古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第248話

 宮廷魔術師団員との模擬戦を終えた、まさか半数が挑んで来るとは予想以上だが魔法技術の衰退を痛感する。

 三百年の時の流れは予想以上に大きな問題を生んでいたんだな。

 

「リーンハルト様、お疲れ様でしたわ。分かり切った結果でしたけどね」

 

 宮廷魔術師団員序列三席の私に辛勝しただけの事は有りますわって笑っている痴女が……いや、カーム殿が話し掛けて来た。

 一応部下になるので様付けじゃなく殿で呼ぶ事にしたが、彼女の中では実の父親のジョシー副団長を巻き込んだ模擬戦勝負が彼女の頭の中では辛勝だったのか?

 

 海洋の魔女セイレーンの薄絹を纏ったスケスケの痴女に馴れ馴れしく話し掛けられるが、ジョシー副団長との関係も有るので愛想笑いをする、あの勝負は非公式で無効にしたから勝敗は関係無い。

 

「セイン殿は宮廷魔術師団員だったのですね、メディア様の側近だけの事は有ります」

 

 完全なリップサービスだが宮廷魔術師団員の土属性魔術師達を引き込むには、セイン殿を窓口にするのが有効だ。

 

「いえ、貴方に負けて自分の実力を客観的に理解した。是非とも耐火仕様ゴーレムをご教授願いたい。俺の新生グレイトホーンが耐火仕様になれば更なる活躍も期待出来るからな」

 

「本当にお願いします、あれだけの戦いを見せられては我々も同じ様になりたい、同じ事がしたい」

 

「あの火属性魔術師達に圧勝出来るなんて、流石は宮廷魔術師筆頭サリアリス様が認めただけの事は有りますね」

 

 何人かの土属性魔術師達が御世辞を言いながら近付いて来た、掴みは成功したみたいだ。

 元々土属性魔術師は四大属性の中では低く見られていた、直接的な攻撃力の低さと広範囲攻撃魔法が少ないのが原因だ。

 だが属性優位を掲げて挑んだ五十人からの火属性魔術師は負けた、つまり土属性魔術師でも彼等に勝てる術が有るのを証明した。

 

「属性の違いで優劣など無いんだ、どの属性でもやり方次第では勝てる。圧倒的レベル差が有ればと思うだろうが、僕は未だレベル39だから君達との差も少ないだろ?」

 

 実質倍に近いのでレベルで他と比べるのは本来は無意味だが、彼等にとっては説得力が有ったみたいだ。

 ヤル気が出てきたのが目に見えて分かる、栄光の宮廷魔術師団員になっても同僚から蔑まれてきたんだ、希望が見えれば反動は大きい。

 

「リーンハルト、そのボンクラ共に魔術の指導をしてやれ。同じ土属性魔術師だけなら問題無いが他の属性は宮廷魔術師の誰かの下にいるから面倒だ」

 

 その点、土属性魔術師達はバルバドスの引退で微妙だから丁度良いだろって肩を叩かれた。

 彼等も宮廷魔術師筆頭サリアリス様のお墨付きを得たので喜んだ、これ以上の理由はないのだから……

 

 結局セイン殿以下十一人が僕の配下となり夕方まで耐火仕様のゴーレムや防御用の土壁のコツを教える事になった、宮廷魔術師団員になれるだけの事は有り飲み込みは早いがサリアリス様的には彼等でもボンクラなんだな。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 王宮に出仕する事二日目、昨日と同じ時間同じ場所に馬車を停めると兵士の他に土属性の宮廷魔術師団員十二人が整列していた、先頭はセイン殿か……

 

「おはよう、今朝は何か有りましたか?」

 

「「「おはようございます、リーンハルト様」」」

 

 お出迎えって奴だな、彼等は宮廷魔術師の中で土属性魔術師だけの派閥が有りtopに僕を据えたんだ。

 

「我々はリーンハルト殿の派閥ですから、一応メディア様にも了解を頂きました」

 

 セイン殿が誇らし気に説明してくれたが、メディア嬢の了解って事は彼等はニーレンス公爵の派閥寄りなんだな。

 忘れがちだがメディア嬢も土属性魔術師でワルキューレと名付けた人型ゴーレムを操る令嬢だ。

 

「そうか、でも明日からは出迎えも見送りも要らないよ。今日も鍛練をするから後で連絡を入れる、僕も今日の予定を確認してないから」

 

 毎回出迎えは要らない、だが彼等を鍛えれば土属性魔術師達の新しい運用が出来る、火属性魔術師の戦場の盾だけが仕事じゃないんだ。

 

「分かりました、詰所の方で待機してます」

 

 仰々しく頭を下げられた、これが普通の宮廷魔術師への対応だとは思うが掌の返し感が半端無く人間不信になるぞ普通なら。

 黙って待っていてくれた兵士二人に先導され、一応道順は頭に叩き込んだ自分の割り当てられた部屋に向かう。

 

「流石はリーンハルト様です、もう宮廷魔術師団員の一部を配下に加えたのですな」

 

「あの高飛車な連中が大人しくなるとは、昨日の模擬戦は王宮内でも噂になってますぞ」

 

「最初にガツンと行かないと未成年の僕は舐められるからね、しかし見ていたのですか?」

 

 割りと好意的な兵士二人に聞いてみる、練兵場には観覧席も有ったしギャラリーが多いのも知っていたが着任初日から目立ち過ぎただろうか?

 部屋に入るとハンナとロッテが出迎えてくれる、二人共に既婚者だが家庭は大丈夫なのだろうか?

 

「「おはようございます、リーンハルト様」」

 

「おはよう。ハンナ、ロッテ、今日は何か予定は有るかな?」

 

 侍女としてスケジュール管理も任せているが何も無いだろう、午前中は鍛練で午後はサリアリス様と魔術談義でも……

 

「本日はミュレージュ・ド・ガルバン様から昼食のお誘いが来ております」

 

「ミュレージュ様から?それは王族としてかな、それとも近衛騎士団としてかな?」

 

 どちらも配慮しなければ駄目な役職だが前者だと王族の方々の住まれる区画に行く事になり、多分だが他の王族の方々も居るだろう。

 早くもエムデン王国の王族達と接点が出来るとは胃が痛むな、だが元々宮廷魔術師とは宮廷に仕える魔術師だから仕事の内だ。

 逆に友好的に接してくれるミュレージュ様には感謝が必要だ、お互い内に秘めた思惑は別にしても。

 

「了承した旨を先方に伝えてくれ、他には?」

 

 む、ロッテとハンナが顔を見合せたが、何か言い辛い事でも有るか?まるでドチラかが先に言いなさい的にも見えるぞ、面倒事だろうか?

 取り敢えず執務室に向かい自分用の執務机に座る、自宅のもデカイが更にデカイ、六人で食事が出来る位にデカイな。

 机の上には報告書が置いてある、これはセイン殿に頼んだ僕の派閥に来た連中の能力の詳細だ、名前やレベル、実家と所属派閥の他に使える魔法の種類、得意や不得意等、今後の付き合いと訓練に必要な情報だ。

 ペラペラと頁を捲り内容に目を通す、なるほど殆どが実家はニーレンス公爵の派閥に属している、未だ爵位持ちは居ない。

 レベルは平均25だから一人前以上だが扱う魔法にムラが多い、少なくとも防御に必須の耐火仕様の土壁は叩き込む。

 あとは全員ゴーレム使いだが人型が半数で残りはセイン殿のグレイトホーンの他に……

 

「デスキャンサー?あの蟹使いも宮廷魔術師団員か、元宮廷魔術師のバルバドス様の開いた塾だから当たり前なのか?」

 

 気にしてなかったが、確かにバルバドス塾で模擬戦をした相手が半数近い。だから人型ゴーレムが少ないのか?

 だが僕の派閥ならば異形よりも人型重視だな、汎用性が必要な戦争ならば余計だ、特化型は嵌まれば強いが使い道が限定される。

 ふふふ、懐かしいな。転生前も魔導兵団の鍛練メニューを考えたものだ……

 

 ひとしきり考えを纏めて鍛練メニューを紙に書き終える、直接面倒を見れない場合の自主鍛練用だ。

 

「宮廷魔術師団員のセイン殿を呼んでくれ」

 

 壁際に並んで立つ二人に声を掛ける、言い辛い事が有る筈なのに未だ言わないな。

 

「はい、分かりました」

 

 ハンナが一礼して部屋から出て行ったがロッテは何か言いたそうなままだ、そんなに言い辛いのか?

 

「どうした、何か言いたいなら言ってくれ。怒ったりはしないよ」

 

 送り出した先が知られてしまったので交代しますとかか?

 

「随分と慣れた感じですね、その私達に交代しろとか本当に言わないのですよね?」

 

「ああ、送り出した先が分かってる方が何かと助かるからね。別に交代しろとは言わないが仕事はちゃんとして欲しい」

 

 誰が来ても変わらないならバックに誰が居るか分かる方が安心だ、ニーレンス公爵は良いがハンナはバセット公爵の孫娘でヤザル男爵に嫁いでいる。

 ロッテはニーレンス公爵の親族に嫁いだ、確かモンベルマン子爵だったか。

 

「勿論、誠心誠意尽くさせて頂きます。しかしリーンハルト様は未だ未成年と聞いていますが落ち着いてますわ、一つしか違わない我が子は甘えん坊で……」

 

 え?十三歳の子持ち?見た目よりも年上なのか?成人後に直ぐ嫁いでも三十歳前後だが二十代半ばにしか見えない。

 

「我が弟のインゴも貴女の子供と同い年ですが母親には甘えてますよ、僕の場合は相続争いで母を亡くしていますから自立するしかなかった。環境が変われば息子さんも確りするでしょう」

 

 インゴの意識改善も問題だったな、父上に相談する約束だったし早目に顔を出すか……

 

「私の主人も甘えん坊なので手の掛かる子供が二人居るみたいです、今度主人を紹介しますわ」

 

 彼女の旦那のモンベルマン子爵って既に四十代半ばじゃなかったか?年の離れた嫁を貰う事は多いが甘えん坊って情報は話しては駄目だろ?いや、敢えて秘密にしなければならない情報を教える事で……

 

「リーンハルト様、セイン様をお呼び致しました」

 

 どう返せば良いか悩んでた時にセイン殿が部屋に来たので誤魔化す事が出来た、良く出来た若い妻に甘える中年か……貴族間の婚姻だが夫婦仲は悪くないんだな。

 

「セイン殿、わざわざ呼び出して悪い。僕なりに考えた鍛練メニューだ、これを暫く続けて欲しい。様子を見に行けるのは午後になりそうだ」

 

 鍛練メニューの書かれた紙を受け取り読み始めるセイン殿を見る、質問が有ればこの場で答える為に。

 読み進める彼の顔は真剣だから現代でも間違った鍛練メニューでは無いだろう、基本的には基礎の底上げだから。

 

「分かりました、各員に配り実施します。それとメディア様が我々全員でバルバドス塾の方に来て欲しいと話が有りました」

 

 メディア嬢が?確かに同じ塾生だし未だバルバドス塾に入ってない連中は入れる予定だった、バルバドス師は元宮廷魔術師だし僕も弟子入りしている。

 

「バルバドス塾へか、メディア様と日程を詰めてくれ。それと、ロッテ」

 

「はい、リーンハルト様。何でしょうか?」

 

「明日の午後とかに彼等を率いて出掛ける事は可能かな?」

 

 所用で出掛ける事が可能なら良いが、僕と違い宮廷魔術師団員は王宮に詰めていなければ駄目なのかも分からない。

 

「問題有りません、一応関係部署に連絡は入れますので明日の場合は連絡を下さい」

 

 問題が無いなら早目に済まそう、メディア嬢の掌の上なのは気になるが仕方無い、しかしバルバドス塾に行くのも久し振りだな。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 近衛騎士団の末席だが王族でもあるミュレージュ様に会うのには王宮の中心部に行かねばならない、先ずは身嗜みだが僕は宮廷魔術師として招かれるので貴族服の上から魔術師のローブを羽織る。

 一応非武装の為に杖は持たない、もっとも空間創造のレアギフトを持つ魔術師には無意味だが形式的な問題だ。

 

「リーンハルト様、お迎えの衛士が来ました」

 

「ん、分かった。行ってくるよ」

 

 王宮の警護には兵士ではなく衛士と呼ばれる者達が行う、他にも女官や侍女も居るが彼等が来たのは僕は未だ信用されてないと見るべきだな。

 正確にはミュレージュ様以外の誰かにだ、だから何か有った場合に抵抗出来る彼等を迎えに来させたと考えるのは深読みし過ぎだろうか?

 

「此方の部屋になります」

 

 幾つかの門を潜り抜けて警備の衛士から近衛騎士団のチェックを受けて漸く目的地に到着した。

 廊下の天井が低く幅も狭いのは襲撃者が武器を振り回し難いからだ、所々に矢を射る穴が開いていたが穴の奥には部屋が有り兵士が詰めている。

 

 それらの警備網を全て通過すると漸く中庭に繋がり王族の方々が住む屋敷に到着する、池の脇のこぢんまりとした屋敷がミュレージュ様の私邸なのだろう、緊張するな。

 


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