古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第251話

 王妃と王子との昼食の後、同僚で先輩と同期の宮廷魔術師から訪問を受けた。

 初日から派手に動いた僕には敵が多く明確な敵意を持った者達の情報を態々(わざわざ)教えてくれたのだ、サリアリス様とユリエル様、アンドレアル様と一応フレイナル殿は味方側と言って良いが残りの三人は敵で一人は中立。

 宮廷魔術師第二席『噴火』のマグネグロ様と第十一席『炎槍』のビアレス殿は師弟関係、同じ火属性魔術師で投擲魔法を得意とする。

 同じ火属性魔術師でもアンドレアル様とフレイナル殿は照射魔法を得意とする、対象に当たり爆発するのと熱線を照射し対象を溶かす。

 どちらも一長一短が有るから、どちらが有利とか上位とかは言えない、だが過去に同系統の火属性魔術師と戦っているから弱体化してても方法は有る。

 

 火属性魔術師親子が出て行った扉を見ながら考える、少なくともマグネグロ様と事を構えるには未だ足元が弱い、サリアリス様やミュレージュ様と親交が深くても彼等を頼る事は出来ない。

 ポフンとソファーに横になり目を閉じる、何も考えずに『これが俺の全力全開!』みたいに勝負を挑めば確率八割以上で勝てるだろう、だが魔法力で勝っても政治力で負ける可能性が高い。

 中途半端に勝って恨みを買い違う手段で反撃される、やるなら徹底的にやらねばならない。

 

「それこそ再起不能になるまで痛め付けるか、いっそ殺すか……」

 

 ウルム王国との戦争が秒読み段階に来て宮廷魔術師が内輪揉めをする、最悪のパターンだが相手は其処まで考えているか疑問だ。

 

「火力馬鹿め、国政を担う立場に居ながら自分の利益より国益を優先しないから国が亡ぶんだぞ」

 

 典型的な内部から崩壊パターンだ、敵国の間者が情報を掴んだら離間の計を仕掛けてくる、宮廷魔術師は戦力の要、その不和は大問題なのだが……

 

「大抵の宮廷魔術師は問題児が多い、個が絶大の力を持つからだ、僕も似たような者だけどな」

 

 権力争いに敗れ処刑されて転生した第二の人生、また同じ様に宮廷内の権力争いに巻き込まれ真剣に対策を考える事になるとは、なんと言う皮肉だ。

 二度目だから今度こそ勝てという意味だとしたら、最初に逃げ出す事を自由に生きると勘違いした事が恥ずかしい。

 

「同じ過ちは繰り返す、だが今なら変える事が出来るんだ……」

 

 前とは違い立場は低いが相談出来る相手が居る、一人で悩んでも解決などしないな。

 腹筋の力だけで起き上がると妙に近い位置に立つ二人が居たが、気配に気付かないとは思考に集中し過ぎたか?目を向けると逸らしたが完全に独り言を聞かれたな。

 

「淑女が異性の寝顔を盗み見るのは感心しないな」

 

 独り言の内容は物騒だった、繋ぎ合わせれば『宮廷魔術師達の和を乱し国益を損ねる恐れが有る第二席(火力馬鹿)を第七席の僕が倒す』と言っている。

 さて、ニーレンス公爵とバセット公爵から遣わされた二人はどう動く?

 

「年齢に相応しいあどけない表情でしたが、紡がれた言葉は酷く攻撃的で刺激的でしたわ」

 

「私達の黒幕に内容を伝えろと言われるのですね、これが背後の黒幕を知っている方が助かると言う事なのですか。

リズリット王妃とミュレージュ王子の助力を得たから早々に国益の為に宮廷魔術師第二席を引き摺り下ろす、怖い殿方ですわ」

 

 いや、全く違うぞ!王妃の助力は今は求めない、立ち位置が分からないのに深入り出来ないんだ。

 僕は先ず第六席のリッパー様を下し、それから地盤を固めて挑む予定だがジゼル嬢と打合せをしてから行動するんだ!

 

「勘違いしないでくれ、最終的には第二席殿と事を構えざるしかない状況に追い込まれるだろう。だが積極的に『今は』動くつもりはない、分かるね?」

 

 無言で頭を下げる二人を見て思う、ニーレンス公爵は僕の席次が上がる事には妨害は無いだろう、取り込みたい相手が出世するのは喜ばしい事だ。

 元々財務系の派閥だから宮廷魔術師や聖騎士団とは折り合いが悪かった、つまりマグネグロ様の失脚は利する行為だ。

 だがバセット公爵については分からない、相手の立ち位置が不明だから対応が難しいんだ。

 

「因みに駄目元で聞くけど、マグネグロ様と君達の黒幕は親密な関係かい?」

 

 笑顔で首を振ったが、これが正しい情報か悩む。僕が都合の良い情報しか流さないと言っているのだ、彼女達が本当の事を教えるとは限らない。

 信用度の低い情報ほど質の悪いモノはない、先入観を植え付けられるし裏を取る手間も掛かる。

 

「まぁ良いか、一休みしたらセイン殿達の所へ行くから」

 

 一人になって色々考えを纏めてからジゼル嬢と相談だな。

 

「マグネグロ様は宮廷内で素行の悪さの為に嫌われ者です、何人かの侍女やメイドに手を出しては捨てています」

 

「自身が火属性魔術師を多く輩出する一族の当主です、公爵五家とは半ば敵対してますが宮廷魔術師第二席の威光により問題視はされてますが放置されてます」

 

 追加情報を貰えた、つまり公爵達からすればマグネグロ様の失脚は本心では大歓迎、だけど宮廷魔術師第二席であり宮廷魔術師団員達に確固たる派閥を形成しているから手出しがし難い。

 マグネグロ様を政治的手段で失脚させると国益を大きく損ねる恐れが有る、だから半ば放置しているのか。

 

「エムデン王国の魔術師達の中に大きな影響力を持つから手が出し難い、だが僕に負ければ宮廷魔術師としての地位は下がる」

 

 そして順位が入れ替わり火属性魔術師達の立場も低くなる、国益を損なうとはいえマグネグロ様より強力な魔術師の出現は彼を不要と判断する材料にはなるか……

 僕は昨日、マグネグロ様の配下の火属性魔術師全員を負かせた事により彼等の地位を貶めた、この機会に追撃させるなら事を急がせる筈だ。

 そしてニーレンス公爵は自分の愛娘と縁の有る僕が宮廷魔術師第二席になれば……

 僕は宮廷魔術師筆頭サリアリス様とも親交が深い、上位二人の仲も親密となればマグネグロ様の再起は限り無く低いと判断するだろう、後は配下の火属性魔術師達の取り込み工作だな。

 模擬戦の感じからすれば彼等は一枚岩じゃない、切り崩しは可能だろう、マグネグロ様の親族は無理でも公爵家の力をもってすれば半数以上は取り込める。

 

「僕にも準備が有る、仕掛けるタイミングは任せて欲しいと伝えてくれ。ローラン公爵にはサリアリス様から伝えて貰う」

 

 バセット公爵は分からないがニーレンス公爵は話に乗ってくるだろう、ローラン公爵はサリアリス様次第だな。

 だが彼等も準備が有る筈だから仕掛けるタイミングは合わせたい、それに残りの公爵家への根回しも必要だろう。

 最悪僕も含めて失脚させられないとも限らない、ニーレンス公爵かローラン公爵のどちらかとは話さないと駄目だが、サリアリス様と連携出来るならローラン公爵だな。

 公爵五家の第四位に転落しても依然として強い勢力を持っている、宮廷魔術師筆頭と新しい第二席を取り込めるなら話に乗ってくる確率は高い、前提は僕がマグネグロ様に勝てるかだが大量のドラゴンを倒した実績なら説得力が有る。

 

「リーンハルト様」

 

 ハンナから声が掛かる、彼女はバセット公爵の手の者だから、ニーレンス公爵から送られたロッテと違い今の話では立場が難しいのだろう。

 僕はバセット公爵には助力を頼まないと言ったのだから……

 

「なにかな、ハンナ?」

 

「バセット公爵様に伝言が有るなら承ります」

 

 聞いた内容だけではなく直接的に伝言が有れば伝えると切り返して来た、これは難しいぞ。

 バセット公爵とローラン公爵は順位の件で争っている、今回の話は折角公爵五家の三位に上がったのに順位入れ替えの可能性が高い。

 

「では一つだけ、敵対か中立かを聞いて下さい」

 

 ハンナが息を飲む、だが味方にはなれないだろう、他の公爵二家と縁が有るのだから八方美人の対応は駄目だ。

 ああ、バーナム伯爵にも報告と相談だがデオドラ男爵から伝えて貰うか、僕が訪ねると即模擬戦の流れで間違いない。

 

「ニーレンス公爵とローラン公爵への配慮ですか?」

 

「そうだね、八方美人な対応はしない。信用を失う事は不利益でしかない、右や左にフラフラと飛び回る事はしないよ」

 

 派閥争いの中でも嫌がられる行為の一つが毎回利する方に所属を変える行為だ、御家存続の為には仕方のない行動だが利益で動く連中は重用されないのも事実。

 今回は宮廷魔術師の次席の変動に絡む大事件だ、正当な理由と信用度が無ければ動いてはくれない。

 

「未だ少年なのに、我が子と年も変わらないのに、其処まで考えているのですね。ですがニーレンス公爵とバセット公爵は同盟を組んでいます」

 

「財務系と農業系と言う内政を司る二家は敵対していません、聖騎士団や宮廷魔術師達との軍部とは立場上反発していますが……」

 

 役人と軍人は何時の時代でも反発しているが、立ち位置が違うから仕方ない、軍などは金食い虫だし平時には役立たずとは言わないが生産性は皆無だ。

 逆に有事の際に命を懸ける軍人からすれば城壁の中に立て籠る彼等を馬鹿にする、だが国家が一丸とならねば国が滅ぶし前線で戦うだけでは勝てない、補給を担うのは役人の範疇だ。

 

「それでも対応は変わらないよ……エムデン王国の武闘派であるバーナム伯爵派閥に属しながら宮廷魔術師でも有る僕は、彼等からすれば利用しがいも有るだろうね」

 

 この問い掛けにも笑顔で応えたぞ、彼女達は既婚者なのに王宮の侍女として働くだけの事は有るな。

 財務系の派閥と懇意にする武闘派の宮廷魔術師の僕に協力させるには強さを示さないと駄目だ、やはりリッパー様に挑むか。

 第六席の『切り裂き魔』リッパー様を倒す事により新人だが先輩宮廷魔術師を倒せる事を証明する。

 

「僕は、宮廷魔術師団員の詰所に行ってくるよ」

 

 無言で微笑む二人を残して部屋を出た、やはり謀略は苦手だし謀略系淑女も苦手だな。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「随分とヤンチャな少年魔術師様だわ、僅か二日で宮廷魔術師第二席に物理的と政治的の両方で戦いに挑もうとしている」

 

「全くの笑い話じゃないのよね、マグネグロ様は皆の嫌われ者だけど確かな強さを持ってるわ。

でも宮廷魔術師団員五十人を一人で倒した事と、ドラゴンスレイヤーとしてツインドラゴンを三体も倒した実績がマグネグロ様に勝てるかもと思わせる」

 

 王宮に出仕して初日に宮廷魔術師団員五十人に圧勝し土属性魔術師を配下にする、二日目にリズリット王妃とミュレージュ王子に昼食に呼ばれて親睦を深める。

 宮廷魔術師筆頭サリアリス様が、あの変人で偏屈な人嫌いのサリアリス様が孫の様に頭を撫でて可愛がる事も信じられない。

 ユリエル様もアンドレアル様も、序でにフレイナル様とも親交が深い、元々宮廷魔術師に推薦したのも彼等よね。

 

「どうする、ハンナ?」

 

「どうしましょう、ロッテ?」

 

 各々の依頼主に報告しなければならないのだけれど、この内容を正直に伝えるのは刺激的よね。

 新人宮廷魔術師第七席殿は第二席殿に挑んで勝つつもりでいる、だが全くの戯れ言と切り捨てる訳にはいかない実績も有る。

 

「ロッテは良いわよ、彼はニーレンス公爵寄りだしメディア様とも親交が深いじゃない。報告すれば協力する様に動くでしょ?」

 

「ハンナの場合は微妙ね、直接的な縁が無いから協力すると言っても信じるかどうか分からないわ。彼って敵と味方と中立の線引きは明確なのかも」

 

 公爵五家の一つとはいえ、他の二家と親密な関係を築いているから、バセット公爵とは距離を考えるかもしれない。

 

「でも敵対しなければ彼が第二席殿を倒したら早い者勝ちで配下の魔術師を取り込めば良いのよ、要はマグネグロ様の勢力の弱体化が共通の目的でしょ?」

 

「そして自分達に友好的な彼を第二席に、その彼と親密な筆頭殿やユリエル様、アンドレアル様。

宮廷魔術師達の勢力図が書き変わるわ、そして強固な体制となりウルム王国との戦争に立ち向かえる……」

 

 果たして私達の派閥の上層部がどう考えるかは分からないが、報告の内容と方向性は決まったわね。忙しくなるわよ。

 


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