古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第228話

 アクアさんが教えてくれた秘密、それはレアギフトである『失せ物捜索』だ。

 失せ物と言っても自分が無くした物でなく対象を想像すれば近くで反応する優れ物だ、品物は勿論だが生き物でも大丈夫。

 色々と汎用性が有りそうなレアギフトだな、信頼の証として教えて貰った事実は重い。

 

 あの後、更に2kmほど境界線に沿って進んだがアースドラゴンの骨は見付けられなかった。

 彼女は僕を拘束する気はないと此処で別れて僕は右側に90度曲がってデスバレーに近付く、未だ上空にはワイバーンの影は見えない。

 馬ゴーレムに乗って更に警戒しながら先へと進む、昨日の雨がぬかるみを作り歩き辛い、重たい馬ゴーレムの足は5cmは沈み込む。

 だが歩き辛いのは制御力の訓練には最適だ、ぬかるみは滑り易いので四本足での歩行はバランスを取るのが難しい。

 更に地形は微妙に起伏している、ゆるやかな丘も有り苦労する。

 

「どうやら四日目にして最初からアースドラゴンか、幸先が良いな」

 

 前方50m以上先だが悠々と歩いているアースドラゴンを見付けた、奴が居るから周辺にワイバーンが居ないのだろう。

 作戦だが前回はゴーレムルークの遠距離捜索による多対一の戦いを挑み辛勝した、苦戦の原因はゴーレムルークの敏捷性の低さと遠距離故の制御の鈍さだ。

 

 大型ゴーレムの特性としてパワーと防御力に重点を置いているので動作は鈍い、アースドラゴンは機敏で一撃の攻撃力も高い。

 前回は二体が半壊させられ回復させて何とか三体で押し込んだ、運の要素も強かった。

 

「今回は情けない戦いはしない、自分も接近して制御を高めたゴーレムルークで勝負だ!」

 

 馬ゴーレムを走らせてアースドラゴンに接近する、直ぐに気付いて身体を向けて来る。

 その場で二本足で立ち上がるのは迎撃するつもりだな、だが僕ばかり見ているのは駄目だぞ。

 距離が30mを切った所でゴーレムルークを二体、奴の頭上に錬成する。

 

「僕の雷雨はな、ゴーレムポーンやナイトだけじゃないんだ。喰らえ、頭上からの一撃を!」

 

 アースドラゴンの上空15mの高さにゴーレムルークを二体錬成し、そのまま自由落下をしながら拳を固めて殴り倒す!

 

 グシャっと嫌な音がしてアースドラゴンの頭と右肩を殴り付けたが同時に落下の衝撃で足が壊れる、自重が重過ぎて落下の衝撃に耐えられなかったか。

 

 アースドラゴンと絡み合う様に二体のゴーレムルークが倒れる、ピクリとも動かないのは即死だったみたいだ。頭半分が陥没すれば生きてはいまい。

 

「ゴーレムルークによる雷雨攻撃、有効だが自爆技と変わらない、強度を増すまでは封印だな」

 

 効果は有るが落下して着地後に下半身が壊れては次の行動に移れない、たまたま即死させられただけで避けられたら二撃目が繰り出せない。

 アースドラゴンの死体に触れて空間創造へと収納する、これで三体目だがレベルアップはしなかった。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 あの後、更に2kmほどデスバレーに接近した、境界線から3kmを越えた訳だからデスバレーまでは残り4kmの計算だ。

 これ位接近すると横に平行移動するだけでアースドラゴンを見付ける事が出来る、彼等はデスバレーから荒野に向かって来るのを確認した。

 あの渓谷の先にはドラゴン種が大量発生してるのだろうか?

 

 頭の真上に太陽が来る頃には更に二体のアースドラゴンを倒しレベルアップし34になった、やはり劇的な能力UPは無い。

 だがゴーレムポーンなら同時制御が三百体は可能だ、個々の制御力は下がるが最大数が増えたのは嬉しい。

 因みに二体目はゴーレムナイト三十体による円殺陣で包囲して倒し、三体目は同じくゴーレムナイトによる投げ槍の一斉投擲で倒した。

 流石はドラゴン、投げ槍の半数は鱗で弾いたが腹や頭部は防御力が低いので何とかなる。

 自分の通常攻撃手段が通用する事が確認出来ただけでも成果は大きい、次はゴーレムを囮として自分の攻撃魔法が通用するか実験だ。

 

 一旦境界線まで戻る、休憩するなら安全地帯まで移動するのが最善だ。

 もう昨日の豪雨の影響は無い、地面は乾き歩くと土埃が舞う……

 大地から大岩が突き出している所を休憩場所と決めて近付くと先客が居た、大岩の裏側に居て茶色のマントを羽織っていたから気付かなかった。

 

「よう!お前も休憩かって、昨日の魔術師か?」

 

「ええ、そうですが邪魔なら移動しますよ」

 

 昨日の魔術師?僕を見上げてくる中年の男に見覚えは無い、何処かで会っていたか?日影のスペースをずらしてくれたので並んで座る事になった。

 

「昨日会いましたか?記憶に無いのですが……」

 

 疑う訳ではないが自分が知らないのに相手が知っているのは気になる、邪気は無いし単独行動ならドラゴン討伐御一行様じゃない。

 

「ん?ああ直接は会ってないな、昨日事故った連中の仲間が噂してたのを聞いたんだ。

馬ゴーレムに乗った少年魔術師が四人を助けて直ぐに去ったってな。俺はハイル、ランクDの冒険者で盗賊職だ」

 

「リーンハルトです、ランクCの土属性魔術師です」

 

 理由が分かれば警戒を緩める、空間創造から水筒を取り出して口を濯いでから飲む、口の中のジャリジャリ感は嫌なものだ。

 

「その歳でランクCか、リーンハルトも連中と同じくドラゴン狩りか?」

 

「いえ、指名依頼でワイバーン狩りです。此処は遭遇率が高く見晴らしも良いので戦い易いですから」

 

 マダムにワイバーンを狩ってくれと頼まれたので嘘じゃない。

 定番の昼食の串焼き肉を取り出す、今回は牛肉を塩と胡椒だけで味付けしたシンプルな奴だ、一口かじると肉汁が溢れて美味い。

 

「簡単に言うな、俺はドラゴンの骨集めだが中々見付からないぜ。昨日の大雨で大分地形が変わったから期待してるんだけどよ」

 

 ハイルさんも懐から干し肉を取り出して食べ始めた、香辛料の匂いが食欲を刺激する。

 だが実際にアクアさんみたいな探索系スキルが無いと辛いだろう、僕も動き回っても一日に一回見付ければ良い方だ。

 

「僕も一体見付けましたが牙や爪は取られた後でした、残りの骨だけって価値が有るんですか?」

 

 口の中の干し肉を皮の水筒に詰めたワインで流し込んだな、アルコールの匂いが漂う。

 

「牙と爪無しか、それじゃ価値は激減だな。丸々一体分で良くて金貨五十枚、状態が悪いと金貨十枚って事も有る。大人数で労力を掛けて運んでも利益が出ない場合が多いんだ」

 

 最高の状態でも金貨五十枚、状態が悪ければ金貨十枚、二体は牙も爪も無いが一体は完全体だ、やはり滞在費にしかならないか……

 

「稀に魔力が結晶化した牙や爪が有るそうですね、実物を見た事が有ります」

 

 串焼き肉を五本食べ終わり水で口の中の脂分を胃に流し込む、魔力の残りは六割を切ったがもう一回か二回は戦いたい。

 

「結晶化した牙か、俺も一ヶ月探しても見付けられるのは良くて一本か二本だな。もっとデスバレーに近付けば有りそうだが危険過ぎるぜ」

 

 衿に刺していた爪楊枝で歯に挟まった干し肉を取り除いている、こんな状況じゃマナーは関係無いか。

 

「一本でも見付けられれば金貨五十枚から百枚以上ですよね?十分に採算が取れますよ」

 

 流石にランクDともなれば単独でも一ヶ月で金貨百枚以上は稼ぐのか、アクアさんって実は凄いんだな。

 

「まぁな、嫁と餓鬼三人を養うにはよ、もっと頑張らないと駄目なんだ。アイツ等には良い暮らしをさせたいんだ、お前は恋人とか居るのか?」

 

 ああ、色恋沙汰が好きって嫌らしい顔をしているぞ、家族を大切にしているアピールが台なしだ。

 

「恋人は居ませんが大切な人は居ます」

 

 アーシャ嬢は側室、ジゼル嬢は婚約者、イルメラとウィンディアは未だ求婚してないからパーティメンバーだ、恋人は居ない。

 

「何だ、求婚してないのか?お前さん位の歳なら早い奴は結婚してるだろ?早く決めちまえよ」

 

 親指を人差し指と中指の間に差し込む下品な仕種をしないで下さい。

 

「未だです、来年成人ですよ。そうしたら求婚する予定ですから」

 

 見ず知らずの人になら気軽に話せるのだろうか、誰にも言ってない事を抵抗無く話せるのが不思議だ。

 

「青春って奴だな、オレは三十過ぎてから今の嫁に求婚したからな。十代の時なんて生きるだけで大変だったんだよ、戦争だったからさ」

 

 過去の大戦を経験した人か、確かに国家存続の危機だったんだ、色恋沙汰が楽しめる状況じゃ無かったのは分かる。

 

「コトプス帝国との戦争ですね、最近はきな臭い噂も聞きます。ウルム王国に逃げ込んだ旧コトプス帝国の奴等の動き次第では……」

 

「また戦争か?嫌な話だな、嫌だから俺は寝る」

 

 そう言って茶色のマントで全身を隠して本当に寝てしまった、何て剛毅な人なんだ。

 

「それでは僕は探索を続けます」

 

 色々と話して気持ちが楽になった、最近は爵位を授かって貴族としての行動や言動が多かったから身分に関係無い話が出来たのは楽しかった。

 

「おぅ、またな!」

 

 右手だけ上げてくれた、その気取らなさが嬉しい。

 

「さてもう一度挑んでみるか」

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 ハイルさんと別れて更に元来た道を戻る、境界線から3km進む、此処はアースドラゴンの縄張りで僕の狩場だ。更に1km進むと凄いプレッシャーを感じる、居るな……

 

「これは、アースドラゴンじゃない。ツインドラゴンだ」

 

 初めて見る巨大な竜種、二つの頭を持つ双頭の怪物、これがアースドラゴンよりも強いモンスター。

 ゆっくりと首を持ち上げて四つの目を向けて来た、なるほど大したプレッシャーだ。未だ100mは離れているのに物凄い殺意、いや僕を壊そうと言う純粋な破壊衝動。

 久し振りだ、転生して初めて感じる恐怖、圧倒的な強さを感じるが勝てない訳じゃない!

 

「キシャー!」

 

 底冷えがする叫び声、だが耐えられる、耐えて見せるさ。

 

「クリエイトゴーレム、ゴーレムナイト達よ、無言兵団よ、集団戦の真髄を見せてやる!」

 

 馬ゴーレムに乗りランスを構えた重騎兵ゴーレムナイトを三十体錬成、十体三列の隊形で突撃させる。ツインドラゴンは全長15m以上、二本足で立ち上がると高さ8mは有るな。

 

 距離が20mを切った所で突撃のスピードを乗せてランスを投擲、そのまま左右に別れて円殺陣を組ませる。

 十本ずつ三回の投擲で刺さったのは五本、どれも致命傷には程遠い。

 十体ずつ三重の包囲網を敷いて時計回りに走らせる、死角に回ったゴーレムナイトが順次ランスを投擲、少しずつダメージを蓄積させる。

 

 ツインドラゴンは二つの頭を使いブレスを吐きかけるが、馬ゴーレムに乗り移動するゴーレムナイトには中々当たらない。

 ブレスを吐くと包囲網を広げ終わると縮めてランスを投擲、自分自身もツインドラゴンから50mの位置にまで近付いた。

 円殺陣の直径は30m、奴が動けば同じく動く、常に敵を中心にする三重の包囲網だ。

 多数のランスの投擲攻撃にも関わらず、二十本以上が刺さっても未だ平然と動く、流石は地上最強種だな。

 だが出血量からダメージが蓄積されているのは分かる、ブレスも既に吐けないだろう。

 

「では次の段階だ。ゴーレムルークよ、接近戦だ!」

 

 最大の攻撃力を持つゴーレムルークをメイス装備で二体錬成し、ゴーレムナイト達のランス一斉投擲の後に突撃させる。

 三十本のランス攻撃を尻尾を振る事で半分は弾き飛ばしたが、ゴーレムルークに接近させる隙は作れた。

 前後から攻めて水平にメイスを振り抜く!

 

 右首の付け根と左脇腹に痛恨の一撃を受けたツインドラゴンは血を吐きながら倒れた、時間が掛かったが昔の勘を取り戻しつつ同じ様に倒す事が出来た。

 

「レベルアップしたか……流石はツインドラゴンだ、経験値が半端ないんだな」

 

 これでレベル35になった、今迄よりは能力の上がりは大きい、だが魔力の消費も激しく残り二割を切ったか。

 モンスターの襲撃を避ける為に馬ゴーレムに跨がり早足で境界線まで戻る、流石にドラゴン種との連戦は無理だ。

 目的自体は四日目で達成出来た、後はレベル上げだ。

 


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