古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第238話

 戦火が近付くエムデン王国に新しい希望と話題が巻き起こる、近年増えなかった宮廷魔術師に新しいメンバーが加わった。

 エムデン王国が課した依頼、破棄された古代都市の迷宮に潜むコカトリスとバジリスクの討伐、それとデスバレーに棲息するドラゴン種の討伐。

 この試練に挑み達成した三人の若き魔術師が新たに宮廷魔術師へと任命された。

 コカトリスを倒した現役宮廷魔術師アンドレアルの息子である火属性魔術師のフレイナル、アースドラゴンを倒した宮廷魔術師団員筆頭の同じく火属性魔術師のビアレス。

 

 そして三ヶ月前迄は無名の土属性魔術師リーンハルト男爵、異例の出世を遂げた最年少宮廷魔術師の少年はアーマードラゴン六体、ツインドラゴン三体を倒した。

 現代では火属性魔術師が主流の宮廷魔術師の中で立場の低いとされた土属性魔術師が一番の成果を上げたのだ、注目されるのは仕方ない、いや当然だろう。

 栄光あるエムデン王国宮廷魔術師は十二席だが現在は空席も多い、新人三人を加えた事により順位が変動した。

 

 宮廷魔術師筆頭は『永久凍土』水と風の属性魔術師サリアリス。

 第二席『噴火』火属性魔術師マグネグロ。

 第三席『慈母の女神』水属性魔術師ラミュール。

 第四席『台風』風と水の属性魔術師ユリエル。

 第五席『魔弾の射手』火属性魔術師アンドレアル。

 第六席『切り裂き魔』風属性魔術師リッパー。

 第七席『ゴーレムマスター』土属性魔術師リーンハルト。

 第八席 空位

 第九席 空位

 第十席 空位

 第十一席『炎槍』火属性魔術師ビアレス。

 第十二席『白熱線』火属性魔術師フレイナル。

 

 空席の三席は推薦予定者六人の内、辞退が一名、棄権が一名それと試練に挑戦中に死亡した者が一名居たからだ。

 上位六人は順位繰り上げ、第七席には今回の課題を好成績でクリアしたリーンハルトが大抜擢、残りの新人二人は末席となった。

 

 九人中で火属性魔術師は四人、水と風の複合属性魔術師が二人、風属性魔術師が一人に水属性魔術師が一人。

 そして土属性魔術師が一人と圧倒的に火属性魔術師が多い、これは戦争における集団戦で大規模攻撃魔法が主流だからだ。

 火属性は攻撃力、水属性は治癒力、風属性は能力付加、そして土属性は錬金術、だが遥か古代では戦場で活躍しその名を後世に残した偉大なる魔術師はゴーレムマスターの二つ名を持つツアイツ卿が居た。

 既に滅んだ魔法大国ルトライン帝国最強の土属性魔術師と同じ二つ名を貰ったリーンハルト卿は不遇な土属性魔術師の希望的存在となった。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 激動の一週間だった、王都中央広場で倒したドラゴン種を並べてドラゴンスレイヤーの称号を貰った。

 その場で宮廷魔術師に任命の旨を伝えられたが、国家に十二席しかない役職には任命されるにも手続きが有る。

 その後王宮に呼ばれてアウレール国王自ら御言葉を賜り、エムデン王国宮廷魔術師の証となる王家の紋章入りの指輪を授かった。

 

 正式に宮廷魔術師に任命された後は王宮にてのお披露目、このパーティーは三日間連続で行われた。

 エムデン王国の殆ど全ての貴族が王宮に集まり顔見せと挨拶を交わす、公爵五家と侯爵七家を筆頭に伯爵・子爵・男爵と次々と紹介されて挨拶を交わす。

 それに隣国からの祝いの使者も加わり大変なプレッシャーを感じた。

 

 僕の後見人は所属派閥の長であるバーナム伯爵、魔術の師であるバルバドス師、そして魔術師ギルドにて研究助手として仕えるサリアリス様の三人が代表として名を連ねた。

 他にもデオドラ男爵とバーレイ男爵、ライル団長も後見人として続いている、一応の勢力と言って良いだろう。

 

 初めて会うニーレンス公爵とローラン公爵が親しく接してくれたが共にメディア嬢とヘリウス殿を同行させていた、我が子達とも縁が有ると周りに印象付けたのだろう。

 

 特にメディア嬢の『私のナイト様』発言とヘリウス殿の『僕の命の恩人』発言は重い、前者は確信犯で後者は天然だ、だが親達のニヤリとした笑みは見逃してないぞ!

 地味に王族であり近衛騎士団員のミュレージュ様が難しい相手の時には同席してくれた、このさりげない気遣いには本当に感謝した。

 

 来客の合間に用意された部屋で休憩をする、フカフカなベッドに俯せに倒れ込む。

 

「疲れた、まさかこんなお祭り騒ぎになるとはサリアリス様の影響力を甘く見ていたよ」

 

 左手人差し指に嵌めた宮廷魔術師の証である指輪を眺める、シンプルだが王家の紋章が彫り込まれた無くすと首が飛ぶ品物だ。

 何の付加効果も無いので念入りに固定化の魔法を重ね掛けしておいた、傷でも付けたら大変だ。

 

「しかし報奨金が凄いな、ツインドラゴンは金貨一万枚、アーマードラゴンは金貨五千枚、前者は三体で後者は六体、合計で金貨六万枚。

宮廷魔術師の収入が月に金貨二万枚、年間で金貨二十四万枚、しかも席次の追加報酬が年間金貨一万枚、全て一括先払いで合計金貨三十一万枚を貰った」

 

 好待遇は他国への引き抜き防止だろう、戦争の主力たる宮廷魔術師を引き抜かれたら一大事だからな。

 だが任期一年未満なのに一年分を全額を纏めて払うって凄い気前が良いのが逆に怖いんだ、ガッチリとエムデン王国に拘束された!

 

「しかもまた引越しだ、折角落ち着いたのに宮廷魔術師には相応しくないって酷い話だがお金は有るんだよな」

 

 あの折角色々と細工した屋敷が相応しくないと言われた、予算は金貨三十一万枚も有るのだから身分相応な屋敷に引越せと王宮勅使から言われた。

 だが身分相応ってのが難しい、僕は宮廷魔術師第七席に任命されたが本来は新貴族男爵でしかない、待遇は伯爵と同等らしいが余り関係無い。

 

 新貴族街には広大な屋敷など無い、そもそも新貴族が広大な屋敷など持てる訳が無い、今の屋敷でさえ広すぎると思ってる位だ。

 新貴族街の一角を買い占めて新しく屋敷を建てるか、従来貴族達の住む貴族街に屋敷を求めるか……

 

 ごろりと仰向けに身体を回転させる、貴族街に屋敷を求めるには伝手が必要だがライラック商会では駄目だ。

 格が必要な貴族街だとバーナム伯爵やデオドラ男爵でさえ弱い、ローラン公爵かメディア嬢経由でニーレンス公爵を頼るか……

 どちらも対価が必要でバーナム伯爵の派閥の僕は派閥トップの意見も聞かねばならず勝手な事は出来ない、一応はジゼル嬢と共にニーレンス公爵寄りと決めたが……

 

「難しい、いっそ今の屋敷の周辺を買い取って自分で屋敷を拡張するか、土属性魔術師の僕なら不可能じゃない、屋敷の要塞化すら可能だ」

 

 周囲の五ブロックを買い占めれば良い、一ブロック金貨二万枚使っても合計金貨十万枚、お釣りが来る計算だ。

 だが新築だと屋敷に歴史が無いから宮廷魔術師としては相応で無いと言われるだろう、特に敵対派閥の連中から。

 

 因みにフレイナル殿とは一応和解したがビアレス殿には思い切り敵視された、エリートコースをひた走り宮廷魔術師団員筆頭から順調に推薦されて宮廷魔術師入りした彼からすれば横入りした僕は認められないのだろう。

 つまり宮廷魔術師団員達からも良くは思われていない、それと宮廷魔術師第二席『噴火』の二つ名を持つ火属性魔術師マグネグロ様も同様だ。

 彼はサリアリス様との仲も悪いので彼女に可愛がられている僕は気に入らない餓鬼でしかない、しかもビアレス殿とは親戚関係だ。

 

 それと宮廷魔術師第六席『切り裂き魔』の二つ名を持つ風属性魔術師リッパー様も新人の僕が自分の一つ下なのが気に入らないと言われた。

 ユリエル様とアンドレアル様は好意的であり僕の推薦者でも有る、因みに宮廷魔術師第三席の『慈母の女神』の二つ名を持つ水属性魔術師ラミュール様は対応は保留で今後に期待と言われた、つまり中立だ。

 現役先輩宮廷魔術師六人の内、三人が友好的で二人が敵対、残り一人は中立と微妙な関係だ。

 

「最初から派閥争いに巻き込まれるのか、宮廷魔術師全員がお手々繋いで仲良くとは思わないが有事の際に足の引っ張り合いは勘弁して欲しいな……」

 

 権力の中心、王宮には魑魅魍魎が跋扈するのは何時の時代も同様で大低の場合、国が滅ぶ理由がソレだ。

 亡国の危機にすら権力争いや派閥争いは止めない馬鹿共が国を滅ぼすんだ。

 

『リーンハルト、居るかい?』

 

「はい、サリアリス様」

 

 お互いの魔力は感知しているがノックと声掛けはマナーだ、直ぐに扉を開けるとご機嫌なサリアリス様が立っていた。

 

「お披露目パーティーでは余り話せなんだからの」

 

「あの視線の群れはキツイですね、値踏みと見定め、分かり易い敵視も有りましたから」

 

 備え付けのソファーセットを勧めるが途中で頭を撫でられた、これは子供扱いっぽいが嫌じゃない。

 

「良く儂が用意した試練の意味を受け取り最高の結果で応えてくれたの。儂もまさかツインドラゴンを倒すとは思わなんだ、しかも複数体ときた」

 

 ワシワシと撫でられて思わず目を細めてしまう、やはり世間一般の祖母ってこんな感じなのだろうな。

 

「はい、無謀とも思われる依頼でしたが逃げ道も用意されてました。だが僕は安易な方より難しい方を達成した方が周りへのアピールに有利だと思いました。

これは僕の為にサリアリス様が用意してくれたものだと……」

 

 漸く撫でられるのが終わったのでソファーに座って貰い備え付けのティーセットから紅茶を煎れる。

 

「流石よの、ジゼルの嬢ちゃんからの手紙に書かれていた時には年甲斐もなく喜んだぞ。お前は本当に他のボンクラ共と違うの……ほれ、これは祝いじゃ」

 

 袖に仕込んだ収納系マジックアイテムから一冊の黒い表装の本を取り出してテーブルに置いた、見れば黒革に金文字で……

 

「ツアイツ・フォン・ハーナウ?ツアイツ卿の残したと言われる魔導書ですか?」

 

 恐る恐る手に取り名前の部分をなぞる、手書きの金文字だが僕の筆跡ではない、表紙をめくり中の頁を読む、やはり僕の筆跡ではない。

 

「著ルトライン帝国宮廷魔術師筆頭ツアイツ・フォン・ハーナウか……」

 

 偽物だ、僕は書いてないが一応中を確認する、最初の章は僕の生い立ちと経歴だが驚く事に殆ど合っている、馬鹿な……これって魔導師団の生き残りの誰かが書いたのか?

 

「凄い驚いた顔じゃな、謎の多いツアイツ卿だからな、巷に出回る情報と随分違うじゃろ?」

 

 表紙を閉じて本を撫でる、僕の直筆ではないが確かに転生前の僕を知る人物が書いた事に間違いはない、筆跡に覚えは無いが誰だろう?

 

「はい、これが正しいのか本物なのかは僕には判断出来ませんが興味深い魔導書に変わりは有りません、有難う御座いました」

 

 深く頭を下げる、漸く見付けた過去の僕に繋がる手掛かりだ。

 

「ふむ、バルバドスの坊やから聞いてな、先に押さえておいたんじゃ。隠して地味に嫌がらせをする馬鹿も居るからの」

 

「あからさまな嫌がらせですか、大体の想像は付きますがやる瀬ないですね」

 

 未だ未成年の癖に宮廷魔術師に駆け上がった僕には敵視している連中が多い、分かり易い嫉妬心だが仕方ないだろう、紅茶を一口飲むが苦い味がした。

 

「実力の伴った異例の出世だが、下らぬ嫉妬心を持つボンクラも多い。儂も我が子や孫から言われたぞ、そんな奴より自分達を優遇しろとな」

 

「それは何と言って良いか……確かに貴族とは血縁を繋がりとして大切にしますから間違ってはいませんね」

 

 確か子供が三人と孫も何人か居る筈で全員が魔術師だったかな、宮廷魔術師に推薦とはいかないが指導をして欲しいって事だろう、師として学ぶには最高の人物だからな。

 

「儂の教えも守らずに怠ける事や儂の権力にあやかる事しか知らぬ馬鹿共だ、縁を切りたいと思ってるわい」

 

 あれ?これだけの人物が家族なのに何故知識を吸収しようとしないんだ?

 

「魔術師とは飽くなき知的探求を是とする連中ですよね?何て勿体ない事をするのでしょう?」

 

「それが儂等と他のボンクラ共との違いじゃよ、儂もこの歳になって漸く話の合うお前に出会って良かったぞ」

 

 凄い優しい笑顔を浮かべて頭を撫でられたが、僕こそサリアリス様に出会えて幸せです。

 

 


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