古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第225話

 アースドラゴン狩り二体目、今回は距離を取って遠隔操作で戦ってみた、結果は勝てたが辛勝だ。

 魔力消費こそ押さえたが三体中二体のゴーレムルークが半壊した、これは距離が有ったので制御が不十分だった事と敵が意外に素早い事だ。

 ゴーレムルークは大型故に動きは遅い、攻撃と防御に重点を置いた為に機動性が悪いのだ。

 

「方針としては悪く無い、安全に魔力消費を抑えて勝てた。だが次も同じ方法で勝てるかは分からない」

 

 倒したアースドラゴンに近付き、その身体に触れて空間創造に収納する、改めて見ると一体目よりも大きい。

 改めて見れば全長8.5m以上は有るぞ、平均以上だし長生きしていたのだろう、古傷も有るし五十年以上は生きていたかな。

 野性のドラゴンは長生きだ、百年以上生きるのは普通で中には種の限界を突破した『名あり』の強敵も居る。

 未だ生態の殆どが分からない謎に包まれたモンスターだから分からない事が多いのは仕方ないけどね。

 

「だが二日で二体、しかも一体は標準以上の大きさだ」

 

 時刻は昼前、魔力量は六割を切ったが未だ戦える、更に馬ゴーレムを進める。

 太陽が真上近くまで昇った、日焼けを防ぐローブを頭から被っている為に暑い、空間創造から水筒を取出して飲む、冷たい水が美味しい。

 境界線から3km程進み、そこから左に90度曲がって5km以上は進んだ、途中でアースドラゴンの骨を見付けたが牙が一つも無かった。

 誰かが価値の有る牙だけ抜いて重たい頭蓋骨等は残して行ったんだな、一応空間創造に収納する。

 

 これでワイバーン九体にアースドラゴン二体、それにアースドラゴン二体分の骨を手に入れてレベルが二つ上がった。

 一時間程進んだがモンスターとは遭遇しなかった、暑さの為か水分しか採らずに食欲が余り無い、だが体力回復の為に何か胃に入れないと駄目だ。

 休憩場所を探すが見渡す限り乾いた大地には岩位しか見えない、乾燥し土埃っぽくて暑くて劣悪な環境。

 

「仕方ない、歩きながら食べるか……」

 

 手を汚さずに簡単に片手で食べれる串焼き肉を取り出す、今回のは塩と胡椒で味付けした鶏肉だ。

 先ずは水で口の中を濯いでから串焼き肉を一口、美味しいが食欲が余り無いので中々飲み込めずに水で流し込む。

 今回のドラゴン討伐は環境の悪さが地味に響いて体力を削がれている、一定温度の魔法迷宮や野外でも比較的過ごしやすい場所でしか行動してなかった。

 今回は暑くて乾燥している荒野を一人で行動している、しかも敵はワイバーンやアースドラゴンという強敵ばかり。

 指名依頼の条件が単独達成だから仕方ないとは言え厳しい、だが逆に鍛練としてなら十分だ、ポジティブに考えよう。

 串刺し肉を五本とオレンジを一つ食べて簡単な昼食を終えた、何時もボス部屋で食べていた事が、いかに恵まれていたか再認識した。

 

 暫く進むと前方に同業者らしき人影が見えた、地形の関係上発見が遅れた。

 緩やかな坂の下辺りに居たので上っている最中には見えなかった、向こうも僕に気付いて両手を振っている。

 片手を振って挨拶を返したが違うらしい、更に激しく両手を振り出した。

 

「何か用だろうか?馬やラクダも無い二人連れ、片方は座り込んでいる……つまり助けが欲しいのだろうか?」

 

 近付いて確かめるしかないか、冒険時の救助活動は出来るだけ行うのが原則で僕には余裕が有る、見殺しには出来ない。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 僕が近付いて来るのが分かったのか激しく手を振る事を止めて二人共に座り込んでしまった、やはり何かのトラブルか?

 馬ゴーレムに指令を送り駆け足にして近付く、相手は男性二人組、背中に背負うタイプの大きな鞄にもたれ掛かかっている。

 

「どうかしましたか?」

 

 一応警戒して5m手前で声を掛ける、周りは見晴らしが良いから伏兵とかは居ない。

 だが彼等が野盗とか僕を罠に掛けようとしてる可能性も有る、救助に来たが用心は必要だ。

 

「助けてくれ、連れが毒虫に足を噛まれたんだ。毒消しポーションが切れてて立ち往生なんだ」

 

 確かに座り込んでいる男の左足の踵部分が赤く大きく腫れている、聞けば休憩中にブーツの中に蠍(さそり)が入り込んだらしく取り出す前に二ヵ所刺されたそうだ。

 

「毒消しポーションを譲りましょう」

 

 馬ゴーレムから下りてローブの中で空間創造から毒消しポーションを二個取り出す、毒が抜ければ大丈夫だ。

 

「すまない、定価で買わせて貰うよ。ほら、ヨゼフ飲むんだ」

 

 ヨゼフと呼ばれた男性は無精髭だらけだが未だ若い、多分だが二十代半ば位か?もう一人は五十代後半位だから親子かな?

 呻きながらも二本の毒消しポーションを飲み干せたので、後は少し休めば回復するだろう。

 

 二人から少し距離を置いて周囲を警戒する、動けない病人などモンスターからすれば格好の餌だ。

 幸い周囲にはワイバーンもアースドラゴンの姿も見えない、暫くは安全だと思う。

 

「俺はアシモフ、コイツは息子のヨゼフ。職人兼冒険者をしている、ドラゴンの牙や骨を集めて護符や防具を作ってるんだ。材料探しに来たんだが、うっかり毒消しポーションの補充を忘れてな、この様だ」

 

 ドラゴンの牙を使った護符って民芸品みたいなアレか?

 骨を使った防具ってボーンアーマーとか名前が付いてた奴か?お土産レベルのジョークアイテムだと思ってたけどアレって実用品だったの?

 

「僕はリーンハルト、ご覧の通り土属性魔術師です」

 

 馬ゴーレムを従えローブを羽織っている、どう見ても魔術師だろう、杖は持ってないけどね。

 目的はエムデン王国から指名で依頼されたドラゴン討伐とは言えない、幸いだがワイバーンやアースドラゴンの骨も持っているから言い逃れは出来る。

 

「そうか、助かったよ。俺達みたいな骨探し組は縄張りみたいな物が合って互いに近くには近寄らないんだ」

 

「この辺は夜になると冷え込んで強い風が吹く、すると表面の土が飛ばされて埋まっていた骨が顔を出す事が有る、それを見付けるのは早い者勝ちなんだ。有難う、大分楽になったし痛みも引いたよ」

 

 ヨゼフと呼ばれた青年も身体が動くか確かめながら会話に混じって来た、大分回復したんだな。

 だが荒野とは昼夜の温度差も激しいのか、一晩で地形が変わったりもしそうだな。

 暫くはヨゼフさんの回復を待ちながら情報収集をする、馬ゴーレムについて色々聞かれたが、逆にワーズ村やデスバレーについてある程度の情報を手に入れる事が出来た。

 なるべく人助けはするものだな、思いがけない情報という見返りが得られた。

 

「不味いぞ、上空にワイバーンだ!」

 

「未だ距離が有るから平気だ、アンタも早く隠れるんだよ!」

 

 そう言うと茶色のマントを羽織って地に伏せた、上から見れば大地と見分けがつかないのか?

 

「何やってるんだ、早く隠れるんだよ!ワイバーンは鷹とかと違い視力は良くないから、隠れればやり過ごせるんだぞ」

 

「馬ゴーレムを消すか走らせれば囮になるから、早く隠れろ」

 

 なる程、猛禽類は視力が凄く良くて上空からでも草むらに隠れる兎や鼠を見付けられるそうだが、爬虫類に近いワイバーンは視力は余り良くないのか。

 

「貴方達は、そのまま隠れてて下さい。僕はワイバーンを狩ります」

 

 馬ゴーレムに乗って二人から素早く離れる、ワイバーンは倒せるが巻き添えにするのは避けたい。

 そのまま100m程走って彼等と離れてから馬ゴーレムから下りる、ワイバーンは僕を餌と認識したらしく他の連中と同じ様に頭上で旋回しながら高度を下げて来た。

 

「やはり同じ行動だな、頭上で旋回し距離感を掴んでから急降下、直前で両足を前に出して爪で攻撃か……」

 

 魔法障壁に魔力を込めて威力を増してから自分の周囲にアイアンランスを浮かべる。僕が立ち止まった事で距離感を掴んだのか、ワイバーンは急降下してきた!

 

 タイミングを計る、地上スレスレで両足をこちらに向けて腹を見せた瞬間にアイアンランスを撃ち込む。

 

「今だ、アイアンランス!」

 

 狙い通りにワイバーンの腹部に刺さる、自分のスピードも合わさった為か何本かは貫通してしまった!

 

 更に力を失い突っ込んでくるワイバーンを魔法障壁で受けて流す、左側に流されて大地に突っ込んだ。

 

「少し小型だな、未だ若い固体だ」

 

 今迄で一番小さい、未だ若い個体なのだろう。売値は安くなるかもな……完全に死んでいる事を確認してから空間創造に収納する、これでワイバーンは合計十体だ。

 

「アンタ凄いんだな、ワイバーンを簡単に倒すなんてさ」

 

「もしかしてアースドラゴンも倒せるんじゃないか?最近はワーズ村に来る『豪腕のドガッテイ』が倒す位しかアースドラゴンは倒されてないんだよ」

 

 100mの距離を走ってこれるならヨゼフさんの毒も完全に抜けたな、しかし『豪腕のドガッテイ』とは懐かしい名前だ。

 前に魔法迷宮バンクで出会った……誰だっけ?確か『蒼き狼』のフォルケンさんにクラン『苛烈の若武者』に誘われた時に、イルメラが教えてくれたドラゴンスレイヤーの名前だ。

 自分のクランにも『竜殺し』って命名する程のドラゴンスレイヤーを前面に押し出した、王都でも有名人だったかな?

 

「いえ、流石にドラゴン種は……」

 

 僕が単独でドラゴン討伐をしている事は秘密だ、他の候補者達の動きも気になるし情報を広めるメリットも無い。

 

「ドガッテイはドラゴンスレイヤーだがクランの連中を全て引き連れてくるからな、流石に五十人近くも居れば壮観だよ」

 

「囮役に罠作成役と攻撃役、止めはドガッテイの巨大なアックスと効率重視の団体戦を得意としている。今ワーズ村に来ている連中は駄目だろうな、烏合の衆だよアレは……」

 

 色々と教えてくれたが定期的にドラゴンを狩れるドガッテイ率いるクラン『竜殺し』か、流石はドラゴンスレイヤーって事だな。

 だけどバーナム伯爵やデオドラ男爵、ライル団長なら、単独でもアースドラゴンなら倒せると思う、あの人達は人間の枠外だから普通に出来そうだ。

 

 だが期待の薄い連中でもアースドラゴンを一体でも倒せれば利益は高い、なので買取交渉をしようと商人達が徐々に集まってるそうだ。

 僕は此処で売る気は無いから関係ないが、長期滞在するからダミーでワイバーンを数体売ってワイバーンを狩りに来たって言うか?

 興奮気味の二人を宥めてから別れを告げて離れようとしたが引き止められた。

 

「リーンハルトさん、ワイバーンをどうするんですか?」

 

「私達に買い取らせてくれませんか?金額百五十枚、いや百六十枚で!」

 

 これが本題か、小振りな若い個体だからマダムが教えてくれた二百から二百五十枚より安いのか?それとも相場を知らないと思われているか?

 二人共真剣な顔だが、既に売る相手は決めている、最悪ワーズ村で売るとしてもマダムに相談しよう。

 

「申し訳ないが売る相手は決めているんだ、僕が泊まっている『陽炎の栄光亭』のマダムからワイバーンは買い取りたいと依頼されてるので」

 

 二人共一瞬だけ顔をしかめた、やはり相場より安いか競う相手がヤバいと思ったのか……

 

「そうですか、リーンハルトさんは『陽炎の栄光亭』に泊まってるんですね。つまり冒険者ギルドからの推薦を貰ってるのですか」

 

「だが金貨百九十枚ならどうです?」

 

 更に値上げしてきた、百九十枚は妥当な金額に近いと思うが売らない、それと泊まれるのは紹介状か推薦が無いと駄目なのか……

 あそこに泊まってる事を知られただけで、僕の立場や背景が大体分かってしまう。

 

「冒険者として依頼人が優先です、次もワイバーンを倒せるかも分かりませんから……僕は先に行きますので失礼しますね」

 

 アレだけ簡単にワイバーンを倒して次も倒せるか分からないとは、自分でも変な言い訳だと思う。

 保有魔力は半分まで減った、上級魔力石も有るが節約の為に使わない。

 

 アシモフさんとヨゼフさん親子と別れてから、もう一体ワイバーンを倒して本日の探索を終了しワーズ村に帰る事にした。

 これでワイバーンは十一体だが残念ながらレベルアップはしなかった。

 


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