古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第245話

 八階層のボスは巨大な蒼烏(あおがらす)が六体固定でポップする、広いボス部屋の中で飛び回る相手に攻撃を当てるのは難しい。

 接近戰しか攻撃手段が無い場合は更に苦労する、相手の攻撃を避けるか捌くかして攻撃をしなければならない、接近戰とは文字通り近付かなければならないから。

 

「ふむ、距離感というか空間把握能力とでもいうのか?箱庭の兵隊(ゴーレム)の操り方はまだまだだな。二回目を始めよう、外の様子は?」

 

「大丈夫、誰も居ない」

 

 横から見た状態で各々の距離感を掴み攻撃をするのは難しい、前回は前に並べてたから近付く敵を狙えば良かった。

 だが今回は移動する敵を横から狙い射たねばならないので難しい、頭の中にボス部屋を上から見た状態で思い浮かべて位置を把握する。

 

「クロスボゥの準備も良いかな?では閉めてくれ」

 

 女性陣の準備も良いみたいなので、エレさんに扉を閉めて貰う。

 

「やはり上空でポップするのか、実体化して直ぐに攻撃は難しいかな」

 

 剣と違い外しても直ぐに二撃目を入れられない、飛び道具には装填時間が有るんだ。

 暫く待って完全に実体化してから狙いを割り振り矢を射つ、四十五本の矢を六体の蒼鴉に向けて射つのは難しいが鍛練としてなら有意義だ。

 今回は四体に致命傷を与えたが二体は無傷だ、あの飽和攻撃をかわせるだけの敏捷性を持っている。

 

「だが、二射目……射て!」

 

 二列目の四十五体のゴーレムナイトに命令を送り一斉に射つ。

 

「な?消えた?ヤバい、魔法障壁よ」

 

 蒼鴉が急に加速して突っ込んで来る、もう一体は左側のゴーレムナイトの方に突撃して行った。

 何とか正面から突っ込んで来た蒼鴉を魔法障壁で受け止める、もう一体の対応はゴーレムナイトにラインを通じて指示を送る。

 

「狙い射つ!」

 

 エレさんが魔法障壁に弾かれた蒼鴉の右目に矢を射ち込み即死させ、僕は左側に突っ込んだ蒼鴉に対してロングソードで攻撃を加えた。

 何とか二体とも倒したが急激に加速されると照準が追い付かない、流石は下層階のボスだけあるな。

 

「ドロップアイテムはノーマルが二つか……」

 

 ウィンディアが拾ってくれた『羽根飾りの冠』を受け取り空間創造へと収納する、気を引き締めないと駄目だ、何処かでドラゴンを倒したんだと言う驕りが有った。

 

「配置を変える。正面に十五体三列、左右に二十体ずつだ。先ずは慣れないと駄目だ、少しずつ左右の数を増やすよ」

 

 先ずは敵を倒す事を優先する為に慣れた前面配置を多くする、左右は数を減らし制御しやすくした。

 

「三回目に挑戦しよう、外の様子を見てくれ」

 

「うん、分かった……誰も居ないよ」

 

 頷いて扉を閉める様に頼む、少し浮かれてたみたいだ。無理をせずに確実に倒していこう。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「これで連続十回目、お楽しみのボーナスアイテムは何だろう?」

 

 二回目の苦戦を教訓に役割を変更した、僕はゴーレムナイトの制御に集中し防御はイルメラに任せる。

 ウィンディアは一応クロスボゥは装備するがメインは風属性魔法による牽制、エレさんはクロスボゥによる攻撃。

 ゴーレムナイトの配置も色々と試行錯誤している、半円形にしたり四組に分けたりしたが結局は一番最初の陣形に戻した。

 ボス部屋にポップする蒼鴉は迷宮通路にポップするのとは強さが違う、瞬間的な加速と羽根を投げナイフの様に多数撃ち込んで来る。

 イルメラの魔法障壁により弾けるが何十という凶器が飛んでくるのは心臓に悪い。

 

「リーンハルト様、『黒い尾羽根』の他にロングソードが落ちています」

 

 レアドロップアイテムの黒い尾羽根の他に外見的にも業物っぽいロングソードが落ちている。

 

「これが連続十回目のボーナスアイテムか?」

 

 イルメラから渡されたロングソードを観察する、鞘に収まったロングソードだが今迄とは違い装飾にも凝っている、鞘には羽根の模様で柄頭には桃色の宝石が嵌まっている。

 

「ふむ、高ランクの武器みたいだな、鑑定するか……」

 

 両手で握りしめて鑑定の魔法を掛けるとロングソードの正体が分かった。

 

『春雷:刀身に雷を纏う(追加効果:麻痺)』

 

 麻痺攻撃は貴重だ、強敵が動けなくなれば一方的に攻撃出来る、鞘から抜くと確かに刀身が桃色でバチバチと帯電している、この桃色の宝石の効果かな?

 

「雷を纏う『春雷』という魔剣だね、価値は高そうだ」

 

「春雷ってエムデン王国の近衛騎士団が集めてる魔剣よ、麻痺攻撃が可能な戦士垂涎の武器で未だ十本前後しか無い筈だわ。

色々な魔法迷宮の最下層の宝物庫から本当に低確率でドロップするらしいの」

 

 近衛騎士団が集めている?確かに魔法が使えない戦士職にとって状態異常効果は有効だ、しかも麻痺攻撃は効果が高い。

 流石はエムデン王国の武の重鎮たるデオドラ男爵に仕えていただけの事は有る情報だな、これは近衛騎士団との交渉に使える。

 栄光の近衛騎士団は総勢八十八人、この『春雷』を欲しがる連中は多いだろう、しかも今の段階の僕等が手に入れても変じゃないのが良い。

 

「ウィンディア、有り難う。これは使えるよ、数を集めたいのでボス狩りを続けよう」

 

 一本より複数の方が交渉での効果は高い、鍛練と経験値と資金と交渉材料の四倍美味しいボスだ!

 

「リーンハルト君の笑みが黒い」

 

「本当ね、良からぬ事を考えているのよ」

 

「二人共お黙りなさい!リーンハルト様には深い考えが有るのです」

 

 イルメラがウィンディアとエレさんを一喝した、相変わらず僕を無条件で信頼してくれている。

 

「まぁ黒い考えには違いないよ、何か有った場合に近衛騎士団との交渉に使おうと考えている、後は武闘派の連中とかね」

 

 金や女より武器が大好きな連中には堪らないだろうな、今の僕なら自分で同等以上の物が作れるが『春雷』はブランド力が凄いんだ、無名の土属性魔術師の錬金武器よりも魔法迷宮で見つかった方が価値が高い。

 

「宮廷魔術師ともなると大変なんだね、派閥や根回しに交渉までなんて」

 

「出世して偉くなれば立場に見合った問題が発生する、それはどんな立場でも一緒だよ、難易度は違うけどさ。さて十一回目のボス狩りを始めようか」

 

 僕の言葉に全員が頷き準備を始めた。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 一時間で平均七回、昼の休憩を挟んで夕方五時まで頑張って四十二回、蒼鴉を二百五十二体倒した。

 ドロップアイテムは『羽根飾りの冠』が六十八個に『黒い尾羽根』が四十五個、『春雷』が四本か……

 

「今日は終わりにしよう、初級の魔法迷宮バンクでも流石に最下層は儲かるね」

 

「経験値も凄い、レベルが28になった」

 

「私もレベル29になったわ」

 

 エレさんとウィンディアのレベルが上がった、イルメラも後少しでレベルアップしそうだ、僕は全然未だだな。

 ノーマルアイテムだけで金貨六百八十枚、レアは一万三千五百枚、合計すると一万四千百八十枚だ。

 

「ドロップアイテムの収入が凄い事になるな、品薄どころか値崩れしそうだよ」

 

 ボス狩りが合計四十二回、普通なら十倍挑戦しないと確率的には集められない、だがダメージ無視のゴーレムと違い普通の戦士職では無理だ。

 イルメラが収納袋から濡らしたタオルを取り出して渡してくれたので、顔を拭き首回りと両手を拭いてタオルを返す、大分スッキリした。

 

「有り難う、明日からは三日間王宮に詰めるから良い気分転換にもなったよ」

 

 毎日魔法迷宮に通ったらヤバい位に資金が貯まるんじゃないか?いや、今は考える事じゃない。

 だが流石に冒険者ギルド本部じゃないとレアドロップアイテムは換金出来ないな、パウエルさんに迷惑が掛かる、流石に金貨一万四千枚は無いだろう。

 

 ボス部屋を出てエレベーターに向かう、今日は他の冒険者パーティに一度も会わないな。

 途中の三回戦闘も問題無かった、全てマーダーグリズリーでドロップアイテムは『胆嚢』が二個、レアドロップアイテムの『狂戦士の腕輪』は残念ながらドロップしなかった。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 冒険者ギルド出張所に入るとパウエルさんが満面の笑みで迎えてくれた。

 

「ようこそ、いらっしゃいました。リーンハルト様!」

 

「冒険者として活動中は様は要らないですよ、と言いたいですね」

 

 他に数人居た冒険者がそそくさと外に出て行った、難癖でも付けられると思ったのかな?

 

「そうですね、新貴族男爵位だったら可能でしたが宮廷魔術師になられたなら無理でしょう。本日の御用件は何でしょうか?」

 

 厳つい顔だが最初から言葉使いが丁寧だったので、余り変化が無いのかな?

 

「羽根飾りの冠と胆嚢の買い取りをお願いします、数は六十八個と三個ですね。後は二人のギルドカードの更新です」

 

 カウンターに置かれたトレイに品物を乗せていく、同時に数えて貰い数の確認もおこなう。

 

「六十五・六十六・六十七・これで六十八個、後は胆嚢が三個です」

 

「ふむ、どうやら八階層まで下りてボスである蒼鴉を狩ったのですね、しかも四十回以上ですか?」

 

 相変わらずドロップアイテムだけで迷宮内での行動を正確に予測してくるな、殆ど正解だし。これには他のパーティメンバーも感心している。

 

「正解です、実はレアドロップアイテムも四十五個有りますが、コレは冒険者ギルド本部の方に持ち込んだ方が良いですか?」

 

 流石に買い取り価格が金貨一万四千枚は用意してないだろう、今回のノーマルアイテムの買い取りですら金貨六百枚以上だし。

 

「それでお願いします、『黒い尾羽根』は万年品薄ですから助かります。では今回の買い取り価格ですが……」

 

 パウエルさんから代金を受け取り空間創造に収納する、四人一日で金貨一万四千枚近くか、帰ったら配当を分けなければ駄目だな。

 ギルドカードの書き換えを待って冒険者ギルド出張所を出る、帰りは辻馬車を捕まえるのだが久し振りに『野に咲く薔薇』のメンバーを見付けた!

 

「アグリッサさん、ニケさん、それとライズさん。久し振りですね」

 

 声を掛けると一瞬驚いた顔をしたが直ぐに笑ってくれた、周りが驚いているのは身分差だろうな。

 

「リーンハルト様、宮廷魔術師就任おめでとうございます。随分と先に行ってしまわれましたね」

 

 堅苦しい挨拶、だがこれが身分差なのだろう。だが彼女達も貴族の子女と聞いているので未だマシかな。

 アグリッサさんの後ろでニケさんとライズさんも畏まっている、渡した鎧兜が少し傷んでるな。

 

「冒険者の時は気にせずと言いたいのですが無理でしょうね。大分無理をしてませんか?鎧兜の傷みが酷いみたいですよ」

 

 マントで隠しているが前面部分の一部は見えている、三人共に細かい傷や凹みが分かる。

 

「リーンハルト様に抜かれて焦っている訳じゃないのよ、私達も七階層に挑戦しているの」

 

「この一ヶ月間で全員レベルも28になった」

 

「最初は危ない時も有ったけど今は安定して七階層を攻略してるわ」

 

 良い笑顔だな、僕等以外の人達も頑張っているんだな、不思議と嬉しくなる。

 

「僕は明日から三日間は王宮に詰めますが夜は空いてます、久し振りに鎧兜のメンテナンスをしますので屋敷の方に顔を出して下さい。悪いとか遠慮は無しですよ、自分の作った物のメンテナンスは技能向上に必要なのです」

 

 痛みや消耗の酷い場所とかは実際に使って貰わないと分からないんだ、今日誘わなかったのは色々と準備が有る筈だから。

 今の立場は互いに冒険者だけど貴族でも有る、迷宮探索後の疲れたままで上位貴族の屋敷を訪ねるのを知られたら騒ぐ馬鹿も多い。

 それは僕を貶めたい連中に『野に咲く薔薇』の皆さんが利用されるのが嫌なんだ、彼女達は初めて知り合った先輩冒険者で友人と思っているから。

 

「有り難う御座います、明後日の夜にお邪魔させて頂きます」

 

「夕食は抜いて来て下さい、気楽なディナーにご招待させて下さい」

 

 エレさんが辻馬車を捕まえて来たので別れる事にする、そう言えばリプリー達にも会ってないな。

 出世したからといって縁が切れるのは嫌だし迷惑が掛からない様に気を付けて屋敷に招待しよう。

 


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