古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第210話

 新貴族の男爵になった途端に方々から接触が有った、エムデン王国には公爵五家と侯爵七家が存在するのだが、その内の公爵二家と侯爵一家から親書を頂いた。

 爵位を授かったのは嬉しいのだが苦労は倍増だ、特にラデンブルグ侯爵は直接の接点も無かった。

 彼の領地で発生したオークの異常繁殖の原因解明と討伐、原因は旧コトプス帝国の企みで討伐の殆どは僕が行った。

 ラデンブルグ侯爵が派遣した討伐隊は全滅、それは仇敵である旧コトプス帝国が絡んでいた、前大戦を経験しているラデンブルグ侯爵にも思う所が有るだろう。

 ニーレンス公爵は不気味だ、レディセンス様の指名依頼は達成したが出来の悪い姉達から何を言われたか分からないし、メディア嬢のお茶会とアクセサリー製作の依頼も有る。

 何故未だ一面識も無いのに好意的に接してくれるのか分からない、いや分かりたくない。

 

 先ずはこの二人に礼状を書いてお返しとして装飾を施して固定化を重ね掛けしたナイフを作った、見た目良し性能は軽くて丈夫。

 特に刀身は硝子で出来ていて固定化の魔法ならではの強度と実用性を持った逸品だ。

 硝子の刀身には柊(ひいらぎ)の模様を彫り込んだ、花言葉は『あなたを守る』だから護身用には最適だろう。

 錬金術を得意とする土属性魔術師の定番の贈り物だが、大低は妻か娘達の護身用となるだろう。

 

「二通返事を書いただけで精神的に疲れた、次はローラン公爵か……」

 

 誤字脱字が無いか再度確認してから封を閉じて溶かした蝋(ろう)を垂らして厳封する。

 ローラン公爵の分は返事を書く前に再度手紙を読む、間違えた内容で返したり含まれた意味を考える為にだ。

 特に隠語も変な意味も含まれてない、これは指定された日に伺いますと返事をすれば良いな。

 

「次は現と元の宮廷魔術師達だ、内容は祝いの言葉と早く宮廷魔術師になれって励ましだが推薦者で揉めてるのか、確か合同で推薦したって聞いたけど僕が認める正式なって奴かな?

順当に考えれば師弟関係を結んでいるバルバドス師、研究助手をさせて貰っているサリアリス様、パトロンのデオドラ男爵だよな」

 

 推薦者は重要なのだが実は既に候補が他にも五人居るらしい、ベリトリアさんやフレイナル殿も含まれている。

 この件については宮廷魔術師筆頭のサリアリス様に相談だな。

 サリアリス様も祝いの手紙を貰ったので、返信に今度相談に乗って下さいと書いておく。

 

「ライラックさんか、イルメラ達のドレスや屋敷の調度品やプレゼントでも世話になったからな。今度店に寄らせて貰うと書いておくか……」

 

 全ての手紙の返信を書き終えた、肩と手首が痛い……

 

 タイラントに頼んで直接行って貰うか。流石に上級貴族への返信だから信用した人物に任せるしかない、だが我が家には使用人が少ない。

 

「まさか自分で行く訳にもいかない、貴族達が信用出来る騎士を手元に置くのは雑用も含むのか?」

 

 デオドラ男爵に修業を受けているニールなら騎士に任命しても良いかな、女騎士は数は少ないが居る事は居るし……

 

「最後は贈り物の山だが、これは中身の確認とリスト作成は誰かに手伝って貰おう。添える礼状は僕が書かないと駄目なんだよな」

 

 部屋の隅に山積みの贈り物を見て溜め息を吐く、中には目録だけで現物は他の場所に保管している物も有る。

 果たして賄賂とも思える様な物も多いのだが査定して半額程度の品を返すのが決まりだそうだ、じゃないと贈答だけで破産するよな。

 

「取り敢えず手伝いにイルメラ達を呼ぶか」

 

 贈り物の中には反物や装飾品の類も有るし気に入った物が有れば贈ろう、後は換金して御礼の言葉を添えて贈れば良い。

 転生前は王族だったが貴族間のやり取りなど殆ど知らないし自分で手配した事も無かった、自分がいかに無知で恵まれていたか分かる。

 

 仕事を終えて寝る前に最近日課にしている下級魔力石に魔力を込める作業を行う、真っ黒な石炭みたいな魔力石に自分の魔力を注ぎ込む。

 満タンになると黄色に輝く、大体50個位に魔力を込めると意識を失う様に眠くなるんだ。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 爵位を賜った御祝いの返しだけで丸々一日掛かった、しかも翌日には同数近くが追加で送られてきた。

 恥を忍んでライラックさんに頼んで買い取りとお返しの品の選定と手配を頼んだ。

 私は新生バーレイ男爵家の御用商人ですねと笑っていたが目は笑ってなかった、商売人って奴は怖いが頼りになるな。

 

 漸く手が空いたのでデオドラ男爵家に報告に来れた、午後からは魔法迷宮バンクを攻略する予定だ。

 貴族としての移動には馬車が必要、馬車本体は自分で錬金で気合いを入れて作った、防御力には自信が有る。

 だが馬は居ないのでライラックさんに頼んだら、花嫁行列で世話になった『チリ』ともう一頭『ダリ』を譲って貰った。

 必然的に馬の世話人も必要となり少しずつだが貴族としての体裁を整えている、しかし屋敷を持てない貴族が多いのも分かる。

 僕の場合は国王直々の話だったから仕方ないか……

 馬車寄せに停めて降りる、直ぐにメイドさん達が出迎えてくれるのだが、やはり『お帰りなさいませ』なんだな。

 デオドラ男爵の執務室に案内される、途中窓から庭を見るとニールがボッカ殿達を相手に模擬戦をしているのが見えた。 

 噛ませ犬的な記憶しか無いがボッカ殿達はそれなりに強い、だがニールは彼の攻撃を完全に躱して鋭い突きを喉元に入れる。

 

「木刀とは言え容赦無いな、流石は魔法戦士だけあり動きが素早い、魔力付加の身体能力向上の恩恵か……」

 

 他にも数人が輪になり順番に模擬戦をしているが勝ち抜きかな?相手を変えて再度戦っているが、ニールが優勢だ。

 彼女の素質が開花し始めたのかデオドラ男爵の教え方が良いのか、最初に見た時より格段に強くなっていると感じる。

 

「彼女を得られたのは良かったな、ジゼル様の護衛には最適だろう」

 

 独り言を呟いた筈だが聞こえたらしいメイドさんの僕を見る目は何と無く冷たい、同じ女として面倒を見ろと貰ったのに放置だからか?

 

 彼女の為に鎧兜を贈ろう、ご機嫌取りじゃなくて護衛には必要だからだ!

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「よう、若き新男爵様って王都中で噂らしいぞ」

 

「婚約者として私も鼻が高いですわ」

 

 最大のパトロンと信頼する謀略令嬢は書類と格闘していた、領地持ちは大変だよな。

 空いている椅子を薦められたので座ると部屋付きのメイドが紅茶を用意してくれたので彼等の仕事が一段落付くのを待つ。

 真面目な顔をして羽ペンを動かす二人、一人は脳筋なのに紳士的に見えて一人は魅力が割り増しだ。

 

「待たせたな、領地を任せる代官達からの中間報告書の処理が大変でよ……リーンハルト殿も、ここ三日間で色々動いたみたいじゃないか?」

 

「新人が受ける洗礼を軽々と熟す、中々出来る事では有りませんわ。私に相談無く処理するとは少し意外でしたが……」

 

 新人が受ける洗礼?何か有ったかな?

 

「贈り物を貰って返すのに四苦八苦してただけですが?」

 

 それとも僕に報告が上がらないだけでタイラント達が処理したのか?羽ペンを玩ぶジゼル嬢を見詰める、解説をお願いします。

 

「上級貴族を含めて二百人近くから何等かの贈り物を頂きましたわね。

本来貴族間の贈答とは大変なのです、それを中々の内容の御礼の手紙を添えて相手の欲しい物を返す、普通は成り立て男爵様には出来ない事ですわ」

 

「お前がニーレンス公爵とラデンブルグ侯爵に贈った護身用の短刀だがな、直ぐにメディア嬢がサロンで自慢してたらしい。

私のナイト様からの贈り物、他にも装飾品を贈って貰う約束なんだってな?

お前、貴族令嬢の間で大人気なんだぜ。錬金術とは言えアーシャの装飾品も凄い人気だ、それに加えて令嬢必須の護身刀まで作れるとなれば余計にな」

 

 メディア嬢め、父親に贈ったのだが話を盛って自分の為にと自慢したな?

 だが祝いの品と言っても査定して売却、相手が喜びそうな物を査定額の半分位で選ぶ、手紙を添えて人に運ばせる、結局赤字だった。

 

「御礼の手紙は自分で書きましたが品物についてはライラック商会に丸投げです、買い取りも任せました」

 

「ライラック商会も自分達がリーンハルト様の御用商人だと言っています、王都でも有数の力を持つライラック商会がバックに付いている。

これだけでも凄い事なんです、厭味の様に大量に贈られた祝いの品を滞る事なく処理する、リーンハルト様の評価は高まりますわ」

 

 祝いの品一つにも、そんな悪意が含まれていたのか……全く何て陰湿なんだ、道理で中古の楽器とかガラクタっぽい品物も有った筈だ。

 気分を変える為に紅茶を飲む、ストレスで砂糖を大量に入れるバルバドス師の気持ちが分かった。

 

「変だとは思いましたが、そんな意味が有ったんですね。後でリストを渡しますので誰を警戒しなければ駄目か教えて下さい」

 

 警戒しないと駄目な連中が多いが、『静寂の鐘』のヒルダさんやポーラさん、それにリプリー達とか『野に咲く薔薇』のアグリッサさんやニケさん、それにライズさんから貰った手紙は本当に嬉しかった人達も居るんだ。

 後最近知り合えたベルニー商会のビヨンドさんと一人娘であるルカ嬢、モード商会のクロップドさんと次女のマーガレット嬢からもだ。

 

 バセット男爵様の次女のアシュタル様と、トーラス男爵様の長女のナナル様は生々しい内容で少し引いたけど……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 訓練を終えて身嗜みを整えたニールを私部屋に呼んだ、デオドラ男爵の屋敷に僕の部屋が有るのにも驚きだが娘婿だからな。

 暫く待つと緊張した顔のニールが訪ねて来た、かなりお洒落をしている、不味いな勘違いさせたか?

 

「あの、旦那様が私を部屋に御呼びとの事だったんですが……」

 

 控え目に言うが『何故私を部屋に呼んだのにジゼル嬢が居るんですか?』って気持ちが溢れている。

 

「実はニールが頑張っている事は聞いていたが実際に見て本当に努力している事を知ってね、贈り物がしたいんだ」

 

「私にですか?それは有り難う御座います」

 

 む、喜び方が微妙だな、だが戦士ならコレを見れば狂喜乱舞間違い無しだ!

 ニールに近付き彼女の体型を確認する、中肉中背の普通の体型だから大丈夫だな。

 

「あの、旦那様。そんなに舐める様に見られては困ります、せめて二人切りの時に……」

 

 ニールには僕謹製の完全錬金鎧兜は渡せないだからバンク六階層のボスである『徘徊する鎧兜』から手に入れた防具類を仕立て直す。

 彼女の体型に近い鎧兜はこの三つだな、空間創造から取り出して並べる。

 

「どれもバンク六階層でドロップした魔力付加の鎧兜だ、ハーフプレートメイルにフルプレートメイル、どれが良い?」

 

「えっと?あの、それは……」

 

 ふむ、迷うか。当然だな、魔力の付加された防具は少なくて高価だ。遠慮しない様に僕が見立てるか……

 

「ベースはこの硬化のハーフプレートメイル、防毒の小手と防麻痺のブーツ、回避のマントと硬化のラウンドシールドで守りは大丈夫だな。

サイズを合わせるから立っていてくれ」

 

「え?え?」

 

 ニールの体型に合わせて可動部分を調整し腰廻りの締め付け具合を見る、鎧の重量を両肩と腰の締め付けで支える為だ。

 小手は指の間隔や長さも調整、ブーツは足の形に合わせるので座って貰い素足を触って確認する。

 

「あああ、足を素足を触られるなんて!」

 

「完成だ、僕は部屋を出てるから一度着てみてくれ、最終調整するからね」

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「えっと、本妻様?」

 

「全くやりたい事だけやって部屋を出て行きましたわ、困った旦那様ですわね」

 

リーンハルト様はニールの為に防具を用意したのでしょうが、彼女が望んでいるのは違うのです。自分を女として見て貰いたい。

 彼女にとってリーンハルト様は憧れと自分と家族を救ってくれた旦那様、それが自分の事を魔法戦士としか見ていない。

 全く本妻は側室と妾を纏めなければならないとは本当なのですね、彼女が変に委縮したり逆恨みしたりしないようにフォローが必要……

 

「ニールさん」

 

「はい、本妻様」

 

 全く女性関係については気が利かないと言うか女心を理解していないと言うか、変に貞操観念が強いのは嬉しいのですが複雑ね。

 

「貴女は来年私が嫁ぐ時に一緒に連れて行きます、リーンハルト様の寵愛を受けるのは私の後です。

その鎧兜はリーンハルト様なりに貴女の事を心配してるのと、大切に思っているからですよ」

 

 全く買い取り値でも金貨千枚以上になる魔力付加の鎧兜を惜し気も無く渡すなんて、それが私の為の護衛の力の底上げとは言えない。

 

「はい、本妻様。有り難う御座います。

私、女として見られて無いと思っていましたが順番なのですね。分かりました、三番目で大丈夫です!」

 

 初めて見る素直な笑顔ですが、多分貴女は五番目です。リーンハルト様は私が嫁いだ後に本命の二人を娶ると思うから……

 でも今は幸せそうな彼女を悲しませる必要は無いわね、後でリーンハルト様に釘を刺しておきます。

 


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