古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第244話

 魔法迷宮バンクの攻略から一ヶ月以上離れていた、それは冒険者パーティの『ブレイクフリー』としても活動していなかった事を意味する。

 明日から王宮に三日間連続で初出仕するので久し振りに魔法迷宮バンクを攻略する事にした、様子を見ながら八階層まで下りる。

 

「リーンハルト様と一緒に行動するのも久し振りですね」

 

「本当にそうだよ、一ヶ月間も一人だけでドラゴン退治って凄い事だよ」

 

「中央広場のツインドラゴンは見た、15m以上もあるモンスターに一人で立ち向かうって凄い」

 

 チリとダリが引く馬車に乗って魔法迷宮バンクに向かう、流石に乗合馬車ではもう立場的に不可能だろう。

 

「久し振りのバンク攻略だし気を引き締めて行こう、目的はレベルの底上げとギルドポイント稼ぎだ」

 

 昨日の内にクラークさんから希望のレアドロップアイテムを聞いてある、八階層のボスは巨大な蒼烏(あおがらす)だ。

 羽を広げれば3mを優に越す巨大な烏で狭い地下空間でも飛び回れる敏捷性と鋭い嘴と爪を持つ、そして六体固定の厄介なモンスターだ。

 ノーマルドロップアイテムは『羽根飾りの冠』で装備すると『敏捷UP小』、レアドロップアイテムは『黒い尾羽根』で『敏捷UP大』と効果も高いが装備品に羽根を差すだけで効果が出る貴重品だ。

 これは他の効果の高い装備品と併用出来る優れ物で戦士から魔術師まで全職業が装備出来る、だから買い取り値は金貨三百枚で品薄の為に売値は倍近いし三個納品で一ギルドポイントが貰える。

 普通はそれほど広くないが八階層のボス部屋は広い、そこで飛び回る六体固定の蒼烏をドロップ確率3%では三十体、つまり倒し難いボスに五回挑戦して一個ドロップするかどうかだ。

 手間が掛かるので品薄で値段が高いのも頷ける、普通は自分達で装備する分しか挑戦しないだろう。

 

 因みにノーマルは金貨十枚とソコソコの値段で取引される。

 

「さて、そろそろ到着だ。真っ直ぐエレベーターで八階層まで下りるよ。エレさん、地図の準備は大丈夫かい?」

 

 迷宮の案内と地図の管理を一任しているエレさんに確認するが、既に地図を広げて確認中だ、冒険者ギルドで購入した地図に自分なりに色々と書き加えている。

 

「問題無い、でも途中で三ヵ所鍵の掛かった部屋を通過する、モンスターも居る」

 

 ふむ、ついに通路にも罠の解除が必要になったか、失敗すればリスクが高いが恐れる事は無い。

 イルメラやウィンディアを見るが特に不安を感じている様には見えない、皆落ち着いている。

 

「大丈夫、扉や罠の開錠については全員エレさんを信じてる」

 

「そうだよ、私達はエレちゃんを信じてるから大丈夫だよ」

 

「そうです、ですから気負わず普段通りにです」

 

 良かった、パーティ内の信頼関係に問題は何も無いな、改めて安心したよ。

 

「魔法迷宮バンクに到着したよ、さて行こうか」

 

 目的地に到着した、馬車は騎士団の詰め所脇に停める事が出来る、VIP待遇だ。

 馬車から下りると直ぐに騎士団員が二人駆け付けてくれる、知り合いの若い団員で僕に対して好意的に接してくれる。

 

「お疲れ様です、リーンハルト様。記帳は私の方で書いておきます」

 

「お願いします、では行こうか?」

 

 此処でもVIP待遇だ、わざわざ僕や他のメンバーに書かせる事はしない気遣い?

 たまたま他に冒険者が居なかったが、居たら他の連中を待たせて優先的に迷宮内に入らせるとかしないよね?

 

 歩きながら前後に六体ずつのゴーレムナイトを錬成する、立ち止まらずに歩かせながらでも錬金する事が出来る。

 このゴーレムナイトは大体レベル45前後の戦士職と同等な強さが有る、素材は鋼鉄で防御力強化のしてないタイプだ。

 

「驚きました、随分と自然な動きでゴーレムさん達を錬金しましたね」

 

「本当に驚くよね、前の子達よりも随分強そうだよ」

 

 ロングソードにラウンドシールド装備だが、レベル39の恩恵はゴーレム全般の力の底上げには十分だ。

 立ち止まり不思議そうにゴーレムナイトを見詰める二人の背中を押して先に進める、驚くのは未だ早いから……

 

「さぁ久し振りの魔法迷宮探索だ、気持ちを切り替えて頑張ろう!」

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 エレベーターを使い八階層に下りる、七階層は直ぐに罠が有ったが八階層は短い通路に面している。

 

「石積みの床と廊下、扉は鉄製だな。随分と堅牢な造りだ」

 

 七階層迄の造りとは根本的に違う、見た目は余り変わらないが強度が段違いだ、しかも黒御影石らしく魔法の明かりを点しても床・壁・天井全てが真っ黒では見辛いしツルツルで滑る。

 

 三枚の扉が見えて全て鍵が掛かっている、向こう側は小部屋で必ず扉を開けるとモンスターがポップする。

 

「正面と左右に扉か、地図によればボス部屋に通じるのが正面の扉で……」

 

「右側が宝物庫と武器庫、左側は安全地帯に繋がる通路が有る」

 

 エレさんが説明してくれた、宝物庫と武器庫は毎回同じでモンスターを倒すと宝箱が現れる、だが罠も掛かっているので解除に失敗すると大変だ。

 安全地帯とは八階層が初めてだが絶対にモンスターがポップしない小部屋が幾つか有る共有の休憩場所だ、僕等はボス部屋で休憩するがそれにはボスを倒す必要が有る。

 

「エレさん、正面の扉の鍵を開けてくれ。宝物庫と武器庫には行かない」

 

 宝箱と相性の悪い僕には宝物庫や武器庫には行かない、何時もダガーが出るから……真っ直ぐボス部屋に直行だ。

 

「分かった…………ふぅ、解除した、扉を開ける?」

 

 懐から細く先端が直角に曲がった金属棒の束を取り出し三本ほど鍵穴に差し込んで捻るとガチャリと音が聞こえた、早いな十秒位か?

 

「八階層最初の戦いだね。準備は良いかい?」

 

 イルメラとウィンディアを見ると強く頷いた、準備は万全だ。勢い良く扉を開けてゴーレムナイトを六体先行させる。

 10m四方の部屋の中央に魔素が集まり出して輝く、最初のモンスターは何だ?暫く待つと巨大な毛むくじゃらな四脚の動物?

 

「マーダーグリズリーか!ゴーレムナイトよ、突撃しろ」

 

 実体化したのは二体の巨大な人食い熊だ、迷宮に現れるのが実際に人を食うかは知らない、だが全長4mの巨大な肉食の野獣の迫力は凄い。

 後ろ脚で立ち上がり両手を上げて威嚇する、開いた口には鋭い牙が並んでヨダレを撒き散らしている。

 

 だが慌てずにゴーレムナイトを三体ずつに分けて攻撃を開始する、先ずはラウンドシールドを構えた一体が突撃する。

 左右に分かれた残りのゴーレムナイトは突撃してラウンドシールドで巨大な腕の振り下ろし攻撃を受けて動きを止めた所を両脇腹にロングソードを突き刺す。

 

「グガガガガァー!」

 

 毛皮と筋肉の鎧も全体重を乗せた一撃は防げない、体内の重要器官を幾つも切り裂いた為にその場に座り込み暫くして魔素に還った……

 

「ゴーレムさん達の動きが以前よりも素早く滑らかになってますね」

 

「ああ、制御力は格段に上がったよ」

 

 ノーマルドロップアイテムの『胆嚢』を受け取る、上級ポーションの素材だが買い取り値は高かった筈だ。

 因みにレアドロップアイテムは『狂戦士の腕輪』で名前はアレだが筋力UP中の効果が有る、買い取り値は金貨百枚だ。

 流石に八階層ともなればレアドロップアイテムの価格は軒並み高くなる、だが他の連中はダメージ無視のゴーレムと違い短期間で連戦出来ないから思った程は稼げない。

 

「さぁ次に進もう」

 

 八階層最初の戦いで十分やっていける事を確認出来た、このままボス部屋まで進むぞ。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「此処がボス部屋か……」

 

 有れから二回扉を開錠してポップしたモンスターを倒した、マーダーグリズリーの他に初めて見たゲル状の生き物スライムと流石に強敵揃いだ。

 因みにスライムは体内の核となる玉を壊せば倒せる、ブニブニした身体は固いゴムみたいで切る攻撃は殆ど効果が無く槍で核の玉を突き刺して倒したがドロップアイテムは無かった。

 

「両開きの扉は初めてですね」

 

「重そうな扉、しかも高さも幅も有るよ」

 

 今迄のボス部屋は幅90㎝の片開き扉だったが、この両開き扉は片側だけでも120㎝は有る、しかも鉄製で重そうだ。

 

「ゴーレムナイトに開けさせる、閉めるのは照明の確保とゴーレムナイトを配置してからだ」

 

 流石にボス部屋の扉は未施錠でゴーレムナイトに開けさせて扉を固定する、閉めたらボス戦の開始だからだ。

 中に入ると本当に地下空間かと驚く、暗くて先が見えないのでライティングの魔法で光球を二十個天井近くに浮かべる。

 

「改めて思うけど広いな、本当に地下迷宮か?」

 

「今迄で最大ですね、80m四方は有りますよ。しかも天井も同じ位に高いです」

 

 見上げると綺麗に敷き詰められた巨石が均等に組まれた大空間だ、これなら飛行モンスターも何とか飛び回れるな。

 

「丁度良い、レベルアップした恩恵でゴーレムの最大数は増えたが制御が追い付かないんだ。此処で練習する、エレさん達にもクロスボゥを渡しておくよ」

 

 最大三百体のゴーレムナイトを運用出来るが制御力がイマイチなんだ、集団戦が最大の利点のゴーレム軍団の底上げに制御力向上は無視出来ない。

 

「先ずは自分達の前に三十体、左右の壁際に三十体ずつ合計九十体の制御から始める」

 

 横十五体で二列のロングボゥ装備のゴーレムナイトを三組錬成する、対面に配置しないのは誤射を避ける為で左右に配置したのは自分を基点とした場所での制御以外を鍛える為だ。

 自分から見て正面の攻撃や接近戦での前後左右の動きは馴れたが、離れた部隊の遠距離攻撃の距離感と命中精度を掴むのが目的だ。

 

「いきなり九十体?」

 

「最大三百体まで運用出来るが制御力が低い、鍛練が必要なんだ。準備が良ければ閉めるよ」

 

 クロスボゥに矢を番えたのを確認してから扉を閉める、さて本番だ……

 

 魔素が集まりだし淡い光の球を形成する、しかし上空でだ。

 

「驚いた、上よ」

 

「飛行モンスターだから?」

 

 確かに驚いたが実体化するのには暫く時間が掛かる、ゴーレムナイトの前列四十五体にラインを通じて指示を出す。

 

「実体化と同時に前列は矢を射れ、今だ!」

 

 魔素から実体化し僅かな自由落下の後に羽を広げて自力飛行をする瞬間に四十五本の矢を射る。

 三方向から射られた矢は六体全てに命中したが三体は致命傷じゃない、羽を広げて滑空してくる。

 

「第二射、射て!」

 

 残り四十五本を一斉に生き残りの三体目掛けて射ち込み、前列のゴーレムナイトに第三射目の準備をさせる。

 だが今回は第二射目とエレさんの狙撃で倒せた、イルメラ達も各々当てていたのでクロスボゥに慣れてきてるな……

 

「眉間に一撃か、相変わらずエレさんのワンショットキルは凄いな。イルメラ達も動く敵に当てているし腕は上がっているね」

 

 僧侶と魔術師だが魔法以外の攻撃手段を持たせたかった、クロスボゥは非力な女性でも狙いをつけて射てるので命中率は高い、反面連射が出来ないがゴーレムでフォローするから大丈夫。

 

「リーンハルト様、ドロップアイテムです。ノーマルとレアの両方ですね」

 

 床に落ちていた『羽根飾りの冠』と『黒い尾羽根』を渡してくれた、両方共に敏捷性を上げてくれる装備品だ。

 ノーマルの『羽根飾りの冠』だが鉢巻きみたいな輪の両側に羽根が刺さっている、造形的にもイマイチだな。

 レアの『黒い尾羽根』だが本当に一本の羽根だな、固定化の魔法を掛けておかないと直ぐに折れそうだぞ。

 貴重なレアアイテムなのに貧弱だな、掌に乗せて何度も固定化の魔法を重ね掛けする、勿論だが全員装備させる予定だ。

 

「先ずは一番敏捷性が高くて必要なエレさんからだ」

 

 彼女の革の帽子の右側に『黒い尾羽根』を差す、結構似合ってるかな?

 

「あ、有り難う。最初に貰えるとは思ってなかった」

 

 照れ笑いを浮かべる彼女の頭を撫でる、我が子ってこんな感じなんだろうか?それとも保護者の気持ち?サリアリス様が僕を撫でるのも、こんな気持ちだろうか?

 

「むぅ、何時も子供扱い。嬉しいけど少し嫌かな」

 

 微妙な対応だった。

 


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