古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第233話

 滞在十四日目、今日は薄い曇り空で雨は降らないだろう、昨夜マダムから聞いた情報では遂にアースドラゴンが売れたらしい。

 買い取ったのは商人ギルドから来た老人だ、名前なんだったかな、パルディオさんだっけ?

 揉めに揉めたみたいだが半分干からびて腐り始めたアースドラゴンの値段が知りたいものだ。

 

 宿屋から広場の前を通ると大きな樽が用意されアースドラゴンが入れられている所だった、塩漬にして王都まで運ぶのだろう。

 空間創造はレアギフトだからアースドラゴンといえども運搬する為には雇えなかったのかな。

 あの『忘却の風』の三人が……あれ?最近は二人しか居なくてドラゴンに倒されたのかと思ったが今朝は三人揃ってるな。

 自慢げに自分達が倒したドラゴンの荷造りを見ている訳だ、まぁ良かったなと言っておくか。

 ワーズ村に滞在してる商人の殆どの注目を集めてくれたのは正直助かった。

 彼等が僕に気付いてドヤ顔で手を振っていたので軽く頭を下げてやり過ごす、明日からは静かな村に戻るだろう。

 

 ワーズ村に滞在しデスバレーに挑む連中は減った、骨狙いのアシモフさん達みたいな人が数人だ。

 流石にドラゴン種やワイバーンを狩る連中は居ない、他の候補者は素直にコカトリスやバジリスクに挑んでいるんだな。境界線に到着、馬ゴーレムを魔素に還す。

 

「さて訓練を兼ねたアースドラゴン探しを始めるか」

 

 人目が無いか周囲を確認する、見渡す限り人は居ないな。

 

「クリエイトゴーレム。ゴーレムキングよ、我が身を包め!」

 

 ゴーレムシリーズの最上位、ゴーレムによる強化装甲を身に纏う、これにより魔法障壁の他にゴーレムの装甲も鎧として併用する事で防御力は上昇。

 全長4mの巨体はゴーレムルーク程ではないが、人間では不可能な怪力や移動力を得る事が可能だ。

 

「さて操作に慣れるのは実際に動かす事が最良だ」

 

 人間と同じく二足歩行が出来る、歩幅は150cmだから三倍長く早い。

 少し跳びはねる様に歩きだし徐々にスピードを上げる、馬ゴーレムの駆け足と同じ位のスピードは出ている。

 暫くは全力疾走や反転を繰り返し操作に慣れる訓練をする。

 

「居た、アースドラゴンだ。今日は見付けるのが早かった、幸先が良いな」

 

 100m程先の大岩に背中を擦り付けているアースドラゴンを発見した、未だ僕に気付いていない。念の為に周囲や上空を確認するが人もワイバーンも居ない。

 

「では始めるか、ゴーレム運用の新しい可能性を」

 

 アースドラゴンに向かい真っ直ぐに大股で走り出す、30mも走らずに相手が気付いた。流石はドラゴン種、逃げ出す選択肢は無いらしく身体を起こして迎撃体勢をとった。

 この段階で距離は約50m、次はブレスか尻尾の水平振り抜きが奴等の攻撃パターン。

 当たり前だが素早い動きの相手には噛み付き攻撃は殆どしない。

 距離が20mを切った、奴は身体を捩ったので攻撃は尻尾の水平振り抜き、人間など鎧を着ていても肉塊に変えられる一撃だ。

 

「その攻撃は知っている!」

 

 5m手前で飛び上がり、そのまま右足で尻尾を振り抜いて身体を捻った事で見せた背中に蹴りを入れる。反動で後に飛び去り両手を突き出して魔法攻撃を撃ち込む。

 

「アイアンランス!」

 

 六本の鋭い鋼鉄の刃が僕に噛み付こうと振り向き無防備に晒す腹部目掛けて撃ち出された。

 心臓周辺に三本撃ち込んだ為か大量の血飛沫をあげて前のめりに倒れ込む、イメージ通りに倒す事が出来た。

 

「魔術師とは自分の魔力で規格外の攻撃が出来るが防御は魔法障壁頼り、他の職業に比べて惰弱だがゴーレムキングは常識を覆す着るゴーレム。

この六日間で勘を取り戻しつつあるが未だ武器は使えないんだよな」

 

 剣や槍は使えない、盾はかろうじて使える、指を握ったり掴んだりする細かい動作は未だ難しい。コレットのゴーレムみたいに手首から先を剣や斧にすればどうだろうか?

 

「試しに右手首から先を斧にしてみるか」

 

 精神を集中し右手首から先に片刃の斧をイメージする、魔素が集まりイメージ通りの斧が出来た。

 

「ふむ、成功だ」

 

 振り回して使い勝手を確かめる、リーチは短いが扱いは簡単だ。次はショートソードを生やしてみて振り回す。

 

「こっちの方が軽いし扱い易い、いっそ爪にするか」

 

 鎌状の刃を三本生やしてみた、ショートソードより短く斧より軽く取り扱いは悪くない、折り畳むか飛び出す様に細工すれば初見殺しにもなるか?

 

「では次の獲物に接近戦を挑むか、ドラゴン種よりはオークの群れの方が訓練にはなるな……」

 

 この依頼が終わったら次は多対一の戦いが出来る条件を捜すかな。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 順調にゴーレムキングの運用を考え試してみた、結論から言えば接近戦は飛び出し式の爪にした。

 ゴーレムキングは司令塔、普段はゴーレムナイトやポーンを大量運用して前線には出ない、確かにゴーレム軍団は強いが操作する魔術師を狙えば簡単に倒せる。

 その常識を覆したかった、だが武術の素質は並みで肉体鍛練よりも知的探究が大好きな僕では魔法戦士としては大成しない。

 だから得意分野で肉体強化を考えて最終的に思い付いたのが強化装甲、名前は未だ無い。

 

 今日は夕方まで粘りアースドラゴンとワイバーンを更に一体ずつ狩った、流石にレベルアップはしないか……

 ゴーレムキングを魔素に還し馬ゴーレムを錬成しワーズ村にと帰る、日が沈むと急激に冷え込むのが荒野の特徴、だからワイバーンの肉の加工に適する。

 

 境界線を越えればのんびりと馬ゴーレムを歩かせて進む、あの煩かった連中もアースドラゴンの搬出と共に村から立ち去っているだろう。

 顔見知りとなった門番に挨拶をして村に入る、広場を占拠していたアースドラゴンも運び出されて静かなモノだ。

 

「何だろう、門番の数が多いし村の中にも武装した警護団が待機している」

 

 物々しい雰囲気だ、厄介者達が居なくなったのに何故警戒を強くする?

 

「ただいま帰りました、何か物々しいですね」

 

 宿屋の扉を開けて中に入るとマダムが奥から飛び出して来た。

 

「リーンハルトさん、大変だったんです!ドラゴンを輸送していた商隊が野盗に襲われたのです、パルディオさん以下殆ど全滅みたいですわ」

 

 こんなに慌てるマダムが珍しい、何時もはおっとりした貴婦人なのに……

 だがドラゴン種は希少価値が有る、今回はドラゴンスレイヤーの名誉を欲したが牙や爪、鱗にバラして売れば高額だし盗難の痕跡は残らない。

 買い取りたくて集まった商人達は金を沢山持っている、パルディオさんも警戒して護衛を雇ったりしていたみたいだがアースドラゴンの塩漬は奪われたのか……

 

「それで生き残りの商隊の皆さんは?」

 

「僅か数名が何とか逃げられたそうですよ、パルマの街にも応援を呼びに行かせました。野盗の襲撃に備えて警戒をしないと」

 

 多分だが野盗はもう近くには居ない、ピンポイントでアースドラゴンが狙われたんだ、目的を達成したら逃げるだろう。

 

「もしワーズ村に野盗が攻めて来るなら僕も加勢しますから大丈夫ですよ」

 

「そうですか!真のドラゴンスレイヤーのリーンハルトさんが加勢してくれるなら安心ですわね」

 

 真のか……小型ドラゴン種には良い様にあしらわれたけどね、必ず力を蓄えてリベンジする。マダムも大分落ち着いたみたいだ、一人だから心細かったのかな?

 

「ワーズ村には商人達は残ってますか?」

 

「いえ、運搬で雇われた人達が三人逃げて来ただけです。他の人は襲われた場所から近いパルマの街の方へ逃げたそうです」

 

 ふむ、人の多くて近いパルマの街に逃げるのは正解だと思う、最大の目的はドラゴンの確保だから逃走する連中はリスクが高いから追わないだろう。

 今回はアースドラゴンを狩ってから売る迄に時間が掛かり過ぎた、だから野盗共の耳に情報が入り襲われたんだ。

 

 商人ギルドは面子を賭けて野盗の討伐と再度のドラゴン種狩りの依頼を出すだろう、あの派遣されたパルディオさんも殺されたなら尚更だ。

 

「野盗共は既に目的を達したから近くには居ないし逃げ出したとは思います。商人ギルドは大変だ、職員を殺され依頼は未達成、ワーズ村に人員を送り込んで来るでしょう」

 

「確かにそうね、また騒々しくなるのかしら」

 

「同じ失敗はしない為にも護衛も多く来るでしょう、最悪は冒険者ギルドや魔術師ギルド等にも依頼して来ますね」

 

 情報集めなら盗賊ギルド、ドラゴン種の再捕獲なら冒険者ギルドか魔術師ギルド、武力が無い彼等は金の力にモノを言わせるだろう。

 今回の依頼人は宮廷魔術師団員の序列一位とその親族、盗まれましたじゃ済まない、何かしらの手を打って来るだろう。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 パルディオさん達が襲われてから四日目、特に表立った動きは無かった。

 滞在してから十八日目で予定は残り三日間、レベルは39になったし順調だ。

 今日迄の成果は小型ドラゴン種が四体、ツインドラゴンが三体、アーマードラゴンが六体にアースドラゴンは十七体、ワイバーンは二十九体、全身骨格は十一体分と満足出来る内容だ。

 レベル40は無理かも知れないが短期間の成果としてなら十分だろう、特に金銭的には考えるのを止めたくなる位の価値は有る。

 

 未だワーズ村に新たなドラゴン種狩りの連中は来ていないが報告から依頼の流れだと第一陣が来る頃だと思う。

 そんな事を考えながら『陽炎の栄光亭』に戻ると珍しい来客が待っていた。

 

「お久し振りです、リーンハルトさん」

 

「クラークさん、何故ワーズ村へ?」

 

 僕の担当者でもある冒険者ギルド本部職員であるクラークさんが含みの有りそうな笑顔で出迎えてくれた。

 

「お互いに利益の有る緊急依頼です、お座り下さい」

 

 向かい側の椅子を指差された、マダムが入口の扉の鍵とカーテンも閉めたので内緒話なのは理解した。

 

「ええ、何か有りましたか?」

 

 マントを脱いで空間創造に収納しクラークさんの向かい側に座る、本部の管理職員の彼が現地に出て来るとなれば……

 

「王都の商人ギルド本部から緊急依頼が有りました、ワーズ村から輸送するアースドラゴンが野盗共に奪われた事について」

 

「報復の協力と新しいドラゴン種を狩って譲って欲しいと緊急依頼でも受けましたか?」

 

 クラークさんの言葉を遮り予測の説明をする、随分早い対応だと思うが彼が来たなら僕に余ったドラゴン種を譲って欲しいとかだろう。

 ニヤリと意地の悪い笑みを浮かべてるし予想は当たりか……

 

「流石ですね、我々は商人ギルドに一つ借りが有りまして早急にドラゴン種を王都にて引き渡したいのです。リーンハルトさんの指名依頼の進み具合はどうです?」

 

「依頼は既に達成してます、今はレベルアップに専念してました。アースドラゴンなら一体譲るのは構いません、僕はツインドラゴンを提出しますから」

 

「なんと!アーマードラゴン位は狩っていると思ってましたが更なる上位種ですか。それならアースドラゴンをライバルに渡しても大丈夫ですね」

 

 マダムから聞いているのかと思えば話してなかったのか、残念だけどドラゴン種狩りは今日で終了、明日一番でクラークさんと王都に帰る事になるな。

 

「そうですね、一番若くて小さい個体でも良いですか?

一応アースドラゴンなら十七体有りますよ、内一体は他のドラゴンに襲われてた奴なので内臓は食われてますが……」

 

「じゅ、十七体?リーンハルトさん、半分は冒険者ギルドに売ってくれるんですよね?」

 

 目がマジだ、でも討伐権利まで渡すとドラゴンスレイヤーが量産出来るな……

 

「構いませんが、討伐権利ごとですか?」

 

「いえ、リーンハルトさんが討伐したと発表した後に素材として買い取ります。新鮮なドラゴン種の死体は素材として色々と有効なんですよ。因みにアーマードラゴンも……」

 

 伺う様に聞いて来るが、ちゃんと半分は引き渡しますよ。

 

「ツインドラゴンもアーマードラゴンも半数は渡します、残りはライラック商会に売る予定です」

 

 一体合計で幾らになるんだろう?

 


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