古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第232話

 小型のドラゴン種に襲われた、群れで連携しながら襲って来る厄介な敵だ。

 しかもレベル35以上に相当する自慢のゴーレムナイトが牽制か足止め程度にしか使えない、簡単に一撃で倒される始末。

 僕も転生前に最後に編み出したゴーレムを身に纏う強化装甲タイプのゴーレムキングで何とか戦える程に追い込まれた。

 敵の小型ドラゴンは残り五体、僕はかろうじて未だ無傷だが魔力は半分にまで減った……

 

「確かに強くて素早いが防御力は低い、それが救いだな」

 

 ジリジリと距離を計るドラゴンの前に三十体のゴーレムナイトを並べる、半自動制御では一体にしか傷を負わせられなかった。

 だが包囲網を抜け出した今は全てを視界に納めている、敵の素早さから逃げ出しても追い付かれる可能性は高い。

 逃げる最中の背後からの攻撃は致命的だ、だから戦って勝つか逃げ出させるしかない。

 

「突撃!」

 

 固まる五体に包み込む様にゴーレムナイトを走らせる。

 

「雷雨!」

 

 接触する少し前に頭上15mにゴーレムナイトを二十体錬成して落下、敵が走り込むゴーレムナイトに注意を向けている時に直上からの自重を乗せた両手持ちアックスの攻撃。

 

「キシャー!」

 

 一体が上下からの立体的な攻撃をモノともせずに飛び掛かって来る。

 

「これも避けるか。ならば、アイアンランス!」

 

 両手を振り上げて飛び掛かって来るドラゴンにアイアンランスを十本撃ち込む!

 

 だが両手を交互に振り下ろして弾き返した、かろうじて勢いは殺せたので5m手前に着地、お互い睨み返す。

 爬虫類特有の縦の瞳孔に金色の瞳、口を大きく開けて……開けて?

 

「まさかブレスか?」

 

 右手を顔の前に動かしてガードする、魔法障壁に液体が当たり弾かれている。

 

「毒液を牙から吐き出しただと?居ない……何処へ行った?」

 

 右手を下ろして周囲を見回すが、あの小型のドラゴン種は何処にも居ない、あれだけの集中攻撃でも倒せたのは一体だけで、残りは逃げ出した?

 

「いや、見逃してくれたか何処かで様子を見てるかだな。だが今は生き長らえた……」

 

 地面に垂れた毒液が白い煙をあげている、ドラゴン種の毒とは興味深い、サリアリス様への研究材料として良い土産になるだろう。

 倒せたのは四体、半分は取り逃がした。今気付いたがレベルアップもして37になった、つまり小型だがアースドラゴン並みの経験値が有ったんだ。

 倒した四体を空間創造に収納し、ゴーレムキングを纏ったまま後向きに歩いて下がる、ゴーレムナイト三十体も同様に周囲を警戒しながら撤退だ。

 

 ジリジリと200mほど後退してから馬ゴーレムを錬成し一目散に境界線へと向かう。

 

「負けた、僕の負けだ。慢心してデスバレーに近付き過ぎたんだ、生き延びたのは運が良かっただけだ。畜生、なんて間抜けなんだ、僕は!」

 

 空に向かって叫ぶが気持ちが晴れる訳がない、だが叫ばずにはいられない非生産的な行動に自分ながら呆れる。

 今日は宿屋に戻って一人反省会、未だ六日目で残り十五日も有る。アースドラゴン狙いで確実にレベルアップして地力を上げるしかない。

 ゴーレムキングの錬成にも成功したのに気持ちは負けだ、悔しいが自業自得なので自分に当たる事しか出来ない。

 

「今日はヤケ酒を飲んで早く寝よう、気持ちを切り替えて明日から再挑戦だ!」

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 あの小型ドラゴン種に負けた事を認め反省と自己嫌悪に陥った翌日、完全休養を取る事にした、つまり七日目は休日だ。

 ティルさんは既に『地竜の尾亭』を引き払って王都に帰る為にパレモの街へと出発していた、アグレッシブなお嬢様だったな。

 

 マダム謹製の朝食を食べて今日は完全休養日にすると昼食の用意を頼み部屋へと戻る、取り敢えずベッドに飛び込んだ。

 仰向けになり毛布を首まで持ち上げて目を閉じる……

 

 昨日の戦い、数にモノを言わせて二百体で圧し込んだらどうだったか?

 

「制御力の落ちたゴーレムナイトでは素早い動きに反応出来ず、僕に接近されて攻撃を受けた」

 

 ならば単体最大戦力のゴーレムルーク四体同時攻撃なら?

 

「動きの鈍いゴーレムルークを振り切り僕に直接攻撃を仕掛けて来た」

 

 変なプライドを守らずに素直に逃げ出せば良かったのでは?

 

「あの素早い敵に背中を曝すのは危険だ、追い付かれた可能性が高い」

 

 ゴーレムナイトを最大数召喚し囮として殿(しんがり)で戦わせて自分は馬ゴーレムで逃げれば?

 

「助かる確率は高かった、最大二百五十体の鉄の壁なら八体なら押さえ込めた。僕は引き際を誤ったのか?」

 

 初見で逃げ出す事に抵抗が有ったのは確かだ、臆病と考えるか慎重だと考えるかは別として……

 

「今回は生き延びただけで幸運、一応見知らぬドラゴン種を手に入れたから対外的には惜敗、自分的には惨敗だ……」

 

 ネガティブに考えずに生き延びた幸運とポジティブに考えるか。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 完全休養日から六日目、滞在十三日目、発見に時間が掛かっても境界線から3km以内を徘徊しアースドラゴンとアーマードラゴン、ワイバーンを順調に討伐している。

 お陰で夕方ギリギリまで粘る事も多くなったがレベルも今日で38に上がった、小型ドラゴン四体、ツインドラゴン二体、アーマードラゴン三体、アースドラゴン十一体、ワイバーン三十体、全身骨格七体分。

 

 残りの日数は八日、何とかレベル40に上げたいが難しいだろうな。

 

 本日最後の獲物であるアースドラゴンを空間創造に収納し馬ゴーレムに跨がる、真っ直ぐに境界線へと向かう。

 暫く歩くと『忘却の風』御一行様が掘った落とし穴が見えて来た、夜の強風で既に半分以上が埋まっているが三日前に彼等は本当にアースドラゴンを倒した。

 荷台に乗せられてワーズ村に運び込まれたアースドラゴンは全長7mと若く小さい個体だったが間違いなくドラゴン種だ。

 

 但し被害は甚大だった、大雨で落とし穴が崩壊した後は二十人近くまで減った彼等だが生き残りは三人だけだった。

 古参の戦士職だけが何とか生き残り、その他はワーズ村の共同墓地にその身を埋めた、シックスウォーリアーも全滅だ。

 

 慎重に落とし穴を迂回してワーズ村へと向かう、今ワーズ村は一寸したお祭り騒ぎ。

 中央広場に置かれた荷台には倒されたアースドラゴンが乗っている、何故運び出さないかと言えば周辺から噂を聞き付けた商人達が続々と集まっているから。

 

 あの金に汚く黒い噂の多い『忘却の風』だが生き残り達に素直に金貨千枚を報酬として渡した、ドラゴンスレイヤーを名乗れない事には文句を言ってだが……

 そんな金払いの良い連中も商人との買い取り交渉には厳しい、今日も新しい商人がワーズ村を訪ねて来る。

 良い囮だが毎日デスバレーに向かう僕にもチラホラと疑いの目で見られる事が有る、指名依頼のワイバーン狩りと言っているがドラゴンが買えなかった連中に絡まれそうだ。

 

 あと幾らドラゴン種とはいえ死体を放置してるので腐り始めるのも時間の問題だな、夜は冷え込むが昼間は乾燥していても暑い。

 傷口から流れ出した血は完全に乾燥してるし塩漬にするとか防腐処理しないと駄目だと思う、他人事だけどさ。

 

 ワーズ村に到着、門番の二人に手を挙げて挨拶し門を潜る、今日も疲れたな……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「ただいま帰りました」

 

「お帰りなさい、王都から手紙が来てますよ」

 

 笑顔でマダムが迎えてくれた、実は小型ドラゴン種については説明して実物も見せたが知らないので冒険者ギルド本部に判断を委ねる事になった。

 だから二人だけの秘密ですねって笑われた、アースドラゴンやアーマードラゴン、ワイバーンの討伐場所は教えて有るがコチラも秘密。

 既に二体のワイバーンを譲り一体分の食肉加工を依頼した、特にシンプルなステーキが病み付きになっている。

 ワイバーンの肉の処理には荒野の気候が関係してるらしく他の場所では加工出来ない、特産にする程にはワイバーンが狩れないので通好みの希少な食べ物だそうだ。

 

 手紙を受け取り部屋に戻る、直ぐに読みたいので風呂は夕食後に変更して貰った。

 テーブルに貰った手紙を並べる、冒険者ギルド本部から一通、ライラック商会のライラックさんから一通、プライベートの女性陣からの手紙は一括りに纏められているが一番上はジゼル嬢のだ。

 多分だが彼女が取り纏めて一緒に送ってくれたと思う、細かい気遣いが出来る有能な姫だから。

 

「自分が一番上で次がアーシャ嬢、イルメラにウィンディアの順番とは意味深だな」

 

 先ずはライラックさんからの手紙に目を通す、彼の店程の規模になると商人ギルドとは関係も薄いらしい、あれは主に中小の店主達が集うギルドらしい。

 ドラゴンとワイバーンについては有り難く買い取らせて下さいと書かれている、アーマードラゴンは金貨五千枚、アースドラゴンは金貨二千枚、ワイバーンは金貨三百枚と上限一杯だが値下げするつもりだ。

 

 次に冒険者ギルド本部からだ、珍しく代表であるオールドマンさんの直筆で書かれている。

 

「ベリトリアさんは試練を辞退、宮廷魔術師になりたくないって断ったらしい。サリアリス様との確執か何か理由が有るんだな……」

 

 次に商人ギルドに圧力を掛けてドラゴン種を手に入れたいのは、宮廷魔術師団員の序列一位のビアレス殿か。

 敵対はしてない派閥に属し実家が伯爵だったっけ?金にモノを言わせる行為だが綺麗事だけじゃ無理なのが貴族だ。

 それに序列一位じゃ順当に宮廷魔術師になる出世コース、僕等みたいな一般枠とは違う純粋エリート様だな。

 だが彼が手に入れるのは腐り始めたアースドラゴンの若い個体だ、表に裏にと頑張ったが僕には勝てないので心配する程じゃない。

 

「最後は女性達からだ、先ずはジゼル嬢の手紙か」

 

 手紙を手に取り蝋封を剥がす、丁寧に畳まれた中に一房の金髪が入っていたがコレって彼女のか?

 1cm程に束ねられ銀製品の宝環で纏められている、匂いを嗅ぐと……

 

「何をやってる!匂いを嗅ぐなど紳士の行動ではないぞ、猛省しろ」

 

 数回深呼吸してから手紙を広げる、あの謀略令嬢のドヤ顔が思い浮かぶ。しかし本当に綺麗な文字だな、読みやすいし……

 

「流石だな、魔法関連は弱いと言いながらも短時間でビアレス殿を突き止めている。だが僕に圧力を掛けてはない、サリアリス様のお気に入りに手を出すのは愚行か。そして自分は保険としてコカトリスに挑んでいると……」

 

 僕の為に暗躍し課題を決めてくれただろう皺くちゃの老魔術師を思い浮かべる、世話になりっぱなしで恩ばかりが積み重なる。

 

「次はアーシャ嬢の手紙だが、綺麗なリボンだな。これって彼女の着ていたドレスの一部じゃないか?」

 

 胸元のレース飾りの部分だ、誕生日パーティーで着ていたから覚えている。ギュッと握り締めて匂いを……

 

「一寸待て、ナチュラルに匂いを嗅ごうとしてるが、僕にそんな性癖が有ったか?いや無い、筈だ、と思う、思いたい」

 

 手紙の内容は毎日無事を祈ってますとシンプルだが気持ちは伝わった。

 この姉妹は自分の身に着けていた物を添えて来た、特にジゼル嬢は自分の髪の毛を切ってくれるとは驚きだ。

 戦地に赴く夫か恋人に贈る絆みたいな物だ、死にかけた事は言えないな、無駄に心配される。

 確かに慢心は反省すべき事だが自分の中で処理すれば良い。確実に泣かれる、そして僕は涙に弱い。

 

「気を取り直してイルメラとウィンディアの手紙だ」

 

 イルメラの手紙は僕の身体の心配事だけで埋まっている、だが早く帰って来いとかは書いてない、全て僕の思う様に行動して下さいって事だな。

 不安や焦りを誘発する様な事は書かずに僕の無事だけを祈るか……

 

「有り難う、イルメラ。必ず無事で帰るよ」

 

 最後はウィンディアか……

 

「これは半分報告書だな」

 

 僕が出掛けてから屋敷に誰が来て何が届いたか、簡潔に書いて有る。最後は僕の健康を心配してるし早く帰って来て欲しいと締められていた。

 両極端だがコレはコレで嬉しい、素直に淋しい会いたいと書かれている訳だから……

 

 


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