古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第185話

 ボルガ砦の補修、一日目の午後の作業開始だ。

 午前中に正面口周辺のヒビ割れ部分十七ヶ所の補修は完了、残りは大穴塞ぎが四ヶ所だが先ずは状況の確認。

 一番大きな穴は直径80cm深さは50cmすり鉢状に凹んでいる、だが破損箇所は焦げてなく部分的に平滑だ。

 

「この凹み方は爆発系の魔法攻撃じゃない、何か固い物で叩いた跡だ。攻城兵器の破壊筒か?

だがアレは台車に先端を尖らせた丸太を乗せて突っ込む物だ、高い位置への攻撃は無理だし本来は扉を壊す、擁壁みたいな堅固な場所には使わない」

 

 つまり土属性魔術師の高位攻撃呪文であるアイアンランスを直径50cmまで巨大化して撃ち込むか、大型ゴーレムにメイスやハンマー等の打撃武器を使わせるかだな。

 パッと思い付くのはハボック兄弟のロックゴーレムだな、大型ゴーレムを使える土属性魔術師は限られているし可能性は有る。

 王都に帰ったらベリトリアさんに教えておくか、彼女の復讐の相手だし手掛かりを教えないのも不義理だし。

 

「先ずは補修してからだな、クリエイトゴーレム!」

 

 ゴーレムナイトを二体錬成し先ずは手頃な岩を持って穴に押し込む、もう一体のゴーレムナイトには土を練らせて穴と岩の隙間に詰めさせる。

 ある程度叩いて表面を平にしたらヒビ割れ部分の補修と同じ要領で進める。

 先ずは取り合い部分を砕いてから魔法で一体化して固定化の魔法を重ね掛けて完了、一ヶ所辺り三十分か……

 同じ要領で残り三ヶ所を終えたら午後三時を過ぎていた、丁度ロップスさん達も門扉の補修と再取付が終わったみたいだな。

 クレイゴーレムで何度も門扉の開け閉めをして不具合が無いか確かめている、上手く取付出来たみたいだ。

 

「修理完了かい?」

 

「ああ、上手く取付られたよ。開閉もスムーズだ」

 

 珍しい大型のクレイゴーレムが門扉の開け閉めをしているのを遠巻きに皆が見ている、ロップスのクレイゴーレムならハンマーを持たせれば擁壁に大穴を開けられるな。

 

「良い時間だし休憩しようよ、持参した焼き菓子が有るから振る舞うよ」

 

 労いの言葉を掛ける、思えば同い年位の土属性魔術師とこんなに接するのは初めてだ。

 

「「やった!お菓子だ」」

 

 ミリアンとマックスの喜び様が凄い、二人で手を繋いでクルクル回っているが、そんなに甘い物に飢えていたのか?

 やはりマックスはインゴと被る、引き合わせれば友達になれるんじゃないかなと、友好関係が狭い我が弟の事を思う。

 持ち込み品を食べる事を周りに見られても嫌なので宿舎に戻り午後のティータイムを楽しんだ。

 後は全員でヒビ割れ部分の補修を行い僕のノルマ450㎡の内230㎡が終了、約半分を終えて頑張れば明日には指名依頼が達成出来そうだ。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 その日の夜のメニューだが、豆と雑穀スープに固焼きパンが二つ、それとオレンジが一つだった。

 我慢出来ずにロップスが料理番に聞いたらメニューは十日間は同じらしい、大鍋に同じ食材を足しながら作るので滞在中は……

 

「此処に居る時は全て同じメニューか、贅沢は言えないけどね」

 

 獣脂ランプを消すと少し嫌な臭いがするが夜の男だけの雑談には関係無い、二段ベッドは下がロップスさんと僕で上がミリアンとマックスの割り振り。

 夜も九時を過ぎれば後は寝るしか無い夜更かしはランプを使うので贅沢なのだ。

 

「リーンハルトさんはジゼル様って婚約者が居るんでしょ?貴族のお姫様かぁ、憧れるな」

 

 古く寝返りをするだけでギシギシと五月蝿い二段ベッドの上に寝ているマックスが僕とジゼル嬢の関係を知っていた事に驚いた、意外と噂好きなのか?

 

「まぁね、派閥の取り込みも兼ねてるけどね、でも悪い娘じゃないよ」

 

 腹黒い謀略令嬢だけど信頼も信用もしている、僕が何時も迷惑を掛けて困った顔をするんだ。

 

「デオドラ男爵からの引き抜きで愛娘を与えられるのか。僕も活躍して名前が売れれば美女が褒美として……うへへ」

 

 ロップスが妄想の旅に出た、暫くは帰って来ないだろう。何かに成功して美女を娶るのは時代を問わず男達の夢だからな……

 

「あんな事を言ってるけど、ロップスさんは新婚ホヤホヤなんだよ」

 

「そうなんだよ、年上の奥さんの尻に敷かれてるって姉ちゃん達が言ってた。何でも幼馴染みらしいよ」

 

「へぇ、幼馴染みで年上の奥さんか……」

 

 それは尻に敷かれるな、幼馴染みで年上なら小さい頃から面倒を見て貰ってるだろうし色々な事を知られている。

 最初から頭が上がらない結婚でも自由恋愛は平民の特権か、羨ましいな。

 

「リーンハルトさんはもうジゼル様とヤッたんですか?」

 

 おぃおぃマックス、キャラが違うだろう!でも十代半ば以降って一番性欲が漲(みなぎ)るらしいな。

 

「まさか、貴族の婚約者など下手したら複数居るんだぞ、結婚する迄は清い関係だし手を出したらデオドラ男爵に殺されるよ」

 

 本当は今直ぐ手を出しても構わないと言われている、アーシャ嬢とジゼル嬢については良く考えないと時間が無いんだ。

 

「それって、蛇の生殺し?」

 

「据え膳食えないって辛いですよね?」

 

「ははは、そうだね。ミリアンやマックスは恋人が居るのかい?」

 

 強引に話題を変える、しかし初めて猥談(わいだん)って奴を体験した、僕の周りでは出来ない話だ。

 

「誰か紹介して下さいよ、マックスの姉ちゃん達以外で!」

 

「何だと、ウチの姉ちゃん達が気に入らないのかよ!」

 

 上で口喧嘩が始まった、だがマックスには姉が三人居て一歳ずつ違うのか。十五・十六・十七歳は結婚適齢期だし縁談の一つや二つは来てる筈だな。

 

「よし、決めたぞ。ローラには悪いが妾として新しい女性を囲うぞ」

 

 ロップスさんが覚醒した、変な方向に……

 

「そんな事を言ったらローラさんに叱られますよ」

 

「ローラ姉ちゃん怖いからな、巻き添えは嫌だよ」

 

「馬鹿野郎、ローラには内緒に決まってるだろ!

でも本妻はあくまでローラだ、僕はローラを愛しているんだ。でも美女をくれるって言うのに男なら断れないだろ?」

 

 愛してる、とか平気で言えるんだな、有る意味羨ましいし妬ましい。

 だが彼の中では何かの成功報酬として美女が貰えたのだろう、いや貰える事を妄想してのシミュレーションの結果なのだろう。

 

「仲が良いんだね、君達はさ!」

 

 男も三人集まれば喧しいのは女と同じか……

 その後も色々と話をして気が付いたら何時の間にか寝てしまったらしく朝だった。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「大事なお客様って来なかったですね」

 

 既に時刻は午後四時半過ぎ、夜が近くなり冷え込んで来ている、太陽が隠れたら急激に寒くなるだろう。

 

「そうだね、来たら分かると思うが、それらしい重要人物は来なかったね」

 

 翌日、大事なお客様が来るからと正面口を優先で補修したのだが肝心な大事なお客様は来なかった。

 朝食と昼食を何時もの豆と雑穀のスープと固焼きパンとオレンジで済ませノルマである450㎡を達成したのに来なかった。

 まぁ旅ならば一日や二日の遅れは許容範囲だろう、僕的には二日間でノルマを達成しロップスさんに確認して貰い書類関係も全てサインを貰えた。

 同世代の同じ属性の魔術師達と仲良く出来たので嬉しい指名依頼だった、彼等とはこの先も友達として交流していく事になった。

 後は最後に同じメニューの夕食を食べて翌朝一番で帰るだけだと気楽に考えていた、だが傷を負った連中がボルガ砦に逃げ込んで来た事により状況が変わったんだ。

 

「今来た男だけど高そうな鎧兜を着込んでたぞ、胸の紋章は三日月に狼、ローラン公爵家のだ」

 

 盾に黄色の三日月と灰色の狼の紋章だった、武闘派として有名な一族だ。

 だがローラン公爵家は相続問題で揉めていると聞いている、派閥が違えどデオドラ男爵とは好敵手だった現ローラン公爵は病床の身で子供達が家督を争っている。

 今のエムデン王国内で一番きな臭い一族だとジゼル嬢から教わっている、つまり係わり合いにならない様にだ。

 

「それに直ぐ後から来た馬車も貴族用の豪華な物だったよ。でも貴族様の護衛に騎兵三人だけは可笑しいよね、襲撃されてたみたいだし……」

 

 ミリアンの指摘は正しい、彼等は襲撃されて逃げて来たんだ。

 馬車から降りたのは若い女性と少年だがボルガ砦の責任者のコーラル男爵が飛び出して来て女性と抱き合ったぞ。

 どうやら妻か恋人みたいだな、でも少年は二人の子供には見えない、僕と同い年位だから。

 

「コーラル男爵の関係者みたいですね、でも馬車の紋章はローラン公爵家の物。これは面倒臭い事になりそうだな」

 

「ローラン公爵家は家督争いで揉めてるんだろ?その関係者が襲われた、コーラル男爵はどうするのかな?」

 

 僕の呟きにロップスさんが答えてくれたが、相手が単純に野盗なのかあの女性と少年を害する為に雇われた傭兵なのか分からない。

 分かっている事はコーラル男爵は討伐に兵を送らなければ駄目な事だな、公爵家を襲う連中を野放しには出来ない。

 暫くするとコーラル男爵自らがボルガ砦の警備兵三十人の内、二十人を率いて出て行った。

 

「ローラン公爵家の人達はボルガ砦に残ってるのか、本来なら急いで王都に逃がすんじゃない?」

 

 一番豪華なコーラル男爵の執務室が有る建物に滞在中らしく周囲には警備兵が五人立っているのが見える、コーラル男爵達が戻っても良い様に正面門は解放している。

 僕等の宿舎からも窓越しに様子が分かるが少し無用心だと思う、コーラル男爵は自分が襲撃者達を討伐する自信が有るのだろう。

 だから危険を承知でローラン公爵家の人達をボルガ砦に残した、僕でもロップスさんの言う通りに直ぐにでも王都に向かわせるのに……

 

「僕も同じ考えだけどコーラル男爵は自分が見事に襲撃者を討伐して、あの女性に良い所を見せたいんだろうね。

仮にもボルガ砦を守る正規兵二十人を連れていったんだ、負けるとは考えないだろう」

 

 豆と雑穀スープを木のスプーンで口に運びながら考える、ボルガ砦周辺の噂話、擁壁の破損状況、ローラン公爵家の家督争い……

 

 多分だが少年の方が『大切な客』だ、女性とは良い仲みたいだし客とか他人行儀な言い方はしないし周りからも丁寧に扱われていた。

 そしてエムデン王国内から多数の野盗共がボルガ砦を越えた、その中には砦の擁壁を破壊出来る奴も含まれている。

 

「ロップス、クレイゴーレムは何体作れる?

ミリアンやマックスはゴーレム作れるか?いやゴーレムで戦えるか?」

 

 最悪の場合、コーラル男爵は負けて野盗共がボルガ砦に押し寄せてくる、残りの戦力は僕等と警備兵十人、ローラン公爵家の家来は怪我を負ってるから使えない。

 彼等を逃がし付近の集落も守りながら野盗共と戦う、条件が厳しいな……

 

 単純に目の前の敵を倒すなら簡単だ、完全装備のゴーレムポーン百体ならゴリ押しでも勝てる。

 だがローラン公爵家の人々と集落の人達を守りながらだと広範囲過ぎてカバーし切れない。

 

「リーンハルトさんは戦うつもりですか?僕やマックスは戦闘用のゴーレムは使えないよ」

 

「僕のクレイゴーレムは大型なら一体、通常サイズなら三体だけど殴る蹴る位しか戦えないぞ。リーンハルトはどうなんだ?」

 

 ロップスでも囮、ミリアンやマックスは無理、元気なのは残された警備兵十人だが彼等とて不眠不休だ、一晩なら良いが長引けば厳しくなる。

 

「僕は戦闘用ゴーレムなら五十体同時運用が出来る、だが自分が見える範囲だよ」

 

「つまりローラン公爵家の人達に着いて行けばボルガ砦と集落は守れない、だけどボルガ砦の放棄とか無理だよね?」

 

「ああ、無理だ。擁壁の補修で来てるからとか言い訳出来ないだろうな。コーラル男爵の面子も有るし巻き込まれたけど頑張って足掻くしかない。

勿論コーラル男爵が討伐に成功すれば問題無いけど、敵にはハボック兄弟が居る可能性が有る」

 

「ハボック兄弟?懸賞金付きのお尋ね者だぞ!」

 

 受け身でしか動けない状況が歯痒い、だが少しでも警戒して待つ事にするか……

 


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