古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

237 / 999
第237話

 一ヶ月の間、屋敷を空けていたら仕事が山積みだ、第二の人生は貴族にならずに自由に生きようと思ったのに同じ人生を歩んでいる。

 ままならないのが人生か、また焼き直しの様に宮廷魔術師を目指しているのだから……

 

 メディア嬢からの手紙、レティシアの後任が会いたがっていると書いてある、ゼロリックスの森のエルフ族には色々と思う所が有るのだが三百年も前の話だ、今は僕には関係無い。

 問題はバルバドス師からの手紙だ、一度私塾の方に遊びに来いと有るが多分メディア嬢と後任のエルフも居ると思うんだ。

 師弟関係を結んでいるから断れない、王宮から連絡が来てから考えよう。

 

 最後のサリアリス様の手紙だがローラン公爵の屋敷に行く事だけが書かれていた簡素な物だ、魔術談義で沢山話すから関係無いのだろう。

 了解の旨を書いて親書の返信作業は完了、これで一休み出来るな。

 

「土産話も有るし、一旦休憩にしようか?」

 

 与えた仕事が終わり無言で僕を見ている二人に声を掛ける、タイラントは手伝える事が無いと早々に出て行った。

 

「はい、楽しみにしてました」

 

「うん、一ヶ月間何してたのか気になるよ」

 

 楽しみにと言う割りには二人共真面目な顔で見詰めて来る、そんな浮気を疑う伴侶みたいな台詞は聞きたくないのだが……

 

 応接室に移動して指名依頼達成の一ヶ月間の事を多少の脚色を交えて報告する、アースドラゴンの頭蓋骨や爪や牙を見せた時は驚かれた。

 だがワイバーンの加工肉には全員が食い付いた、やはり美味しい食べ物は老若男女共に嬉しいのだな。

 一応最後の盗賊ギルドからの推薦者のティルさんに会った事は伝えたが微妙な顔をされた、浮気してませんよ。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 王宮からの連絡待ちをしていた三日間は外出も控えて屋敷に居た、待ってる時間でゴーレムの装甲の強化についてレベルアップの恩恵で余力が出来た事による品質向上に努めた。

 今までは素材の強さに頼っていた、ポーンは青銅でナイトは鋼鉄、故にレディセンス様クラスでも断ち切られた。装甲強化は現状では二通りしかない。

 

 固定化の魔法を重ね掛けして強度を増す通常攻撃に対する防御力強化。

 

 表面に対魔法防御膜を張る事による魔法攻撃防御力強化。

 

 この二つを両立させる事は未だ無理だ、しかも最大三百五十体運用は通常のポーンだけでナイトだと二百体、防御力強化型だと半数が限度だな。

 

 ゴーレムルークは同時運用は四体が限度、但し固定化の防御力強化は可能で制御数も減らない。

 この大型ゴーレムから繰り出す投擲攻撃は下手な魔法より威力が高い、特にハンドアックスをアンダースローで投げれば敵を薙ぎ払ってくれる。

 

 この三日間で大分ゴーレムの防御力アップの研究は進んだ、だが全盛期の半分以下の性能しか出せない、もっとレベルアップが必要だ。

 そして念願の王宮からの連絡が来た、明日の正午に中央広場に来る様に指示された、そこでツインドラゴンを並べれば良いのかな?

 あのアースドラゴンはエムデン王国に献上されたらしい、痛む前に売り払うのが正解だ。

 折角のアースドラゴンが腐ってしまっては価値が半減だからな。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 新しいドラゴンスレイヤー誕生の話は数日前から噂されていたらしい、自分はゴーレム強化の研究で屋敷に篭っていたし、イルメラ達も外には出なかったので知らなかった。

 当日指定の時間に王都中央広場の一角に有る監視搭に行くと既に沢山の人で溢れているのが見える、しかも最初の時よりドラゴンの展示スペースが広い。

 

「リーンハルト殿、お待ちしておりました。ご案内します」

 

 騎士団員が二人出迎えてくれた、良く見れば警備や民衆誘導に一般兵の他にも騎士団員が動員されている。

 前は一般兵だけだったのに今回は聖騎士団が動いているのは何故だ?しかも案内された部屋には驚きの人達が待っていた!

 

「ライル団長にバルバドス様まで、どうしたんですか?」

 

 二人が向き合ってソファーに座っているが直接の繋がりは無かった筈だ、ライル団長はバーナム伯爵派閥でバルバドス師はニーレンス公爵派閥だし……

 聖騎士団団長に元とはいえ宮廷魔術師だったバルバドス師まで居る、僕は何も知らされてないぞ。

 

「俺は愛弟子の晴れ舞台だからな、師として宮廷魔術師に推薦した連中の代表としてだ。まさかサリアリス殿やユリエル殿、アンドレアルの馬鹿は出せないぜ」

 

「俺は警備の責任者だからな、お前の父親も会場に居るぞ。今回は民衆の戦意高揚の良い材料となる。

強力なドラゴンを多数単独で倒せる若い魔術師が宮廷魔術師の一員となる、悪いがこれは利用しないでどうするよ?」

 

 つまりエムデン王国の戦力増強、近隣諸国への圧力、ついでに他派閥への牽制を含むか……

 

「まぁ座れ、未だ時間は有るし段取りの説明もする」

 

 ふと考えてバルバドス師の隣に座る、この人は紅茶に大量の砂糖をいれるのだが出されていたのは赤ワインだ、駄目だろ朝から酒は!

 

「その、想像と大分違うのですが僕はどうすれは良いのでしょうか?」

 

 国家の方針に利用されるとなれば、それなりの事をしなければ駄目だろう。多分だがサリアリス様が絡んでると思うのだが……

 

「難しい事はない、冒険者ギルド本部とライラック商会も噛んでいる。まぁ調整したのは永久凍土殿だが、お前の晴れ舞台に相応しい派手な祭にしたいそうだ」

 

 祭?派手に?いや、下手に祭り上げられるのは嫌なのだが、サリアリス様は何を考えているんだ?

 

「前者と違いお前は本物のドラゴンスレイヤーだからな、しかも一ヶ月間も大量にドラゴン狩りを続けてたそうじゃないか!

ツインドラゴンとアーマードラゴンを全て並べるんだ、それらは国家が買い取る。

アースドラゴンとワイバーンは冒険者ギルド本部とライラック商会で分ける、お前はこの場で宮廷魔術師に任命される事となる」

 

「新しき宮廷魔術師は若き土属性魔術師、古代の魔法大国ルトライン帝国最強の魔術師、宮廷魔術師筆頭ゴーレムマスターと呼ばれたツアイツ卿の再来だな」

 

 再来どころか転生した本人です、しかし転生しても能力は全盛期の三割にも満たない。

 

 だが今の僕と転生前の僕を皆が繋げるのは何故だ、三百年も前の人物で吟遊詩人達は適当な内容を唄っていたのに……

 いや、バルバドス師は転生前の僕の事を詳しく知っていた、ゴーレムにポーンやナイトと名付けたり円殺陣もそうだ。

 吟遊詩人達の伝える内容とは別に何か別の方法で後世に伝わっているんだ、素直に聞いてみるか。

 

「確かに僕は古代魔術師ツアイツ卿の事を調べて模倣しました、ですが伝わる文献は少なく吟遊詩人達に聞いた内容は荒唐無稽。

土属性魔術師なのに火属性や風属性、果てはエルフの使う魔法と混じっている始末でした、敵兵を操るとか精神操作魔法を使いこなすみたいな……」

 

 しかも経歴も時間軸もバラバラで聞きながら笑いを堪えるのが大変だったんだ。

 

「お前凄いな、あやふやな情報を継ぎ足して試行錯誤した結果がアレかよ。

宮廷魔術師になればエムデン王国の書庫が閲覧出来る、その文献の中にだな、かのツアイツ卿が残した魔導書が有るのだ」

 

 は?魔導書?僕が残した?

 

 今の僕は凄いマヌケな顔をしている自覚が有る、だが僕はそんな物は残してない。

 魔導の研究と結果は自分だけの物で秘匿してたから資料等は全て空間創造の中だし研究室に残した物は残らず処分した。共同研究者なんて居ないし、誰かが模倣したのか?

 

「そ、その魔導書は見せて貰えるのでしょうか?」

 

 誰だ?誰が僕の名前を騙ったんだ?その内容は本当に正しいのか?

 

「冷静沈着なお前が凄い動揺だな。宮廷魔術師になれば王宮にも出入り出来る、なんなら俺が案内してやるよ」

 

「それは……有難う御座います」

 

 オッサン二人がニヤニヤしている、どうせ憧れの古代魔術師について貴重な資料が読めるから感動してるとか思っているのだろう。

 だが流石は一国の書庫ともなれば、貴重な蔵書も多数有るのだろうし楽しみだ。

 魔術師ギルド本部にも有りそうだな、今度対価を払ってでも見せて貰うか……

 

「さて、そろそろだな。王宮から勅使殿も来たみたいだ、お前の格好はハーフプレートメイルに魔術師のローブにしろ」

 

「バーナム伯爵派閥は武闘派だからか?まぁ良いか。リーンハルト、最高の鎧を錬金しろ、だが顔見せだから兜は不要だぞ」

 

 普通の貴族服だったからな、しかし先に教えてくれれば心構えが出来たのに……

 こういうサプライズは不要で願いたい。パレードアーマーを意識して装飾を施した鎧を錬金する、黒をベースに銀の縁取り、紋章はかつての僕の家紋だった鷹を少しアレンジして右胸に施した。

 

「すげーな、それ俺にも作ってくれよ。秘密にしてるみたいだがデオドラ男爵の鎧兜もお前が錬金したんだろ?」

 

「呆れた錬金精度だな、王宮の近衛騎士団の儀式用よりも立派じゃないか?」

 

 見栄を張るのも貴族の役目、折角サリアリス様が用意してくれた晴れ舞台だし派手に行くか。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 監視搭から中央広場迄は幅10m程の広さの道が用意され左右には民衆が溢れている。どうやらライル団長やバルバドス師は一緒には歩かないらしい、僕だけでこの道を歩くのか。

 

『おい、出て来たぞ』

 

『やはりだ、ゴーレムマスターのリーンハルト卿だ』

 

『聖騎士団か近衛騎士団みたいな凄い鎧だぞ、魔術師じゃなくて魔法戦士なのか?』

 

『リーンハルトさまー!こっち向いてー』

 

『私の方を見てー!』

 

 既に噂は広まって、いや広めていたのだろう。僕だと予想していた連中が多い。

 通路の中央部分を大股でゆっくり歩く、羽織ったローブがマントみたいだな。そのまま100m程歩いて中央に設えた空間に到着、此処にドラゴンを並べれば良いのか。

 

 先ずは手前にアーマードラゴンを六体並べていく、空間創造から一体出す度に民衆から歓声が上がる。

 

『あれはアーマードラゴンだぞ、前の方はアースドラゴンだったのに』

 

『凄いな、六体も一人で倒したのか?』

 

『あれだけでも金貨三万枚以上だろ、あれはオークションに出るのかな?』

 

 アーマードラゴンを並べ終えて次はツインドラゴンだ、本命は一段高い展示場所が用意されている。最初に右側、次に左側、最後は中央に一番大きいツインドラゴンを置く。

 

『おい、双頭竜だ!あれはツインドラゴンだぞ』

 

『あんな15m以上も有る化け物みたいなドラゴンを更に三体も倒したのか、一人でか?』

 

『リーンハルトさまー!』

 

『素敵!強くて凛々しいわー!』

 

 民衆の興奮も最高潮だな、流石にドラゴン九体を一人で倒せば誰もが認めるドラゴンスレイヤーだろう。これでサリアリス様の提案に最高の形で応える事が出来て良かった……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「まいったな、話には聞いていたが実際に見ると圧巻だ」

 

「ああ、俺達も若い頃にデスバレーに挑戦したしドラゴンだって倒したさ。だが未だ若い、若過ぎる」

 

 視線の先には若きドラゴンスレイヤーの称号と宮廷魔術師に加入が許されたリーンハルトが民衆に手を振っている、特に若い女の歓声が凄いな。

 僅か二ヶ月で無名の新米冒険者が、ランクCに駆け上がり新貴族男爵になった。

 そして直ぐにドラゴンスレイヤーの称号を得て、魔術師の最高峰たる宮廷魔術師へと任命される。

 

「さて、これからが大変だな。奴には公爵五家の内、ニーレンス公爵とローラン公爵が動いている。他の三家がどう動くか……」

 

「宮廷魔術師や団員からの反発も有るだろうな、サリアリス殿のお気に入りでは有るが全員が好意的じゃない」

 

 ウルム王国との間に緊張が高まっている時期に派閥争いとか足の引っ張り合いにならねば良いが、自分の損得だけで時勢を読めない馬鹿が多過ぎる。

 

「リーンハルトなら大丈夫だとは思うが、未だ成人前の子供だ」

 

「アレが子供とは周りが可哀相になるが俺達も奴には頑張って貰いたい。助力は惜しまんさ」

 壇上で手を振る若き魔術師の未来を祝おうじゃないか。

 

 




これにてGW中連続投稿も終了です、明日は毎週木曜日投稿として投稿し来週から週1回に戻します。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。