古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第242話

 家族であるエルナ嬢とインゴを屋敷に招いたが、アシュタル嬢とナナル嬢も何故か同行してきた。

 今は場を外しているが何か二人で相談しているのは分かった、エルナ嬢が彼女達を同行させた理由は聞きそびれた。

 我が弟のインゴを取り巻く環境が涙なくては語れないからだ、幼い少女二人に心の底から側室話を断られたのだから……

 

 暫くエルナ嬢と無言でお茶を飲むという悲しい空間に漸く二人が帰って来た。

 

「何か有りましたか?」

 

「何か雰囲気が重たい様な気がしますが?」

 

 場の空気を感じ取った二人の言葉に無言の微笑みで応えた、我が弟が幼い少女二人に拒絶された事は言えない。

 向かい側に二人が座り新しい紅茶が用意されるまで待つ、席を外したのは相談する為だ、どう切り出して来る?

 

「私達、リーンハルト様の側室になりたいと心から思っておりました」

 

 神妙な顔でアシュタル嬢が切り出して来た、その心からには愛情だけではないだろう。

 

「ですが私達は新貴族男爵の娘、宮廷魔術師第七席の伯爵待遇のリーンハルト様には釣り合いません」

 

 ナナル嬢が言葉を引き継ぐ、隣で聞いているエルナ嬢は無言だが彼女達が何を考えてるか分からずに不安顔だ。

 確かに伯爵待遇の僕が彼女達を側室に迎えても実家の力的に旨味は無い、同じ派閥だし聖騎士団員の父親達はインゴなら利益は有る。

 だが彼女達はインゴの本妻や側室にはならないだろう、万が一になってもインゴでは尻に敷かれて終わりだな。

 

「そうですね、貴族の婚姻とは家と家との繋がり。貴女達を娶り互いに利益を得られるのはインゴの方でしょう」

 

 この言葉をぶつけた意味は彼女達の思惑が、何処に誰に有るのかを知る為にだ。

 この言葉を聞いた二人は僅かながら顔をしかめた、つまり年下の次期バーレイ男爵は対象外なのと僕が側室か妾では同意しないと理解したんだな。

 

「リーンハルト様にお願いが有ります」

 

 二人の表情が真剣なものに変わる。

 

「何でしょうか?」

 

 駄目元でストレートに側室か妾になる事を望むか、別な望みが有るのか、何を言い出しても慌てない様に心を落ち着かせる。

 

「私達二人は自分で言うのも憚(はばか)りますが才媛と言われています、特に私達は貴族の子女としては珍しく商才が有ります」

 

 事前情報でも彼女達の才能については調べがついている、だが元手が少ないのでそれ程の利益は出していない。

 あと僕は商才よりも政務能力の方に期待している、配下が殆ど居ない状態だから……

 

「それと私にはレアギフトが、『能力査定』という他人の能力を数値化して知る事が出来ます」

 

「な?それは……」

 

 この告白には驚かされた、自身のレアなギフトについては極力隠すのが普通だ。

 

 僕も『レアドロップアイテム確率UP』は絶対に秘密だし、冒険者ギルド本部に所属する『空間創造』持ちもアースドラゴン受け渡しの時に会えなかった。

 レアギフトを持つ事は極力秘密にするのが常識、しかも探索系はレア度も高くジゼル嬢の『人物鑑定』と同じ位に有効だ。

 人の上に立ち多くの部下を持つならば、誰がどれだけの能力を持っているか分かると人員配置に役立つ、凄く役立つ。

 ジゼル嬢と二人セットならば思考と能力が同時に分かる、これは有益な情報だ。

 この言葉を聞いてしまっては手放す事は出来ない、敵対勢力にでも行かれたら大問題だがデオドラ男爵やバーナム伯爵に教える事には躊躇する。

 彼女達が秘密を教えたのは僕に雇われたいからだが、他に情報を教えて良いかは別問題だ。

 教えるのはジゼル嬢だけだ、彼女は僕の配下の纏め役もやって欲しいから。

 

「分かりました、僕の出す課題をクリアしたら好待遇で家臣として雇います」

 

 下級貴族の子弟が上級貴族に雇われる事は珍しくない、現にニーレンス公爵の執事は男爵の位を持っていた。

 有益なレアギフトだが、それだけで抱え込むのには抵抗が有るので一応の試練を与える。

 

「課題とは?そしてクリアした時の待遇はどんなものでしょうか?」

 

「そうです、私達は包み隠さず秘密を教えました。この覚悟を信じて下さい」

 

 流石に自身の能力で売り込みに来ただけはある、自信が有るのか強気だな。

 

「僕が新男爵になった時の祝いの手紙や贈り物は276個でした、今回宮廷魔術師になった時は462個の祝いの手紙と贈り物を貰いました。

従来貴族子爵以下の祝いの贈り物に対しての処理を問題無く終えたら合格です、お二方をセットで年間金貨四千枚の報酬で雇いましょう」

 

 内容を聞いた二人とエルナ嬢が固まった、課題が難し過ぎるのか?

 だが才媛とはいえジゼル嬢は基本的に謀略系、この手の仕事も得意だが一人では無理が有るし貴族街に屋敷を構えたら人手不足は明白。

 この二人は才媛と評判も良く商才も有りレアギフト持ち、お買い得だ、いや他に逃がす事は出来ない。

 

「気前が良過ぎませんか?新貴族男爵位ですら年金は年間金貨二千枚です、それを……」

 

 エルナ嬢から待ったが掛かる、確かに父上でさえ新貴族男爵の年金が金貨二千枚だ、普通は若い貴族令嬢に払う金額じゃない。

 

「僕は一代で家を興したので家臣が居ない、一から集めなければならないのです。有能な者ならば好待遇ででも仕えて欲しいのです、彼女達の能力は認めていますが一応確認の為の試練です」

 

 無条件で抱え込みたいが、やはり確認は必要だ。

 

「その課題、お受けします」

 

「必ず課題をクリアしてリーンハルト様の家臣団に加えて貰いますわ」

 

 二人共良い顔をしている、彼女達は自分の能力に自信が有り生かせる立場を求めていたんだ。

 だから婚姻外交で下手な相手に嫁ぐ事を良しとしなかった、だが働く環境を整えれば有能で信用の出来る配下になってくれると考えたのだが正解みたいだな。

 

「だけど実家の説得は頼むよ、あくまでも家臣として雇うので婚姻と違い家と家との繋がりは無い。無条件で君達の実家を優遇する訳にはいかない、それは理解して欲しい」

 

 側室や妾と違い彼女達が僕の子供を産む訳じゃない、婚姻関係じゃなくて雇用関係で親戚にはならない。

 彼女達の実家が、この条件で結婚適齢期の娘を手放すかは疑問だ、駄目なら実家にも金を積むしかない。

 

「問題有りませんわ」

 

「私も同じです、実家など関係有りませんわ」

 

 壁際で待機していたサラに執事のタイラントを呼んで貰い、彼女達を引き渡した。

 多分だが難無く課題をクリアすると思う、だが未だ足りない、もっと有能で信用出来る家臣を集めないと駄目だ。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 彼女達を見送りエルナ嬢と向かい合う、少し不機嫌そうにしている。

 自分が側室候補として集めた娘達が家臣として迎えられては、実家と交渉した彼女の立場が無いな。

 

 さて、どうするか……

 

「彼女達の実家にはエルナ様の方から資金援助の話を持ち掛けて下さい。

二人共実家からの政略結婚を跳ね退けて来た実績を考えるに、商才を生かして実家に少なくない資金を納めていた筈です」

 

 一般的な貴族の家庭なら家長に絶対の権限が有る、だが二人は政略結婚を拒み続けた。

 普通なら勘当モノの態度なのに、それが無いのは何かしら実家に有益だったからで自ら商才が有ると言ってるから大体分かる。

 

「むぅ、リーンハルトさんは何でも分かってるみたいで困ります」

 

 拗ねられた、この女性は優し過ぎるが一度怒るか拗ねると長引くんだよな。でも今回は彼女が二人を連れて来たんだが、何が理由だったのかな?

 

「エルナ様は何故二人の同行を許したのですか?」

 

 一番の疑問をぶつけてみる、インゴの側室問題で相談に来た筈が関係無い二人も一緒だったのが疑問だ。

 

「それはリーンハルトさんの抱えている問題を解決出来るからと言われて……」

 

 問題?僕の?確かに家臣不足は解消しそうだが彼女達の最初の目的は違う筈だぞ。

 インゴに辛く当たる奴等の事とアルノルト子爵家の悪巧みと動き、この二つは確かに悩みだが決定的じゃない。

 お茶請けとして出された杏(あんず)のドライフルーツを一つ食べる、控え目な甘さが口の中に広がる。

 

「ふむ、悩み事か……人員不足を補う提案で来たなら評価を一段階上げても良いかな、自ら才媛と言える自信と実績が有るんだ」

 

「リーンハルトさん、お金の使い方が良くないですわ。幾ら家臣候補とは言え一人に金貨二千枚などと大盤振る舞い過ぎます」

 

 ふむ、一般的な相場の四倍近いからな、タイラントでさえ年間金貨五百枚しか渡してない。

 

「一人ではなく二人セットです、レアギフト持ちはナナル様ですが僕が彼女達に差を付けるのは良くないと思いました。

彼女達は今まで二人で動いて来たのです、だからこれからも二人には差を付けずにセットで雇います」

 

 格差は時に重要だが仲の良い二人を差別する事が有利かと言えば違う、彼女達の中に決まり事が有るなら尊重すれば良い。

 

「本当に貴方は……二人の実家とは私が話しますが持参金と同額の金貨千枚位で良いでしょうか?」

 

 他家に嫁ぐ場合は持参金を持たせる事も有る、アーシャ嬢は破格の金貨一万枚だったが新貴族男爵なら金貨千枚が相場なのか?

 

「お金の他に魔力付加された武器や防具でも構いません、エルナ様の考えている通り僕は彼女達を雇う予定です。

それと彼女のレアギフトについては秘密でお願いします、広める事は不利益でしかない」

 

 ヤレヤレみたいに首を振られて溜め息を吐かれた、魔力の付加された武器や防具が数が少ないらしいが僕は魔法迷宮バンクに行けば大量にドロップするから問題無い。

 しかし妊婦に重たい話をさせる事に引け目を感じてしまうな……

 

「そうだ!父上から援助して頂いた資金ですが使わなかったので返しますね」

 

 金貨二千枚を貰ったが三千枚にして返しておいた、これから出産を控えて物入りだろうから良いだろう。

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 時間的に少し余裕が出来たのでデオドラ男爵家に行く事にする、貴族街の屋敷購入についてジゼル嬢と相談したいから。

 

 僕の馬車はライラックさんから譲って貰った『チリ』と『ダリ』の二頭が曳く、錬金で作った馬車は衝撃吸収を付加してるので乗り心地は悪くない。

 ぼんやりとこれからの予定を考える、週に三日は王宮勤め、自由な日にちは四日間。

 完全休養日を一日設けると冒険者として活動出来るのは三日間だ、政務は毎晩少しずつやれば良い。

 

「魔法迷宮バンクの八階層に下りるか、攻略の平均レベル30はクリアしている」

 

 イルメラ達のレベルアップとギルドランクを早めに上げておきたい、最悪ウルム王国と開戦した場合に強制徴兵も有り得るからな。

 その場合は僕付きの騎士に任命して直属の部下扱いにすれば跳ね退けられる、女騎士の前例は有るから宮廷魔術師の権力で多少の無理は押し通す。

 

 馬車はデオドラ男爵の屋敷の正面玄関前に停まった、もう一族扱いなので裏口に廻るのは駄目らしい。

 

「お帰りなさいませ、リーンハルト様」

 

「うん、ご苦労様」

 

 ただいまとは言えない、未だアーシャ嬢を屋敷に迎えてないんだ。てか、今の屋敷に迎えて良いのか?貴族街に屋敷を構えた後に迎えるのが良いのかな?

 

「お帰りなさいませ、リーンハルト様。本日はデオドラ男爵が不在ですがジゼル様とアーシャ様がいらっしゃいます。あと奥方様達が顔を見せて欲しいと承ってます」

 

 執事が恭しく頭を下げて問題発言をした、奥方様達に気に入られたのは嬉しいのだが毎回文化的な何かを求められるのは困る。

 

「先ずはアーシャ様に挨拶に行くよ」

 

「分かりました、ご案内致します」

 

 執事からメイドに引き継がれ、その後にヒルデガードさんが迎えてくれた。

 

「お帰りなさいませ、リーンハルト様」

 

 アーシャ嬢の部屋の前で深々と頭を下げられて出迎えられた、笑顔なのは頻繁に顔を出しているからだな。

 

「アーシャ様に変わりはないかな?」

 

「ジェニファー様から花嫁修行を受けております。アーシャ様、リーンハルト様がいらっしゃいました」

 

 あのジェニファー様が花嫁修行を教える?あの天然の年上女性の教育内容が気になって仕方ないぞ。

 


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