古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第189話

 ボルガ砦の襲撃も大詰め、遂にハボック兄弟のロックゴーレムが出て来た。

 前回と違い巨石を投げて攻撃してきた、1tonもの巨石は20m程度しか飛ばないが破壊力は凄まじい。

 軍事要塞の擁壁を破壊するのは大した物だな、流石は冒険者ランクBのベリトリアさんから逃げ続けるだけの事は有るのだが……

 

「未だだな、何もかも全然駄目だ、ゴーレムを極めたとも言えない甘い運用だよ。

見せてあげよう、同じ土属性魔術師としてゴーレムの運用技術の一端を」

 

 巨体故に動きが緩慢だ、二足歩行の制御は中々だが制御距離が20mも離れられないし歩く以外の行動は同時に出来ないだろう、魔力の制御ラインが歩行指示で一杯だ。

 近付いて来るのは威嚇じゃなくて離れて制御出来ないからだ、確かに普通と比べれば凄いゴーレム制御技術だが鍛練を疎かにしたな、だからそこから発展が止まった。

 

 正面口を通過した、僕迄の距離は80mを切ったが未だ射程距離には程遠い、どうする?

 ロックゴーレムとの距離は60mを切った、ハボック兄弟も80mまで近付いた、その場に立ち止まり両手を振り上げて威嚇行動をしている。

 一応驚く振りをしてからゴーレムポーンを全て突っ込ませる。

 足元を動き回る両手持ちアックス装備の十体、片足を砕くぞ、どうする?

 

 片足を上げて踏み付ける事はバランスを取るのが難しくて無理か、しゃがみ込まないと手が届かずに殴れないだろ。

 

「もう良いか、その程度のゴーレムでは参考にもならない。どうやら裏口の連中も殲滅出来たみたいだ、ラインを繋いだゴーレムポーン達の動きが止まったな」

 

 未だ魔力にも制御力にも余裕が有る、だがゴーレムルークを見せるのは不味いかな、ジゼル嬢からも釘を刺されているし。

 

「ベリトリアさんに良い贈り物が出来そうだ、ロックゴーレムとハボック兄弟の魔力ラインの繋がりも追えたし二人の場所を特定した。ではそろそろ仕留めるか」

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 胡散臭い仲介屋から俺達ハボック兄弟に依頼された仕事は貴族様のボンボンを拉致って殺す事、他にも百人単位で人を集めていて協力し合うという条件まで付けられた。

 だが前金の他に成功報酬が金貨一万枚とくれば馴染みの野盗共に声を掛けて参加するには十分だった。

 協力と言っても数グループが互いに順番を決めて襲うだけ、誰もが成功報酬の独り占めを狙う。

 

「おい、誰も居ないぜ」

 

「門も開けっ放しとはな、だが万が一も有るから壊すか」

 

 目的はローラン公爵家の跡取り息子の身柄確保、だが生死は問わずだ。

 先走った奴等や傭兵団赤月が全滅するとは腐っても王国の兵士達ってか?

 だが俺等は馬鹿じゃねぇ、時間を掛けて後ろに回り退路を断った、途中の村を襲ったのは計画外だったが火の手を見て慌ててたから良いとするか。

 

「なぁ兄貴、ちまいゴーレムが居るぜ」

 

「あれが魔術師ギルドから派遣された四人の土属性魔術師のゴーレムか、十体とは頑張るが邪魔だし早く潰せ」

 

 俺が全体を見回し指示をして弟がゴーレムを操り敵を倒す、引き際を見極めるのが大切なんだぜ。

 今回は小さいゴーレムだけか、あの巨大な鋼鉄製の奴が居たら危険だと思っていたが大丈夫みたいだな。

 

「分かったよ、兄貴。前進するぜ、周りの奴等も進んでくれ」

 

「ああ、お前等も進め!あのゴーレムを倒したら貴族の餓鬼を捕まえるんだ、殺しても構わない。捕まえた奴には金貨千枚だぜ、刃向かう奴は殺せ!奪え!」

 

 俺達は金貨一万枚だが役に立つなら千枚位はくれてやるぜ、精々俺達の役に立ってくれよな。

 

「「「うぉー!」」」

 

 馬鹿共を肉の壁として少しずつ前進させる、ロックゴーレムは巨体故に二足歩行に難が有る。歩く時は集中するから他の事が出来ない、制御が難しいんだ。

 

「ほぉ、敵のゴーレムが走り込んで来たか、蹴り飛ばしてやれ!」

 

「分かったよ兄貴って、コイツ等チョコマカと動きやがって……クソッ駄目だ、足が削られて……何だよ、このゴーレムはよ!」

 

 たかが十体のゴーレムに肉の壁達が切り殺されてロックゴーレムの足が削られる、コイツはヤバイぞ。

 

「オィ、逃げるぞ!今回の敵は何かヤバイ、あのゴーレムは何か変だ」

 

「兄貴、駄目だよ。ロックゴーレムが、俺の自慢のロックゴーレムが倒される、倒されちまうよ!」

 

 両手持ちアックスで片足だけが削られている、修復が間に合わない、倒れるぞ。

 

「放っておけ、逃げるぞ、ヤバイんだ」

 

 あのゴーレムは変だ、跳んだり跳ねたり人間みたいに動きやがる、実はゴーレムじゃなくて人間なんじゃないのか?俺の勘がヤバイと言っている、今回は逃げ出した方が良い。

 

 脇目も振らずに後ろを向いて逃げ出そうとした時、俺達兄弟の周りに一瞬でゴーレムが錬成された、しやがった!

 誰だ?近くに魔術師は居ない、あんな離れた場所から一瞬で錬成など出来る訳が無い。

 

「チクショー!伏兵が隠れて居やがった。駄目だ、逃げられない」

 

 十体ものゴーレムが俺達を取り囲んでいやがる、頼みのロックゴーレムは片足を壊されて倒れ込んだ。

 ゴーレムに手荒く殴られ押さえ付けられたが何とか逃げ出さないと、駄目だ痛みで意識が朦朧と……

 

「何故だ、何故こんなゴーレムが居るんだ!チクショー、放し……やがれ」

 

「兄貴、ヤバイぜ、取り押さえられちまったぞ」

 

 このままじゃ死刑だぞ、冗談じゃない、死にたくなんてないんだ!

 

「暫く寝ていろ、尋問は後でするから……」

 

 痛みで意識が朦朧としていた時に聞こえた声は甲高く子供みたいだった、そして急激に睡魔が襲ってきて俺は意識を手放した。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 ハボック兄弟の捕縛、錬金で拘束し水属性魔法で眠らせた。

 拘束した金具も固定化の魔法を重ね掛けしたので僕以上の技量が無ければ外れない、これで半日は目を覚まさないだろう。

 背後から襲って来た奴等は五十七人、前方から襲って来たのは三十五人、合計全部で九十二人、残りが半分居る計算だ。

 ゴーレムポーンに倒した奴等を集めさせて宿舎に放り込んだ、周辺を警戒するも賊の気配は無い。

 

「リーンハルト殿、賊は全滅ですか?」

 

 この貴族の若様は単独行動が多過ぎる、少しは警戒して欲しいと願うのは間違いか?

 

「本命と思われた傭兵団赤月とハボック兄弟、それに賊共を約百六十人倒しましたが情報では後百人近く居ます。もう一回襲撃が有りそうです、警戒して下さい」

 

「殆ど一人で倒しましたよね、凄いと素直に思います」

 

 そんなにキラキラした目で見ないで下さい、僕に不信感と恐怖感を持った女性と騎士二人が睨んでますよ。

 全く若様と僕を関わらせたく無いなら止めて欲しい、遠目で怨みがましい目で見られても困る。

 

「なぁ魔術師殿、村の様子を見に行きたい。未だ燃えてるし出来るなら消火したいんだ」

 

 村の男衆が懇願に来た、未だ村は燃えてるのだろう、夜空が赤々と明るい。

 だが待ち伏せされてたら護衛が居ないと危険だ、僕の半自動制御ゴーレムも流石にそこまで細かい識別は出来ない。

 

「情報によれば残りの賊は百人近く残ってます、僕は此処からは動けない。危険ですから応援が来る迄は我慢して下さい」

 

 気落ちした風に下を向く村人達だが、のこのこ出て行けば襲われるだろう。

 主要な敵戦力は潰したが百人近い賊が居ては村の男衆三十人程度では負ける、ボルガ砦の警備兵も二人が亡くなり四人が怪我を負った、無傷なのは四人だが疲労の色は濃い。

 

「何とかならないのか?」

 

「無理です、危険過ぎます。応援が来る迄は我慢して下さい」

 

 騒ぎを聞き付けて遠巻きに女衆や子供達も宿舎から出て来た、大規模な襲撃を三回も跳ね退けたんだ、希望が見えて来たのだろう。

 ああ、ポロフも両親に挟まれて僕を見ている、悲しそうな表情に心が鷲掴みにされたみたいに苦しい……

 だが実情はボロボロの警備兵に魔力が半分を切った僕しか居ない、村の男衆は戦力にはカウント出来ない。

 なにより優先順位はローラン公爵家の連中の安全だ、貴族の端くれとしてボルガ砦の関係者として村の消火活動に戦力は割けない。

 

「無理を言っては駄目ですよ、皆さんが安全なのもリーンハルトさんやボルガ砦の兵士さん達のお陰なんだ。未だ敵は残っている、危険な行動は慎んでくれ」

 

「ロップスさん!」

 

 ロップスさんもクレイゴーレムを操り背後から攻めて来た賊と戦ったそうだ、ダメージ無視のゴーレムは有効だ、彼の活躍は一目置かれている。

 そんな彼が宥めた事で何とか村人達の感情は収まったみたいだ……

 

「魔術師殿は我等の安全を優先して貰わねば困るんだ、村人なんて放っておけ!」

 

「そうだぞ、ヘリウス様が失われた財産を善意で保障すると言ったのだ。黙って宿舎で寝ていろ、身の程を弁えろ!」

 

 何で纏まりそうだったのに掻き回すんだ、そんなに自分達は偉くて優先されると思ってるのか?

 何故か騎士二人が話し合いに割り込んで来た、村人も嫌な顔を浮かべたが不敬と取るなよ。

 

「さっきまで住んでいた村が文字通り燃え尽きるのです、悲しむ位は良いでしょう。

それに未だ賊は残ってます、時間が惜しいので四回目の襲撃に備えるべきです」

 

「襲撃は後一回、若しくは戦意喪失で時間切れの可能性が高い、もうゴリ押しは効かない、最大戦力のハボック兄弟も倒しました。ですから最後は罠か策略で来るでしょう」

 

 僕が考えるに命が大事な賊ならば勝てないと逃げると思う、最悪はコーラル男爵が捕まっての人質交換だがヘリウス様の方が爵位は上だから無理だ。

 仮に恋人の女性が懇願しても渡せば弟が死ぬのだ、有り得ない。

 だが本当にコーラル男爵と二十人の兵士達はどうしたんだろう?

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 あれから朝迄待機したが賊は攻めて来なかった、既に太陽は遠くの山から完全に姿を現している、現在時刻は朝の六時五十分。

 このボルガ砦は夜の八時に閉鎖し朝の九時に解放する、だが周辺の安全確認を終える迄は旅人を通す事は出来ないだろう。

 

「魔術師殿、朝食です」

 

「有り難う御座います、偉く豪華ですね?」

 

 警備兵が持って来てくれたトレイには食べ易いサンドイッチだが、具がチキンに卵に新鮮な野菜が挟まれている。

 スープには大振りな肉が浮かびパンも固焼きでなく柔らかい物だ、デザートにフルーツまで用意されている。

 

「客人の貴族様が同じ物を魔術師殿にと言われてな、我々も命の恩人には報いたいから良かったよ。もう朝だし賊共は諦めたんだろうな?」

 

 ヘリウス様の気遣いは有り難いのだが、余り僕を優遇するとお付きの騎士達が煩いだろう。

 

「未だ安心は出来ません、王都から応援が来て付近の山狩りをしないと旅人も通過させられませんよ。逆に王都に来る旅人達の安否が気になります」

 

 お腹が空いていたので有り難くサンドイッチを一つ頬張る、パンは焦げ目が付く程度に炙ってありバターまで塗ってある。

 

「そうだったな、それにコーラル男爵の捜索もしなければ駄目だな。未だ帰還しないとなれば……」

 

 賊共に捕まったか殺された可能性が高い、それは不名誉な事だ、貴族が賊程度に負けるなど大問題だ。

 しかも彼はボルガ砦を預かる責任者、不在時に守るべきローラン公爵家の人達が危険に曝されている。

 ボルガ砦の責任者としての責務も問われる、警備兵を二十人も連れて行った事も今考えれば無謀と指摘される。

 

「生きて居ても更迭は免れないでしょう」

 

 僕等の手柄を掠め取れば弁解の余地は有る、ハボック兄弟と傭兵団赤月、ヘリウス様達も無事なら言い訳は出来る。

 それも応援が来る迄に戻れればだが、難しいだろうな。

 有り難く豪華なサンドイッチを頂き紅茶を飲んでいる時に有り得ない事が起こった。

 

 破壊された正面口から馬に乗って近付いてくる一人の男、警戒して様子を伺うが顔が確認出来る程に近付いて……

 

「コーラル男爵、一人だけ無傷で帰還したのか」

 

 見間違う事は無い、それは昨日二十人の警備兵を引き連れて賊共の討伐に向かったコーラル男爵本人だった。

 


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