古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第218話

 順調に魔法迷宮バンク七階層の攻略を進めている、五日間連続で攻略したので二日間は休み、三日後に再開する。

 二日間の休みの予定だが先ずは冒険者ギルド本部に行く事になった、昨日ドロップアイテムを買い取って貰う時にパウエルさんから頼まれてしまった。

 曰く僕に冒険者ギルド本部に来る様に伝言を頼まれたそうだ、暫く近付かない予定だったけど仕方ない諦めよう。

 

 その後はデオドラ男爵の屋敷に向かう、擦れ違いでアーシャ嬢に会ってないので手紙を二通も貰ってしまった。

 届けてくれたのはヒルデガードさんで、タイラントが受け取る時に伝言が有ったらしい、護身刀と花言葉は合格ですが夜でも構わないので顔を見せて欲しいと……

 翌日は自宅で休養と男爵としての仕事を処理しなければならない、男爵位を賜ったお祝いの手紙や贈り物は殆ど無くなったが依頼やお誘いが増えた。

 アクセサリーと護身刀の依頼が多いのだが基本的には断っているが断れない人からも依頼が来る、アクセサリーは大切な人にしか贈らないと断る。

 護身刀は月に三本しか作れない事にして伯爵以上からの依頼は、同じ派閥か敵対してない派閥の人には作る事にする。

 順番待ちでも爵位が高い人から依頼が有れば優先しなくてはならない、その見極めが難しい。

 

「一番困るのは舞踏会やサロン、お茶会や音楽会への招待だ。

基本的に断るけど詫び状の内容に悩む、エスプリ(上品な冗談)を利かせた内容を書かないと駄目なんだけど難しい。

一度も会った事も無いのに呼ぶなよ誘うなよ、相手に合った内容で文面を考えないと駄目なのに……迷惑を掛けるがジゼル嬢に相談するのが一番だな」

 

 仕事をしながらの愚痴という独り言が増える、出世すればするほど仕事は増えるのだろうな。

 屋敷を構える前は自宅は安らぎと寛ぎの場所だった、イルメラとウィンディアと三人で気ままに楽しく暮らしていたんだ。

 だが男爵となり屋敷を構えると寛ぐ筈の我が家なのに毎晩遅くまで仕事しかしていない。

 

「自分の執務室か、皆は羨ましがるが実際は大変なんだぞ」

 

 毎日少しずつ書いても未だ無くならない手紙、今日のノルマは後二通、デオドラ男爵の奥方達が僕の事を色々と良い意味で周りに話してくれるのだが音楽会の誘いが一番多いんだよ!

 バイオリンを弾くにしても現代の曲なんて知らない、今から覚えるのも時間が勿体ない、他にやる事が山積みなんだ。

 

 テーブルに置いてあるポットからティーカップに紅茶を注ぐが既に冷えている、窓の外を見れば月が綺麗だが日付が変わる頃か?

 肩を叩いて解してから手紙に取り掛かる、成人前から事務仕事で肩凝りとは泣けてくるな。

 

『リーンハルト様、未だ起きているのですか?』

 

 扉の外から声が掛かる。

 

「ん、イルメラかい。もう少し掛かるから先に寝て下さい」

 

 女性の夜更かしは美容と健康の敵らしい、休める時は休んで欲しい。

 

「失礼します、明日も早くから冒険者ギルド本部に行かれるのですから、リーンハルト様も早く休んで下さい」

 

 執務室に入って来たイルメラは既に夜着に着替えている、ゆったりした純白のナイトドレスはタイラントが用意した。

 既に彼の中ではイルメラとウィンディアは僕の側室か妾候補らしく色々と待遇が変わっている、最近服も幾つか支給してた。

 似合ってはいるが少し艶っぽいだろう、身体のラインは分かりやすいし薄いし胸元開き過ぎ。ショールを羽織ってなければ、照れて見られない格好だぞ!

 

「もう少しで終わるから僕は大丈夫だよ、六時間は寝れるさ」

 

「無理をしないで下さい、出世されるのは嬉しいのですが身体を壊されては……」

 

 あ、これは何を言っても駄目なパターンだ。イルメラは僕の健康の事になると頑固で譲らない時が有る。こうなっては理路整然と説明しても『でも』の一言で納得しないんだ。

 

「イルメラ、悪いが肩が凝ったから揉んでくれないか?」

 

 話題を変えよう、今夜は仕事は終わりにして明日に回すか……

 

「はい、リーンハルト様」

 

 嬉しそうに後に廻り肩を揉んでくれる、かなり凝っていたのか固いのに頑張って揉み解そうとしてくれる。

 

「リーンハルト様、今は幸せですか?」

 

 ウンウンと力を込めて肩を揉んでくれているが意味深な質問が来たぞ、激動の二ヶ月だったからな……。

 

「二ヶ月前はさ、イルメラと二人で気楽な冒険者稼業を続けられると思ってたんだ。だけど色々有って男爵となり屋敷も構えて来月には側室を迎える事になってしまった、傍目からは幸せに見えるだろうね」

 

 言葉を切ったが彼女は何も言わない、ただ肩に篭る力が若干弱まった。

 

「色々な出会いが有って行動した結果が今なんだ、後悔はしてないよ。

だってイルメラは何時までも僕と一緒に居てくれるんだろう?立場や環境が変わっても、僕はイルメラから離れるつもりは無いから諦めてくれないか?」

 

 肩を揉む手が止まる、暫くして後から抱き締められた、頭に当たる柔らかくて良い匂いのがだな……

 

「私もリーンハルト様から離れません、ずっとです」

 

 首に廻された彼女の腕に触れる。

 

「有り難う、だから今は幸せだよ」

 

 殆ど求婚と変わらない台詞だな、凄く恥ずかしいが他に誰も居ないのだから構わないだろう。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 今思えば結構恥ずかしい台詞を吐いてしまったが、翌朝の食事の時に見た彼女の笑みは輝いていた。つまり問題は無かったんだ、求婚は成功したのかな?

 食後に昨晩の続きの手紙を書いてタイラントに預ける、後は先方に届けるだけだ。

 今日は冒険者ギルド本部に行くのでハーフプレートメイルを着込みマントを羽織る、魔術師のローブは着ない。

 屋敷から歩いても大丈夫な距離だし、タイラントも仕事が多いので御者を頼むのも遠慮してしまう。

 最近空になる位に下級魔力石に魔力を込めている、纏め買いした下級魔力石も無くなるし冒険者ギルド本部に行ったら補給するか。

 

「しかし今日は風が強いな……」

 

 南風が強く湿った雨雲を運んでくる、昼前から雨が降るかもしれない。

 暫く歩くと冒険者ギルド本部が見えてきた、早い時間帯は冒険者達で溢れている、朝一番で依頼を請けて出発するのだろう。

 マントの衿を立てて顔を隠す、受付に向かい用件を伝えると直ぐに奥の応接室へ通された。

 だが背中に僕の噂話が突き刺さる、ランクCで男爵なのに陰口が減らないのが悔しい、もっと実力を付けろって事だな。

 

 応接室には既にクラークさんが待機していた、例の如くテーブルにはお約束の指名依頼の束が三つ?

 一つは冒険者ギルド本部の力で断れる依頼、二つ目は厳選して請けて欲しい依頼、三つ目は何だろう?

 

「ご無沙汰してます、クラークさん」

 

「先ずはおめでとう御座います、リーンハルト・フォン・バーレイ男爵」

 

 立ち上がり頭を下げられた、久し振りに会う人達全員に言われるんだよな、嬉しいけど照れ臭いんだ。

 

「冒険者として活動してる時は今まで通りに接して下さい、でも爵位持ちも結構冒険者として活動してるのですね」

 

「冒険者ギルドに登録されている爵位持ちは四十三人、貴族の方は三百人以上居ますよ」

 

 四十三人も居るのか、爵位は有れども領地や役職が無ければ無職だからか。

 爵位の無い貴族は三百人以上も居るのか、爵位持ちの家族は貴族だが養えない場合は自活しろって事なんだな。

 長男は家を継げるが次男以降は家に飼われるか独立するしかない、貴族だから平民に雇われたくはないか……

 

「思ったより多いですね、最近貴族が長のクランからの勧誘が酷くて」

 

「確かにブレイクフリーを入れればメリットは大きい、ですが」

 

「ええ、加入する気は全く有りません」

 

 冒険者ギルド本部も僕も『レアアイテムドロップ確率UP』のギフトは秘密にしたい、クラン加入で他の連中にバレたら一大事だ。

 

「それならば安心ですね、さて指名依頼ですが今回は特別です」

 

 一番左の指名依頼書を手前に押し出して来た、これが特別なのか?手に取り一番上の指名依頼書の内容を確認する。

 

「デスバレーのドラゴン討伐?デスバレーって封印地区じゃないですか!そのギリギリ手前の境界線近くでも最弱のアースドラゴンが発見されてますよね?」

 

「はい、深い渓谷の中心に有る自然発生型ドラゴンの巣窟。何故かデスバレーにはドラゴン種しか棲息していなくて共食いをしているらしいですね。

ただ境界線に近い場所には余り強い個体は現れず比較的安全らしいです、ドラゴン種の骨だけでも価値が高いので近年は危険でも入り込む連中が絶えないのです」

 

 僕が倒したワイバーンなどドラゴンの亜種でしかない、純粋のドラゴンは強大だが鱗や牙、骨も高価だ。

 共食いされた屍でも一財産だが普通はランクB以上の冒険者がパーティで挑む相手だな。

 

「無謀だと思います、他の依頼は……」

 

 おぃおぃ、ドラゴン討伐以外だとコカトリスとバジリスクの討伐だって?こっちは封印された古代都市に棲息しているか……

 

「どれも無謀って依頼人の場所が無記名ですが?」

 

「この三件はエムデン王国からです、どれか一件を達成すれば宮廷魔術師になれる試験的な依頼です。

バジリスクとコカトリスは古代都市の地下迷宮に棲息しています、発見は困難でしょう。

冒険者ギルド本部としてはドラゴン討伐を推します、デスバレーは広いですが境界線付近なら単体のドラゴン種を発見しやすい」

 

 幻獣退治が宮廷魔術師への試練か、確かにドラゴン種は強力だがアースドラゴン程度なら勝てる手段は有る。

 ドラゴン種は群れを作らない、繁殖時期だけ番いになるが子供は卵で生まれて勝手に育つ、親ドラゴンは子育てをしない。

 共食いをするし子育てはしない、デスバレーから殆ど出て来ない、だが絶滅もしない不思議な種族がドラゴンだ。

 地上なら地下迷宮と違い索敵も楽で逃げやすい、だがバジリクスやコカトリスよりもドラゴン種は強力だぞ、一長一短が有るな。

 

「この指名依頼に期限や条件は有りますか?」

 

「期限はないが速やかに取り掛って欲しいそうです、白炎のベリトリアさんは丁度他の依頼を請けていて連絡していません。

冒険者ギルドに所属している宮廷魔術師候補は二人だけで後は魔術師ギルドの方で対応するそうです」

 

 改めて依頼書を読む、空白の欄が多いのは仕方ないがパーティが組めないのは……僕個人だけの力で依頼を達成する為だな。

 もしかしたらウルム王国との交渉は難航してるのではないか?戦力増強を急ぎたいから誰にでも分かり易い成果を求めた。

 

「指名依頼で僕個人だけで挑むのが条件、このドラゴン討伐依頼を請けますが仲間が納得するかな、説得に時間が掛かりそうだ」

 

 イルメラは反対するか自分も付いて行くと言うだろう、国からの指名依頼だからと強引に説得は出来るが……

 

「では内容を伏せましょう、デスバレーの近くにはパレモの街が有ります。先ずはそこに行けと指示が有り、向こうの冒険者ギルド支部で指名依頼の内容が明かされた事にしますか?」

 

 勿論、契約は冒険者ギルド本部にて行いますがと付け加えられたが言い訳にはなるな。流石に単独でドラゴン討伐しろって依頼はランクB以上の依頼内容だろう。

 

「パレモの街の更に先にデスバレー攻略の拠点となるワーズの村が有ります、攻略と言ってもデスバレーとの境界線付近を徘徊してドラゴンの死体を探すのが殆どですが、牙一つ鱗一枚でも金貨一枚ですからね」

 

 盗掘じゃないが死体漁り専門か、拓けた土地ならドラゴンの接近も察知しやすいから直ぐに逃げ出せるから比較的安心に金が稼げるのかな?

 

「ワーズの村に冒険者ギルドの支部か協力者は居ますか?」

 

「ええ、紹介状を書きましょう。酒場兼宿屋の『陽炎(かげろう)の栄光亭』が協力者です」

 

 不吉な名前だろ!掴んだ栄光は夢幻でしたみたいだぞ、一獲千金を狙う連中ばかりだから逆にリアリティが有るのか?

 

「今契約書と紹介状の準備をしてきます、暇潰しに私達が却下した依頼書でも読んで時間を潰して下さい。こちらは無事に帰られたらお願いしたい指名依頼書になります」

 

 そう言われたが2cm以上有るぞ、この却下された依頼書の内容は怖くて読めないな。

 


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