古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

182 / 999
第182話

 過去の自分を捜す、言葉で言うと何と無く格好良いのだが実際は違う。

 手掛かりは今に伝わる吟遊詩人の詩だったが300年の歳月は全くの別物語に変わっていた。

 滅んだ国の魔術師だし我ながら有名だった事に驚いたけど大衆が喜ぶ内容に変化していったんだな。

 そして語られた内容も微妙に近く微妙に違う、所々は合っているだけに質が悪い、しかし大衆娯楽としてならば楽しめるので何とも言えない、伝え続けた吟遊詩人達の才能は認める。

 

 だがバルバドス師は僕の魔法を転生前の自分と繋げた、吟遊詩人の詩の他にも今に伝える情報が有るのだろうか?

 あのあとネーデさんに聞いたが今エムデン王国に居る吟遊詩人はローレンスさんだけらしい、大体二ヶ月位で入れ代わるらしいので次回を待とう。

 

 それよりも問題は内緒で火の鳥に来てしまった事だろう、理由は言えない僕の前世を調べる為だから。

 でも前世探しは暫く中止だ、過去を振り返っても有益な事は何も無い、余計な苦労を背負い込むだけみたいだ。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 翌日、バルバドス師の屋敷を訪ねた後に魔術師ギルドに向かう事にする。

 師弟関係を結んだのでアポなしで訪ねても大丈夫な関係は有り難い、普通は伺いを立てて日付を決めるのが貴族の礼儀。

 親族か親しいか、又は重要な用件とか緊急性がなければアポなしは非常識に当たる、例外は身分上位者が下位の者を訪ねる時くらいか。

 残りの指名依頼は三件、メディア嬢のアクセサリー製作依頼はアーシャ嬢の誕生日パーティーの後で良いので余裕が有る。

 だが残りの二件は調整が必要だ。

 冒険者ギルドからの依頼のボーンタートルの討伐は来週末には王都を発たねば間に合わない。

 魔術師ギルドの砦の修繕については内容も時期も詳細は直接行って話し合わねばならない、時期的に重なれば冒険者ギルドの方を優先したいがユリエル様絡みだから厳しい。

 直ぐにでも向かって短期間で片付けるのが理想だが、その為にも依頼内容を詰めなければならない。

 

 魔術師ギルドは新貴族街の中程に有る、戦力としても有力だからこその待遇だろうか?

 今朝から強い風が吹いていて遠くの山々の辺りから黒い雨雲が近付いて来ている、まだ日が差しているが午後は雨になるな。

 バルバドス師の屋敷に到着する頃には太陽は雨雲に隠れてしまった、思ったよりも早く天気は荒れそうだ。

 

「おはようございます、バルバドス様は御在宅でしょうか?」

 

 顔なじみとなった番兵に声を掛ける。

 

「これはリーンハルト殿、主は居るが来客中だ。待たれるか?」

 

 割と早い時間なのに既に来客とは急ぎの用だろうか?

 

「大切な来客なら後日改めて来ます」

 

「大切かは俺達には分からないが来ているのはフレネクス男爵とフィーネ様だ」

 フレネクス男爵の次女であるフィーネ様はバルバドス師の後妻、番兵の言葉には棘が有るのは夫婦仲は上手く行ってないかバルバドス師の家の者には良く思われていない。

 前回来た時にメイドのナルサさんに聞いた話では、確か実家に帰省中だった筈だ。

 

「確かフィーネ様とは後妻に迎えられた方ですね?ならば色々と話は複雑でしょう、後日改めて参ります」

 

 フレネクス男爵はニーレンス公爵派だ、下手な接触は色々と不味いだろう。

 ただでさえバルバドス師は後継者問題で揉めている、先妻に子供は出来ず後妻と側室二人にも子供は居ない。

 元宮廷魔術師だし財産も莫大だろう、バルバドス師も六十歳を越えているしフレネクス男爵は養子でも勧めに来たのだろうか?

 

「そうか、来た事は伝えておこう」

 

 番兵に一礼してバルバドス師の屋敷をあとにする、仕方ないが魔術師ギルドに向かうか……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 バルバドス師の屋敷から徒歩で十五分、魔術師ギルドの前に着いた。

 既に空は雨雲に覆われ頬には大粒の雨が当たる、見上げる建物は石積みで窓には鉄格子が嵌まり外壁には蔦が絡まる独特な雰囲気を醸し出している。

 正面入口の両脇には人の代わりにゴーレムが六体警備をしている、能力は僕のゴーレムポーンと同等位か?

 五段の階段を上がり両開きの扉を開けるがゴーレムは反応しない、ラインが建物内に伸びているから自動制御でないと思うが見られている気配はない。

 そのまま扉を開き中に入る、広いロビーの中央に受付カウンターが有り数人のローブを来たギルド職員が居る。

 受付と書かれた札の前に進むと下を向いていた職員が顔を上げた。

 

「魔術師ギルドに御用ですかな?」

 

 初老の男性だ、纏う魔力はそれなりで人の良さそうな笑みを浮かべている。

 

「冒険者ギルドから指名依頼を受けて依頼主である魔術師ギルドに来ました」

 

 懐から指名依頼書を取り出してカウンターに載せると受け取って内容を確認している。

 僕達のやり取りを数人の魔術師ギルド職員が窺っているが全員から魔力を感じる、魔術師ギルドは関係者の殆どは魔術師なのか?

 

「確かにウチからの依頼みたいですね、確認しますので少しお待ち下さい」

 

 向かいの壁際の椅子を勧められて対応してくれたギルド職員は奥へと行ってしまった。

 冒険者ギルドと違い職員の他に誰も訪ねて来ないのか、ロビーを見回せば依頼書が貼られたコーナーも有るのに……

 五分程待たされて別室へと通された、途中の通路で探索系の魔法を掛けられたが全てレジストする。

 魔法をレジスト出来る事を知られたが、レジストせずに僕の能力とか色々を知られる方が不味いと判断した。

 

「こちらの部屋でお待ち下さい」

 

 特にレジストした事は言われず探索系魔法を無許可で掛けた事も言わずに応接室に押し込まれた、だが備品のグレードは高いな、結構な高級品が飾られている。

 暫く待つと中年と若い女性が部屋に入って来た、どちらも纏う魔力は強い、現段階では僕よりも強いだろう。

 

「お待たせしました、魔術師ギルドの長をしているレニコーンです。彼女は秘書のリネージュです」

 

「ようこそ魔術師ギルドへ、リーンハルト殿」

 

 淡々と自己紹介された、表情からは何も感情が読み取れない、歓迎されてるのか、されてないのか分からない。

 

「急な訪問で申し訳ない、リーンハルト・フォン・バーレイです。指名依頼を頂き有り難う御座います、今日は内容の確認をしに来ました」

 

 取り敢えず丁寧に対応して様子を伺う、探索系魔法についてはアレが魔術師ギルドでは普通の対応かも知れないので敢えて触れない。

 彼女達はオーソドックスな魔術師の格好をしているが杖は持っていない、だが指輪や腕輪が魔法の発動補助器具だな。

 一般的に魔術師が杖を使うのは魔法の発動の補助や強化が出来るから、でも杖以外でも発動体は作れる。

 僕の使うカッカラは発動補助の能力は無い、気に入ったので固定化を重ね掛けし強度だけ増した物だ。

 

「ふむ、噂通りの有能な魔術師みたいですね。纏う魔力も均一で力強いし途中で仕掛けた探索系魔法も全てレジストされましたし……」

 

「でも今のレベルには不釣り合いな強さと思いますね」

 

 やはり指名依頼は僕の能力調査を兼ねているみたいだ、あからさまに調べてきたのは素の対応を知る為か。

 この段階で漸く紅茶が出された、持って来たのは男性だった、因みに彼も魔術師だ。

 

「確かにレベル上昇により魔力総量は上がりますが魔術師としての強さは他にも有ると思います。練度や創意工夫で幾らでも補えると思いませんか?」

 

 実際にレベル差による強弱は有るが決定的な差では無い、低レベル魔術師でも工夫次第で高レベル魔術師に勝てるし逆も有る。

 勿論越えられない壁は存在する、堅固な魔法障壁に低レベル魔術師の魔法は絶対に通用しない。

 

「確かにそうですね、そういう考え方も一部正解。

でも現実は非情、単純な弱肉強食の世界だと私は思います。さて話は逸れましたが本題に戻しましょう、リネージュ書類を」

 

「はい、レニコーン様。こちらになります」

 

 テーブルに差し出された書類には依頼の詳細が書かれている、砦の名称や場所、破損の状況から補修内容。

 現地の責任者の名前から期間に宿泊先や食事等の細かい内容まで多岐に渡る、全て読むのに五分程かかった。

 その途中でまた探索系魔法を掛けられたが、これは……エルフ特有の物に似ている。

 慌ててレジストしたが、レティシアよりも格段に効果は低いが確かに似ている術の構成だ。

 流石は魔術師ギルド、エルフ族の魔法も研究し実用化してるのか……

 

「内容は確認しましたが幾つか確認が有ります。

実は他にも期限付きの指名依頼を受けていますので直ぐにでも取り掛かり来週半ば迄には終わらせたいのです。多分ですが三日程で終わると思います」

 

 実際は二日、頑張れば一日半って所だが多目に言っておく、量を増やされても困るので往復を考えて実働三日が最大だろう。

 

「ふむ、明日にも王都を発てば往復四日で作業に三日、合計七日間で完了、ギリギリですね」

 

「はい、可能なら先に他の依頼を終わらせてから」

 

「いえ、その予定で構いません。砦修復は国防に関わる問題、実は先発として昨日に魔術師ギルドから三名の土属性魔術師を送り込んでいます」

 

 言葉を途中で遮られたが他にも土属性魔術師を送り込んでいるのは初耳だ、依頼書にも書かれていないぞ。

 彼等と連携または彼等の分まで完了しないと依頼達成にならないとかは勘弁して欲しい、ノルマ達成が依頼完了だと言質と書面による確約をしなければ駄目だ。

 珍しく少しだけ慌てた感じがした、やはり共同作業に巻き込むつもりか?

 

 間を開ける為に紅茶を一口飲む、ストレートなので茶葉の良し悪しが分かり易いが良い物だ。

 

「それでは明日、王都を発ちます」

 

「そうですか、宜しくお願いします」

 

話を早目に切り上げに来たのか?いやに急かすのは気のせいか?

 

「最後に先発した方々とノルマを分ける事を明確にしておきたいのです。

国防の為に魔術師ギルドが送り込む程の精鋭、黙っていれば僕のノルマにまで手を掛けてくれるでしょう。

この依頼書には達成条件が図面で補修場所が記されていて、その内の補修依頼面積の合計数量しか記載されてない。

ノルマは全体補修必要面積1750㎡の内450㎡ですが割り振り決定権は誰が持ってますか?出来れば此処で範囲を決めてしまいたいです」

 

 飛び飛びで難しい場所だけを集中的にやらされるのも困る、三日間で終わらせるには補修範囲を固める必要が有る。

 二人の表情を伺うが全く動じてない、想定の範囲内って事は他に見落としや向こうの思惑は別か?

 

「そうですね、既に補修作業が始まった後での合流になると思いますが担当者にリーンハルト殿の希望を最大限叶える様に依頼書に認めておきます」

 

 嫌にあっさりだな……今回の依頼の裏は僕の能力調査、だが能力調査には僕の性格調査を含むとしたら?

 簡単な部分ばかり選ぶ奴は性格的に難有りと評価されるぞ。

 

「有り難う御座います、自分の出来る限りの難易度の高い部分を補修する様にします」

 

 その後、報酬その他の細かい部分を詰めて指名依頼を正式に請ける事にした。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「彼をどう思いましたか?」

 

「良くて慎重派、悪くて小心者、だが裏を返せば用心しなければならない秘密を持っている。あの少年、私のエルフ直伝の探索魔法を簡単にレジストしたわ。

読めたのは『これは……』だけよ、つまり一瞬で術を見極めレジストした。術を知らないと無理な芸当よ、心の防壁も完璧だったわね」

 

「あの噂、彼がエルフに師事しているのは本当なのですね。どんな対価を払って気難しいエルフ族に師事出来たか、その辺に秘密が有るのでしょうか?」

 

「ユリエル様から依頼された調査項目は基本能力と性格、突発的な事に対する対応力に柔軟性、出来れば師事する相手の事。

確かに能力的には既に及第点を上げても良いけど……」

 

「謎が多いですね、そして胡散臭いです。はたしてエムデン王国の宮廷魔術師に据えて良いか迷います」

 

「そうなのよ、信用し切れない不安が付き纏うのよね。困ったわ……」

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。