古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第211話

 ニールに魔法迷宮バンクで手に入れた魔力付加の防具を渡した、自作の錬金鎧兜は渡せないがサイズ合わせはしたし固定化の魔法も重ね掛けした。

 これで防御力の面では大丈夫だろう、後は武器か……

 

「リーンハルト様、着替えが終りました」

 

 暫く廊下で待つと中から声が掛かった、誰かが通る前で良かった、何故自分の部屋の前に居るのか疑われる所だったよ。

 まさか部屋の中で女性が着替えてますとは言えないし……

 

「ん、どうかな?」

 

 部屋に入ると鎧兜を着たニールが真ん中に立っている、顔が少し赤いな。

 

「はい、その大丈夫です」

 

「少し動いてくれるかな、可動部分を確かめたい」

 

 ぎこちなく動いてくれるが特に問題はなさそうだな、関節部分もスムーズに動いている。

 

「大丈夫だな、ニールの得意な武器は何だい?」

 

「武器ですか、普段はロングソードですが得意なのは槍です」

 

 槍か、過去の豪傑は槍を得意とする連中が多かったな、リーチの問題かと思っていたが厳密には違うらしい。

 

「そうか、魔力付加のロングソードは火属性と風属性だ、後は鉄の槍だが『筋力UP効果:中』のしかないが使ってくれ」

 

 空間創造から取り出して渡す、僕等には使い道の無いストック品だが魔法戦士のニールなら有効活用出来るだろう。

 何故かニールの後ろに居るジゼル嬢は目の間を揉んでいるが対応に失敗したのか?もっと良い物を差し出せと?

 

「そんなに貰えません、魔力付加の武器や防具は貴重な……」

 

「悪かった、時期を見て僕が錬金した最高の鎧兜を作るから今は我慢してくれ。

そして護身用のスタンニードルだ、これは僕謹製の逸品で鎧兜を貫通し相手に麻痺毒を注入するがレジストは難しい筈だ」

 

 全長30cm外観は大きな針だが刺さると十種類の麻痺毒を連続で注入する、レジストが高確率でも完全回避は無理だ。

 サリアリス様に見せようと頑張って作った逸品、レジスト90%でも十種類なら確率的には一回は当たる。

 

「いえ、そういう意味では……」

 

「君を不当に扱っている事は理解している、僕の気持ちだから遠慮無く受け取ってくれ」

 

 両手を包み込む様にしてスタンニードルを握らせる、これで彼女達の安全も少しは……

 

「はい、有り難う御座います。来年の成人後を楽しみにしていますから……」

 

 成人後?僕は成人後に廃嫡するのだが自分で爵位を賜ったからどうなるんだ、廃嫡じゃなくて独立だよな。それに何故ニールはそんなに嬉しそうなんだ?

 

「ニールは来年私がリーンハルト様に嫁ぐ時に一緒に連れて行きます」

 

 ジゼル嬢がズイッと前に出て来た、この顔は僕が何か失敗した時の顔だ。

 

「ああ、そうだね……」

 

 ジゼル嬢の護衛として鍛えて貰ってるんだ、離れては意味が無い。

 

「私共々可愛がって下さいと言う事ですわ、分かりますわね?」

 

「え?ああ、はい。分かりました」

 

 ジゼル嬢の異様な迫力に負けて頷いたが、何を共々なんだ?

 

 最後にアーシャ嬢の顔を見て帰ろうと思ったのだが、デューダー子爵のお茶会に誘われて不在だった。

 仕方ないのでニーレンス公爵とラデンブルグ侯爵に贈った護身用のナイフを錬金して花束を添えて部屋のテーブルに置いた。

 花束はユーフォルビアで花言葉は『また会いたい』だ、空間創造は入れた状態で保管出来るから四季折々の花を新鮮な状態で収納している。

 これも貴族としての嗜みらしく父上から教わり幾つかの花は買っておいたのが役立ったかな。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 初めての男爵としての仕事は終わり、これからは一家を支える大黒柱としての仕事、要は金を稼ぐ事だ。

 待合せ場所は僕の屋敷だ、エレさんは初めての招待となるが既にお邪魔してイルメラ達とお茶会でもしているだろう。

 馬車を『チリ』と『ダリ』に引かせて貴族街から新貴族街へと向かう、僕の屋敷は周辺の屋敷と比べても小さくはない。

 その分建物の歴史が浅く味わいは無いが僕が魔改造して小規模な砦程度の防御力は有る、ジゼル嬢に叱られて反省はしたが後悔はしていない。

 来週にはジゼル嬢が手配したコックとメイドが来るのでイルメラ達の負担は少なくなる筈だ。

 

「リーンハルト様、屋敷の前に誰か居ます」

 

 御者を勤めるタイラントが馬車を停めて教えてくれたので小窓から確認するが確かに門の前に直立不動の人影が……

 

「一人だが確かに屋敷を見上げてるな、貴族服っぽいが何の用だろうか?タイラント、近付いてくれ」

 

「はい、分かりました」

 

 馬車が近付くと向こうも僕等に気付いたみたいだ、振り向いた顔は見覚えが無い。

 

「すみませんが、バーレイ男爵でしょうか?」

 

「確かに馬車にはバーレイ男爵が乗っておられますが、貴方はどちら様でしょうか?」

 

 タイラントが受け答えているので窓から相手を観察する、若い二十歳過ぎの貴族服を着た男性。

 魔力は無し帯剣もしていない、中肉中背で戦う男の雰囲気は無い、良く言えば優男風で悪く言えば貧弱。

 

「僕はアルノルト子爵の七男のフレデリックです、バーレイ男爵にお話が有って来ました」

 

 アルノルト子爵だと!

 

 あの男は本妻と側室は一人ずつだが妾が多くて認知した子供は何人居るか知らないんだ。

 本人は憎いがエルナ嬢の様に子供達は良い人も居る、だがエルナ嬢以外と縁を結ぶのは躊躇う。

 

「バーレイ男爵はこの後も予定が有ります、当日来られても困るのです。後日出直して頂けますでしょうか?」

 

 慇懃無礼だが僕は男爵で彼は子爵の七男、それが許される身分の差ではある。

 

「直ぐに終わります、是非話を聞いて下さい」

 

 このまま突き返すのもエルナ嬢の事を考えると不味いか、彼女に頼りに行くかも知れない、家族の頼みは断り辛いだろう。

 

「タイラント、構わない。フレデリック殿でしたね、馬車からの非礼は詫びますが用件とは?」

 

 窓を開けて用件だけを聞こう、屋敷に招いたりすると長引きそうだ。

 

「単刀直入に言います、僕を雇って下さい」

 

 アルノルト子爵の関係者を雇えだと?感情の分からない少し笑った様な感じの表情が作り物めいて嫌な奴だ。

 個人的には嫌いなタイプ、何を企んでいるか分からないぞ。

 

「申し訳ないが人手は足りています、では失礼します」

 

 身元の確かな者しか雇えない、僕の屋敷には秘密が一杯なんだ、アルノルト子爵の関係者など危険過ぎて雇えない。

 

「僕を雇わないと後悔しますよ」

 

 今度は口許だけ笑った、凄く嫌な笑い方だ。

 アルカイックスマイルだったか?人によっては魅力的かも知れないが、僕からすれば侮蔑か見下しに感じてしまう。

 だが彼の自信は何から来てるのだろうか、根拠の無い自信にしては少し変だ。

 

「そうですか?貴方は僕と自分の実家の関係を調べた方が良いですよ、そこに断る理由が有るのです。では失礼」

 

 僕の言葉を聞いてタイラントが馬に鞭を入れると馬車がゆっくりと走り出す、窓から見えるフレデリック殿は未だ笑っていた。

 

「アルノルト子爵め、グレース嬢の件もそうだが、僕の取り込みに動くのか?母上を暗殺して僕にも暗殺者を送り込んだのに、今度は息子を雇えだと?」

 

 ふざけた事を言い出したが、あの男の笑みが気になる……何か仕掛けて来るみたいだし注意が必要だな。

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 屋敷に到着するとイルメラ達が出迎えてくれた、流石に魔法迷宮バンクを攻略に行くのでメイド服姿ではない。

 僧侶と魔術師と盗賊に並んで出迎えて貰うのも変な気持ちだな。

 

「ただいま、エレさんも久し振りだね。ゴタゴタして冒険者として活動出来なくてごめんね、あと爵位は授かったけど普段通りに接して欲しい」

 

 立場は態度を変えるものだがパーティ内で変な上下関係は嫌だ。

 

「分かった、でもこれだけは言わせて。おめでとうございます、バーレイ男爵様」

 

 普段余り感情は出さないのだが笑顔で御祝いの言葉を貰った、純粋さが伝わって正直嬉しい。

 

「有り難う、エレさん。昼食を食べたら出掛けよう、今日はバンクの七階層を攻略するよ」

 

 先程迄の嫌な気持ちが綺麗さっぱり無くなって思わずエレさんの頭を撫でてしまった、サラサラで気持ち良い。

 

「嬉しいけど子供扱い……」

 

 少し拗ね気味のエレさんの背中を軽く押して我が家へと入る、やはり僕は冒険者として活動する方が好きだな。

 見た目は華やかな貴族社会は一皮剥けばドロドロだ、新男爵位は爵位の中では最下層だから今まで以上に気を使う必要が出て来る。

 

「自分で決めた事だが、二度目でも変わらないか……」

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 久し振りの魔法迷宮バンクの攻略、今日は時間も少ないので七階層の様子見だ。

 レッドリボンを使いエレベーターに乗り込み七階層に降りる、仕組みは分からないが便利な仕掛けだな。

 階段を使って七階層まで下りたら一時間は掛かるだろう、だがゴーレム達を乗せられないのが難点だ、暫くすると鐘が鳴り七階層へ到着、扉が開く。

 

「クリエイトゴーレム!」

 

 先に出てゴーレムナイトを八体、ロングソードとラウンドシールド装備で錬成する、魔法迷宮バンクは七階層からが本番で敵の強さも段違いだそうだ。

 ゴーレムナイトで守備を固めた後、ライトの魔法を唱えて光球を五個周辺に浮かべる。

 

「流石に雰囲気が違うね」

 

「地下なのに広い空間ですね」

 

「縦横50mは有りそう」

 

 女性陣の言う通りエレベーターを降りたら直ぐに大空間が待っていた、ライトの明かりが隅々まで行き渡らないのだが壁全体がボンヤリと光を放っている。

 戦うには辛いが歩く位なら何とかなる明るさだ……

 

「リーンハルト様、二ヶ所で魔素の光が集まってます」

 

「そうか!エレさん地図を見て、近くの部屋か通路に移動しないと複数のポップするモンスターと戦う事になるんだ」

 

「分かった、少しだけ待って」

 

 今までは二組以上のモンスターと戦う事は少なかった、だがこの大空間はモンスターのポップ率が高い、三組目の魔素が集まり出した。

 

「ふふふ、高々50mの範囲じゃ僕を倒すのは無理だよ。此処は僕の間合い、僕の支配下……ようこそ、僕のリトルキングダム(視界の中の王国)へ」

 

 最初に錬成した八体はそのまま護衛として残す、先ずは二組のモンスターだが初めて見る昆虫系だ。

 

「ジャイアントスパイダーか。ゴーレムポーンよ、切り刻め!」

 

 僕達を挟み撃つ様に左右にポップしたジャイアントスパイダー、右側四体左側三体、大きさは胴体だけでも1mで脚を広げたら3m以上だ。

 両手持ちアックス装備のゴーレムポーンを十体ずつ攻撃に向かわせる、敵の強さが分からないから全力だ。

 三組目は正面に同じくジャイアントスパイダーが四体、この飽和攻撃は生半可なパーティだったら全滅だぞ。

 更に十体のゴーレムポーンを錬成し突撃させる、幸いだがジャイアントスパイダーはゴーレムポーンで十分対処出来る。

 奴等の武器は鋭い前脚と毒を持つ牙、それと尻から吐き出す粘着力の強い糸だ。

 糸に絡まれるのを注意すれば難しい相手では無いのたが数が半端無い、四組目がポップするぞ。

 

「ふふふ、甘いぞ。僕はゴーレムポーンを十体五組迄なら制御出来る!」

 

 護衛のゴーレムナイトを消せば更にゴーレムポーンを五十体制御する事が出来るんだ、この大空間は僕にとっては狩場でしかない。

 

「四組目もジャイアントスパイダーか。ゴーレムポーンよ、押し潰せ!」

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「リーンハルト君、冒険者ギルドで買ったマップには此処は素早く次の部屋に移動する事って書いて有る。『無限増殖の毒蜘蛛の巣』だって、真っ向勝負は普通しない。聞いてる?」

 

「無理です、リーンハルト様は魔術師モードに切り替わりました。今は何を言っても無駄です!」

 

「十体五組のゴーレムポーンが次々と敵を倒して律儀にドロップアイテムまで運んで来るね、効率的だけどリトルキングダムって初めて見たけど凄いわね」

 

「でも誰かに見られたら厄介です。エレさんはエレベーターを警戒して下さい、動き出したら教えて下さい。

私とウィンディアはドロップアイテムを収納します、凄い勢いで集まってきますから誰かに見られたら大変です」

 


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