古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第230話

 ドラゴン討伐五日目、最初の獲物は15m以上なツインドラゴンだ。

 ゴーレムナイトによる三重の円殺陣を組み、接近戦と回復と投擲攻撃を織り交ぜて徐々に体力を奪っていく。

 

「不味い、何かするぞ」

 

 今迄は尻尾を使い投擲されたランスを弾いて防いでいたが、防御を止めて上半身を反らせた。

 

「グガアアアアァ!」

 

 大きく息を吸い込み二つの口を左右に動かしながらブレスを吐いた、広範囲に包囲していたゴーレムナイトの半数が破壊された。

 更に残りを尻尾を水平に振る事で弾き出し円殺陣の包囲網から抜け出す、だが捨て身の反撃は腹に二本、背中と右足に各一本ずつランスが深々と刺さった。

 

 倒れて回復中のゴーレムナイト達を更に踏み付けて再起不能に追い込む、流石は地上最強種だがゴーレムは回復しなくても再錬成出来るんだ。

 踏み付けていたゴーレムナイトが急に魔素に還った為に一瞬驚いたみたいだ。

 

「僕のゴーレムを蹂躙した罪は重いぞ、喰らえ雷雨!」

 

 ツインドラゴンの上空15mに両手持ちアックス装備のゴーレムナイトを錬成しながら落下させる、その総数は二十体だ。

 

 甲高い咆哮を上げるが流石のツインドラゴンも直上からの攻撃は慣れてないのだろう、反撃に精彩が無い。

 しかも落ちたゴーレムナイトは足元を攻撃する、上下同時攻撃は二つの頭を持つツインドラゴンでも捌き続ける事は出来なかった。

 戦闘開始から三十分、雷雨による落下攻撃で右側の眉間を両手持ちアックスで叩き切られた事が致命傷となり、遂に双頭の竜は大地に沈んだ。

 

「勝った、だが円殺陣が破られた。未だ運用精度とゴーレム本体の強化が必要だな、勝っても何かしらの問題が発覚するだけだ」

 

 魔力の三割を消費したが有意義な戦いだった、問題点を洗い出し次に繋げられる、僕のゴーレム道は未だ入口だな。

 ツインドラゴンと食われていたアースドラゴンを空間創造に収納する、これでツインドラゴンが二体にアースドラゴンが六体、ワイバーンが十二体に全身骨格が四体分だ。

 

 疲れたので一旦境界線まで戻ろう、魔力や体力は大丈夫だが精神力が続かない。だが自己鍛練には最適の場所だな、残り十六日間で何処まで強くなれるかだ。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 あれから再度デスバレーに近付き更にアースドラゴンを一体と初めてアーマードラゴンを倒した。

 魔力が残り三割を切り本日のドラゴン討伐は終了、レベルも36に上がった。

 時刻は未だ二時半過ぎだが効率的な戦闘で長時間拘束されずにレベルアップしている、やはり劇的な能力UPは出来ない。

 

 肉体的にも精神的にも疲れた身体を馬ゴーレムに乗せてワーズ村へと向かう、喉の乾きを冷たい水で癒し午後の刺す様な日差しから肌をローブで守る。

 暫く進むと荷台にワイバーンの死体を積んだ一行を見掛けた、どうやらドラゴン討伐御一行様らしい。

 誇らし気に荷台を引くのは冒険者達だが後に着いて歩く連中の何人かは怪我を負っている。

 しかも二十人は居た筈だが十四人しか同行して居ない、ワイバーンに殺されたか逃げ出したかかな?

 これで『忘却の風』のドラゴン討伐は厳しくなっただろう、絡まれるのも嫌なので迂回してワーズ村へと向かう事にする。

 

 それでも駆け足の馬ゴーレムと人力で引く荷台とではスピードに差が有り先にワーズ村へと到着した、今日は商人風の男達が村の中心の広場に集まっている、つまり倒したワイバーンを買い取りたい連中か……

 手ぶらな僕には見向きもせずに荷台に積まれたワイバーンの到着を待つ商人達が気になり、広場の中心の井戸を使い濡らしたタオルで身体を綺麗に拭いた。

 

「おい、来たぞ」

 

「ああ、だがワイバーンじゃねえか。情報だとドラゴンを狩ったんだろ?」

 

「チッ、ガセネタかよ。だがワイバーンも利益は出るからな」

 

 注意深く商人達の会話を聞けば昨日の噂が既にワーズ村以外に流れて周辺の商人達が買い取りに集まっているみたいだ……

 今着ているローブの下に皮鎧を錬成し、さりげなく脱いで空間創造にしまう、周りの視線は運ばれて来たワイバーンに集中しているのでバレてない。

 

「でもよ、商人ギルドからの情報網で流れて来た噂って本当なのか?」

 

「ああ、王都で何でも良いからドラゴンと討伐権利を高値で買うって話か。俺も信じて此処に来てるんだ、悪名高い『忘却の風』がドラゴン討伐に乗り出したらしいが……」

 

「期待してワイバーンか、頑張っても金貨百八十枚だな」

 

 なる程な、王都でドラゴンが必要ってのは同じ宮廷魔術師候補達が依頼したんだな。

 宮廷魔術師になれるなら幾らでも払う連中は居るだろう、本人以外でもパトロンが払って貸しを作るとかね、必要な話は大体聞けたな。

 ワイバーンを乗せた荷台の周りに商人達が集まり値段の交渉を始めた、あの『忘却の風』の三人が前に並んで交渉を始めている。

 チラリと人垣の隙間からワイバーンを見れば風の刃で切られたのだろう、羽はボロボロだ……

 

 これ以上は見ていても意味が無いな、僕の倒したワイバーンは此処で売るつもりはない、王都に戻りライラック商会と冒険者ギルドに売る予定だ。その方が恩返しにもなるから一石二鳥だな。

 

「あれ、リーンハルトさんじゃないですか。何で盗賊みたいな格好をしてるんだ?」

 

「ああ、アシモフさんとヨゼフさんですか。買い取り交渉には参加しないんですか?」

 

 僕が助けた商人親子に声を掛けられたが彼等はワイバーンの買い取り交渉には参加していない、まぁアレだけ沢山居たら無理だろうな。

 今は金貨八十七枚銀貨六枚か、小刻みに値上げしてるから長く掛かりそうだ。

 

「ああ、競りになると大体上限と落札者は決まってるんだ。だから参加しても意味が無いんだよ」

 

「参加しとけば何時かは順番が回ってくるけど、やはり強い上位商人が優先されるからな」

 

 交渉してる様に見せて実は値段上限も落札者も決まってるのか、強(したた)かって言うか何て言うか……

 アシモフさん親子も井戸水を汲んで身体を拭き始めた、彼等も荒野から戻って来たばかりらしい。

 

「王都でドラゴンを高値で買い取るそうですね、討伐権利付きって事はドラゴンスレイヤーになりたいのかな?」

 

 ポツリと独り言みたいに呟く、彼等も商人ギルドに加入してるから情報は聞いてるだろうし。

 

「そうなんですよ、言い値で買うらしいが噂に過ぎず実際は金貨一万枚らしいですよ、一財産だから皆が目の色を変えて群がる」

 

「へぇ、金貨一万枚ですか!相場よりもかなり多いですね」

 

 金貨一万枚なら無理をする連中も居るだろう、あの『忘却の風』の連中も商人から情報を聞いたのかもな、だから多くの犠牲を払ってもドラゴン種を倒したいのか……

 

 他の連中に気付かれない内にアシモフさん達に別れの言葉を言って宿屋に戻る、彼等の情報網は侮りがたく利に聡い連中だから僕に辿り付くのに時間は掛からないだろう。

 未だ予定の半分も消化してないのに騒がれるのは嫌だな、いっそ近くで野宿するか。

 

「ただいま帰りました」

 

 扉を開けてマダムに声を掛けるが知らない人が二人居る、後のマダムも困惑気味だが良くない連中か?

 

「初めまして、リーンハルト様。私達は商人ギルドの者でパルディオと申します、彼は護衛のレディオスです」

 

 丁寧に頭を下げるパルディオと名乗った老人、ゆったりとしたローブを着ているが魔力は感じない。

 護衛のレディオスと紹介された男、中々小気味良い殺気を向けてくる。レベル30オーバーだろうがレディセンス様よりも脅威を感じない。

 

「それはご丁寧にどうも。それで男爵の僕に何か御用で?」

 

 この手合いには権力を見せた方が良い、下手に出ているが腹の中では何を考えているか分からない連中だ。

 ライラックさんやベルニー商会のビヨンドさん、モード商会のクロップドさん絡みなら配慮はするが他は条件次第だろう。

 

「いっいえ、私達もワーズ村にドラゴン種の買い付けに来たのですが、偶然リーンハルト様が滞在してると聞きまして御挨拶にと思いまして……」

 

 少し動揺したな、しかもドラゴン種の買い付けと言った。やはり誰かしら同じ宮廷魔術師候補が商人ギルドに依頼したと見るべきだな。

 

「気遣いには感謝する。では何か縁が有ればその時に、失礼させて貰う」

 

「気にされたのなら謝罪させて下さい。実はリーンハルト様にも大変利益の有るお話を持って来ました」

 

 慌てて呼び止められた、此処からが本題で僕の倒しただろうドラゴン種を買い叩きたい。

 裏情報では金貨一万枚、普通なら王都の買い取り額で金貨二千枚前後がアースドラゴンの買い取り値段だ、彼等は幾ら出す気だろう?そのまま奥へ行こうとしたが立ち止まり振り返る。

 

「商人から利益が出ると言う話には注意が必要と聞いているよ、それで僕に何をさせたいんだ?」

 

 牽制するも貼付けた笑顔は崩さない、鉄面皮と言うか流石だと言うか……

 

「リーンハルト様の倒したドラゴンを売って頂きたい、買い取り値段は金貨一万枚です」

 

「ほぅ?適正買い取り価格の五倍ですね……」

 

 これは不味いかもしれない、利益無視で依頼者に貸しを作るだけに割り切った、つまり相手は中々の立場の人物だぞ。

 

「申し訳ないが仮に僕がドラゴン種を倒しても売れない、指名依頼にはドラゴン種またはワイバーンを出来るだけ狩って来るのが条件なので、重複依頼は請けないし相手に義理も有る。

確か『忘却の風』がドラゴン討伐に動いているよ、奴等と交渉すれば良い」

 

 そう言った時の慌て振りは少し可笑しくなる、餓鬼が金貨一万枚を棒に振るのが意味不明みたいに考えているな。

 

「一万千枚、いや一万二千枚でどうでしょう?」

 

 慌てて金貨を二千枚も上積みしたぞ、依頼主は相当な地位と財力が有るのだろう、何としてもドラゴン種を買い取りたいのだな。

 

「答えは変わらないよ、金を積めば何とかなると思われたなら不愉快だ」

 

 厳しい顔をして睨み付けてから奥へと進む、途中のマダムには笑って問題無いと伝える、彼等は僕がドラゴン種を倒していると確信している。

 そして同じ宮廷魔術師候補達の中には商人ギルドに圧力を掛けられる奴が居て、安全に指名依頼を終わらせようとしているんだ。

 

「あの、せめて条件を言って貰えませんか?私共が誠心誠意ご用意させて頂きます」

 

「特に無い、気を使わなくても今日の事で何かするとかは無い。冒険者として指名依頼は自分の信用度に関わる問題だから迂闊な行動はしない」

 

 仮に依頼人を納得させるならと続けたいが相手はエムデン王国だ、無理な話だな。

 声を掛けられる前にマダムから鍵を受け取り部屋に向かう、予定滞在期間は最大三週間だったが縮まるかもしれない。

 

「やれやれ、ジゼル嬢とアーシャ嬢に冒険者ギルド本部にも手紙を出すか……」

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 夕食後、部屋に戻り空間創造からレターセットを取り出す、先ずは冒険者ギルド本部に状況の報告と商人ギルドの動き、更に同じ宮廷魔術師候補達が動き出した事を伝える。

 

 次にライラック商会のライラックさんに商人ギルドと事を構えても困らないか、指名依頼で余ったドラゴン種やワイバーンの買い取りをお願い出来るかの確認。

 

 最後は女性陣にだ、先ずはジゼル嬢に現状の説明と冒険者ギルド本部とライラック商会に送った手紙の内容、それと毎回迷惑をかけて申し訳ないと詫びて終わる。

 手紙に蝋封をして錬金で作った櫛を添えた。

 

 次はアーシャ嬢だ、彼女にはドラゴンと戦ってレベルアップに励んでいるとは書けない、お土産に何が欲しいかと聞いて最後は会えずに淋しいと短いが締めた。

 同じ様に蝋封を施してジゼル嬢と模様違いの櫛を添える。

 

 最後にイルメラとウィンディアにだが、ある程度の事実と身辺に気を付ける事、ワイバーンの肉が美味しくて土産に買って帰る事、早く会いたいが我慢していると書いてペンを置いた。

 同様に蝋封をして全く同じ手鏡を二つ錬金して添える、彼女達は分け隔てなく同じ物を作った。

 

 明日の朝にマダムに頼んで早馬で王都まで送って貰う、二日半で届くから早くても返事は六日後になるだろう。

 


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