古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第257話

 王宮勤めの侍女達とのお茶会、場所は幾つも有る応接室の一つを借りたそうだ。

 参加メンバーはロッテとハンナの他に六人と大所帯だ、王宮の侍女って全員が例外なく貴族令嬢なんだよな。

 全員が二十歳以上の年上のお姉様方で十代の娘達も居るが、彼女達は見習い扱いで少なくとも五年の実務経験が必要らしい。

 

 まぁ王宮勤めの侍女達は他の国の使者やお偉いさんの対応もするから、素性が確かで十分な教育を施された淑女しかなれないのだけれど……

 

「お疲れ様でした、リーンハルト様」

 

「皆も大喜びでしたわ、リーンハルト様の知識の広さにも驚いておりました」

 

 ご満悦のロッテとハンナを見ながら先程迄の苦行を思い出す、彼女達は黒幕が分かっているから良いが他の六人は思惑が分からないので対応に難儀した。

 

「予備知識無しは辛いんだぞ、戦いは火力よりも事前の準備が大切だ、準備には情報が大切なんだ」

 

「侍女達とのお茶会を戦いの場に例えるのですか?」

 

「参加したくても出来ない殿方が多いのにですか?リーンハルト様もバーナム伯爵の派閥構成員だけの事はありますね」

 

 おほほって品良く笑ってるけどさ、単純な武力オンリーの戦いとは違うだろ、女性達とのお茶会は王宮内の魑魅魍魎と繋がってる可能性が高いだろ!

 

 深く深く溜め息を吐く……彼女達は前に僕が黒幕を知ってる方が扱い易いと言って困らせた事を根に持っているな。

 

「で?どんな派閥構成だったのさ。公爵五家の他には?」

 

 多分だが敵対確定のバニシード公爵の手の者も居た筈だ、派閥所属のリッパー殿を負かせたのだから情報収集は念入りに行うだろう。

 

「リズリット王妃と後の二人は特に背後関係の無い娘ですわ、純粋に興味が有る殿方とお話したかったのです」

 

 リズリット王妃か、昨日の消極的な返事についてジゼル嬢と相談出来なかったんだよな、今後の対応はどうするかな?

 ミュレージュ様と懇意にするのは構わない、個人的にも好感を持っているし王族と友好的な関係を維持するのは派閥争い的にもプラスだ。

 春雷という近衛騎士団が集めている魔剣も確保してるから交渉も出来る。

 

 現状で他の王族の方々からは粉はかけられてない、王位継承権第一位のグーデリアル様とリズリット王妃、それとミュレージュ様の関係は良好だ。

 逆にリズリット王妃の子供でない王位継承権第二位や第三位辺りからの接触には気を付けるべきだ、万が一が有るか分からないが不慮の事故は0じゃない。

 

「ハンナ、ロッテ。王位継承権第二位と第三位の評判と背後関係を教えてくれないか?」

 

 流石に王位継承権第一位と第二位が続けて不慮の事故の確率は低いが絡むのは上位三人位までだろうな、下位が幾ら変動しても結局は一番上が次期王だ。

 

「第二位のロンメール様は芸術家肌のお方よ、絵画や音楽の才能が豊かですわ。第三位のヘルカンプ様は野心家ですわ、他の御兄弟とは仲が宜しくありません」

 

「背後関係については王位継承権第三位までの方々には公爵五家から全て側室が送り込まれています、突出してるのはヘルカンプ様の寵愛を独占しているバニシード公爵の七女であるメルル様ですわね」

 

 ふむ、流石は公爵五家だな、全て均等に一族の女性を側室に送り込んでいるのか。

 側室の寵愛が派閥争いに有利に働く事は十分に考えられる、だが寵愛を失えば脆く崩れる微妙で脆い絆だけどね。

 

「メルル様とはどの様な女性ですか?」

 

 む、二人とも顔を見合せて困った感じだが、まさか僕が横恋慕するとか考えてないよな?

 

「メルル様は天真爛漫で活発で、とても愛らしい方でしたが、ヘルカンプ様が見初めて強引に側室に迎えたのです」

 

「十一歳の時に側室に迎えられて今は十二歳、余り社交界等の外に出る事が無くなりました。噂では随分とお気を落とされていると……」

 

 ヘルカンプ様は確か二十代半ば、自分の半分も生きてない幼女に手を出したのか!

 言葉を濁したけど最近流行りの幼女愛好家って事だな、この手の男は相手の成長と共に寵愛を無くしていくんだよな。

 

「ふむ、メルル様は気落ちしていると?あくまでも噂ですから幸せな結婚ではなかったとは言えないですね、それに王族に望まれて嫁げたのだから親孝行で幸せでしょう?」

 

「私達も気晴らしに色々と気を遣っているけれど、難しいのです」

 

「あの天真爛漫だったメルル様が、今は余り話さずに部屋に籠りきりなのです」

 

 いや、二人して見詰められても敵対派閥のバニシード公爵の令嬢に対して、何とかするのは無理だぞ!

 

 可哀想とは思うが、王族の側室に干渉するのは問題行為でしかない、しかも一方的だが確かに愛情は向けられているんだし……

 

「その、ヘルカンプ様がメルル様を虐めてたりする訳じゃないんだろ?」

 

「拘束が酷く、独占欲も強く、性欲も強いのです」

 

「半ば監禁状態で常に誰かしらの監視を置いているのです、お可哀想ですわ」

 

 若く好みの美少女を側室に迎えた為に病的な独占欲が生まれたと見るか、しかしハンナの最後の言葉には困るな、性欲が強いのは早く子供を作りたいって事だから良い事だろう。

 側室として子供を身籠る事は彼女の立場が強化されるし実家も望んでいるんだ。彼女は上手くやっているが気分転換が足りないのかな?

 

「確かに行き過ぎた拘束だとは思うよ、もう少し自由な時間が欲しいとは思うが意見出来るのは同じ王族の方々か義父となるバニシード公爵位だろ?」

 

「リーンハルト様はリズリット王妃やミュレージュ様とも懇意にしていますわ」

 

 おぃおぃ、僕の伝手を使ってまで敵対派閥の淑女の結婚生活を改善させろって言うのか?

 確かに僕は他人とは違う恋愛観を持っているが、それを他人にまで強要する事は出来ないのだが……

 

「君達の旦那様や実家にもお願いしたのかい?王族の結婚生活に物申すのは大変な覚悟が要るのだが、それを僕にヤレと?」

 

 二人共に顔を伏せたか、相談したけど駄目だったか端から相談してないかだな。

 問題は何故、このお願いと言うか陳情紛いの情報を僕に話したかだが単純にメルル様を助けたいとかでは無いだろう。

 敵対が確定したバニシード公爵と揉めても関係無いと考えたかヘルカンプ様と事を構えて欲しいのか。

 

「どちらにしても直接的な被害が無いなら様子見だよ、僕だって全てを(なげう)っても助けたい相手と不干渉な相手の線引きは有る。

今はウルム王国との戦争に備えて宮廷魔術師と宮廷魔術師団員の引き締めが重要なんだ」

 

 余り彼女達を責めても追及しても仕方無いので、練兵場に行ってセイン殿達を鍛える事にする。

 宮廷魔術師団員の中で比較的友好なのは土属性魔術師の彼等だけだから。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「少し期待外れだわね、女性には優しいと思ったけれど常識的な対応をされたわ」

 

「少し可哀想程度しか思ってないわ、結構期待したのに残念ね。私達の常識まで疑ってたわよ。

でも思考調査は厳重に頼まれていた事だから仕方無いのよね、状況を理解出来ずに感情で行動するか否か……

結果は後者だわ、派閥構成のトップに近い宮廷魔術師だから思考の調査は念入りに行わないと駄目だから。

あの手の連中相手では単純な武力では勝てないから性格面からの搦め手で攻めるしかないのよ」

 

 私達が実家から頼まれているのは情報収集だけじゃない、リーンハルト様の考え方や癖、嗜好品から好みの女性や苦手なタイプを事細かく調べる事。

 確かに知っている相手に流す情報を調整出来る利点も有るけど、自分自身が事細かく調べられる危険も含んでいるのよ。

 

「ふふふ、まだまだ甘いわよ。最年少宮廷魔術師様も付け入る隙は多いわ」

 

「そうね、未だ十四歳だから当たり前と言えば当たり前だけどね。

あれで完璧だったら異常どころじゃ済まないわよ、魔法関連についてはサリアリス様が認める程の逸材、粗暴じゃなくて礼儀作法も完璧、そして度胸も有る。

私が五歳若かったら間違いなく全力でモーション掛けたわ、悪いけど今の旦那様よりも出来が良いもの」

 

「そうね、少なくともマグネグロ様を倒して宮廷魔術師第二席となり筆頭のサリアリス様と連携すれば立場は磐石よね。後は……」

 

 後は一方的に蹴落とし配下を引き抜かれたマグネグロ様に対する処理の仕方だけ、生かしておけば必ず復讐されるわ。

 

「非情に成り切れるかが問題かしら、要らぬ情を掛けてしまうなら幾ら有能でも底が知れるわね」

 

「もし躊躇無く周りを誘導し自分に非が無い様に相手を殺せるなら……派閥に取り込み助力する価値は有るわ」

 

 情に流されたり変な正義感や同情心を持っているなら逆に危険だわ、強大な力を持つ宮廷魔術師が感情に左右される事は避けねばならない。

 それが『永久凍土』の名を持つサリアリス様が何十年も宮廷魔術師筆頭で居られる理由で、マグネグロ様が万年二位な原因。

 

「楽しみだわ、私達が仕えし若き魔術師様がどう化けるのかがね」

 

「または魑魅魍魎溢れる王宮で溺れて死ぬか、でしょ?」

 

 私達としてはどちらでも構わない、判断は実家がする事だから……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 怪しい動きをする侍女二人を与えられた執務室に残し練兵場へと向かう、途中でスレ違う侍女やメイド達が向ける視線に艶かしい色合いが含まれている。

 アレは、あの視線は値踏みを終えて今度は如何にして取り入るかを考えている視線だ、被害妄想に近いが実体験が何回も有るから分かる。

 

 適度な距離感で礼を失わない程度に挨拶を返す、僕よりもミュレージュ様の方が酷いので嫌になったんだろう。

 会話を交わすと面倒に発展するから挨拶だけにして早足で練兵場に到着、律儀に耐火仕様土壁の練習に励むセイン殿達に声を掛ける。

 

「錬成速度も精度も上がっているね、そろそろ次のステップに移ろう」

 

 十二人全員がサボらず揃っている、勤勉なのはメディア嬢からもキツく言われているからだ、悔しいが僕よりも人を惹き付けるカリスマ性は彼女の方が数段上なんだ。

 

「次のステップですか、基本と言われた防御用の耐火土壁は全員合格ですね?」

 

 セイン殿のドヤ顔に抵抗を感じるが全員合格ラインなのは間違い無いので認める。

 

「ああ、良く出来ているよ。これならファイアボール程度なら問題無いしサンアロークラスでも暫くは保つ筈だ。

次のステップは基本となる金属の錬成だ、僕達土属性魔術師の基本的な攻撃方法はゴーレムだ。勿論アイアンランス等の投擲魔法も有るが飛ばす物は錬成した金属の刃物だからね。

先ずは君達の自慢のゴーレムを最大数鉄製で作って見せてくれ」

 

 この十二人によるゴーレム軍団が、セイン殿が纏める土属性魔術師の最大戦力だ。僕と違い単独では数が限られるから集団戦で補うしかない。

 

 オゥ、という掛け声の後に5m間隔で広がった彼等の前に多種多様なゴーレムが錬成される、時間的には約十秒から十五秒で早い部類だろう。

 やはり異形が多いが王道の鎧兜のゴーレムは半数、当然だがデザインも大きさもバラバラで雑多な混成軍団だが不思議な威圧感が有る。

 

「ほぅ!セイン殿は随分と鍛練を積んだんですね、二ヶ月前に比べたら雲泥の差ですよ」

 

 牡牛型のグレートホーンだが数が三体から五体に増えて一回り大きくなっている、嘶(いなな)く動作も自然だし実際に牡牛を観察しないと出来ない動きだ。

 鉄製で艶消しの黒光り、両肩の部分の装甲を厚くし鋭い突起を着けている、最大の武器である角は太い部分は直径15cmで長さは80cm、先端は尖っているが角全体が素材の強度を増している。

 

「うん、中々の出来栄えだね。並べて突進すれば大抵の敵は怯むな、後は制御範囲を広めれば戦場で活躍は保証出来る。自分の安全を考えれば100m以上は欲しいところだが……」

 

「今は頑張って60m、80mを超えると制御出来ずに動かなくなります」

 

 誇らしげだが、確かに一線級のゴーレム使いに成長したな、彼を攻撃の主軸に据えて後は数でフォローすれば……

 

「60mだと少し厳しいな、クロスボゥのギリギリ射程距離内だし騎馬兵の突撃なら十秒程度で接近される、セイン殿の課題は制御力の向上だな」

 

 彼は鍛えれば中々のゴーレム使いに成長する、他の連中の中にも使える奴が居るかもしれないな。

 


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