古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第25話

「丸一日ボス狩りをして60回目、やはり10回毎のドロップアイテムはロッド・オブ・ファイアボールか……」

 

「ですがオークを142匹倒したドロップアイテムは凄いですよ、ハイポーションが42個に耐魔のアミュレットが34個です。換金したら金貨55枚になりますよ」

 

 薄暗いバンクの通路を魔法の灯りを頼りにゴーレムポーン三体、僕とイルメラ、ゴーレムポーン二体のフォーメーションで進んでいく。

 何故かモンスターがポップしないので真っ直ぐに出口へと歩いている、イルメラとの会話も周囲を警戒しなくて良い余裕が有るからだ。勿論無警戒って訳じゃない、前後に配したゴーレムポーンが異常が有れば知らせてくれるから安心してられる。

 無事に二階層から一階層へ、ゆっくりと進んでいく。

 このバンクは天然の洞窟に人の手を加えた様な造りをしている、今歩いている所は岩肌にノミの掘り跡がクッキリ残ってるし結露もしている。

 僕が昔造った初期の魔法迷宮でもこんな造りにはならなかった、逆に天然の洞窟を模す方が難しい。10分程歩いて漸く出口に到着した……

 

「眩しいな……迷宮に籠もりっぱなしだと身体に悪いらしいよ。人間は日の光を浴びないと病気になりやすいそうだ……」

 

 昔、王墓を奴隷に掘らせていた時代、同じ過酷な労働条件下でも日の出る前から日没後まで穴を掘らせていた奴隷よりも炎天下で働かせていた奴隷の方が発病率が低く、寿命も長かったそうだ。

 誰もが最初は炎天下で働かせる方が辛いと思っていたが何年も日の光を浴びないと体が衰弱すると結果を出した僧侶が居た。

 検証好きな高名な魔術師達も何人か同じ結果を導きだした、つまり全ての生き物は多かれ少なかれ日の光が必要なんだろう。

 

「その俗説は現在では半信半疑みたいですよ。リーンハルト様は古い伝承とかも詳しいのですね!」

 

 僕が何を言っても最後は凄い事にするイルメラが凄いと思う。だが日の光の話って、この時代では俗説で半信半疑なのか……他の人には言わないようにしないと恥をかくな。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 迷宮を出たら先ずは管理小屋に顔を出して入退場名簿に記入する。

 既に『静寂の鐘』のメンバーはバンクから出ているようだ。それと『野に咲く薔薇』の名前を見付けた。

 確かリーダーはアグリッサさんだっけ……

 

「毎日頑張るな。でも変な奴に絡まれたら周りに頼る事も考えろよ。俺達もディルク副団長には世話になってるからな、出来る事はするさ!」

 

 帳簿に記入して帰り際に背中に声を掛けられた。驚いて振り向くと騎士の青年がサムズアップしながら僕等に笑い掛けている。

 父上に爵位の上下だけで判断しない知り合いが居た事が嬉しくなる。

 

「有り難う御座います」

 

 自然と頭を下げてお礼を言う事が出来た。

 次にギルド出張所に向かうが受付カウンターはスルーする。グレートデーモンを倒してレベルが上がり過ぎたので最終日にギルドカードを更新する予定だ。

 ボス狩りでレベルアップしたが面倒なので更新しなかった事にする。

 少なくとも未だオークを300匹以上狩る予定だしパーティメンバーも二人で経験値も山分けだから怪しまれないと思う。

 僕達は二人パーティだから経験値は山分け、他の六人パーティに比べれば三倍の早さで経験値は稼げるからね。

 買取カウンターには何時もの見た目は巌ついが丁寧な物腰と口調のギルド職員が居る。

 

「アイテムの買取をお願いします」

 

 今日は他に客が居なかったので待たずに声を掛ける。

 

「はい、アイテムの買取ですね。ではレアドロップアイテムからお願いします」

 

 巌つい顔に似合わない丁寧な言葉遣い、流石はギルド職員だ。ギャップには萌えないが不思議な信頼感が生じる。

 カウンターの上に耐魔のアミュレットを34個並べる。

 

「耐魔のアミュレットを34個ですね。本当に二階層のボスであるオークを狩ったのですね。

一体今日一日で何体倒したのですか?」

 

 実はこの人は買取依頼アイテムの内容で冒険者パーティが何処で何と戦っていたか分かるんじゃないか?

 

「ボス狩りを60回で142匹倒しました。ハイポーションは42個です」

 

 カウンターの上に素早くハイポーションを並べていくが普段より真剣な顔をするギルド職員を訝しむ。

 

「あの、何か?」

 

「私はパウエル、この魔法迷宮バンクの責任者です。何か有りましたら相談に乗りますから何でも言って下さい」

 

 何だろう?王都本部のその他の受付カウンターで聞いた話とは随分と違う対応に驚く。

 冒険者ギルドは基本的にランクC以上じゃないと庇ってくれない筈だ。それ以外に相談とは……まさか『デクスター騎士団』の事がバレたのかと疑う。

 親切の裏側には意味が有るのが大人の世界の常識なのだから。

 

「今のところは大丈夫だと思います。

今朝の騒ぎでバルバドス氏がどう動くかは分かりませんが、まさか元宮廷魔術師の方が変な事はしないと思いますから……」

 

「ああ、あの困った弟子達ですよね。

前は討伐コースで地道に経験値を稼いでいたのですが、レベル15辺りからバンクに来る様になって……

未だ一階層をウロウロしてるのですが、ゴーレムは迷宮探索に有利ですからね。

少し天狗になってたので叩き潰してもらってスッキリしていますよ」

 

 これだ……魔法迷宮探索を裏側から支える人達の反感を買っていたから有事の際には見捨てられるんだ。パウエルさんはバンクの責任者と自己紹介したのは、僕達に調子に乗るなよと釘を刺したんだな。

 

「僕達はゆっくりと成長していく予定です。

未熟な部分は来月から冒険者育成学校で学んでいきますので、バンクには週末に生活費稼ぎに来るくらいになりますね。

そろそろ討伐や素材採取を行いギルドランクも上げたいので……」

 

 模範的回答をしてパウエルさんの警戒心を緩める努力をする。

 

「ふむ、その若さで堅実なプランをお持ちなんですね。では買取価格ですが……

ハイポーションが42個、1個銀貨5枚なので金貨21枚。耐魔のアミュレットが34個、1個金貨1枚ですので金貨34枚、合計で金貨55枚になります」

 

 ついに一回の迷宮探索で稼ぎが金貨50枚を超えたか……週末二日頑張れば一ヶ月で金貨400枚を超えるな。

 もしかして父上よりも収入が多くないか?

 

「有り難う御座います、では……」

 

 空間創造の中に金貨を放り込んでギルド出張所を出る。

 しかしイルメラは無言で僕の後に控えているが、他人と会話してる時は話を振らないと会話に参加しないんだよな。

 これはメイドとしての立場も有るんだろうけど……

 

「お疲れ様です、『静寂の鐘』の皆さん。それと久し振りですね、『野に咲く薔薇』の皆さんも……」

 

 乗合馬車の停留場の待合室は華やかな女性陣が集まっていた。

 『野に咲く薔薇』は女性三人でバンクの六階層を探索するパーティだけ有り存在感は凄いな、ヒルダさんとポーラさんが緊張しているし、まさに格が違う感じだ。

 馬車に乗り込む時にひと悶着有った、僕等は最後に来たので二つのパーティの後に乗り込むのだが……

三人パーティの『野に咲く薔薇』と五人パーティの『静寂の鐘』、向かい合って座るなら僕達は『野に咲く薔薇』の隣に座る事になる。

 だが何故か『野に咲く薔薇』のアグリッサさんの隣に二人分のスペースが空いている、そこに座れって事だろうか?

 アグリッサさんが笑顔を浮かべて無言で僕を見つめている……む、圧力に負けて間に座る事にする。

 

「リーンハルト君、随分遅かったけど無理な迷宮攻略をしてない?」

 

 特に媚びたり擦り寄ったりはしないが、積極的にアグリッサさんが話し掛けてくる。向かいのヒルダさんとポーラさんの視線が痛いのだが、何故そんな冷たい目で僕を見るのかな?

 因みに左側に座るイルメラさんからも凄いプレッシャーを感じている。そう記憶によれば二股三股した男が女性陣に問い詰められる様子に似ているな……不本意だぞ。

 

「ええ、一日中二階層でボス狩りしてました。効率良く経験値とお金が貯まりますね。来月からは学校通いですから、今の内にイルメラとの生活費を稼がないと……」

 

 二人の生活費を稼ぐ事、イルメラの給料を払う事が出来るかが家を出る条件なんだよね。まぁ現状で既に達成出来ているので大丈夫なのだが……

 

「その言い方って夫婦みたいですね」

 

 向かいに座るリプリーが無表情で怖い。アルビノ特有の白い肌と紅い瞳は薄暗い馬車の中で独特のプレッシャーを放っているぞ。

 

「む、実家から出る条件がイルメラを養い生活するだからな」

 

 皆さんフーン、とか言って黙ってしまったが何か対応が不味かったのか?暫らくは馬車の中は無言でゴトゴトと車輪の音しかしない。

 唯一の同性二人のヌボーとタップに視線を向けるも急に寝たふりをされた……頼りにならない兄弟だな畜生、男として生き様の見本を見せて欲しいのだが。

 転生前の人生経験が全く役に立たないとは戦いばかりの人生では駄目だったんだな……

 

「リーンハルト様、何故か背中が煤けてますよ?」

 

 イルメラが背中を擦ってくれるが気遣いが余計に心苦しい。

 

「いや、自分の男としての未熟さを思い知らされているだけだ……」

 

 所詮僕は一国の宮廷魔術師筆頭まで登り詰め数多くの敵を打ち倒し、その後に身内に裏切られて処刑された程度の男なのだ。駄目だ、思考が悪い方へと向いてしまう……

 

「いえ、リーンハルト様は素晴らしい御主人様です。イルメラは誠心誠意、お仕え致します」

 

 モアの神に祈る様に僕を見上げるイルメラを見ると……

 

「はいはーい、そこまでにして下さいね。御主人様とメイドの禁断の愛は間に合ってまーす」

 

「む、いや……そういう訳では……僕は男爵家に仕えていたイルメラを引き取ってしまった。

来年15歳になれば家の事情で廃嫡される予定なので平民になるから、彼女の収入と立場を守らねばならないんだ」

 

 男爵家に仕えるのと平民に仕えるのでは立場が違うから早くギルドランクをC以上に上げなくては……

 

「ふーん、リーンハルト君は御家の事情で廃嫡されるんだ。でも貴族じゃなくてもギルドランクを上げれば下手な貴族よりは力が有るのよ。

本当の意味で力が有る訳だから、ふざけた事を言う奴等は容赦しないのよ……」

 

 アグリッサさんの含み有る笑みが気持ち悪い。まるで粘着性でもあるかのような嫌な笑みだ。

 だが周りの連中も特に発言が無いという事は強くなれば下級な貴族の圧力くらいは跳ね返す事が出来る、出来るけど冒険者ギルドに貢献しなければならないし力を借りた場合は対価も必要となる。

 僕の本来の意味での自由に生きたいとは、どの時代でも相当困難だな。だが選択の余地が有るだけ大分マシだけどね。

 僕が黙り込んでしまった為か周りの女性陣も話し掛けてこなくなった、何か思う所が有ると感じてくれたのか……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 そんな重たい雰囲気を如何にも魔術師です的にローブを深く被っていたリプリーが壊した。

 彼女はアルビノで日の光にも弱いが対人も弱そうな大人しい少女だ。だが、火の属性をメインにサブで土の属性も持っている多才な女性でもある。

 

「リーンハルト君、また小さいゴーレムを見せてほしいな」

 

 前言撤回、知り合いには割と普通に接する事が出来るみたいだ。彼女の為に膝の上に両手を翳して武器を持たない小さなゴーレムポーンを召喚する。

 

「そら、ゴーレムポーンよ。リプリーの膝に乗るんだ」

 

 ゴーレムポーンを操作して僕の膝から飛び降りて廊下を走ってリプリーの膝に跳び乗らせた。結構な注目を浴びているが珍しい見世物だから仕方ないのかな?

 

「やはり凄い……緻密な構造と造形。この子、足の甲の部分も細かいパーツを組み合わせて芋虫みたいに動くわ。

膝の部分も単なるボルトで繋がってるんじゃなくて……」

 

 自分のゴーレムポーンが誉められるのは嬉しい。

 

「ゴーレムと言えども実際に人が着れるくらいの精度が必要なんだ、このゴーレムポーンは300を超えるパーツで構成されてるんだよ。

人の動きと同じにするなら必要な事なんだ。前にも言ったが実際に鎧兜を自分で造る事から始めないと構造を知る事は難しいんだよ、ほら……」

 

 一瞬でゴーレムの鎧兜を分解するとリプリーの両手にはパーツが山盛りだ。

 

「これを組み合わせる事により人間と同じ動きが出来るんだ、ホラね……」

 

 今度はバラバラなパーツだけのゴーレムポーンを時計の逆回しみたいに組み立てていく。

 

「凄いわ、凄い凄い……此処まで精密なゴーレムは見た事も無いわ!」

 

 嬉しそうにゴーレムポーンを触り捲るリプリーは何かにとり憑かれたみたいだ……

 何だろう、普通の女の子の人形遊びには見えないのが怖い。


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