古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

215 / 996
第215話

 魔法迷宮バンク七階層攻略、最初こそボスであるポイズンスネークの素早い動きに惑わされたがレベルアップの恩恵とゴーレムナイトの数の暴力で順調に進んでいる。

 十体一組で三班に分けての攻撃はゴーレム制御の訓練には最適だ、スケイルメイルが大量に集まるが又値崩れしそうで怖い。

 レベルも順調に上がり僕とイルメラが31、ウィンディアが28でエレさんが27、そろそろ八階層に下りても問題無さそうだ。

 

 そして本日はニーレンス公爵の愛娘であるメディア嬢のお茶会にジゼル嬢と共に誘われている、メディア嬢にはアクセサリーの製作依頼も請けているので用意した。

 相手はエムデン王国でも五家しかいない公爵、本家ではなくメディア嬢の屋敷だが……

 

「広い、そして大きい。正門から既に五分以上馬車が走ってますよね?」

 

 馬車に同乗する我が婚約者に話し掛ける、今回誘われたのは僕だからバーレイ男爵家の馬車を使用している。

 

「それが財務系派閥の頂点、ニーレンス公爵家は財政が豊かです。しかし、この馬車は静かで揺れも少ないですわね」

 

「ええ、スプリングに仕込んだ衝撃緩和の魔力付加がですね……って、頬を引っ張らないで下さい」

 

 この謀略令嬢は最近暴力令嬢に変化しつつある、流石はデオドラ男爵家一族と言えば良いのか?向かい側に座っていたのに素早く隣に移動するなど中々の体捌きだぞ。

 

「毎回この口が私を困らせるのです。秘密ですよ、分かりますわね?」

 

 やんわりと腕を掴んで頬を引っ張るのを止めさせる、前よりはお互いの位置が近付いたと思う。

 

「大丈夫です、分解しないと分からないし分解したら機密漏洩保護機能で馬車は自動的に魔素に還ります」

 

 それならそうと早く言って下さいと叱られた、最近は叱られてばかりだな。その後暫く馬車は走り漸くメディア嬢の屋敷へと到着した。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 先ずは自分が馬車から下りてジゼル嬢に手を差し出す。

 

「我が姫よ、御手を」

 

 黙って差し出された手を取り馬車から下りる彼女を補佐する、因みに上位貴族に呼ばれたので正装だ。

 ジゼル嬢は淡い桜色のドレスを纏い僕の贈ったネックレスとブレスレットを着けている。

 僕は貴族服だ、本来なら魔術師の証であるローブを羽織りたいのだが紳士淑女が集まるお茶会なので駄目だそうだ。

 

 馬車から下りると執事が直ぐに対応、本日のお茶会は庭の東屋にて行うので案内されたのだが見事な庭園で広い池には水鳥が優雅に泳いでいる。

 

「お待ちしておりましたわ、リーンハルト様。ジゼル様もお久し振りですわね」

 

 洗練された所作と見事なよそ行きの笑みで周りを魅了する。隙が無い、流石は公爵令嬢だな。

 

「本日はお招き頂き、有り難う御座います」

 

 貴族的礼節に則って一礼する、無礼が有れば首が飛ぶから慎重だ。

 

「堅苦しい挨拶は抜きにしましょう、今日のお茶会はリーンハルト様の為に催したのです。私のナイト様は無欲で困りますので日頃の御礼を兼ねたお茶会ですわ」

 

 勿論、ジゼル様もですわよって笑ったのが気に入らなかったのか、ジゼル嬢の口元が僅かだが引き攣ったのを見てしまった。

 

「こちらのテーブルへ座って下さいな」

 

 漸く落ち着いたので周りと状況を確認する、池の辺(ほとり)に見事な東屋が有り用意されたテーブルは三つ。

 中心にメディア嬢と主賓が座るのだろう、左右のテーブルには三人ずつ令嬢が座っているが誰かは分からない。

 レティシアの気配はするが近くには居ないのか、流石に屋敷の中迄は警備しないのだろう。

 

 メイドさんに椅子を引いて貰い着席する、見事な刺繍の施された純白のレース、高級品だろうティーカップに紅茶が注がれる。良い匂いだ、最高級品だろう。

 

「皆さんもご存知だとは思いますが先日新貴族男爵位を授かった、リーンハルト・フォン・バーレイ様ですわ。バルバドス様の私塾での後輩で有り私のナイト様です」

 

 メディア嬢が紹介してくれたのは嬉しいが未だナイト設定が生きてるんだ、順次六人の令嬢からも挨拶と自己紹介をして貰ったが全員ニーレンス公爵派閥の貴族の令嬢達だ。

 

 新貴族男爵と従来貴族男爵令嬢の僕達に合わせてくれたのだろう、全員が子爵か男爵の令嬢達だ。

 

 向かって右側のテーブルにはフォートレス子爵の姉妹、アデーレ嬢とイーリス嬢、それにキュリウム男爵の三女であるウルラ嬢。

 こちらは全員婚約者が居るそうだが比較されそうで怖い。

 

 向かって左側のテーブルにはトスカーナ男爵の長女であるエスクード嬢。

 リカルド男爵の長女であるオータム嬢、それにフェナン男爵の長女であるカトレナ嬢……

 全員が新貴族男爵位の令嬢で適齢期なのはメディア嬢なりのジゼル嬢に対する悪戯だな、彼女達からすれば僕は良縁だが断り易くも有る。

 

「リーンハルト様の為に私が焼いたクッキーです、少し形は悪いですが食べて下さい。皆さんも遠慮なさらずどうぞ」

 

 笑顔を添えて勧めてくれるが公爵令嬢の手作りクッキーは重い、周りも僕が食べなければ手を出さないだろう。

 横目で見たジゼル嬢も見事な笑顔を浮かべている、見目麗しい二人が並ぶと絵画を切り取ったみたいだが……

 

「頂きます」

 

 丸型で薄いがサクサクして口溶けが良くて、バターの風味が生きている、普通に美味い。

 

「美味しいです、口溶けも良くバターの仄かな塩気と甘さが絶妙なバランスですね」

 

「そうですか、それは作った甲斐が有りますわ」

 

「では私達も頂きますわ」

 

 その後は全員がクッキーを食べて美味しさを褒めたのだが、メディア嬢も満更でもなさそうだ。

 暫くは他愛がない話で上品に盛り上がる、エルナ嬢のお茶会は半分お見合いだが、本来のお茶会とはこんな感じなのかな?

 

「それで何故、リーンハルト様はメディア様のナイトなのでしょうか?」

 

「本当にそうですわね、話題の凄腕な魔術師としては聞いていますがナイトとは違いますわ」

 

 派閥も違いクラスも違う、本来ナイトとは騎士の事だから魔術師の僕では対極の存在だろう。

 アデーレ嬢の疑問にイーリス嬢が追従する、この姉妹が招待客の女性陣では子爵令嬢だから身分は上位だ。

 

「そうですわね、最初は私が理不尽な決闘を強要された時に代わりに戦って圧勝してくれた事。次に私のプライドを掛けた戦いに、不利な状況にも関わらず何も言わずに戦って圧勝してくれた事。

常に勝利を齎し私の事を我が姫と呼んで何も見返りを求めない、高潔な精神を持っている事でしょうか」

 

「まぁそれは……」

 

 言葉にすると大分問題が有ると思いました、どう聞いても擦り寄ってます、下心が有りだと普通は考えるぞ。

 だが女性陣は派閥トップの愛娘が喜ぶ話題と知ると嬉しそうに質問し始めて、それを律儀に答えるメディア嬢にも困ったものだ。

 

「貴女に盾突く愚か者の末路を見て溜飲をさげて下さい、身分上位者に向けて言ったその言葉だけで、私はリーンハルト様の心を察しました。

相手は身分も高く実力も確かな殿方でした、普通なら逆らう事は不利でしかないのです。事実セインは何も出来ずに右往左往しているだけ……

ですがリーンハルト様は私の為だけに不利な戦いに挑み、完璧な勝利を私に捧げて下さいました。

見返りは私から言葉を貰えれば後は何も要らないと……その時に思ったのです、私のナイトに相応しいのはリーンハルト様だけだと!」

 

 確かに言った、嘘は何も無い、だが状況説明が無いし色々混ざってますよ。

 女性陣には堪らない話題だろうが、ジゼル嬢の笑顔が怖い。結局メディア嬢の僕自慢と言う不思議な話題だけでお茶会が終わり、女性陣は帰って行った……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 残されたのは僕とジゼル嬢だ、場所を応接室に移して本日もう一つの目的は指名依頼であるアクセサリーを渡す事だ。

 メイドさん達が新しい紅茶を用意してくれて部屋から出された、どうやら少し人に聞かせたくない話が有るのだろう。

 

「メディア、少し悪戯が過ぎませんか?あんな事を話しては暫くお茶会やサロンは大騒ぎよ」

 

「良いじゃない、私のお気に入りと噂が広まればリーンハルト様に絡む煩い小者共が減りますわ。それでも手を出して来る連中は仕方ないでしょう」

 

 ふむ、二人共口調が砕けたが素の対応なのだろう。確かに急に二百人近くから手紙や贈り物が来たのには驚いた。

 

「建前は立派ですが、リーンハルト様がローラン公爵と縁を結んだ事を危惧しての牽制も含んでますよね?」

 

「当然ですわ、御家騒動など一族を纏め切れない愚かな行為、公爵五家の三位も転落ですわ、私達も色々と動いてますから勢力は三割減ね」

 

 上品に笑い合ってるが話の内容が怖い、もし僕がローラン公爵の話に乗ってエリアル男爵になったら二人と敵対する事になってたのか?

 

「リーンハルト様は義理堅さからエリアル男爵の件を蹴りましたが、有る意味正解でしたわ。

今のローラン公爵は残りの公爵四家から表と裏と両方から攻められてます、新規加入の男爵など恰好の的でしたよ。それでも貴方なら何とかしたでしょうけど」

 

 ニッコリ微笑まれたが僕って結構危険な立場を知らない内に回避したんだな、良かった断って。

 だからローラン公爵は提案を断った僕に対して配慮したんだ、新貴族男爵位なら公爵なら無理強いも出来るし恩も売れる。

 バーナム伯爵の派閥の上位に食い込むだろう僕に縁と恩を売った、しかもサリアリス様と定期的に会う場所も提供してくれた。全てが繋がった……

 

「僕は父上とデオドラ男爵には返し切れない恩が有るのです、派閥を変えるなど考えてませんでした」

 

流石はリーンハルト様ですと二人から微笑まれたが喉はカラカラだが掌には汗が……

 

「バーナム伯爵の派閥は特殊です、上位陣は人外の戦闘力を持つ変人ばかり。

だからこそ殆どの小さな派閥は公爵五家の傘下に入るのに、何処にも属さない。

そんな脳筋集団にリーンハルト様が派閥入りをした、現役宮廷魔術師達が絶賛し宮廷魔術師筆頭サリアリス様のお気に入りの貴方が……

未成年で既に爵位持ち、もしも宮廷魔術師になれば自動的に待遇は伯爵と同等になるわ。これから大変ですわね」

 

「そうね、サリアリス様が動いた事実だけでも大変なのよ。各方面からの問合せが私の所にまで来るわ、事実だから質が悪いの」

 

 二人して深い溜め息を吐いた、確かにこれからの行動は間違えると大変な事になるのは分かる。

 

「メディア、手伝いなさいな。貴女もニーレンス公爵から言われているのでしょ?バーナム伯爵の派閥の取り込み、いえリーンハルト様の取り込みを」

 

「ジゼル、もう本妻気取りですか?私とリーンハルト様には既に絆が有るのです、派閥取り込みなど不要なのですよ」

 

 何故、笑顔で睨み合えるんだ?威圧感が凄くて胃が痛い。

 

「分かりましたわ、元々ニーレンス公爵とバーナム伯爵の派閥は政敵では有りますが最悪の敵対行為はしていない。

黙っていてもリーンハルト様はバーナム伯爵の派閥上位に食い込むでしょう、お父様と引き分けてライル団長には配慮して僅差の負け。

来週バーナム伯爵と模擬戦を行いますが、引き分けか僅差の負けを演じます。私とリーンハルト様がニーレンス公爵寄りになります」

 

 バーナム伯爵との模擬戦は決定、引き分けか僅差の負けも決定、公爵二家と縁を持ちながらニーレンス公爵寄りに行動する事も決定か……

 

「ふふふ、もう一手欲しいですわ。既に状況的には貴女とリーンハルト様は私と縁を結んでいると周りは見るでしょ?」

 

「今更って事?交渉で欲張ると足を掬われますわよ?」

 

 本格的に胃がシクシクと痛んできたぞ、僕は二人が納得してるなら別にニーレンス公爵寄りでも構わないのだが、口を挟める雰囲気では無い。

 

「欲を張るつもりなんて有りませんわ、今迄通りにリーンハルト様が私の指名依頼を受けてくれれば良いのです。それと早く結婚して子供を作りなさいな」

 

「来年リーンハルト様の成人後に直ぐに結婚しますわ!」

 

 珍しく感情的だが、今回はジゼル嬢の負けだな。メディア嬢には余裕が有るのは最悪の敵対行為をしなければ僕との関係が壊れないと確信してるからだ。

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。