古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第231話

 昨晩夜更かししながら手紙を書いた、ワーズ村に来てから魔力消費が激しいので早寝だった為に寝不足感が有るが魔力は全回復だ。

 ワーズ村には早馬は無いのでパレモの街まで行かなければならないのだが、マダムがパレモの街に買い出しに行くので頼む事にした。

 僕自身の行動は注目されてるから手紙を出した事を知られるのは不味い気がする、返事は王都からの早馬が『陽炎の栄光亭』まで届けてくれる。

 呑気に三週間の滞在が出来ない可能性が出て来たので休まずドラゴン討伐を続ける事にするが明日は完全休養日にする予定だ。

 レベルアップによりゴーレムビショップを作ってみる、ナイトの上位ゴーレムで全体的な能力の底上げとスピードに特化したタイプだ。

 因みにゴーレムクイーンは完全自立行動型でゴーレムキングは……

 

 宿屋を出ると同じタイミングでティルさんも出て来た、毎回どうやって分かるのか不思議だ、僕も周囲の魔力探索をしてるのに引っ掛からない。

 

「おはよう、ティルさん」

 

「おはよう、リーンハルト君」

 

 お約束の挨拶をして馬ゴーレムに乗り込む、今日も快晴で早朝なのに日差しが強く日焼けをしない為にローブを目深に被るが暑い。

 無駄に増えた商人達がワーズ村の中心広場に有る井戸の周りに集まっていて僕等を注視している、魔術師二人組が珍しいか?

 

「なぁ?アンタ達はドラゴン狩りをしてるのかい?」

 

 声を掛けられた、既に額に汗を浮かべている褐色の青年だ、笑顔だが目は笑ってない。

 

「私達の依頼は魔力の結晶化した牙と爪集め、それとワイバーン狩り」

 

「え?ああ、そうです。既に買い手は依頼主と決まってますから」

 

 昨日訪ねて来た二人は居ないが八人の商人達が一斉に僕等を値踏みする様に見る、正直不愉快だ。

 

「一昨日だがドラゴン狩りに成功した奴が居るって噂が流れたけど知らんか?」

 

 一昨日って早いな、特定には至ってないがバレるのは時間の問題かも知れない。

 

「いや、僕等はドラゴンがワーズ村に運ばれたのは見てない、だけど『忘却の風』の連中はドラゴン狩りに来たって騒いでたよ」

 

「あの連中がか?ワイバーン程度で被害甚大だぜ」

 

「しかも金に汚かったな、最後は銅貨何枚とか細かく吊り上げてよ」

 

 昨日のワイバーン買い取り交渉は散々揉めたんだな、強欲で有名な商人達からも金に汚いとか凄い評価だぞ……

 だが倒したドラゴン種は全て空間創造の中だから荷台に乗って運ばれて来た奴は見ていない、この言い回しに気付いたティルさんが声を殺して笑っている。

 

「ガセネタよ、本当なら今頃ドラゴンスレイヤーが誕生してるわ、秘密にする意味無いし」

 

 嬉しそうに僕の背中に額を付けて遂に声を出して笑っている、僕に騙される滑稽な連中だと思っているのだろう。

 僕以外にドラゴン狩りに成功した奴は知らないし今は居ない、ワーズ村に荷台に乗って運ばれて来たのも見てない。

 素直にドラゴンを狩ったか?と言われてないから僕以外はとギリギリOKな回答だと思う。

 

「そうか、何か情報を掴んだら教えてくれ。内容によっては礼は弾むぜ」

 

 景気の良い話に片手を上げて応えてから離れる、ティルさんは笑いっぱなしだ。

 

「良く息を吐く様に嘘じゃないけど事実も語らないで話せるわね」

 

「君が笑いっぱなしは珍しいな、そんなに楽しい話じゃないだろ?それに直ぐに疑われるかバレるさ」

 

 だが直接見られてなければ何とでも言えるだろう、誰が少年魔術師が一人でドラゴン討伐が出来ると信じる?

 煩わしくなれば切り上げて王都に帰れば良い、目的は既に達成しているから問題は無い、レベルアップは暫くしてから来れば良い。

 

「そうね、そろそろ煩わしくなって来てるし。反応有り、斜め右側50m先に行って」

 

「分かった、今日は遠くまで来たね」

 

 話ながらでも早足な馬ゴーレムは結構な距離を進んでいた、時間的に境界線から右側に2km以上は進んだ計算だ。

 

「ここ、この下だけど結構深いわ」

 

 言われた場所は今迄と違い岩肌が目立つ場所だ、この下って事は埋まった後から岩が動かされて上に乗ったのか?

 

「分かった、少し離れてくれるかな。最初に岩を砕くから……」

 

 今迄みたいに細かい土や砂を振動させて浮き上がらせる訳にはいかない、最初に地表に見える岩を退かす必要が有る。

 両手を岩の上に乗せて魔力を浸透させていく、かなり大きな岩だ、見えてる部分は3m角程度だが地中は三倍以上埋まっている……骨は更に下だ。

 

「先に岩を砕くよ、魔力を浸透させて破砕する」

 

 ズンって響く音がして大岩が粉々に砕けて砂状になり自分も少し埋まった、ブーツの中にも砂が入ったか。

 上部の岩が無くなれば深くても地上まで浮かび上がらせる事は出来る、感覚からして地下7mって所だな。

 モリモリと砂が吹き上がり地中深く埋まっていた骨が顔を出した。

 

「見付けた、しかもアーマードラゴンの骨で完全に牙が魔力結晶化している」

 

「これが完全な魔力結晶化の牙か、三本有るね」

 

 一際大きい犬歯は根本まで完全に結晶化している、凄い力を感じる、牙が二本完全に奥歯の一本は半分程だ。残念ながら爪は全て普通、だが骨は化石みたいに全体に変色していてしかもデカイ。

 

「全長10m以上は有るな、両肩の骨が鎧化した部分が残ってるからアーマードラゴンに間違いは無いがデカイね」

 

 ツインドラゴンに迫る巨体、あの鎧化した肩の骨の厚みなど30cm以上は有るぞ。

 

「ええ、百年以上は経ってるでしょうね。有り難う、これで私の依頼は達成よ。結晶化した牙三本だけ貰って後は貴方にあげるわ」

 

「良いのかい?じゃ有り難く貰うよ」

 

 ティルさんがダガーを使い手早く牙を抜いた後に全身骨格を空間創造に収納する、土から掘り出すだけで金貨十枚以上の骨が貰えるなら満足だ。

 依頼を達成した彼女は素早く依頼人の元へ届けると別れたのだが王都の自宅の住所を教えてくれた、何れまた会う事になるだろう。

 

 さて、ティルさんも王都に帰り僕だけになったが当初の予定通りだ、何も問題は無いのだが少し淋しい。

 気分を切り替えて左側に聳えるデスバレーへと馬ゴーレムの首を向ける、ツインドラゴンにアーマードラゴンと希少な種類を倒す事が出来た。

 だが未だ足りない、もっと経験値が欲しい。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 今日は中々ドラゴン種が現れない、上空にワイバーンも見当たらない、狩り過ぎたか?

 昨日は3km進んだが今日は更に1km進んでみる、途中で牙と爪が残っているアースドラゴンの全身骨格を見付けたが魔力結晶化はしていない。

 ティルさんと行動して何と無く違いが分かったのだが、地中に埋まっていると長い年月を経て魔力結晶化するんじゃないかな?

 

 流石に境界線から4kmも進むとデスバレーも大きく見える、あと3km進めばデスバレーの入口だ。

 周囲の景色も変わって来た、自分の背丈以上の大岩が目立つ。

 

「な?何だ、今のは?」

 

 視界の隅に大岩の後に回り込む様な影が見えた、馬上から周囲を見回すと気付かなかったが何かに囲まれつつある。

 大岩から大岩へと素早く動きながら僕を包囲する何かが居る、人間じゃないのは確かだ。

 

「緑色、尾が長い。リザードマン?違う、前傾姿勢で脚も長かった」

 

 新手の敵モンスターだ、数は分からないが十体前後は居る、身長2m以上で素早い動き。

 

「クリエイトゴーレム!不死人形達よ、無言兵団よ、円陣を組んで迎え撃つぞ」

 

 自分を中心として半径10mにゴーレムナイト三十体を錬成し十五体ずつ二重の守りをする、初めて見る敵はゴーレム召喚に驚きもせずに包囲網を敷いてくる。

 素早い動きの相手には大振りの武器は使えない、ロングソードを両手持ちで構えさせる。

 

「来た!」

 

 一番近い大岩から飛び出して来たのは小型のドラゴンだ、見た事も無い奴がゴーレムナイトに襲い掛かる。

 敵一体に対して外側のゴーレムナイトが三体同時に襲い掛かる、左右と正面からの一斉攻撃はタイミングもバッチリ合っている。

 

「馬鹿な、僕のゴーレムナイトが真っ二つだと……」

 

 レベル35以上の強さを持つゴーレムナイトの三体同時攻撃を躱し、腕の一振りで胴を断ち切ったぞ。

 見れば親指の爪が異常に長く鋭く鎌みたいに弓なりの形をしている。

 続く二体目も同じ様に爪で切り裂き三体目は長い尾で弾き飛ばされた、慌てず冷静に対処し内側の三体を迎撃に突っ込ませる。

 

「倒せなくても攻撃の際の隙を突けば……」

 

 虚しく二体のゴーレムが切り裂かれたが両手を振り切った為に胴体がガラ空きだ。

 

「喰らえ、アイアンって?」

 

 背後の魔法障壁に攻撃が当たった、防ぎ切れずに衝撃が伝わり数歩よろけた。円殺陣を突破し僕に直接攻撃を仕掛けてくるだと?

 

「全包囲攻撃、自分が喰らうとキツいのは理解した」

 

 体勢を崩されたので最初の敵に止めを刺せなかった、コイツ等の連携は厄介だ。

 背後の敵が逃げ出す際に背中にアイアンランスを十本撃ち込むが素早く避けられた、背中にも目が有るのか?

 

 倒されたゴーレムナイトを修復し防衛陣を組み直す、敵は全体数を見せずに追い込んで来る、これは不味いぞ。

 時間を掛けると消耗させられて負ける、今は少しでも数を減らすしかない。周りを見回して奴等が隠れていそうな大岩に当たりを付ける、視界に入るのは三ヶ所だ。

 

「大地より生まれし無慈悲なる刃よ、山嵐!」

 

 大岩の後に各二十本の鉄の槍を生やす、確かな手応えを感じたのは一ヶ所だけだと?

 

「キシャー!」

 

 金切り声と共に中央の大岩から槍に串刺しにされて持ち上げられた敵が見えた、小型のドラゴン種だ。

 だが他の二ヶ所からは無傷のドラゴンが飛び出して来た。

 

「避けたのか?あのタイミングで地中からの攻撃を避けられるのか?」

 

「グゲゲ、グェヘグェヘ」

 

「ギャギャギャ」

 

 変な鳴き声をあげながら大岩の陰から現れたのは八体の小型のドラゴン種、両の親指の爪が30cm以上伸びて鋭い鎌になっている、強靭な脚に長く太い尾、口からギザギザな牙が並んで見えてるな。

 

「姿を表したのか警戒に値しないって事か?舐めるなよ、ドラゴン種よ!」

 

 僕のリトルキングダムは僕の視界に入る物全てを自分の支配下に置く魔法陣だ、故にゴーレムとは言えキングの名前は与えない。だからゴーレムキングとは……

 

「クリエイトゴーレム!ゴーレムキングよ、我が身を包め!」

 

 転生前に、死ぬ直前に編み出した究極のゴーレム運用方法、自身の周りに大型の鎧としてゴーレムを着込む事により生身の人間では不可能な筋力を得る。

 

「強化装甲、未だ正式な名前も考えてないが魔法障壁と合わせれば防御力は格段に上がった。行くぞ、我の不死人形達よ、爬虫類の親玉なんかに負けるか!」

 

 二重のゴーレムナイトの防御陣の周りを威嚇しながら動き回る小型ドラゴン、その中心の僕に狙いを定めているな。

 だがこの強化装甲は防御力だけが売りじゃない、素早い動きも兼ね備えた自慢の逸品なんだ。

 取り囲まれた包囲陣から三体が正面と死角を突いて左右斜め後から飛び掛かって来るが、自分も正面の敵に向かって突っ込んで行く。

 振り下ろされた爪は魔法障壁で押さえて右手を突き出す。

 

「この距離なら避けれないだろう?アイアンランス!」

 

 至近距離から打ち出される鋼の刃が珍しいドラゴン種の腹に何本も突き刺さる。

 

 後方のゴーレムナイトと繋いだラインが四本切れた、この一瞬で倒されたんだ。勘に従い左側へと飛んだ、直後に腕を振り下ろすドラゴンの爪は地面に深く刺さる。

 

「捕まえた、山嵐!」

 

 刺さった爪を引き抜く前に鋼の槍を竹林の様に生やして倒す、これで三体目!

 

「不味い、ゴーレムナイトとのラインが一気に十本切れた。クリエイトゴーレム!」

 

 振り返る暇も惜しんで背後にゴーレムナイトを十体錬成し正面に走り出す、包囲網から抜け出したと確信した時には繋がっているラインは六本まで減った。

 一息ついて振り返る、合計四十体のゴーレムナイトが六体まで減らされた。三体倒して向こうも五体、その内の一体は重傷だ。

 

 ゴーレムナイトでは三十体以上倒されて成果が重傷一体か、気を引き締めないと思わぬダメージを受けるぞ。

 自分が直接手を下さないと倒し辛い相手は初めてだ。

 


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