古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第178話

 ライル団長からの指名依頼、聖騎士団との模擬戦は色々と問題が有ったが何とか達成した。

 これで残りは三つ、魔術師ギルドからの依頼である砦の修復と冒険者ギルドからの依頼であるボーンタートルの討伐と玉子集め。

 メディア嬢からのアクセサリー作成だが問題は魔術師ギルドの依頼だな、一度先方に伺い依頼内容を確認しなければならない。

 だがコレットから聞いた様に能力査定をされそうだ、僕は色々と普通じゃないから精密検査とかは遠慮したい。

 この指名依頼には宮廷魔術師であるユリエル様やアンドレアル様も絡んでいるらしく用心するに越した事は無い、僕は転生前の経験から宮廷魔術師にはなりたくない。

 幾ら強大な地位や権力を持てるとはいえ、何の政治的基盤も後ろ盾もない餓鬼が宮廷魔術師になったら……

 戦時下ではなく平時ならば権力争いに巻き込まれて失脚から処刑の流れも有り得る、ただ出世すれば強くなれる訳ではない、その地位と立場に同等のライバル達がいろいろと仕掛けてくる。

 だからドロドロした権謀渦巻く宮廷世界は嫌なんだ。

 

 あの後、三十分程の休憩を挟みライル団長と一対三で模擬戦、選抜メンバーと十対十の模擬戦を行い指名依頼は完了した。

 ライル団長には僅差での負け、騎士団員には全勝したが騎士団駐屯地には大勢の観客達がやってきた。

 元々野外だし練兵場には塀も柵も無い、だが事前に知れ渡っていたのだろう、一般の人だけでない貴族や魔術師も見受けられた。

 これで僕の力の一端は知られた、だが制御数は抑えたしゴーレムルークも見せてない、魔術師ならばゴーレムに繋いだライン数に驚いたかもしれないが既存の技術を突き詰めただけだ。

 半自動制御だが幾つかのパターンを組み込んでいる、かつて権力者の特権を使い捲り多くの武人達の技や動きを見せて貰いパターンをトレースした。

 いわば積み重ねたデータが決め手なんだ、蓄積されたパターンはゴーレムが自律で動くのに必要だから一番苦労したんだ……

 

 知られては駄目なのは古代の魔法技術、僕が水属性も持っていて毒特化の事、古代の魔術師であり転生した事、これらが知られたら大事になる。

 今の僕の力と立場では回避出来ない厄災に見舞われるだろうな。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 聖騎士団の駐屯地をあとにする、何故か観客達から拍手で見送られた、恥ずかしいので直ぐに馬車に乗り込む、馬四頭引きの豪華な馬車で六人乗っても余裕だ。

 御者は二人と護衛に騎兵が六騎同行している、少し警備が物々しくなったな。

 先に乗っていたデオドラ男爵とジゼル嬢は微妙な顔だが当然だろう、デオドラ男爵は僕との模擬戦についてライル団長から厭味を言われ、ジゼル嬢はカーム嬢を完全に拒絶出来なかった、何故なら勝負は無効だから。

 

 向かい側にデオドラ男爵、隣にはジゼル嬢が座るが妙に近い、しかも少し睨まれている。

 

「あの、何か?」

 

「いえ、何故ハッキリと自分の婚約者に手を出すなと言ってくれなかったのかと思いまして……」

 

 ああ、貴族令嬢として同性に性的に狙われているのは嫌なのは分かるのだが、あの性格のカーム嬢に強く言っても無駄だと思ったんだ。

 男女間の、いや女女間の恋愛事など当事者同士じゃないと揉めるだけだが……

 

「貴族の子女の婚姻や恋愛など実家の事情で幾らでも抗議出来ると思うのですが?」

 

「それだけ魔導師団員とは立場が強いのだよ、彼女は序列も高い。でなければ我が儘女の戯言に付き合う事などしないな、だが今後は大人しくなるだろう」

 

「実質的に負け、騒いで再戦しても負けは確実。

自分の師に頼んでもユリエル様はリーンハルト様を宮廷魔術師に推薦したいと言っています、愛弟子としても面白く無いですわ。

今後の動きが気になりますので注意が必要です」

 

 つまり凌いだつもりでも問題が表面化せずに複雑化しただけ、しかし何故縁(えん)も縁(ゆかり)も無い僕を宮廷魔術師に推薦するんだ?

 彼等にメリットは無く自分の縁者や愛弟子を推薦した方が有利だろう。

 

「何故自分を推薦するのか分からないって顔だな。簡単だ、この先強力な魔術師が必要になるからだ。

ついでに背後に変な政治的背景が無いなら変に気を使わずに済む、尚且つ自軍に引き込めるチャンスも有ろう。

リーンハルト殿は言い方は悪いが完全に戦争向きな魔術師、彼等としてもエムデン王国の為に十全に能力が発揮出来る場所を用意したいんだ」

 

 確かに僕が戦争向きな魔術師なのは当然だ、宮廷魔術師筆頭と持ち上げられて魔導師団を率いて各地を連戦した。

 人質として他国に送り出され、戻って来てからの生涯の殆どを戦場で過ごした、経験と場数ならデオドラ男爵に近いだろう。

 窓の外を見れば大通りの露店が見える、大勢の人で賑わっているが王都や主要都市群はまだしも地方の寒村は未だに戦争の傷が癒えていない。

 働き手を徴兵されて帰って来なかった家族の末路は悲惨だったろうな……

 

「平和な光景だろ?だがリーンハルト殿が生まれる前の大戦の時は大変だったんだ、前王の政治的判断の失敗を現王のアウレール様が何とか挽回した。

俺もそうだがライル団長もユリエル殿も大戦の経験者だ、しかし現役で最前線に出て長期間戦えるかと言えば難しい。

特に宮廷魔術師は世代交代の時期、後任がフレイナルみたいな馬鹿ばかりでは戦争には勝てない。だからリーンハルト殿に固執するのだろう」

 

 重い言葉だ、僕もエムデン王国の国民だし王家に仕える貴族の息子、国の為にと言われれば断る事は出来ない不可能だ。

 つまりウルム王国との交渉は難航、旧コトプス帝国の残党達の引き渡しは無理なのか?

 

「オーク討伐遠征の詳細は多少は改竄したが大筋は知られた、レディセンス殿も目撃してるから余り嘘は言えない。

リーンハルト殿の五日間に渡る単独行動と成果、たかが半月にも満たないが実戦に送り込んでも可能なレベルと判断するには十分だ。

オーク二百体以上なら雑兵に換算すれば千人規模の部隊と同等、今日の模擬戦でも聖騎士団上位十人に勝てる実力。

しかも戦いの狂気に捕われずに独りで淡々と成果を上げる精神力は天性の物だ、普通は長年経験して会得するのだからな」

 

 会得出来ずに精神を病み死んでいくのが多数なのだぞ、と付け加えられた……

 

「つまり戦争の駒として優秀だから宮廷魔術師にして最前線に送り込むと?」

 

 まただ、またしても僕を戦場に押し込み国家の為、王家の為にと利用するのか?繰り返し焼き直しの人生、転生しても同じなのだな。

 当然か、前と同じ魔術師として生きているんだ、行き着く先が同じなのは当たり前だ、嫌なら商人や農民として生きるべきだった。

 

「リーンハルト様、大丈夫ですか?酷いお顔ですが……」

 

「大丈夫です、自由に生きる事の難しさと自分の愚かさを再認識しただけです。僕はやり過ぎた、自己責任の自業自得ですね」

 

 野営陣地の構築、僕だけで行軍可能な五十体のゴーレム兵団、攻城戦が可能な大型ゴーレムルークの二体同時運用、そして戦場に居て独りでも耐えられる精神力、これだけやらかして戦争に利用されないと思っていた馬鹿な過去の自分を殴りたい。

 

「多分ですが魔術師ギルドの依頼も同じ様な確認作業ですわ、野営陣地の構築が可能か砦の修復を見て判断するのは可能でしょう」

 

 全てが繋がった、もはや逃げ道は他国への亡命位だが意味は無い、亡命先で更に弱い立場で利用されるだけだ。

 普通なら喜ぶべきサクセスストーリーだが僕からすれば秘術を使ってまで転生したのに同じ事を繰り返すだけだ。

 

「ふふふ、誰の責任でもない自分の責任ですね。少なくともウルム王国との外交成果次第で僕の扱いが変わる、個人ではどうにも出来ない壁か……」

 

 笑いが込み上げて来る、人は絶望すると泣かずに愚かな自分を笑うのか。

 

「リーンハルト様、落ち着いて自暴自棄にならないで下さい」

 

 ジゼル嬢が僕の膝に手をおいて不安そうに見上げてくる、彼女には心配と迷惑しか掛けてないな。

 

「大丈夫です、自暴自棄になどなりません。確かに自業自得ですが最悪の結果ではない、普通は出世すると喜ぶべき事なんでしょうね?」

 

 何とか笑顔で返事を返す事が出来た、アンドレアル様もユリエル様もバルバドス師も、戦争となり強制徴兵された時に僕が使い潰されない為に無理をして宮廷魔術師へと推薦しようとしてくれている。

 打算が入るのは当然だ、無償の愛など家族か親しい人に向けるだけだから。

 考えれば戦場を渡り歩く訳でも無い、敵はウルム王国に逃げ込んだ旧コトプス帝国の残党だけ。

 所属国家の危機に手を貸すと思えば理解も納得も出来る、前とは違う。

 

「国家の為と割り切れば心が楽になりました。すみません、ジゼル嬢には心配と迷惑しか掛けてないですね」

 

 膝に置かれた彼女の手に自分の手を重ねる、冷たい手だが諺では逆に心は温かいと聞いたな。

 

「方向性が決まれば解決しないと駄目な問題も浮き彫りになります、リーンハルト様に必要なのは後ろ盾。

実家は廃嫡され次男のインゴ様が継ぐのと新貴族の男爵位なので難しいでしょう、利権に絡みアルノルト子爵家が出て来る可能性も低くはないです。

お父様と私は全面的に協力しますが魔術師絡みは畑違い、細かい所には手が届きません。

頼りは推薦者であるユリエル様か、リーンハルト様の師匠であるバルバドス様ですわ」

 

 言われて考えれば僕に政治的基盤なんて無い、実家はインゴが継ぐのだから僕への助力は駄目だ。

 だが冒険者ギルドに頼るのは難しくなるだろう、仮にも宮廷魔術師になれば冒険者稼業を続ける事は無理だと思う。

 メディア嬢やレディセンス様は個人的な付き合いだし、派閥違いのニーレンス公爵家には頼れない。

 バルバドス師は確かに師弟関係だが縁を結んだのは最近だ、深く頼るのには躊躇する。

 ユリエル様やアンドレアル様も同様、考えると僕の立場って本当に微妙だ。良くまぁ自由に生きたいとか言ってたな、無知って怖い。

 

「確かにバルバドス様は僕の師匠ですが関係は最近です、ユリエル様とは会話した程度、アンドレアル様は御子息のフレイナル様を負かせた関係です。

頼れと言われても難しくないですか?」

 

 僕に派閥争いを器用に立ち回る術など無い、恥を忍んでジゼル嬢に頼る、この腹黒令嬢の真価は謀略だし……

 

「あの、そろそろ手を離して下さい」

 

「は?しっ、失礼しました」

 

 ずっと握っていたのか、何をやっているんだ僕は!慌てて手を離し謝罪する、少し気持ちが動転してるんだな、慌てるな落ち着こう。

 

「縁は最近でも先方が太く長くしたいと言っているのです、素直に会って話をして下さい。ですが変な約束はせずに一旦持ち帰って私に相談して下さいね」

 

 お互い少し赤いが気を取り直して話を続ける、デオドラ男爵のニヤケ顔が正直ウザイです。

 

「普通に友好関係を結べと?」

 

「はい、バルバドス様もアンドレアル様もユリエル様もお手紙で何度かやり取りはさせて頂いてますが、基本は好意的です。先ずは話し合い相手の事を良く知る事ですわ」

 

 男女間の事と同じですわね、と笑われた。

 流石にデオドラ男爵との模擬戦は無し、家の前迄送って貰い次はアーシャ嬢の誕生日パーティにお邪魔しますと別れた。

 一応彼等の馬車が見えなくなる迄はその場で見送る事にする、今日は色々と考えさせられた。

 もはや宮廷魔術師への推薦話は断れない、バルバドス師やユリエル様達との縁を深め政治的基盤を作らなければならない。

 転生しても同じ土属性魔術師として活躍すれば、行き着く先も同じ事に気付かなかった自分が悪い。

 

 だが今回は前とは違う関係を周りと築けば結果は変わる、いや変えられる!

 

「お帰りなさいませ、リーンハルト様」

 

「お帰り、リーンハルト君」

 

 僕の帰宅に気付いたのか二人が出迎えてくれた、転生前には居なかった愛すべき女性達が今の僕には居るんだ。

 

「ただいま、二人とも。何か有ったかい?」

 

 何気ない会話だが今の僕には凄く大切な事だ、嗚呼守るべき幸せとは直ぐ近くに有ったじゃないか……

 転生前とは違う、自分の意志で愛を育んだ相手が居る。信頼する仲間も居る、今回は失敗しない、絶対守ってみせる。

 

 


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