古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第246話

 宮廷魔術師として初めて王宮に出仕する、事前に当日の段取りは打合せ済み、自分の馬車で向かい自分専用のスペースに馬車を停める、ここは未だ王宮の外側だ。

 

「おはようございます、リーンハルト様。お部屋まで御案内致します」

 

 馬車を下りると警備兵二人が近寄り、自分に与えられた部屋までの案内を申し出てくれたので助かる、部屋は知ってるが此処からの行き方は知らないのだから。

 王宮に配される警備兵は基本的に最低でもレベル20以上、質の良いハーフプレートメイルを着込みロングソードと槍で武装し常に二人で行動している。

 王宮の警備が厳しくなったのは前王が暗殺されてからだそうだ、つまり殆どの原因が僕に有る訳だよな。

 

 二人体制での案内により馬車を停める場所から表門を通り王宮の外郭部分を通過、内門から漸く王宮内部に入る。

 三重構造の二重目が政務を司る場所で、王族の方々が住む場所は更に内側になっているが宮廷魔術師に与えられた部屋は近い。

 これは暗殺等の不審者が王宮内部に入り込んだ場合に僕等が対応する為だ、因みにサリアリス様の部屋は王族の方々が住む同じ区画に有る。

 これも彼女が現王と共謀し前王を暗殺したと言われる理由の一つ、現王であるアウレール様はサリアリス様の事を一番信頼している。

 

「此方の部屋になります、では我々は失礼します」

 

 王宮の警備兵ともなれば礼儀正しいのだな、丁重に案内された部屋に入る。

 

「おはようございます、リーンハルト様」

 

「おはようございます、リーンハルト様」

 

 二十代半ば位のメイド姿の女性二人に挨拶されたが、前回は居なかったぞ……

 

 金髪をバレッタで纏めてエプロンドレスに身を包んでいるが気品を感じる、メイドと言うよりは王宮の部屋付き侍女なのだろう。

 つまり貴族の子女の可能性が高い、それと二人共に美人だ。

 

「おはよう、君達は誰だい?」

 

 多分だが僕付の侍女かメイドですとか言い出すのだろう、宮廷魔術師ともなれば居ない方が変だよな。

 

「私はロッテと申します」

 

「私はハンナと申します、二人でリーンハルト様のお世話をさせて頂きます」

 

 上品に丁寧に頭を下げられた、やはり僕付のと言うよりは王宮付の方だろう、下手をすれば監視役を兼ねる場合も有る。

 転生前の僕付のメイドの半分は対立勢力と繋がりが有る殆どスパイみたいな連中だったな、今回はエムデン王国からかな?

 

「ああ、宜しく頼む。取り敢えず今はやる事は無いので別室で控えてくれて良いよ」

 

 正式に与えられた部屋だが執務室に応接室、それに寝室と侍女用の控え室まで有るんだ。侍女の控え室には簡単な調理も出来るキッチンも備わっている。

 僕は彼女達が別室で休んでいる内に、この執務室と応接室を調べて窓や扉は固定化の魔法で強化し護衛のゴーレムを配置する予定だ。

 彼女達が一礼して出ていくのを見届けてから考える、先ずは……

 

「入口と窓際にゴーレムナイトを配置するか」

 

 賊の侵入出来る出入口は窓と扉だ、壁と天井は固定化の魔法で強度を増せば良い、転生前は壁をぶち破って侵入してきた暗殺者も居たな。

 

「クリエイトゴーレム!ゴーレムナイトよ、待機モードで扉と窓の両側に立つんだ」

 

 鋼鉄製のゴーレムナイトを二体ずつ配置する、窓は四ヶ所だが廊下に接する扉は二ヶ所、彼女達の控え室と応接室の入口だ。

 ゴーレムを配置したら窓と扉を固定化の魔法で強化し、終わったら外部と廊下に面する壁と天井に固定化の魔法を掛ける。

 二時間ほど掛けて与えられた部屋の強化を終えた……

 

「ふぅ、終了だ。これでファイアボール程度の魔法ではガラスも割れないぞ」

 

 途中何度か様子を見に来たハンナやロッテ達も興味深く壁やガラスを叩いて調べている、ついでにゴーレムナイトの説明もしておいた。

 許可無く侵入する奴等を自動的に迎え撃つタイプなので注意が必要だ、不特定多数が出入りする控え室と応接室の二体は口頭指示で動くが執務室と寝室は許可無く侵入すると自動的に侵入者を捕縛する。

 一応僕付の彼女達は何処に出入りしても大丈夫な様に登録しておいた、どうせ大事な物は全て空間創造に収納する予定だし彼女達も仕事で出入りするのだから……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「リーンハルト、居るかいな?」

 

「サリアリス様、どうかされましたか?」

 

 結構豪華な昼食を頂き食後の紅茶を飲んでいる時にサリアリス様が訪ねて来た、流石に僕の方から訪ねるには王族の方々の住むエリアに行かねばならず躊躇したんだ。

 直ぐにハンナが扉を開けて出迎えロッテが紅茶の準備をして用意が済むと控え室に行ってしまった、壁際に待機しないのは気を使ってくれたのかな?

 

 向かい側に座るサリアリス様は穏やかな顔をしている、しかし毎日が王宮暮らしでは息抜き出来ないだろうな。

 

「あの侍女二人な、ニーレンス公爵とバセット公爵の縁者じゃよ」

 

 開口一番、問題発言を頂きました。だがこれは既に王宮の侍女として働いていて身元を知っている二人だったのだろう。

 王宮に勤めるメイドや侍女ともなれば身元は確かな者で身分も其なりに必要な筈だ、確か若い貴族の女性の憧れの役職だよな。

 

「ええ、誰かの?は分かりませんでしたが監視役だとは思ってました。最悪はエムデン王国側かとは思いましたがニーレンス公爵とバセット公爵ですか……」

 

 手元のカップに視線を落とす、琥珀色の液体は困った顔をした自分が写っている。

 財務系派閥の頂点のニーレンス公爵なら分かる、王宮内部でも力は強いだろう。

 だがローラン公爵を抜いて公爵五家の三位に上がって来たバセット公爵と僕は縁が無い、因みにサリアリス様は特定の派閥には属してないがローラン公爵寄りの位置付けだ。

 

「ニーレンス公爵は愛娘のメディア嬢ちゃんが居るがもう一手欲しい、バセット公爵は儂も分からぬな。

商業と農業を主とする派閥を形成してるからラデンブルグ侯爵辺りからの入れ知恵かの、あと二人共に結婚してる筈じゃぞ」

 

 確かに美人ではあるが結婚どうこうは関係無いな、いや未婚の女性を宛がわないのは配慮と思うべきか?

 

「なる程、確かにザルツ地方のオーク討伐絡みでラデンブルグ侯爵から親書を頂いてます」

 

 確かラデンブルグ侯爵は農地改革で実績を持っている、だがそれだけで侍女を押し込む理由にはならないだろう、僕に利用価値が有るとみたか脅威に感じたか……

 温くなった紅茶を一気に飲み干す、どちらにしても警戒は必要だな。

 

「お主は異例中の異例で自分の実力のみで宮廷魔術師になったからな、普通は何処かの派閥が総力を上げて押し込むのだぞ。

だから他の連中は所属の派閥には頭が上がらない、その点お主は自分の実力だから派閥には強く囚われていないじゃろ?」

 

 だから気を付けろと笑われてしまったが確かに全てを掛ける程の恩をバーナム伯爵には感じていない、他から見れば引き抜き可能と思われたか。

 それにガチガチに派閥に絡まれてないのも事実だ、ポッと出の僕は美味しい存在なのかな?

 

「確かに僕は未だ表に出て三ヶ月ですね、ですがデオドラ男爵には恩も義理も感じています」

 

「ふむ、あの筋肉一族ながらお主の正妻は良く出来ておるし家庭は安泰じゃな」

 

 本当にジゼル嬢の事を気に入ってるみたいだな、サリアリス様は実力主義だから有能な者を好む傾向が有る、その点ジゼル嬢は合格だろう。

 

「そうですね、僕は魔法に傾倒しているので彼女の存在は大いに助けとなっております」

 

 ウムウムと嬉しそうに頷いているな、未だ実際に会った事は無い筈だから今度会わせてみようかな。

 

「先程から気になっておったが、部屋に色々と手を加えたな?」

 

 グルリと部屋を見回し最後に入口脇に立つゴーレムナイトを見詰めて言われてしまった、王宮に宮廷魔術師として初出仕してやった事は部屋の強化だけだ。

 

「はい、一応の拠点ですから天井と壁、窓と出入口は固定化の魔法を重ね掛けしました、ファイアボール程度では無傷です。尤も錠前は替えられませんから盗賊職なら出入り自由ですね」

 

「ふむ、流石は土属性魔術師じゃな。儂でも此処まで固定化で強化は出来ぬ、だが侵入対策の本命はゴーレムじゃな」

 

 そう言えば固定化の魔法技術も退化してたな、全く三百年の間に失われた技術はどれだけなのか想像もつかないぞ?

 

「はい、半自動制御の自慢のゴーレムナイトです。一般の人も出入りする場所は口頭指示を出さねば駄目ですが、執務室と寝室は登録しておいた人物以外が侵入した場合、自動的に捕縛します」

 

 不味いな、自分で言って思ったがやり過ぎたか?いや、自律行動型ゴーレム警備以外は従来の魔術師でも可能だから大丈夫だ。

 

「おいおい、それってバルバドスの坊やでも不可能な自律行動じゃろ?それが前に言っていた何かを掴んだ物の正体か?」

 

 やはり突っ込まれた、だが自分の屋敷の警備網やジゼル嬢に渡した『召喚兵の腕輪』の件も有る、この人に嘘は言いたくない。

 

「いえ、前回掴んだのはゴーレムシリーズの現段階の最上位です、攻防一体型の単機ゴーレムです」

 

 まさか自分が着こんで操作する強化装甲型ゴーレムとは言えない、だが攻防一体型は間違いではない。

 サリアリス様が元々細い目を更に細めて考え込んでいる、彼女になら見せても構わないかな?

 ロッテを呼んで紅茶のお代わりを貰う、因みに呼び出しは見事な装飾の施された銀とガラスを組み込んだハンドベルだ、ガラス部分が音を出すので澄んだ高い音が鳴る。

 

「リーンハルト様、何か御用でしょうか?」

 

「紅茶のお代わりを頼む」

 

 ハンドベルを鳴らして一呼吸置いて扉が開いたが、彼女達は扉の直ぐ後ろに居た、土属性魔術師は大地に立つ物の感知は得意なので分かる。

 自分とサリアリス様のカップが交換されるのを黙って見ている、流石に洗練された動きだな。

 

「ふむ、お主は確かニーレンス公爵の親族の妻だったかの?」

 

「はい、我が夫はモンベルマン子爵です。ハンナはバセット公爵の三男の娘でヤザル男爵に嫁いでますわ」

 

 宮廷魔術師筆頭サリアリス様の不意討ち気味な質問にも慌てず微笑みを浮かべながら応えた、しかも自分達の素性まで明かしたか……

 

「だそうだ、リーンハルトよ、この者達をどう扱うのだ?」

 

 どうにもこうにもチェンジなど出来ないだろうに、サリアリス様の言葉や行動には意味が有る、これは今後彼女達との接し方の確認だな。

 

「どうもしません、彼女達はエムデン王国から僕に宛がわれた侍女なのです。それに変えても同じ様な人達が来ますよ、監視役はバレた時点で意味は薄いし互いに利用価値が有る」

 

 此処で拒んで変えても変わらない、自分の縁者でも送り込まなければ無理だ。

 幸いニーレンス公爵はメディア嬢絡みで好意的だ、バセット公爵は分からないので逆に手元に置いて監視した方が良い。

 

「ふむ、敢えて手元に置いておくのか……お主は不思議じゃな、普通は慌てるか知恵を求めるかするのに既に決めておる」

 

 ええ、転生前に悩まされましたから……宛がわれる連中に関しては、結局は排除しても直ぐ次が来て変わらなかったので無駄です。

 

「身元の確かな監視者ほど有難い存在はないです、黒幕が誰だか分からない方がストレスが溜まりませんか?」

 

「そうじゃな、お主の考え方は合理的じゃな。儂とて若い頃はムキになって排除して途中で気付かされたが、有難い存在とは達観し過ぎじゃぞ」

 

「あの、本人を目の前にして言われても困ると言うか……」

 

 初めて素の感情を表したハンナに笑いながら控え室に行く様に言うが、土属性魔術師は感知魔法に長けているから気を付けろと教えておいた。

 

「つまり壁際に控えていても?」

 

「変わらないって事だよ、本当に密談をするなら防諜対策の万全な場所でするさ」

 

 相手が分かっているなら流したい情報だけを話して聞かせれば良い、聞いた内容を精査し正しい情報を読み取れるかは相手次第だ。

 

「魔法に傾倒していると言いながら宮廷での駆引きも中々じゃぞ」

 

 頭を撫でられるのは嬉しいのですが祖母と孫みたいな関係に二人が驚いてますよ。

 


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