古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第177話

 エムデン王国の騎士団と魔導師団との確執を感じた、転生前の僕も騎士団に突っ掛かり、だが国を維持するのには双方の協力が絶対に必要だと悟り関係改善に苦労した記憶が有る。

 騎士団そのものではなく、その中の上級貴族達個人と反りが合わなかっただけだったのに気付いた時には殆ど反目し合っていた、若気の至りって奴だな。

 そして現状だが僕とカーム嬢とのいざこざに騎士団員を巻き込んだ形になった、つまり僕にも非が有る。

 カーム嬢は自分の父親が騎士団副団長を務めているのにも関わらず騎士団を下に見ている、魔法という絶大な力と自分の高い能力に自信が有る厄介なタイプだ、一時期の僕よりはマシか……

 当時は王族で宮廷魔術師筆頭で魔導師団長だったから増長が酷かった、結局国家が総動員しなければ勝てない戦争と言う現実を魔導師団の皆に教わり思い直したんだ。

 

 今回のカーム嬢は同性愛者として僕の婚約者であるジゼル嬢に懸想している、いわば恋敵だから余計に感情的に突っ掛かって来る。

 さて、どうするか?

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 十分程のインターバルを挟み僕の出番となった、周りには騎士団員の他にも人が増えて来たな、良い見世物とか思われているのか?

 どうみても騎士団絡み以外の人達も居るのは情報が広まっていたんだな、今気付いたがユリエル様と魔術師の一団も居る。

 やはり仕組まれた対決か、カーム嬢に勝つ事と負ける事の今後は何だ?

 

 カーム嬢に勝つ、魔導師団員序列三席に勝てる実力を示す、ジゼル嬢の貞操が守られ僕はカーム嬢に恨まれる。

 

 カーム嬢に負ける、宮廷魔術師に推薦される人物が配下の魔導師団員にも勝てないと知られる、ジゼル嬢にカーム嬢が付き纏われる、僕はジゼル嬢に恨まれる。

 

 うん、微妙だな。だが負ければ宮廷魔術師への推薦話は流れる、カーム嬢の性格から推測すると自分の勝利を吹聴し捲るだろうから。

 その弊害は僕のパトロンのデオドラ男爵と婚約者のジゼル嬢に向かう、だが騎士団員を簡単に負かす事はライル団長と父上の面子を潰す事にもなる。

 

「全く無理難題を押し付けてくる、流石は『台風』の二つ名に恥じない周りへの被害、ユリエル様恨みますよ」

 

 向こうの準備が整ったみたいなので僕も空間創造からカッカラを取り出して一回転させて先端に付いている宝環を鳴らす、金属特有の甲高い澄んだ音色でシャラシャラと鳴り響く。

 さて僕の相手はジョシー副団長の隊の上位十人、横一列に並び僕を睨み付けてくる。

 迷惑を持ち込んだ餓鬼だから当然だろう、装備も同じ刃引きしたロングソードにラウンドシールドのみだが気合いは十分。

 

「始める前に言っておきますが僕は土属性魔術師、よってゴーレムにてお相手します。なので訓練用の武器は不要、皆さんの得意な武器でお願いします」

 

 そう言って自分の前にゴーレムナイトを錬成する、簡易召喚では無く時間を掛けて魔素を練り込み最大百体に分けられる制御ラインを十体に分散して繋ぐ。

 

「クリエイトゴーレム!僕の制御出来る最高のゴーレムでお相手します」

 

 練り込んだ魔素を一気にパーツに変えて組み立てる、最初は全員にツヴァイヘンダーを装備させた。

 通常のゴーレムナイトよりも高性能、転生前に使っていた奴にも勝るとも劣らないゴーレムだが十体で限界だ。

 

「ほぅ、生意気言うなと思ったが強そうじゃないか!」

 

「だが舐めるなよ、聖騎士団は国防の要、誰よりも鍛練では負けてない」

 

「いけ好かない魔術師と思ったが剣で勝負なら負けないぜ!」

 

 各々が直ぐに得意武器に持ち替えて集まった、ランスにツーハンデッドソード、両手持ちアックスにハルバードと多種多様。

 カーム嬢が時計を気にしている、勝負のルールは決めていないが彼女の中では全員戦闘不能にしたタイムなのだろう。

 

「双方準備は良いな?では、始めっ!」

 

 横一列に並んだ騎士団員が自分の目の前のゴーレムナイトに走り寄ってくる、当然だが僕も迎撃の為に駆け出させる。

 最初の一撃は全ゴーレム一斉に最速の技を仕掛ける。

 

「刺突三連撃!」

 

 駆け寄るスピードに腕の振りを乗せて素早い突きを連続三回繰り返す、狙いは武器で身体は狙わない。

 十人の騎士の内、三人の武器を破壊ないし弾き飛ばした、だが複数の武器を装備していたので直ぐにサブウェポンに持ち替えて襲い掛かってくる。

 流石は聖騎士団の精鋭って事か!

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「ライル団長それとデオドラ男爵、俺の馬鹿弟子が迷惑を掛けて済まんな」

 

「全くだぞ、ユリエル殿。だがお陰で面白い物が見れている」

 

「ああ、そうだな。何回か模擬戦をしたが今回が最高だ、あのゴーレムナイトはレベル35以上の強さが有るな」

 

 エムデン王国において、いや現状どの国も軍事力において魔術師の存在は重要になっている、故に特別視され権利も多い。

 魔導師団は近衛騎士団と双璧を成す国王直属の部隊、だからこそカーム嬢の様な我が儘な者達も居る。

 確かに騎士団員十人を倒せれば大きな顔もするだろう、悔しいがな。

 

「面白い物?確かにそうだな、今アイツが行っている事は俺達宮廷魔術師にも真似が出来ない異常な事だぞ」

 

 異常?宮廷魔術師連中が真似出来ない?人間顔負けの動きで武術を熟す事か?

 

「ああ、確かにな……

最初は凄い力を感じるゴーレムを作ったが十体共に同じ動きだった、つまり命令は単調、前にデオドラ男爵との模擬戦で卓越した戦いを見せて貰ったが敵は一人だった。

だが今回は十人の騎士達に合わせた戦いをしている、右から三番目のメレケスとの戦いを見ていたか?

最初に突撃技でハルバードを壊しやがった、武器破壊は有効だが狙ってヤルには技量が必要だ。

メレケスは直ぐにハルバードを捨ててロングソードに切り替えた、ゴーレムは両手持ちの大剣ツヴァイヘンダー、何とか間合いを詰めようとしていた。

何回か切り結びツヴァイヘンダーを下から切り上げて両手を浮かせ隙を作って肉薄するも、ゴーレムは瞬時にツヴァイヘンダーからハンドアックス二刀流に切り替えた。

一瞬で武器の間合いを変えられて好機と思い近付いて負けた、高速武器切り替えに多種多様な武器の取り扱い、俺達騎士団員だって中々出来る事じゃない」

 

 他にもバックスは同じ両手持ちの大剣だが、突きをメインの細身のツヴァイヘンダーと違い叩き切る事をメインにした肉厚のツーハンデッドソード、間合いが同じ武器で切り合っていた。

 武器の特性上重く丈夫な方が有利、だがゴーレムは両手で振りかぶった。

 突き主体の細身の剣を振り下ろしても効果は薄い、バックスも敢えて受けてから弾いて攻撃に繋げるつもりだったろう。

 だか振りかぶりゴーレムの身体で隠れたツヴァイヘンダーは振り下ろされた時は両手持ちアックスだった。

 予想と違う攻撃に虚を突かれ体勢を崩して負けた、変幻自在と言っても良い戦い方だ。

 

「ゴーレムが、また騎士団員を倒したな。だがダガーを連続で投擲しながら接近し格闘戦に持ち込む、あんなの普通のゴーレム制御では無理だそ。

ライル団長達には見えないと思うが、リーンハルトはゴーレム一体に対して制御用のラインを十本繋げている、普通は一本多くても三本、ラインが多い程に複雑な命令をゴーレムに伝えられる。

だが十体同時に複数の命令を送り動かすなんて事が出来る奴なんて俺は他に知らない。

気になって色々と調べたが奴に師は居ない、独学で作り上げた奴だけのゴーレム運用方法なんだぜ」

 

「いや母親のイェニー殿と彼女のパーティ仲間であった老魔術師ロータル殿に手ほどきを受けたとか聞いたぞ」

 

 独学に近いのか、これがか?

 

 才能って奴かよ。また負けた、これで残りは六人。騎士団員を倒したゴーレムは加勢せずにリーンハルト殿の前に戻り直立不動で待機か、確かに一対一で互角以上なら二体に増えれば騎士団員が直ぐに負ける。

 あくまでも模擬戦だからタイムには執着しないって事か、だが勝負に勝つ気は無いのか?

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「それ迄だ、この勝負はリーンハルト殿の勝ちだ!」

 

 模擬戦開始から十分、全ての騎士団員はゴーレムに負けた。

 だが観客達は無言で戦いに魅入り、騎士団員達は興奮が冷めやらぬ感じだ。

 当然だ、相手はゴーレムだが上位騎士団員と同等以上の使い手、そんな奴に手加減無用の攻撃を実戦さながらに行えるのだ。

 しかも完敗、ならば次は我こそはと皆が考えているだろう。

 気の早い奴など既に完全武装で待機しているが、流石のリーンハルト殿も疲労の色が濃い、一旦休憩を挟むべきだろう。

 当然だが俺も戦う、一対三位が調度良い位だな。

 コイツとの模擬戦を独り占めにしていたデオドラ男爵には後で文句を言わないと気が済まない、これだけの戦いを秘密にし独り占めしていたなど武人として恥を知れ!

 

「一旦休憩だ、団長室に行くぞ。副団長二人もだ、早く行くぞ」

 

 観衆の前で二人を揉めさせる訳にも行かないだろう、関係者全員を集めての話し合いだな。

 魔術師二人の勝負だがタイムアタックならカーム嬢の勝ち、模擬戦の内容ならリーンハルト殿の勝ち。

 得意顔のカーム嬢に疲労感は有るが涼しげな顔のリーンハルト殿を見て、一悶着あるなと溜息は吐く、指名依頼としては文句無く達成だが彼に魔導師団に負けると言う汚点を付けてしまった。

 人数が多いのでソファーセットでは間に合わず作戦室に移動する、上座に俺とユリエル殿、右側にデオドラ男爵とバーレイ副団長、リーンハルト殿に婚約者のジゼル嬢。

 左側にジョシー副団長にカーム嬢、アンバランスだが仕方ない。

 

「おほほほほ、この勝負は私の勝ちですね?私が騎士団に勝つのに掛かった時間は二分で貴方は十分、圧倒的に私の勝ちで宜しいですわね?」

 

 得意顔で相手に指を指すなど淑女にあるまじき行為だが、確かに賭けていたなら白黒をハッキリとしたいだろう。

 だがリーンハルト殿は落ち着いているな、負けは負けだが悔しくはないのか?

 

「あら?負けたと認めて頭を下げて貰えないのかしら?」

 

 ついに立ち上がり詰問調になったな、周りが呆れているのに気が付かないのか?

 

「別に僕は負けたとは思ってません、勝負は模擬戦でと言いましたが最速タイムを競うとは言ってません。

あくまでも模擬戦としての内容勝負と考えていましたが、不満ならばゴーレム兵団でお相手しましょう。ですが僕のゴーレムナイトには毒も麻痺も効きませんよ」

 

 確かに模擬戦の内容なら圧倒的にリーンハルト殿が上だな、直接対決した場合も、あの異常なゴーレム運用でアッという間に接近されて負けるだろう。

 状態異常は対人では有効でもゴーレムには全く効かない。

 

「それは……今更勝負の内容を決めてないとか直接対決だとか卑怯だわ!」

 

 怒り心頭って感じだが、そろそろ親や師が諌める場面じゃないのか?ユリエル殿とジョシー副団長に視線を送る、早く何とかしろ!

 

「ですから今回の勝負は無効で良いですね?

お互いに非が有りますし聖騎士団と魔導師団との諍いは困りますから、勝ち負けも無く引き分けでもない無効です」

 

「聖騎士団と魔導師団が諍いなんて……あら?そうね、少しやり過ぎたかしら?」

 

 少し所か抗議する所だったぞ、全く勝負は無効とは驚いたが絶対的な力の差は思い知っただろう、これではカーム嬢は自分が勝ったと騒いだら赤っ恥だな。

 騎士団との模擬戦の内容は圧倒的にリーンハルト殿が優れていた、少し調べれば分かってしまう。

 

「だが良いのか、リーンハルト殿。折角魔導師団員との勝負に勝ったと言える内容なのだぞ?」

 

「いえ、本来ならば個人的な諍いを国防を担うライル団長以下騎士団の方々を巻き込み、迷惑を掛けた僕の落ち度です」

 

 そう言って頭を下げる、確かに無効ならば馬鹿騒ぎも大した被害にはならない、良く考えているのだな。

 

「それで良いなら俺は納得するがな……」

 

 関係者一同を見て回るが特に不平不満はなさそうだな、だがジョシー副団長も愛娘をもう少し何とかしてくれないか?

 全くこれでは俺の胃が持たないぜ!

 


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