古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第195話

 サリアリス様との魔術談議は楽しい、転生前に人質として送られたハンザ共和国で知り合った我が師であるブルクハルト先生を思い出す。

 僕とてルトライン帝国の宮廷魔術師筆頭まで上り詰めた身だ、魔導に対して自信が有ったのだが今は揺らいでいる。

 僕の知識や経験の遥か上を行く人物に巡り会えた幸運、ローラン公爵とヘリウス様には感謝しなくては。

 そして瞬く間に三時間が過ぎて昼食会に呼ばれる事となり、サリアリス様の訪問に遠慮していたメイド達が僕の昼食会出席の準備を恐る恐る申し込んで来た。

 エムデン王国最強の魔術師であるサリアリス様と楽しく語り合う僕に言い辛かったのだろう、悪い事をした。

 サリアリス様はローラン公爵の体調の回復を確認する為にも三日間は滞在するらしく、僕とベリトリアさんも同じく軟禁状態なので未だ彼女と話す事が出来る。

 

 凄く有意義な時間だ!

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 ローラン公爵家の昼食会は格式が高い、本来なら新貴族の男爵家の長男では参加すら出来ないだろう。

 今回は冒険者ランクCの冒険者としてヘリウス様を助けた事による特別の参加だ、メイド達が僕の身支度を整えている時に執事から注意を受けた。

 幾らローラン公爵家の長男であるヘリウス様のお気に入りとはいえ、本来ならば屋敷に滞在すら出来ないのだと言われた。

 公爵家クラスになると執事も爵位を持っている場合も多く、彼も従来貴族で男爵位だった。

 

 身支度を済ませて執事に連れられて大食堂へと案内された、特別にローラン公爵本人が同席しての昼食会。

 失礼が無い様に散々念を押された、これだから貴族の柵(しがらみ)は大変だ。

 大食堂は豪華の一言に尽きる、天井から吊り下がるシャンデリアは見事な品だし20mは有るテーブルには見事な細工を施した銀食器が並ぶ。

 遥か先にローラン公爵とヘリウス様、それにサリアリス様が座り手前に僕とベリトリアさんの席が用意されている。

 案内に従い自分の席に着く、幸いだが貴族的マナーは完璧だ、仮にも元王族だし時代は違えど大体同じだ。

 全員が着席すると厳かに昼食会が始まる、この場では会話など出来ない。

 食後に別室で初めて砕けた話が出来るのだ、確かに出された料理は厳選された食材を腕の良いコックが調理した最高級品だが状況的には味わう暇も無い。

 

 苦痛にも等しい昼食会が終わり先にベリトリアさんと別室に案内され、紅茶と焼き菓子が出た頃に落ち着く事が出来た。

 

「久し振りの正式な食事は疲れたわ、リーンハルト君は大丈夫みたいね」

 

「規模やグレードは違えど僕も一応は貴族の一員です、マナーは叩き込まれてますよ」

 

 メイドさんが煎れてくれた紅茶に砂糖を二杯だけ入れて飲む、漸く落ち着いた。

 向かい側に座るベリトリアさんは焼き菓子に夢中だ、さては緊張して昼食は余り食べなかったな。

 自分の分の焼き菓子もベリトリアさんの方へ差し出す、彼女ですらローラン公爵の相手は緊張するんだ。

 暫く待つとローラン公爵と例の執事、それにサリアリス様が部屋へと入ってきたので立ち上がり一礼する。

 

「構わない、楽にしてくれ。息子の恩人だ」

 

「リーンハルト、手早く終わらして魔法談議の続きをするぞ」

 

 サリアリス様の一言にローラン公爵と執事が固まる、先程も同室で長々と話していたのだが知らなかったのか?

 

「サリアリス様は彼の事をご存知だったのですか?」

 

 妙に下手に出るローラン公爵の態度が可笑しい、流石は宮廷魔術師筆頭って事か。

 

「今日初めて話したが気に入っての、儂の話に着いてこれる知識と実力を持った大した魔術師じゃよ。

この屋敷に滞在する意味の殆どはリーンハルトと話したいからじゃ」

 

 ローラン公爵に此処まで言えるのは彼女とアウレール王だけだろうな、執事なんて顔面蒼白だ。

 多分だがサリアリス様のお気に入りに偉そうな事を言ってしまった、もし彼女の機嫌を損ねたらどうしようとか?

 

「有り難う御座います、身に余る光栄です。僕もサリアリス様の知識と経験談を聞かせて頂ける事は無上の喜びです」

 

 取り敢えず事実だから礼を言っておく、実際早く話したいのだから……

 

「いやはや息子が気に入った少年魔術師殿はサリアリス様のお気に入りとは驚きですな。

先ずは礼を言おう、リーンハルト殿とベリトリア殿のお陰で身内の恥を曝さずに済んだ。

我が愚弟の処理は明日にも終わろう、貴族院にも国王アウレール様にも報告済みだ」

 

 一連の相続争いは終了、叔父と呼ばれたローラン公爵の実弟は貴族院の手により裁かれるのか。

 これで正当後継者はヘリウス様だと内外的にも発表される、全てが完了するのに後二日必要なんだな。

 根回しは万全なんだろう、この辺は流石と言っておくか。

 

「僕等はヘリウス様の依頼に従い襲って来た敵を撃退した、それで宜しいでしょうか?」

 

 ヘリウス様の活躍の為には指示した実績が必要、僕は懸賞金とギルドポイントが貰えれば良い。

 

「問題無いが遡りで依頼書の手続きを行って良いかな?それに伴い報酬を払う。勿論だが傭兵団赤月とハボック兄弟、それと倒した賊共の首に賭けられた賞金は全て払うぞ」

 

 ベリトリアさんは既に興味が無いな、彼女は僕の為に同行してくれたんだ。

 

「妥当ね、それで構わないけど懸賞金は全てリーンハルト君の物だからね、私は倒してないから貰えないわ」

 

 暗い笑みを見せた、多分だがハボック兄弟を焼き殺した事でも思い出したか?

 少しフォローしなければ駄目かな、復讐は多大な労力を使うが達成後は色々と考え込んでしまうらしい。

 そこには達成感は無く虚無感に襲われるらしい、まぁ悪党共だったし大丈夫だろう。

 僕等は命のやり取りをする冒険者、悪党を殺した位で悩む程弱くない。

 

「ヘリウス達から聞いたが流石は『ゴーレムマスター』の二つ名をバルバドス殿から頂くだけの事は有る、まさか五十体ものゴーレムを操るとは驚いたぞ」

 

 本当に驚いた様に手振りも添えてくれた、公爵級ともなれば他にも強力な魔術師を配下にしてるだろうに。

 バルバドス師は僕の二つ名を言い触らしてくれてるのか、しかし土属性魔術師で元宮廷魔術師のバルバドス師に『ゴーレムマスター』と呼ばれるのは意味深だろう。

 

「有り難う御座います、我が師バルバドス様を差し置いて名乗るのはおこがましいのですが、贈られた名に恥じない働きをするつもりです」

 

「良い弟子を持たれたな、さて報酬についてだが……

今回の件で処分する連中の中にも爵位持ちが居る、何人かの爵位は返上せねばならぬが幾つかは儂の裁量で継承させられる。従来貴族の男爵位、小さいが領地付きだ」

 

 この流れは褒美に爵位と領地をやるからローラン公爵家と縁を持ち派閥に入れって事か、迂闊に喋れないぞ。

 あの執事も驚いているなら爵位を譲るのは今決めたな、サリアリス様と懇意な僕なら派閥に引き込む価値と意味が有る。

 これが生半可な縁なら苦労を掛けると言われた意味だな……

 

「でだ、今回の報酬には感謝の意味を込めてエリアル男爵位を送ろうと思うのだが、どうだ?」

 

 エリアル男爵位、つまり領地の名前がエリアルなんだろう。

 価値だけなら破格の報酬だが派閥変え込みなら無理だ、僕には父上とデオドラ男爵と同じ派閥に居たいので変える事はしない。

 

「破格の報酬です、感謝に尽きませんが……

僕には大恩有る父上とデオドラ男爵に未だ恩返しをしていません、バーナム伯爵の派閥から変わる事は出来ませんので辞退致します」

 

「何だと!」

 

「ほぅ?金と権力より義理を取るとは若いの」

 

「即答するとはね……」

 

 上からローラン公爵、サリアリス様、ベリトリアさんだ、確かに普通なら断るのは馬鹿者だろう。

 貴族とは家を興し存続させる事が大切、その為なら派閥変えなど日常茶飯事だ。

 更に言えば成りたくても成れないのが貴族、この報酬を断るのは普通なら有り得ない。

 

「良いのか?従来男爵位ならば国から年金が年間金貨五千枚、領地からも純益で金貨五千枚以上の収入が有るぞ」

 

 領地の収入が金貨五千枚、だが魔法迷宮バンクの五階層に篭れば一回で金貨七百枚は稼げる。四等分しても金貨百七十五枚、金貨五千枚なら一月で稼げる計算だ。

 

 黙って頷いて辞退する旨を伝える。

 

「おい、入って来い」

 

 何やら扉に向けて声を掛けると同い年か少し年上の女性達が入って来て壁際に並んだ、いずれ劣らぬ美少女達だが?

 

「儂が世話をしている少女達だ、血縁も無いし柵(しがらみ)も無い。誰でも良いし複数でも良い、選んでくれ」

 

 すまないロップス、君の夢を僕が先に掴んだみたいだ。

 ローラン公爵の言葉に彼女達の何人かが魅惑的な笑みを浮かべて僕を見る、転生前に居た媚びる女性達と同じ笑みだ。

 全員が金髪碧眼のエムデン王国人の特徴を持っている、人数は五人で同い年位から三歳上位迄か?

 清楚な服装だが身体のメリハリは判り易い、気になったのは一人だけ魔力を持つ者が居る事、その娘は魔術師と言うより戦士の雰囲気を醸し出している。

 

 でも要らない、僕にはイルメラとウィンディアが居るから。

 

「有り難う御座います、ですが僕には大切な婚約者が居ますので女性は不要です」

 

 その言葉を聞いたローラン公爵の顔が僅かに歪む、金も権力も美女も駄目とはローラン公爵も僕の扱いには本当に困っただろう。

 残りはマジックアイテムとか物品位しかないし。

 

「複数派閥の女を世話するのは貴族では普通だぞ、彼女達は俺の血縁では無いから側に置いても問題無いのだが……

仮面夫婦の多い貴族において噂通りリーンハルト殿とジゼル嬢は相思相愛か、何とも純粋だな」

 

 目線を合わせるのが怖いから彼女達の方は見ない、凄く失礼に当たる行動をしている自覚は有る。だが要らない、報酬で美少女を宛がうとか何処の英雄様だよ。

 

「無駄じゃよ。リーンハルトはの、儂のツバメにならんかの誘いも即断したんじゃ。それが少し考えたんだ、その娘達の器量が悪かった訳じゃないの」

 

 それってフォローなのだろうか?宮廷魔術師筆頭の愛人を断る位だから自分達が選ばれないのも仕方ない的な?

 

「何とも厚い忠誠心だな、デオドラ男爵は有能な者を引き付ける何かが有るのか?

リーンハルト殿程の魔術師にそこまで言わせるとは凄いな、だが儂とて面子も有るので全て断るは我慢ならんな」

 

 ローラン公爵が不機嫌になった、確かに用意された報酬は破格なのに断るは不味いのか?

 だが爵位は問題が有るから無理だ、僕はローラン公爵の派閥には移動出来ない。

 では美少女を宛がうと言われたが、彼女達はローラン公爵に世話になっている褒美用の美少女達、多分だが男を喜ばす方法を仕込まれている。

 確かに血縁は無く派閥絡みも無い、純粋な褒美用な美少女達だが受け取ると世話をする責任が発生する、それは重い話だ。

 

 改めて彼女達を見る、男の欲望を受け止める為の女性だ、全員が儚い感じで保護欲を掻き立てる深窓の令嬢タイプだ。

 だがアーシャ嬢を見慣れている為か彼女の方がランクが上だと思ってしまう。

 

「お待ち下さい、私は魔法戦士としても鍛えられています。冒険者としてもランクDです、私ならリーンハルト様に損をさせません」

 

 一番右端の女性が一歩前に出てアピールしてきた、確かに同い年位で冒険者ランクDなら実力は有るのだろう。

 後衛職しか居ない僕等には前衛を熟せる戦士職が欲しいと考えていた、彼女は魔法戦士と言ったな。

 戦士と魔術師の複合職の魔法戦士は前衛の上級職だし『ブレイクフリー』としても参加させるのは悪くないのだが……

 

「リーンハルト、誰か一人を選んで面倒を見るのじゃ。ローラン坊やの面子も有る、お前なら一人や二人面倒をみるのは余裕じゃろ?」

 

「どうするの、イルメラちゃんがヤキモチを焼くわよ」

 

 お二方から両極端の意見を貰った、だが現状で断るのは無理だろう。

 

「君の名前は?」

 

 彼女以外の女性には悪いが興味が無い、パーティ強化としてなら彼女を引き取っても良いか?

 

「私の名前はニール。先のオーク討伐遠征で父上と兄上を亡くして実家が断絶しローラン公爵様に面倒を見て貰ってます」

 

 重たい過去を持つ娘さんだな。

 


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