古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

203 / 999
第203話

 アーシャ嬢の誕生日パーティー当日、屋敷の中は急ピッチで準備が進んでいる、僕はやる事が無いのでデオドラ男爵の鎧兜を作る事にした。

 一応秘密なのだが三姉妹は見学に来ている、自作の錬金アクセサリーを目の前で作っているから今更だ、口止めだけすれば良いだろう。

 

 デオドラ男爵は鎧兜の意匠に注文が有った、現在使っているのと同じにして欲しいそうだ。

 では今のに魔力付加しますと言ったが状況により変えて使うので新しく作る事になった。

 錬金術は完全にイメージの世界なので見本として鎧兜を隣に並べて貰った。

 

 指で表面をなぞり鑑定するが中々の逸品だな、名の有る鍛冶工の手による物だと思い銘を探すとアームズと彫られている。

 だが知らない名前だ、名品には違いないが魔力付加はされていないし重量は一式で50kgを超える、これを着て飛び跳ねるデオドラ男爵は正しく化け物と呼んで良い筈だ!

 

「何だ、その不思議なモノを見る目は?」

 

「いえ、人間とは何処までも進化出来るんだなと思いまして」

 

「お父様の場合は進化じゃなくて狂化だと思いますわ」

 

 ジゼル嬢?強化の強が違う意味に聞こえましたが……

 前も一族から稀に生まれる赤髪の連中を戦闘狂のアレ呼ばわりしてましたよね?

 視線を向けるとニッコリ微笑んでくれたが意味は伝わった『私のお父様を人の枠に入れないでね』だと思う。

 

「お前等、アイコンタクトとは最近打ち解けてきたな、前はお互い遠慮が垣間見えたけどよ。まぁ良いか、では早速頼むぜ」

 

 良く見ているな、確かに互いに覚悟を決める前は少し壁が有ったが今は違う、と思う。

 

 さて、どうするか……

 

 見本の鎧兜と全く同じに作る事は出来るが、僕が学んだ技術と多用する意匠と細かい部分や形状が微妙に違うんだよな、同じ十七のパーツに別れているけど基本的な部分が違う。

 これは古代と現代の鍛冶の技術の違いによる物だが、オーダーは外観が同じ物だし妥協するか。

 

 先ずは頭部を保護するヘルメットと喉を守るゴルゲット、肩当てのポールドロンとそれを補強するガルドブレイズを錬成する。

 次に肘を守るコーターと二の腕を守るヴァンブレイス、これは上腕を防護する部品をアッパーカノンと下腕部を防護する部品をロウアーカノンに分けて錬成する。

 手首を守るガントレットに脇を守るペサギュ、胸部と背部を守るキュイラス、後は腰部を守るフォールドと吊り下げられた二枚一組の小板金のタセットに臀部を守るキュレットを錬成すれば上半身は完成。

 最後にチェインメイルスカートと大腿部を守るキュイッス、膝を守るポレインに脛を守るグリーブと足を守る鉄靴ソールレットで全ての部品が完成。

 分割したパーツは十七だが全てバラせば三百を越えるパーツを錬成した、後は組立作業に集中する。

 浮かべていたパーツを一気に組み立てる、完成だ。

 

「完成です、背中の内側に上級魔力石を四個組み込んでます、重量軽減と衝撃を受けた場合に保有魔力を使いダメージを軽減します。

素材は鋼鉄で厚みは15mm、固定化の魔法を重ね掛けしているので素材自体の強度も増しています。

胸当の裏側にレジストストーンを組み込んでます、麻痺と毒を約30%の確率でレジストします。一度着てみて下さい、微調整しますから」

 

 少し張り切り過ぎたかな?だが会心の出来栄えだ、可能ならばデザインにも凝りたかったが仕方ないな。

 

「おお!マジックアーマーとは幾つになっても心躍るモノだな、早速着てみるか。では暫く待っててくれ、直ぐに戻る」

 

 重量50kgを着て動けるなら重量軽減の魔力付加したアレなら重量軽減して同じ50kgに抑えた、追加装甲の負担も無いだろう。

 いそいそと小脇に抱えて嬉しそうに部屋を出て行ったが、流石に愛娘達の前で服を脱ぐ事は避けたんだな。

 少し疲労を感じたのでソファーに座るとアーシャ嬢がアイスティーを用意してくれた、あとルーテシアの期待に満ちた目は見なかった事にする。

 

「お疲れ様でした、初めて見ましたが凄いですわね」

 

「私も欲しい、絶対欲しい、欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい!」

 

 目がね、純粋に輝いているけど向かい側に座り俯いて、ブツブツと小声で欲しいを連発されると怖い。

 

「ルーテシア姉様は駄目です。リーンハルト様はウィンディアの為にお父様に鎧兜を作ったのですわ。

アレは数を作ると秘密がバレます、だから気を使って同じデザインにしたのですよ。

それにマジックアーマーの価値は計り知れません、代金は要らないとかは無しです。

リーンハルト様に甲斐性が有るのは知ってますが、正当な報酬は貰って下さい」

 

 ジゼル嬢に諭されて俯くルーテシア嬢を放置して僕の世話をしてくれるアーシャ嬢だが、流石に貴族の女性用のシルクのハンカチで額の汗を拭かれるのは恥ずかしい。

 

「ピッタリだぞ、微調整は不要だ!」

 

 音を立てて扉を開けて部屋に飛び込んで来たが、仮にも男爵が貴族のマナーを破るのは駄目だと思いますが……

 

「それは良かったです。ウィンディアに頼まれていたので、気に入って貰えると嬉しいです」

 

 建前はウィンディアからの依頼(お願い)だから達成と言う事で。

 

「ああ、ウィンディアに良くやったと伝えてくれ!彼女にも何か褒美を考えておくぞ。さて代金だが金貨二千枚だな、今度は盾か武器を依頼するか」

 

「いえ、鎧兜は一律金貨五百枚で……いえ、その……何でもないです」

 

 ジゼル嬢に睨まれた、だが高額で売り付けるのは守銭奴みたいで嫌なんだが。

 

「貴方は一家の大黒柱なのです、貰える物は貰って下さい。正当な評価を落としては駄目ですわ」

 

「ジゼル、余りリーンハルト様を虐めないで下さい」

 

「アーシャ姉様が甘やかし過ぎです、この方は自分の価値を低く見過ぎなので注意して叱る事が必要なのです」

 

 姉妹で口喧嘩を始めた、しかしデオドラ男爵のニヤニヤとルーテシア嬢の物欲しげな視線が辛くて目を逸した。

 

「優しい側室と良く出来た本妻を得られて僕は幸せなんだよな?」

 

 口喧嘩でアーシャ嬢がジゼル嬢に勝てる訳もなく、僕は金貨二千枚を報酬として手に入れた。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 誕生日パーティーの開始時間は夜の七時、時間通りに爵位の低い方々から来られて主賓級は十五分遅れ位で到着する。

 本日の主賓は派閥の長であるバーナム伯爵、その他は派閥関係者や比較的友好的な方々だ。

 主催者はデオドラ男爵だが招待客の選別と手配は本妻が取り仕切る、今回は大人数なので立食形式、お披露目の後は舞踏会の流れだ。

 舞踏会について僕にも指示が来ている、最初は本日の主役のアーシャ嬢と主賓であるバーナム伯爵が踊るのだが、最初の曲は二組又は四組で踊る事になる方舞と呼ばれる曲。

 もう一組に僕とジゼル嬢が指名された、方舞は途中でパートナーを変えて踊るのだが実は僕は公式な舞踏会に出た事は無い。

 なので一番最初で重要な方舞が踊れるのかデオドラ男爵の奥方達が心配になりレクチャーを受けた、三百年たってもオペラとは違いダンスは極端に変わった事は無く一発合格だった。

 これでも元は大国の王族、礼儀作法は身体が覚えていたのだがパートナーを務めてくれたアーシャ嬢の母親であるジェニファー様からは大絶賛だった。

 一回で合格だったのに二組の方舞から二人で踊るワルツまで踊らされた、しかも連続三回もだ。

 因みに同じ異性と同じ舞踏会で一日に四回以上踊るのはマナー違反なので気を付ける様に言われた。

 

「若いのに素晴らしいステップですわね」

 

 そうダンス中に耳元で艶っぽく言われて難儀したが、その後に僕からダンスを申し込まないと駄目な令嬢と申し込みを受けてはいけない令嬢のレクチャーを受けた。

 誕生日パーティーを取り仕切る奥様方に反対意見など言える訳がなく、只頷くしかない。

 舞踏会とは若い独身貴族の男女の出会いの場でありお見合いの場でもあり色々な思惑が渦巻く、アーシャ嬢は僕の側室になると発表されるから問題は無い、男性陣は悲しむだろうが……

 

 問題は女性陣の方だ、奥様方はホストとしての立場が有り無下に断らせる事は舞踏会自体が白けるし、貴族社会での僕の立場も悪くなるから駄目だそうだ。

 舞踏会で非友好的な態度を取ると今後舞踏会や夜会やサロンに呼ばれなくなる、それは貴族としては低評価でしかない。

 

 一度は廃嫡されて貴族社会から距離を置こうとしたのに、今度は爵位を賜り身を置こうとしている。

 今の状況は二ヶ月前の無知な僕では考えられなかっただろうな……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 定刻前後、続々と来客の馬車が到着するが奥方達が手際良く捌いて待たせる事が無い、流石だな……二階の応接室の窓から失礼にならない様に観察する。

 

「あの方はレイラン子爵と次女のセラフィー様です、レイラン子爵はお父様と隣接した領地を持ち比較的友好的です。

彼女には婚約者が居ますのでワルツには誘ってはいけませんが、パートナーチェンジのダンスは大丈夫です」

 

 名前と顔が一致しないので暗くした部屋の窓からジゼル嬢に来客の簡単なレクチャーを受けている。

 

「なる程、分かりました。次はアルノルト子爵とグレース嬢か……」

 

「彼等については特に有りません、グレース様については放っておいても問題は有りませんわ」

 

「助かります、色々有りまして僕は彼等が嫌いなのです」

 

 その後、殆どの来客のレクチャーを受けたが一番驚いたのが浮気の忠告だった。

 

「貴族の女性には面白い教訓が有るのです、それは『女性は世継ぎを産んだ後から恋愛が始まる』です。そして『浮気とは秘するモノ、冷たく燃え上がるモノ』なのです。

つまりバレずに冷静に燃える恋をする、他家に嫁ぎ世継ぎを産んで義務を果たしたマダム達の火遊びですわね。リーンハルト様も気を付けて下さいませ」

 

 真面目な顔で言われた、彼女の忠告は大低当たるので怖い、僕は浮気相手に最適なのか?

 

「何をですか?僕は浮気などしません!」

 

 有閑マダムの恋愛事情みたいな話を振らないで下さい。

 

「二十代後半から三十代半ば迄の淑女の中には子を産み義務を果たすと羽目を外す方が多いのです。

リーンハルト様は未だ未成年にして爵位を賜り、武闘派の重鎮のお父様に認められる程の殿方。未婚から既婚迄の女性からすれば……

あら、バーナム伯爵が来られましたわ、主賓よりも遅く会場入りは駄目です。早く会場に向かいましょう」

 

 え?ちょ、大事な所を聞いてませんが!

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 何とかバーナム伯爵が会場に入る前に滑り込む事が出来た、バーナム伯爵は娘と息子を連れて来たぞ。

 

「長男のゲッペルス様は二十歳で未婚、最近婚約解消をしたと聞きます。新しいお相手を探しに来たのでしょう、女癖の悪いお方です。

最近養女に迎えたエロール様は十五歳、既に社交界デビューはしてますが特定のお相手は居ません、そして彼女は水属性魔術師です」

 

 隣に寄り添うジゼル嬢が最後の情報を教えてくれた、本当に頼りになる。

 

「ああ、分かるよ。身に纏う魔力は中々だね」

 

 コレットやリプリーと同程度の実力は有りそうだが、彼女が居るのに僕に『ワンドの5』をくれるのか?

 しかも養女に迎えたとなると政略結婚にでも使う予定かもしれないな、実子は少ないから養女に迎えて嫁がせる事は多々有る。

 

「漸く誕生日パーティーの始まりだな」

 

 デオドラ男爵が来賓の方々に向かって挨拶を始めた、この後に二階からアーシャ嬢が登場し階段を下りてデオドラ男爵の隣に並ぶ。

 紹介されて一言挨拶した後に本日の主賓であるバーナム伯爵が彼女を褒めた後に爵位の高い順に挨拶をしてまわる。

 一通り挨拶が終われば次は僕等の出番、バーナム伯爵とアーシャ嬢、僕とジゼル嬢の四人で方舞を踊る事になる。

 

「お父様の挨拶が終わりましたわ、いよいよアーシャ姉様の登場ね」

 

「ああ、そうだ……ね」

 

 会場がどよめいた、僕も一瞬言葉が詰まった程に現れた彼女は美しかった。

 

「アーシャ姉様、綺麗……」

 

 ジゼル嬢も魅入っている、どうやら僕の動揺は気付かれなかったみたいで安心した……

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。