古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第222話

 

 宿屋が一つしかないバズー村でアクアさんと二人部屋に泊まった、勿論何もしていない。

 雨戸の隙間から朝日が部屋に差し込む、眩しくて目が覚めた。布団を肌蹴て上半身を起こす。

 

「おはよう、可愛い寝顔ね」

 

「おはよう、男性に言う台詞じゃないよ」

 

 目を擦り覚醒を促す、朝は弱い方じゃないけど固いベッドで寝付きが悪かった、贅沢暮らしが身に染みてるな。

 アクアさんは既に着替えを済ませて僕のゴーレムポーンを調べている、鎧の表面を指で叩いたりフェイスガードを持ち上げて中を覗いたり全然気付かなかったよ。

 

「朝食は私が用意する、昨夜のナイトバーガーは美味しかった」

 

「そうかい、それは良かった」

 

 女性では厳しい大きさだったが完食しデザートのパウンドケーキも食べ切った、実は彼女は大食いさんだ。

 

「何か失礼な事を考えているね?」

 

「いや、先に顔を洗って来るよ」

 

 彼女は身支度を整えているから既に顔も洗っているだろう。

 

「分かった、準備してるわ」

 

 空間創造からタオルを取出して部屋を出る、バズー村の井戸は村共有だから中心部に有る。

 井戸の周りには結構な人だかりだが順番に並び顔を洗う、頭からバケツの水を被りタオルで拭くだけだが……

 

「よう、昨夜は楽しんだみたいだな?」

 

「早々に女を口説いて部屋に連れ込むとは餓鬼の癖に生意気だな」

 

「同い年位なのに嫌になるぜ」

 

 ああ、名前も知らない冒険者パーティの連中が絡んで来た、自分が勧誘したアクアさんに手酷く振られて寝取られた位に思ってるな。

 

「安全の為に同室で泊まっただけだよ、他意は無い」

 

 素っ気なく答えたのが気に入らないらしい、共有の井戸で揉め事を起こす気はないのだが……

 

「お前何様?まさか一人で俺達に勝てると思ってる?俺達は『シックスウォーリアー』だぜ!」

 

 ふむ、取り囲む様に広がったが一戦交えたいのか、受けるのは構わないが周りの連中は楽しそうだな。

 元々樵(きこり)達の村だから男ばかりで娯楽なんて酒か喧嘩くらいだしね、野次まで飛ばして来たか。

 

「知らないな、有名なのか?」

 

「馬鹿にするな、十代で全員がランクEの強戦士パーティが俺達だ!」

 

 ランクEか、一人前未満って連中だな、多分だがレベルも15以下だろう、戦士として相手をしても勝てるが魔法戦士の真似でもするか。

 不思議なのはランクEなのにドラゴン討伐の依頼が請けられるのが不思議だ、普通はランクB以上だろう、何か秘密か裏が有るな。

 

「そうか、相手をするのは構わないが六対一じゃ不公平だし、先に少し数を減らすか」

 

 顔を洗うだけだから帯剣していない、だから錬金で武器を用意する。

 右腕を水平に振ってロングソードを握った状態で錬金すると騒ぎ出した、同い年位の奴が魔法戦士と知って慌てたか……

 

「なっ、お前は何を熱くなってるんだよ。冗談を真に受けるなよな」

 

「そうだよ、朝早くから止めてくれよな」

 

「空気読もうぜ、他の連中も朝から騒ぎは嫌だってさ」

 

 言い訳を吐いて下がっていくが追うのも面倒だ、だがデスバレー迄は嫌でも一緒なんだよな。

 ドラゴン討伐の集団依頼を請けたか怪しいが本当なら彼等程度では囮が精々だ、生き残れば良いけど無理っぽいか。

 ロングソードを魔素に還す、やはり餓鬼だと舐められるので嫌になる。

 遠巻きに見ていた連中がヒソヒソ話ているが視線を向けると逃げ出した、僕が魔術師で男爵だと知ったらどうなるんだ?

 

 部屋に戻るとアクアさんが朝食の準備をしてくれていた、紅茶にクロワッサンと木苺のジャムをベッドメイクした上に並べている。

 テーブルや椅子が無いんだよ、寒村の宿屋では仕方がないが設備が悪いんだよな。

 

「お帰りなさい、遅かったね」

 

「うん、アクアさんを勧誘した連中に絡まれたんだ。名前は『シックスウォーリアー』だってさ」

 

「彼等には興味無い」

 

 目でベッドに座れと指示されたので隅に座る、木の皿にクロワッサンが二個で隅に木苺のジャムが盛られている。

 紅茶はポットのままだが陶器製のティーカップを手渡された。

 

「はい」

 

「ありがと」

 

 差し出したティーカップに紅茶が注がれる、濃い目のアールグレイだ。

 後は無言で食べるだけ、お礼に食後のデザートとしてオレンジを一個渡すと喜ばれた。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 三日目の朝以降は特にトラブルも無くパレモの街に到着した、三日間過疎化したみたいな村ばかりだったのでパレモの街が都会に思える。

 到着時刻は午後二時過ぎ、未だ日は高くこのままワーズ村まで行っても夕方前には着くだろう。

 勿論定期的に馬車も出ているが午後は無い、こちらに帰って来るだけだ。

 普通は一泊して翌朝一番にワーズ村に出発だが僕には馬ゴーレムが居るので問題無い。

 

 パレモの街は人口千八百人、岩と丸太で組んだ擁壁に3m程の空堀が有り自警団が矢倉の上に見える、それなりに防御力は高そうだ。

 乗合馬車を下りて商店街の方に向かう、何か必要なものを買う為だ。約三週間が僕に与えられた期間だ。

 許された期間を目一杯使って出来るだけレベルアップをするのが今回の目的となる、ある程度レベルアップしたらデスバレーに近付いてアーマードラゴン以上の強敵を捜すぞ。

 

「買い物するの?」

 

 もう馴れた、気配の薄い彼女が僕の後ろに立っていた。

 

「ああ、食料を仕入れておくんだ。ワーズ村に売ってない物も多いと思う」

 

「そうね、食べ物って大切だよね」

 

 二人で並んで歩くのにも馴れた、特に何をする訳でも無いが特に問題も無い。

 停留所が街の中心なので宿屋や商店、それと冒険者ギルド支部も有る……寄らないけど。

 露店が並ぶ路地を歩く、新鮮野菜に果物に川魚、加工食品は串焼き肉や干し肉、ドライフルーツに固焼きパンも並んでいる。

 滞在は三週間と分かっていたので最初から大量に食料は持ち込んでいるが地方特有の食材はお土産にもなるから。

 

「結構買うのね、私もドライフルーツは買うわ」

 

「甘い物は疲れを癒すし精神も癒す、それに美味しいしね」

 

 数種類のドライフルーツに珍しい香辛料を購入、片っ端から空間創造に収納する、良い土産が出来た。

 

 

 アクアさんはパレモの街で一泊するそうだ、僕はワーズ村まで先に行くと伝えて別れた。

 パレモの街の冒険者ギルド支部ではドラゴン討伐依頼を請けた連中が集まっているだろうから先に行って拠点を確保して明日の朝から挑戦する。

 

 未だ日も高いのでパレモの街の擁壁に有る正門を通り抜けても警備兵にも止められない、そのまま十分程歩いてから馬ゴーレムを錬成し案内板を頼りにワーズの村を目指す。

 広がる荒野の遥か先にデスバレーが見えて手前にワーズ村が見える、距離は馬で二時間徒歩で四時間程度だろうか?

 

 ある程度の間隔で標識が有るし障害物の無い荒野では、ワーズ村の擁壁が見えてるから迷う心配は皆無だ、予測通りに二時間で到着した。

 

「ワーズ村にようこそ、何か用事か?」

 

 唯一の門だろうか、両開きの扉の前で武装した二人の若者に止められた。

 皮鎧に鉄の槍と中々の装備だ、奥にも何人か詰めている気配もする、流石はドラゴン棲息地の最前線だな。

 

「冒険者ギルド本部から依頼を請けて来ました、ブレイクフリーのリーンハルトです」

 

「ほぅ、最近馬鹿ばかりが来ると思ったが久し振りにマトモな奴が来たな」

 

 ギルドカードも見せて身元が確かな事を示す、相手もレベル31のランクCは確かな身分証明になる。

 

「最近の馬鹿って団体でドラゴン討伐をするって奴等ですか?でもランクEとかの連中も依頼を請けたと言ってましたよ」

 

 さり気なさを装いシックスウォーリアーの件を聞いてみる、彼等が依頼を請けれる謎って何だ?

 

「アレはな、ランクの高いパーティが正式に依頼を請けて、そのパーティが更に冒険者を募るのさ。つまりは囮か肉の盾、生き残れば報酬が貰えるって事さ」

 

「先月も六十人位の団体で挑んでアースドラゴン一体とワイバーン二体を倒したが生き残りは二十人を切っていたぜ、欲に目が眩んだんだな」

 

 ほぅ、定期的にドラゴンが狩られているのか、それは楽しみだな。

 

「陽炎(かげろう)の栄光亭って何処でしょうか?」

 

「真っ直ぐ行くと広場が有り井戸が有る、その右側に看板が見えるから間違えないだろう」

 

 お辞儀をして門の中に入るが一応彼等の事を教えておくか……

 

「そうだ、パレモの街にドラゴン討伐の依頼を請けた連中が集まってましたよ」

 

 そう告げると二人共嫌そうな顔をした、犠牲が多い団体によるドラゴン討伐は嫌なんだろうな。

 言われた通りに真っ直ぐに進むと100m程で村の中心に到着、確かに井戸が有り右側を向けば『陽炎の栄光亭』の看板が見える。

 

「アレがそうか、結構立派だが小さいな」

 

 立派な石積みの平屋の建物、多分三部屋位しかないぞ。

 呼び鈴の類も無いので片開きの扉を開けて中に入る、狭い小部屋にカウンターが有り小さなベルが置いて有る、つまり呼び鈴だ。

 

「はい、いらっしゃいませ。あら、小さなお客様ね」

 

 上品なマダムだ、五十代半ば位の品良く歳を取られた感じだな。

 

「冒険者ギルド本部から紹介されて来ました、リーンハルトと申します」

 

 一礼して紹介状とギルドカードをカウンターに置く、彼女から僅かながら魔力を感じる。

 

「拝見しますね、あら?男爵様なのですね、申し訳ございません」

 

「冒険者として活動してる時は関係無く扱って下さい、取り敢えず三週間程泊まりたいのですが宜しいでしょうか?」

 

 紹介状を読み終わると丁寧に畳んでから返してくれた、その手には剣ダコが見て取れた……彼女は魔法戦士か?

 

「勿論ですわ、久し振りの紹介状をお持ちの方ですからね。ウチは一泊金貨三枚よ、朝晩の食事は提供致しますわ」

 

「では前金で一週間分を先払いします」

 

 取り敢えず一週間分を払う、僕がデスバレーのドラゴンに通用するか逃げ帰るか、判断の期限を一週間とする。

 

「ウチは三組しか泊めないのよ、今はリーンハルトさんだけですわ」

 

「貸し切りですね、嬉しいです」

 

 案内された部屋は8m角程の広さだがベッドの他にクローゼットにテーブルに椅子も有り窓からは中庭が見える、今までの宿屋とは雲泥の差だな。

 

「お風呂は廊下の突き当たりよ、これから準備するから夕食後になるわ。食事は部屋に運びます、何か必要な物が有れば言って下さいね。

あとデスバレー周辺の地図を渡しておくわね、余り情報は書き込めてないのよ」

 

 そう言ってマダムは部屋を出て行った、名前を聞きそびれたが良いか。

 テーブルに貰った地図とジゼル嬢が用意してくれた地図を並べて広げる、ワーズ村から直線距離で3km先が境界線、此処から荒野が7km程続き、その先にデスバレーが有る。

 デスバレー自体の広さは分かっていない、奥まで入った奴が居ないから分からないのが現状だ。

 荒野と言っても低い丘や川が流れており岩場も草原地帯も有る、手前1km程度にはドラゴンやワイバーンは余り居ない。

 だがその先に踏み込むとアースドラゴンの縄張りだ、見付け次第に襲ってくるから注意が必要だ。

 この付近には縄張り争いに負けたドラゴン達の骨が残されている、アクアさんの狙いはコレだな。

 

 貰った地図の書き込み情報にはドラゴンと遭遇や目撃した場所、水場に毒虫や毒蛇の生息地、底無し沼等が細かく分かり易く書かれている。

 流石にデスバレーの内部情報は無いが、手前2kmにてアシッドドラゴンとポイズンドラゴン、それにツインドラゴンが目撃されている。

 アシッドドラゴンとポイズンドラゴンは単にブレスが酸性と毒性を含む高温ガスだけの違いだ、大きさも尻尾を含めても10m程度。確認された個体数は少なく中々お目にかかれない種類らしい。

 だがツインドラゴンは二つの頭を持つ多頭ドラゴンだ、しかも両方ブレスを吐くし大きさも15m前後とドラゴン種の中でも中堅クラスの強敵だ。

 

「過去の討伐データには三年間でアースドラゴンが十体、アーマードラゴンが三体、ワイバーンが四十六体か。よし、ツインドラゴンを目標にするか」

 

 討伐目標を決めた後に出された夕食は、凄く美味しかった。

 


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