める者の総称、常に自己鍛練を怠らないのは流石ですね」

 

 言葉は丁寧だが表情は挑戦的だ、彼女はユリエル様の派閥だから何かしようとは思わない、それは向こうも同じだろう。

 

「セイン殿、余り女性を凝視するのは紳士では有りませんよ(それが痴女でもです)」

 

「あら、セイン殿は私に興味がお有りなのかしら?」

 

 鼻息荒くカーム殿をガン見するセイン殿をたしなめたのだが、逆にカーム殿は挑発的なポーズを決める。両手を頭の上で絡めると胸が強調されるし、腰も艶かしくクネらせている。

 

「ふむ、家柄的にもお似合いですね。メディア様とユリエル様には僕の方から話しておきます」

 

 痴女はセイン殿に押し付けよう、本人も興味津々な感じでガン見してるし、見た目も美人で家柄も確かだ。

 

「お断りします、下心満載の殿方などお断りです!」

 

「私もだ、妻は従順な大人しい娘が好みです。気が強い女は側室に欲しいのです、でないと色々と大変ではないですか!」

 

 え?お互いに否定的だと思ったが、セイン殿は彼女を側室なら歓迎みたいな?

 所属の派閥は違えど敵対はしていない、セイン殿は従来男爵の次男か三男で、カーム殿は聖騎士団副団長の令嬢で宮廷魔術師団員の第三席だっけ?

 

「ふむ、無理な組合せではないな。本気ならば力を貸しますよ、ジョシー副団長もカーム殿の嫁ぎ先を探していた筈ですし……」

 

 何よりジゼル嬢を狙う同性愛者で、僕の事を一方的に恋敵にしている困った御令嬢だ、此処でセイン殿に押し付ければ万々歳。

 

「この様な女性を嫌らしく粘着質に舐める様に見る殿方など断固拒否します!絶対に嫌です、この様な礼を欠いた方に嫁いだら毎日説教ですわ!」

 

「それは理想的な……いや、仮にもニーレンス公爵家の御令嬢、メディア様の側近の俺が礼を欠いただと!もっと罵(ののし)れ、いや黙れ、このお色気女が!」

 

 向かい合い顔を近付けて罵(ののし)り合うが、セイン殿は痴女でなくお色気女と判断したか、お似合いじゃないか。

 

「あの二人は放っておいて攻撃用のゴーレムについて説明するよ、錬金術と合わせて考えれば多種多様な武器に即時切り替えられる事は汎用性に富んで何事にも臨機応変に対応出来る。だが反面制御の難しさと多彩な武器の特性を理解する必要も有るんだ」

 

「「私達を無視して話を進めないでくれ(下さいな)」」

 

 息がピッタリ合っているな、中々のコンビネーションだ、肩を怒らせて並んで睨まれたが互いに真っ赤な顔なのは意識し合っているのだろう。

 

「真っ赤になって照れられても困るのですが、仲が良いのは分かりました」

 

「「違います!」」

 

 最初は本気じゃなかったが、中々お似合いかもしれないな。

 セイン殿も一皮剥けた事だし未だ独り身と聞いているし、何より二人共に意識し合っているし、本気で考えるか。

 

「分かりました、後は任せて下さい。さて、汎用性に富むが故に制御が複雑だが簡素化する事で多少は改善される。操作の複雑な部分、例えば両手の指を使って武器を握ったりする事は難しい」

 

 そう言ってロングソードを装備したゴーレムポーンを二体錬成する、一体は通常の指で掴むタイプ、もう一体は手首から直接生やすタイプ。

 

「この様に制御の難しい部分を無くす事で大分制御が楽になる、後は装飾も簡素化、構成パーツも減らす」

 

 並べていた二体の内一体を更に簡素化する、のっぺりと飾り気の無い外観、可動部分を減らし関節もボルトで繋ぐだけ、装甲も鋼鉄製から鉄製に変えた。

 

「随分と簡素化しましたわね、両手首から剣を生やしてますわ」

 

 二体同時に同じ動きをさせるが関節部分の可動範囲が違う為に簡素化した方は動きがぎこちない、それでもレベル20の戦士職以上の強さは有る。

 

「構成パーツの数が違うんだ、右側は三百以上だが左側は百五十以下、半分近く減らしたんだ」

 

 そう言って二体同時に分解すると床に構成パーツの山が出来る、その差は歴然だ。

 

「そしてまた組み立てる、人型ゴーレムを扱う人は良く観察して参考にして欲しい」

 

 再度時計の逆回しみたいに組み立てると漸く理解が追い付いたのか、騒がしくなり見本の二体に集まり調べ出した。

 やはり見本と比較しながら自分のゴーレムとの違いを見付けて改良していくと無駄が少ないよな。

 あくまでも見本なので内部の魔素は無く制御ラインも繋いでいない、只の鎧兜だが先ずは構成するパーツの作成から学び、中に込める魔素や制御ラインについては次のステップだ。

 

「もう一度バラして貰って良いでしょうか?」

 

 熱心に調べていた一人からリクエストを貰った、知識欲の高い人は大歓迎だ。

 

「比較出来る様に並べてみましょう」

 

 横に寝かせた状態でバラしたパーツを並べて見せる、これなら見えない部分の組立状態も分かるから調査も捗るだろう。

 暫くは彼等が錬成したゴーレムポーンを調べるのを眺める、仲間と話し合いながら色々と検討しているのを見ていると思う。

 サリアリス様の評価は低いが彼等だって元々は素質が有り魔導の深淵を目指していたんだ。

 

「あと三十分でゴーレムは魔素に還るよ、一時間後にバルバドス様の屋敷に向かうから準備してくれ」

 

 メディア嬢からの伝言、全員連れてバルバドス師の屋敷に来いと言われたのだが、多分レティシアの後任のエルフが居るんだろうな……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 ハンナが外出の許可を取り、ロッテが移動用の馬車を用意してくれた、何気に彼女達は言えば何でも出来る才媛なんだよな。

 僕は一人で、セイン殿達は二台に分乗して目的地に向かう、因みに六人乗りの馬車に一人だと寂しい。

 

 一応だが土属性魔術師達とは打ち解け始めたと思う、メディア嬢の存在も大きいが実力を認めてくれたのが良かったのだろう。

 全員男だけのむさ苦しい部隊だが鍛えれば集団でゴーレムを運用する実戦部隊になれるだろう、もう戦場で火属性魔術師達を安全に前線に送る盾としての役割だけじゃない。

 

「極物(きわもの)や色物ゴーレムも居るが人型タイプも合計で三十体以上は運用出来るからな、戦場でも使い方次第では活躍する事も夢じゃない」

 

 新しい土属性魔術師の姿を見せられる、それが他国との戦争という決して誉められた行動ではないが……

 暫くは窓から見る王都の景色を楽しむ、だがやはり貴族街を通過する時は売り物件が無いか探してしまう、例え『売り出し中』の看板が下がってなくとも人が住んでないか位は分かるから。

 

 しかし身分相応って大変だよな……

 


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