古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第187話

 ボルガ砦にローラン公爵家の相続権第一位の少年が逃げ込んで来た、襲った賊を討伐する為にコーラル男爵は砦の警備兵二十人を率いて出撃。

 だがそれは巧妙な罠だった、彼等をやり過ごした賊がボルガ砦を襲う。

 警備兵二人が殺されたが撃退し捕虜から賊共の情報を得られた、かなり計画的で大人数が投入されている。

 非道で有名な傭兵団の赤月(あかつき)に巨大なロックゴーレムを操るハボック兄弟、全員で二百人以上居るらしい。

 だが生き残る為の道筋は掴んだ、後は間違えない様に進めるだけだ。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 警備兵達が生き残りの賊を始末した、人手の無い僕等には捕虜など足枷でしかない。

 野盗は捕まれば死罪確定だ、仏心を出して逃がしても善良な人達から搾取する奴等だから遠慮はしない。

 

「先ずは応援を呼びましょう、ボルガ砦に馬は残って居ますか?」

 

 討伐隊が多くの軍馬を使ってしまったが緊急連絡用の軍馬は残してくれてるだろうか?

 

「連絡用の早馬が二頭居る、後は彼等が乗って来た馬達だが少し疲れているな」

 

 連絡専用の早馬は有り難い、ローラン公爵家の馬は騎馬が三頭に馬車を引いていたのが二頭、騎馬は疲労が少ないから使えるだろう。

 

「直ぐに応援を呼びに行って下さい、最初に聖騎士団で次に魔術師ギルドに行って白炎のベリトリアさんにハボック兄弟が居ると伝えて下さい。

多分ですが無償で彼女が応援に来てくれます、ハボック兄弟は彼女の家族を殺した仇です」

 

 家族と言うか村全体の仇と聞いた、教えないのは不義理だろう、出来れば捕縛して生かしたまま引き渡したいが難しいか?

 

「分かった。時間が無い、直ぐに出る」

 

 警備兵が二人、馬小屋に向かって走って行く。彼等が馬の扱いに慣れた連絡係なのだろう。

 

「さて、貴方達三人の内一人は一緒に応援を呼びに行って下さいませんか?ローラン公爵家にも独自の応援網が有る筈と思いますが?」

 

 家督争いの最中だ、下手な所には駆け込めない、最悪は妨害される心配も有るから警備兵は聖騎士団に向かわせた。

 誰が味方で助けてくれるかは彼等しか知らない筈だから……

 

「今から馬車で逃げれば良いだろ!お前等が足止めすれば俺達は何とかなる筈だ」

 

「迂回している連中も複数居るそうです、馬車は遅いので追い付かれる心配が有ります。

一人乗りの騎馬なら早いし馬の負担も少ない、包囲される前に抜けられる可能性が高いと思いませんか?」

 

 やはりローラン公爵家の威光により僕等を捨て駒程度に考えているな、ボルガ砦の警備兵が二人向かったし行かなければ別に構わないか。

 変に刺激して馬鹿な事をされるよりマシと考えよう、彼等にはローラン公爵家の人達と一緒に此処に居てくれれば良い。

 

「バッゾ、お前が父上の所に救援を頼みに行くんだ」

 

「ヘリウス様、しかしですね」

 

「今回の訪問は最初から変だと思ったのだ、叔父上から大事な件だと言われてノコノコ出て行けば大した事は無い。

付けてくれた護衛とは逸(はぐ)れて賊に襲われる。だが逃げ込んだボルガ砦に『ゴーレムマスター』殿が居たのが叔父上の誤算だったな」

 

 叔父上か、具体的な名前は聞いてないが本人が襲撃の張本人と決め付けているのか、そして頼れるのは父親だけとなると親族は皆敵対してるのか?

 それに名乗ってないのに僕の事を知っている、この同い年位の若様は中々の癖者だぞ。

 

「お初にお目に掛かります、リーンハルト・フォン・バーレイと申します」

 

 貴族的礼節を守り一礼する、時間が本当に無いのに彼以外の危機感の無さは何だ?

 慌ててはいるが何かをしようとは思わない、受け身なんだよな……文句は言うが。

 

「ヘリウス・ド・ローランだ、迷惑を掛ける。バッゾ、早く行かんか!」

 

「ハッ!了解致しました」

 

 頭を下げて馬小屋に走り出したが僕を睨んでから行った、根に持たれたな。

 

「ロップスさん、すみませんが集落の人達をボルガ砦に集めて下さい、賊なら彼等を襲うでしょう、時間が惜しいので荷物は最小限でお願いします」

 

「村人がそのままなら我々を襲う奴等が減るだろ、何故わざわざ助ける?」

 

 バッゾと呼ばれた騎士だけだと思ったが残り二人も貴族様々な思想か、だが公爵家の関係者なら普通だろう。

 

「荷物がそのままなら家捜しして金目の物を捜すでしょう、でも時間稼ぎは出来ます。

それに僕はデオドラ男爵から極力民を守る事が為政者として貴族として必要だと学びました」

 

 あの集落にはポロフ達が子供達も沢山居る、野盗共に襲わせる訳にはいかない。

 

「賊の約束は破り殺すのに民は守るのですね。ヘリウス、その者の言う事は信用出来るのですか?私は信用出来かねますわ」

 

 コーラル男爵と仲の良かった女性だ、近くで見たのは初めてだが……その、彼より年上で美人ではないな、気立てが良いとも思えない、政略結婚絡みか?

 

「姉さん、何を言い出すのですか!」

 

 姉さんだと?親族か、だが似てはいない、異母兄弟の可能性も、余計な事は考えるな。

 

「構いませんよ、事実ですし守るべき物も者も理解してます。賊と罪無き民とどちらが大切か分かってます」

 

「年下なのに御立派ですわね!」

 

「姉さん!リーンハルト殿の言う事を聞くのです、それが今一番大切なのです。リーンハルト殿、私達は此処に居れば良いのですね?」

 

「ええ、お願いします。後は僕等に任せて下さい」

 

 良かった、ヘリウス様は理解が有る、後は僕等の仕事だ。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「ヘリウス、あの様な下賎な者の言う事を聞くなどローラン公爵家の跡取りとして恥と思いなさい」

 

「姉さん、言い過ぎです。リーンハルト殿は今エムデン王国で話題の魔術師です、デオドラ男爵のお気に入りで元宮廷魔術師のバルバドス様の愛弟子。

彼は一人でオークの群を殲滅する程の腕前らしいので、賊程度には負けないでしょう」

 

 みすみす叔父上の罠に嵌まって危機的状況に追い詰められた、周りには役立たずの取り巻き騎士と姉さんだけ。

 姉さんの言う通りに婚約者のコーラル男爵を頼りボルガ砦に逃げ込んだ、確かに頼りになりそうで砦の警備兵の殆どを連れて討伐に向かったが……

 擦れ違いで賊が襲って来た、此処に逃げ込むのも奴等の計画の内だったのだろう。

 だが何故かボルガ砦にはエムデン王国で噂の魔術師殿が居てくれた、僕の取り巻き達の半数以上を倒した賊共を簡単に殲滅し拷問紛いに情報を得る手際の良さ。

 噂通りの有能さだ、このチャンスを逃がす訳にはいかない、彼を使えば道が拓ける。

 

「信じられませんな、未だ子供ではないですか!」

 

「全くだ、我等を誰だと想っているのだ。我等を優先せずに集落の民も守るとか馬鹿げている」

 

 無事に父上の所に逃げ込めれば巻き返すチャンスは有る、しかし口だけで役に立たない二人だな。

 ヘンドリックとベンジャミンは姉さんの従兄弟らしいが、騎士の割には武力が低い、口だけの男達だが姉さんの手前近くに置いているんだ。

 

 それにお前達が偉いんじゃない、僕が偉いんだ!

 

 今思えば頼りにしていたボーディック卿もべリスも用事が有り僕の側に居ないのも計画的だったんだ、僕は叔父上の掌の上で転がされていたんだ!

 

「ヘンドリック、ベンジャミン、落ち着くんだ。姉さん、お茶を煎れて下さい。慌てずリーンハルト殿の御手並みを拝見しましょう」

 

 もはや慌てても仕方ない、此処は落ち着いて構える事ですね。

 

「悔しいが派閥違いでは引き込めないか……僕の知る魔術師とは全く違うゴーレムの運用、あれが『ゴーレムマスター』の二つ名を名乗れる強さなのか」

 

 青銅の戦士を三十体も自在に操れるなら僕の配下の護衛団と同等か、それ以上の戦力。

 彼を側近に出来れば何も怖くは無いだろう、今の不安定な僕の立場には必要だ、諦め切れない。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 ローラン公爵家の連中をコーラル男爵の執務室に押し込める事に成功した、集落の人達も集まって来た。

 不安な顔をしている、急に危険だからと着のみ着のままで集められれば仕方ない。

 幸いボルガ砦には有事の際には三百人近い警備兵を常駐させるだけの設備が有る、手際良く宿舎に割り振り押し込まれている、申し訳ないが不安な一夜を過ごして貰うしかない。

 賊は残り百七十人くらい、傭兵団の赤月とハボック兄弟さえ気を付ければ後は烏合の衆だと思う。

 半数以上を倒せば勝手に瓦解するだろう、金と欲望で繋がった連中など不利になれば崩壊する。

 

 篝火を焚けるだけ焚いて明かりを確保した、正面口は開けっ放しで閉めてはいない。

 コーラル男爵は門を閉めるなと厳命していた、何故だ?

 賊を倒す自信が有った、逆に自信が無かったから逃げ込みやすい様に開けておいた、仮にも砦を預かる責任者が門を開けておく指示を出すか?

 

 だが閉める訳にはいかない、コーラル男爵が生きて戻って来た時に揉めるからな。

 だが敵は予想以上に準備万端みたいだ、コーラル男爵は無事だろうか?

 

「しかし逆に言えば門が開いてるから、そこに集中して集まるから守り易い……コーラル男爵はそこまで考えて?」

 

 いや、考えるのは此処までだ、傭兵団赤月のお出ましか。

 正面口の手前で仁王立ちで賊を睨む、流石に暗いので徒歩だ。

 纏まりも無く歩いてくるが50mも離れているのに酷く嫌らしい笑みを浮かべている、全員が既に武器を抜いている。

 あの顔は殺戮と略奪が楽しみって感じだ、昔良く見たな、戦いに心奪われて人間として壊れた顔だ。

 

 戦闘準備だ、先ずは魔術師のローブを脱いでハーフプレートメイルを着込む、僕が魔術師でなく戦士として侮ってくれれば幸いだな。

 

「よう、餓鬼。一人か?此処に逃げ込んだ貴族様はどうした?」

 

 開けたままの正面口から砦の中に入って来た、下手に討ち漏らすより確実に倒す為に全員中に入るのを待つ。

 

「既に王都に発ちました、無駄足でしたね、赤月傭兵団の皆さん」

 

 おかしい、逃げ出したと言ったのに慌てる様子が無い、此処に留まっていると確信してるのか?それとも直ぐに追い付くと思ってるのか?

 情報が足りない、先程と同じ様に何人か生かして捕まえて尋問するか、何か見落としているかも知れない。

 

「嘘だな、此処で匿っているのは知ってるぜ。

お前みたいな餓鬼じゃ楽しめないな、近くに集落が有ったしソッチも襲うか。なぁ他人から全てを奪うって楽しいなぁ?」

 

「そうでも無いですよ、お前等の命を奪っても何も感じないですし」

 

 安い挑発に簡単に引っ掛かる、まぁ三十人に対して一人じゃ強気にもなるか、警備兵達も遠巻きで不安そうだ。

 

「随分と意気がるじゃないか、嬲り殺し確定だな」

 

 僕を中心に扇形に広がって弓を構えだした、挑発した割には基本に忠実だ……だが僕に弓矢は通用しない。

 

「蜂の巣になりやがれ、撃て!」

 

 自分に向かい一斉に矢が飛んでくるのは、防げると分かっていても心臓が締め付けられるな。

 

「魔法障壁よ!」

 

 常時展開型魔法障壁だが違う風に装う、強固な魔法障壁には弓矢など効かず全てを跳ね返す。

 

「餓鬼が、魔術師とは謀ったな!」

 

 驚愕の表情だが一人で立ち向かう子供が居たら怪しいと疑えよ、事前にゴーレムを並べてないから大丈夫だとでも思ったのか?

 

「クリエイトゴーレム!弓矢をお返しします」

 

 三十体のゴーレムポーンを三秒で錬成、水平撃ちで応戦する。

 二斉射するとリーダーを残して傭兵団赤月は全滅、リーダーも逃走防止の為に片足を撃ち抜いた。

 

「何だよ、土属性魔術師の餓鬼が四人居るって聞いてたが、ゴーレムさえ召喚させなきゃ大丈夫じゃないのかよ?クソッ、クソがぁ!」

 

 ああ、コレで味方に内通者か裏切り者が居る事が確定だな、情報がリアルタイムで流れている。

 やはり叔父上と言われた実行犯は入念に計画をしている、だが詰めが甘い。

 残りの強敵はハボック兄弟だけで後は烏合の衆の筈だが、何かもう一手か二手有りそうだな。

 戦力として信じられるのは自分とロップスだけ、警備兵は買収されてるか分からないぞ。

 


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