魔術師ギルドでサリアリス様の研究室に招かれてから暫くは魔法迷宮バンクの六階層のボスの攻略を続けている。
ボスである『徘徊する鎧兜』を倒すとノーマルが魔力付加された武器類、レアが魔力付加された防具類をドロップする。
ポップ数は一体から最大三体まで出現しレアドロップアイテムの防具は三点納品で1ギルドポイントが貰える割の良い依頼だ。
本日もボス狩りだ、既に三日間通い詰めて合計百六十二回で二百九十体倒した。
ノーマルドロップアイテムの魔力付加の武器は六十二個、レアドロップアイテムの防具は七十二個手に入れた。
だが連続十回撃破ボーナスが未だ無いんだ、必ず他のパーティが攻略に来て順番を譲ってしまうからだ。
「さて四日目、百六十三回目のボス狩りを始めようか」
朝一番の乗合馬車にのり何時もよりも早く魔法迷宮バンクの攻略を開始、流石に名簿には攻略パーティの記載は少なかった。
これで連続十回撃破が出来なければ夕方から入り、人の少ない深夜に攻略するしかないか……
準備が良いかパーティメンバーを見回すと全員が頷いてくれた。
「エレさん、扉閉めて」
「ん、分かった」
エレさんがボス部屋の扉を閉めると中央部分の三ヵ所に魔素が集まり出す。
暫く攻略して思ったのが『徘徊する鎧兜』は全金属製鎧、斬撃や貫通は効果が薄い為に打撃をメインに武器を選んだ。
ゴーレムナイトを三体一組として両手持ちアックス装備を二体とモーニングスター装備を一体、このモーニングスターは刺付き鉄球を先端に付けたメイスだ。
両手持ちアックスは刃が鎧兜に食い込んで抜けない時が有るが、これは刺は刺さるが円錐形なので抜きやすい。
たまに両手持ちアックスが食い込んで動けない時が有るので混ぜて編成してみた。
三体一組で敵が三体現れたら各々に、二体なら一組は僕等の防御に、一体なら一斉攻撃をする、今回は三体だから各々に襲い掛かる。
魔素の濃度が濃くなり実体化した瞬間に正面と左右から一斉に武器を振り下ろす!
殆ど一撃で倒せる、二撃目が必要なのは稀だが用心はしている、油断は大敵だ。
「今回も一撃ですね、ドロップアイテムはレアですよ」
イルメラが一組のガントレットを拾って渡してくれる、鑑定すると比較的ドロップ率の多い『硬化のガントレット』だ、中々全身鎧は出ない。
自分で使う事は無いがレアドロップアイテムの防具類は三個でギルドポイントが貰えるので美味しい、ノーマルドロップアイテムの武器類でも売れば金貨五十枚から百枚になるから収入は凄い事になってる。
未だ売ってないが合計で金貨三千枚近くなるだろう。
「よし、次だ。エレさん、外を確認してくれる」
連続十回撃破の為には回転を上げるしかない、時間を掛けずに素早くだ。
「ん、大丈夫。誰も居ない」
目で扉を閉める様にお願いしゴーレムナイトを配置する、何時でも敵に襲い掛かれる様に。
「本日二回目、通算百六十四回目のボス狩りを始めよう」
目の前に集まる魔素の固まりを睨んでカッカラを握り締め戦いに備えた。
◇◇◇◇◇◇
早起きした甲斐が有り始めて連続十回目となる百七十二回目のボス狩りに勝てた、お楽しみの連続撃破ボーナスは何だ?
倒した二体の『徘徊する鎧兜』が魔素に還るのを黙って眺める、鈍く輝く小さい何かが床に落ちている。
「リーンハルト様、これって鍵の束ですね」
イルメラの拾ったアイテムはリングに通された十本の鍵の束だ、素材は真鍮だろうか?
鑑定すると結果は『魔法の鍵』と出た、効果は大低の鍵の掛かった物を開けられる、扉でも宝箱でも鍵穴さえ有れば開錠出来る、一度使うと消滅する。
「これは『魔法の鍵』みたいだね、滅多に出ないレアアイテムだけど……」
「表向きは販売禁止の品物ですよね、何でも開けられる鍵なんて持ってたら大問題ですから」
「でも盗賊ギルドが高ランク依頼で収集してる、確かランクC以上で買い取りは一本金貨三百枚だった」
大低の鍵が開けられる、つまり古代の宝箱の罠も解除出来るとなれば貴重だな。
魔法迷宮最下層に出現するレアアイテムが入っている宝箱は貴重で高価な宝が入っている、同時に凶悪な罠も掛かってるからノーリスクで開けられる『魔法の鍵』は貴重だ。
「これは秘密にしないと大変だな、皆も内緒に頼む」
空間創造に収納する、エレさんが解除不可能な場合が有れば重宝するだろうが今は保管しておこう。
「さて、外を確認してくれるかな」
「ん、誰か居る」
際どいタイミングだったな、そろそろ他のパーティもボスに挑みに来るか……
「分かった、一旦外に出よう」
ボス部屋から出ると順番待ちのパーティが壁際に並んでいる、初めて見る連中だな。
ゴーレムナイトを先に六体出してから僕等が、最後に残りの三体の順番でボス部屋を出る。
「ほぅ、噂の美少女ゴーレム使いかブレイクフリーの『ゴーレムマスター』か、どっちだ?」
先頭のパーティリーダーらしき戦士職の男が話し掛けて来た、フルプレートメイルにウォーハンマー装備、フェイスガードを上げているので顔は見える。三十代前半、中々渋い顔立ちだな。
「後者です、毎回美少女ゴーレム使いに間違われるのですが本当に居るのですか?」
ゴーレムと男女の魔術師、噂の相手としては両方取れるから仕方ないのだが……
「さぁな、だが何組かは見たって噂だぞ。しかしゴーレム九体か、最大三体のボスなら負けないだろうな?俺等は『古鉄(ふるがね)』宜しくな」
自分の半分しか生きていない僕に笑いながら握手を求めて来たので応じる、凄い力で握り締められた。
「ふるがね?古い鉄ですか、それとも他の意味が?」
ドワーフ族の腕輪のお陰で何とか力負けしなかったが、僕は全力で向こうは手加減していた。
「結構本気だったが、お前って細くて小さい癖に力が有るんだな。古い鉄で『ふるがね』で合ってるよ」
古鉄か、僕の知ってるのは古い鉄製品の壊れた一部って意味だけど……
「何だよ、不思議そうな顔して。俺等はアルゼン地方のバカラスの出身さ、バカラスは鉱山都市で良質の鉄鋼石が採れるのと古くから鍛冶が盛んだ。
初代鍛冶ギルドの作品も数多く残っているんだぜ、それに因んだ名前さ」
転生前にも行った事が有る、バカラス鉱山都市は採掘と精練、鍛冶が盛んだったな。
周辺に幾つもの鉱脈が有り未だ掘り尽くしてなかったのか……
「そうですか、僕等のブレイクフリーは冒険者らしく自由に生きたいという意味を込めました」
彼等のパーティ編成は重戦士四人に盗賊二人、全員年上みたいだが一人だけフェイスガードを下ろしているので分からない。
彼等がボス部屋に入って行くのを見送る、ボスの攻略を目的としてるのだろう、腰にロングソードを吊しているが手にはウォーハンマーやウォーピック等の打撃武器を持っている。
「頑張って下さいね」
「俺等の方が年上だぜ」
軽く手を振って中に入って行く、中々強そうなパーティだな。扉が閉まって暫くすると金属を叩く打撃音が数回聞こえた、合計で十五回聞こえてから静かになった。
「よぅ!代わるか?」
「ええ、お願いします」
手にはレイピアを持っている、アレは火属性を付加された奴だな、僕も結構ストックしている。
そのまま入れ代わる様に中に入りゴーレムナイトを配置させてから扉を閉める、未だ僕が作った魔法の明かりが点っているので部屋中が見渡せる。
中央に魔素の濃度が高まりキラキラと光り輝く、人の形に成ってきた……
「よし、実体化と共に攻撃だ!」
◇◇◇◇◇◇
「バルダー兄さん、彼等はどうですか?」
「クランに引き込むメリットは有るな、奴一人でモンスターを倒せるなら五人は同行させて安全にレベルを上げる事が出来る」
主にアルゼン地方の出身者で纏まっている俺達のクラン『アルゼンハンマー』は万年人材不足、冒険者ランクCは俺達六人だけで残りはランクEとFばかり四十四人、仲間割れで分離したのが痛い。
だが下部構成員を使い潰したり他のクランから引き抜きを多用したりと、ダマスカスの奴の方針には賛成出来ない。
だが現実は非情、レベル一桁のランクFの連中が生活出来る迄支えるのは厳しい、早く独り立ちさせないと俺達が破綻する。
「だが彼等は他のクランからの誘いは全て断っているのは有名だ」
「老舗クランは色々と柵(しがらみ)が多いからな、幾ら強くても新参者はクランに奉仕しなければならない。だから強い奴等は入らず独り立ち出来ない連中が集まってくるが、同胞は突き放せない」
「だが冒険者としての活動だけでなく衣食住まで面倒見るのは無理だよ」
アルゼン地方は鉱物が枯渇しかけている、もう何年も山師達は新しい鉱脈を見付けてない、いずれバカラス鉱山都市は閉山に伴い破綻する。
今も若い連中には仕事が無く同胞をたより都心部に出稼ぎに来るのだが、夢破れて悲惨な目に合うのが多いんだ。
だから俺達は同胞達をクランに入れて面倒を見る、だがダマスカスは彼等を使い潰して己の利益を優先した。
「ですが『ブレイクフリー』は約三分でボス達を倒し私達は平均七分、しかも四回目からは私達に疲労が溜まり彼等が連続してボス狩りを続ける始末ですよ」
彼等は現在八回目のチャレンジ中、いや今扉が開いて盗賊の少女が顔を出したので手を振って交代しない旨を伝える。
四回目迄は交互にボスにチャレンジしたが五回目からは休憩を挟み彼等が連続で挑戦している状況だ。
だが四回の挑戦で九体倒しノーマルドロップアイテムを二つ、レイピアとロングソードを手に入れたので売れば金貨百枚にはなる。
だがクランに所属する四十人以上の生活を支えるのは厳しい、負担がパーティメンバーにのし掛かる。
彼等は俺達の倍は戦っている、既に金貨二百枚は稼いでいて未だ余力も有りそうだ。
直ぐに盗賊の少女が顔を出したので手を上げて交代すると見せ掛けて彼等にボス部屋から出て貰う。
「交代しますか?」
リーダーのリーンハルトが気遣う様に聞いて来た、コイツ等は礼儀も良いし真面目そうだし頼めば何とかなるか?
「ん、ああ。そのな、頼み事が有るのだが俺達のクラン『アルゼンハンマー』に入って欲しいんだ」
頭を下げて真剣さを伝える、だが全員が渋い顔だ。
「悪いのですが僕等はクランやパーティの誘いは全て断っています、僕等は自由を目指していますが『アルゼンハンマー』に入ると自由に動けますか?何か面倒な事をして欲しいのではないのですか?」
ぐぬぬ、その通りだから何も言えない、俺達が楽をしたいので彼等を引き込むのだから……
「そうだ、故郷の皆が幸せに暮らす為にも力を借りたいんだ」
「クランに入るとクランの長の意見は絶対で弱くても先に入った者が上で、力の有るものは下の者の面倒を見なければならないとか。
僕等には何のメリットも無いですよね、申し訳ありませんがお断りします」
そう言って彼等はボス部屋に入って行った、自分達に確かに都合の良い話で相手にはメリットが無い。
少し焦っていたんだな、交渉にすらなって無かった、次は何かメリットを提示出来れば……
「今日のところは帰ろう、勧誘はまた今度だ」
◇◇◇◇◇◇
クラン勧誘の話が続く、僕等にメリットも提示せず入って協力してくれとは困ったものだ。
彼等も困っているのだろうが、デメリットを飲み込んでまで助ける義理も無い、彼等も次に扉を開けたら居なかった。
夕方までボス狩りを続けたが十回連続撃破は一回しか出来ず『魔法の鍵』も手に入らなかったが武器と防具は大量に手に入った。
暫くは『徘徊する鎧兜』を狩り続けようと思ったのだが、家に帰るとタイラントが待ち構えて居た。
何でも直ぐに実家に帰り父上と話し合う必要が出来たとかで用意された馬車に押し込まれた。
バーレイ男爵家に向かう途中、同乗しているタイラントが真面目な顔をして一言も話さないとは、一体何が有ったんだ?
この呼び出しが第二の人生の転機となる事を僕は未だ知らなかった。
『ブレイクフリー』
前衛:ゴーレムポーン1~100体 ゴーレムナイト1~50体 ゴーレムルークは単独で2体まで、混成部隊も可能。
後衛:リーンハルト レベル30(土属性魔術師)ゴーレム制御:ギフト(空間創造・レアドロップアイテム確率UP)空間創造は第四段階まで解放。
後衛:イルメラ レベル30(モア教僧侶)治癒・防御魔法:ギフト(回復魔法効果UP)
後衛:ウィンディア レベル27(風属性魔術師)攻撃・補助魔法:ギフト(消費魔力軽減)
後衛:エレ レベル25(盗賊)索敵・罠解除:ギフト(鷹の目)