古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第206話

 アーシャ嬢の誕生日パーティーを兼ねた舞踏会、既にダンスは二順目となっている。

 僕はホスト側として招待客の中で壁の華となっているレディを何人かダンスの輪の中に誘い、パーティーが盛り上がる様にしている。

 実際はデオドラ男爵の奥様方から頂いたリスト通りにダンスに誘っている、流石は従来貴族で領地持ちだけあり奥様方の手腕は確かだ。

 

 気になる事は……

 

 僕とアーシャ嬢の結婚話が気に入らない貴族の子弟達が地味に嫌がらせをして来たのでジゼル嬢に不満を漏らしたら、私が何とかしますと言われてしまった。

 直ぐにデオドラ男爵の側に行って耳打ちすると、今度はデオドラ男爵がバーナム伯爵とヒソヒソと話し合い、最後はライル団長とユリエル様まで加わった。

 絶対に何か企んでいる、脳筋上司達が全員揃って僕を見てニヤリと笑ったんだ。

 

「リーンハルト様、根回しして来ましたわ。お父様やバーナム伯爵も気になっていたらしく、提案を聞いたら子供みたいに喜んでました」

 

 さり気なく他の男性陣からのダンスの申し込みを断り僕の所に戻ってくるなり、笑顔で問題発言をした。

 だが派閥トップのバーナム伯爵まで巻き込んだのなら全力で潰してもお咎め無しかな、いや脳筋派閥だし手を抜く方が怒るかな?

 

「我が姫は行動が早過ぎて驚かされます、バーナム伯爵やライル団長にユリエル様まで巻き込みましたね?」

 

 囁く様に質問する、周りからは愛の囁きにでも捉えたのか嫉妬の視線が幾つか増えた……

 

「はい、リーンハルト様の望む展開ですわ!」

 

 返事は輝く笑顔だった、嫉妬のパワーが増大しただけで詳細は教えてくれないみたいだ、つまりお膳立てはしたから後は自分で何とかしなさいか。

 バーナム伯爵が動いた、ホールの真ん中に進んだ事により皆の注目を集める、どう動く?

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「皆の者、聞いてくれ!

俺はアーシャ嬢とリーンハルト殿が結ばれるのは嬉しい事だと思ったが、どうやら違う奴も居るみたいだな」

 

 鋭い視線を周りにグルリと一周回す、視線を逸らす者と睨み返す者が居る。

 前者は口先だけで後者は実力行使も厭わないとみた、流石は武闘派の派閥と言えば良いのか……

 

「だが俺はコソコソ動かれるのは嫌いだ、そんな卑怯者は俺の派閥には要らない!分かるか、キラルク殿よ?」

 

 一際強く睨み返した男がキラルク殿か、二十歳前後の筋肉質な男だ。

 特に両腕の盛り上がりが凄い、背中に大剣を背負ってるが典型的なパワーファイターか、他にも三人居たな。だが舞踏会に大剣を背負って参加って……

 

「全く共感しますぞ、言いたい事が有るならハッキリと言えば良い。

この側室話は納得出来ませんな、ポッと出の魔術師などにアーシャ嬢を奪われるのは我慢なりませぬ」

 

「良く言った、他に異議有る者は居るか?」

 

 無言で前に出る男が二人、残り一人は諦めたのか?

 二人を見ると一人はスラリとした体型の長髪で腰にレイピアを吊しているスピード系、もう一人はキラルク殿と同じ筋肉質の短髪パワーファイターだが武器はロングソードだ。

 

「さて、リーンハルト殿。派閥内からキラルク殿それにアメン殿とバスケス殿が異議が有るそうだが?」

 

 僕に意見を振られた、これはアーシャ嬢が欲しければ力ずくで奪い取れって話だな、気弱な対応はこの派閥では駄目なんだ。

 一度だけ深呼吸をして気持ちを落ち着かせる、これはジゼル嬢が用意してくれた僕の見せ場だ!

 

「言葉は不要、家同士の繋がりに横槍を入れるなら相応の覚悟が有るのでしょう、見せて貰えますか?」

 

 この婚姻は僕の派閥への拘束の他にデオドラ男爵家とバーレイ男爵家の繋がりを強化する意味も有る、それに横槍を入れるならば相応の覚悟が有るのだろう。

 

「良く言った、言葉は要らない決闘だ!アメン殿もバスケス殿も良いな?」

 

「勿論です」

 

「異議無し」

 

 このやり取りに満足そうなバーナム伯爵やデオドラ男爵達、反対に不安そうに僕を見るアーシャ嬢。

 いきなり結婚に横槍を入れられて決闘騒ぎでは心優しい彼女には辛い出来事だろう、後でフォローが必要だ。

 他の観客達は楽しそうだな、令嬢方も興味津々な感じで推移を見守っている。

 

「ほぅ、決闘ですか?

恥をかきますよ、僕は怒っています。では直ぐに外に出ろ、三人纏めて相手をしましょう。僕はゴーレムを使いません、貴方達も鎧兜は用意してないのでハンデをあげましょう」

 

 なまじ準備されるよりも勢いに任せて勝負に持ち込んだ方が戦いやすい、向こうは三人だが最低限の武器で僕はゴーレム使用不可。

 一見向こうが有利だが圧倒的に僕が有利だからこそ、周りに分かりやすい力の差を示す為に三人纏めて相手をする。

 

「何だと、準備もさせずに今からだと!」

 

「三人纏めてだと、我等を愚弄するか!」

 

「吐いた言葉は飲み込めないぞ」

 

 当然だが武人として怒るだろう、分かってて挑発した。

 ふむ、魔力は感知せず武器にも魔力は帯びてない、力量は全員レベル30以上は有ると見た。戦士として皆一流の域に達しているが、それだけだな。

 

「アーシャ様、安心して下さい。この結婚に反対する者は実力で黙らせます、それがバーナム伯爵の派閥の流儀ですよね?」

 

 近くまで寄ってきた彼女を安心させる為に微笑んで言葉を掛ける、しかし不安は消えないか……

 次にバーナム伯爵達に視線を向ける、この対応で成功なのだろう。中年脳筋達はニヤニヤとご満悦だ。

 

「何でも力ずくで解決などせんが、今回は一人の美女を争う男達の納得する分かりやすい方法だからな。

お前が勝てば今後他からの口出しは潰す、負けたら側室話は無しだ。

しかし三対一で大丈夫なのか、しかも『ゴーレムマスター』の二つ名を持つリーンハルト殿がゴーレムを使わないなど不利だぞ」

 

 リップサービス及び言質を有り難う御座います、これで勝てば誰も反対は出来ず、ゴーレムを使ったら更に勝てないと思われるので丁度良い。

 

「全く問題有りません、外に出ましょう。此処はアーシャ様の誕生日パーティー会場です、無粋な決闘など外で十分です」

 

 そう言って真っ直ぐに外に出れる両開きの窓を開けて庭に出る、冷たい夜風が頬を撫でるが興奮したのか身体が熱く心地良い。

 

「しかし少し暗いな、光よ暗闇を照らし賜え……ライティング!」

 

 自分の周囲に五十個の光の球を浮かべてクルクルと周回させてから手を払う様にして周囲に飛ばす。

 地上5m程の高さに浮かべ均等に同じく5m間隔で並べると、決闘場となる庭全体が真昼の様に明るくなった。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「バーナム伯爵、いまアイツがやった事の凄さが分かるか?」

 

 ジゼル嬢の提案通り下らない嫌がらせをする馬鹿共を炙り出す為に挑発したが、馬鹿共がまんまと釣られて出て来やがった。

 デオドラ男爵とライル団長、それにユリエル殿と楽しい余興と思っていれば真剣に何を質問して来たかと思えば……

 

「ライトの魔法か?広範囲に照らせるとは便利だな、まるで昼間の様だぞ」

 

「俺達が使うライトの魔法じゃない、普通は杖や武器の先端に点すか自分の周りに二~三個浮かせるだけだ。あんな広範囲に均一に五十個も浮かせる事の難しさが分かるか?

しかも光量が多い、確かに目潰しに使うフラッシュという魔法は有るが瞬間的なんだ。アイツはただ明るくする為だけに一つの魔法系統の頂点を見せたんだぞ」

 

「む?魔法的な事は分からないが結構な事じゃないか」

 

 つまり噂通り宮廷魔術師を目指せる実力が有る事は理解した。

 

「エロール、良く見ておけ。俺と同じく魔術師の頂点を目指す男の一挙一動をな。リーンハルトは、奴は既存の魔法の精度や運用を数十年単位で先に行っている」

 

「はい、未来に位置する魔術師なのですね」

 

 ふむ、魔術師殿達の理解出来ない盛り上がりは脇に置いて今は決闘だ。リーンハルト殿を三人が三角形の中心になる様に囲んだ、二人は死角に回ったぞ。

 

『初手は譲りましょう。全力で攻撃して良いですよ、それが貴方達に与える最初で最後のチャンスです』

 

 おぃおぃ挑発が凄いな、三人とも殺る気だぞ。武器を構えて溜めに入った、実戦ではこの溜めの時間を作るのに苦労するんだ。溜めに溜めた技の三方からの同時攻撃をどう防ぐ?

 

「衝撃波を飛ばさずに全員一斉に切り掛かるか!」

 

 まるで示し合わせた様に殺す気満々の一撃、どうする魔術師殿?

 

『魔法障壁よ!』

 

「おい、魔法障壁って人間を弾き飛ばせるのかよ?」

 

 三方同時攻撃を見えない魔法障壁で受け止めたのは分かる、接触部分の魔素がスパークしていた。

 だがリーンハルト殿が右手を振ったと同時に吹っ飛んだぞ、まるで暴れ馬にぶつかったみたいに数mは弾き飛ばされた……

 

「いや、ただ魔力を放出しただけだ。魔術師なら誰でも出来る、威力は桁違いだがな」

 

 未だ跳ね飛ばされた衝撃のダメージが抜けないのだろう、三人共うずくまっている。

 

「追い撃ちか!」

 

 リーンハルトが両手を広げると、それだけで奴の周囲に無数の鉄の槍が浮かんだ、詠唱は無いがアイアンランスって奴か?

 

『地に伏せろ、アイアンランス』

 

 三人に対して三十本近いアイアンランスが撃ち込まれる、当たれば大怪我だぞ!

 

「やり過ぎだ……って周りに撃ち込んだだけか」

 

 座り込む三人の周囲にアイアンランスを撃ち込み、ご丁寧に全員の武器を壊した、もう丸腰では戦えないだろう。

 未だリーンハルト殿の周りには二十本近いアイアンランスが浮かんでいる、しかし無表情なのが怖いな。あの手のタイプは冷静に敵を追い詰める、油断も慢心も無いから逆転が難しい。

 

『降参か死か、好きな方を選んで下さい』

 

 感情の篭らない平坦な声が余計に恐ろしい、アイツはキラルク達が拒否したら容赦無く撃ち込む気だぞ。

 呻くだけで反応出来ない、早く降参しろ!

 

『そうですか、残念ですが時間切れです』

 

 その言葉の後に指を鳴らすと、奴の周りに浮かぶアイアンランスの数が三倍に増えた。鋭い切っ先を均等に三人に向けて……仕方ない止めるか。

 キラルク達は問題児だが死なすには惜しい、この負けで慢心が無くなれば良いがな。

 

「そこまでだ!この決闘はリーンハルト殿の勝ち、今後異議を唱える事は俺が許さんぞ」

 

 俺の言葉に右腕を一振りするだけで凶悪な刃が全て消えた、詠唱って奴は必要無いのか?

 

「参ったな、ワンワードで凶悪な魔法を使いやがる」

 

「私はアイスジャベリンを一本浮かべるだけでも詠唱が必要なのに、五十本以上を指を鳴らしたり腕の一振りでって……」

 

 魔術師殿達の驚愕は良く分からんがキラルク達は恨めしそうだ、反省しなければ性根を叩き直すか。

 しかしリーンハルト殿には感情の揺らぎは無いな、勝って当然って事か。

 

 だがアーシャ嬢が走り寄って抱き着いた時に能面だった顔に照れと焦りが見えた、コイツは女慣れしてないな……

 

「デオドラ男爵、お前これだけの戦いが出来る男を隠していたな」

 

 これだけの戦いが出来るなら爵位を賜った後なら俺の派閥の上位に食い込む、てか食い込ませる。

 

「いや、俺の時よりも遠慮が無いな、手加減はしているが。クフックハハハハァ、駄目だ、興奮が収まらない」

 

「俺もだ、お披露目まで待とうと思ったが無理だ。次は俺が相手をする、するったらする!」

 

 ヤバい、興奮が冷めない、俺は今此処で奴を試す。

 

「バーナム伯爵、愛を語らう二人を祝福して遠慮しろ」

 

「そうだ、まだ舞踏会は終わって無いんだぞ、余興は終りだ」

 

 泣き出すアーシャ嬢を宥めすかす冴えない男が、先程の決闘とも言えない蹂躙戦を行った男かよ。確かに本日の主役を二度も悲しませる事は出来な……くない!

 

「嫌だ、我慢出来ない。俺は奴と戦う、止めるならお前達が先に戦うか?」

 

「ああ、義息子と愛娘の門出だ、親として止めるぞ」

 

「俺もだ、指名依頼の模擬戦で借りを作った。今はアーシャ嬢と愛を育ませるべきだ」

 

 お前等、俺に逆らうのか?良いだろう、久し振りに二人共々揉んでやる。俺の派閥で誰が最強かを今一度思い知らせてやるぜ。

 

「「「外に出ろ、分からず屋は模擬戦だ!」」」

 

 リーンハルトとヤル前の肩慣らし、前哨戦だ!

 

 


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