古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第176話

 少し頬を赤く染めて照れている私の婚約者、その対象が私なら問題無いのですが、まさかと思いましたがイルメラさんと同じ様にウィンディアが彼の寵愛を……

 いえ、未だですが所謂情欲の対象として見られていたとは驚きました。

 私のギフトで読めたのはイルメラさんとウィンディアなら口直しでキスをしても良いと思っている事、ですが時期的には成人後の地盤が固まった後で。

 イルメラさんだけが特別かと思っていましたが、一緒に冒険者として活動し同じ家に住み苦楽を共にしたから情が湧いたのでしょうか?

 

「リーンハルト様も思春期なのですね?」

 

「いや発情期だろ、ヤルのは誰でも構わぬが子供は未だ作るなよ。だが本妻と違い側室か妾なら先に作っても大丈夫だぞ、なぁジゼル?」

 

 お父様、思春期と発情期は違います。リーンハルト様は今直ぐウィンディアに手を出すつもりは無いみたいですわ。

 

「そうですわね、男女間の事には奥手のリーンハルト様に好意を抱かせる相手がウィンディアだとは私も驚きましたわ」

 

 先程迄とは立場が逆転しましたわね、今度はリーンハルト様が赤くなる番ですわ。

 しかし徐々に照れが無くなり何か覚悟を決めた様な目をしているけど……

 

「俺にとっては嬉しい誤算だな、恋愛対象に見られないと言われたウィンディアの頑張りには褒美を与えねばなるまい。

俺の養子にしてリーンハルト殿に送り出しても良いぞ」

 

 お父様、その言葉は良く有りません。私達はウィンディアに彼に取り入れとは命令していないのですよ!

 

「デオドラ男爵、ジゼル様、自分の言葉を違える事になり申し訳無いと思います。

ですがウィンディアは僕が責任を持って娶らせて頂きます、本人には未だ気持ちは伝えてませんし先の話になりますが気持ちに偽りは有りません」

 

 はっきりと娶ると言いましたわ、妾ではなくつまり側室に迎えると言う意味だわ。

 散々婚姻外交は嫌だと言いながら、手は出さないと宣言しながら、私やアーシャ姉様を拒んだのに掌を返したみたいにウィンディアを好きになった事に対してのケジメなのかしら?

 しかし明確に覚悟をお父様に伝えてしまった、これは対応を間違えると不味いわ。

 

「いや、そのだな。真面目に切り返されるとだな。からかい過ぎだな、俺も悪かった、気にするな」

 

「そうですわ、養子云々の件は保留にして下さい。

しかし本当に恋愛に関しては真面目で古風な考え方ですわね、私達はウィンディアに手を出しても拘束する理由にするつもりは全く無かったのです。

彼女の事は全てリーンハルト様に任せるつもりでした」

 

 人の感情を派閥争いに利用しない、男女の恋愛観に自分なりの考え方を持ち貫くリーンハルト様に沿った言葉を伝える。

 私達はウィンディアの気持ちを利用などしていないのだから……

 

「そうですか、有り難う御座います。全ては成人して独り立ちしてからの事です、未だウィンディアには内緒にして下さい」

 

 でも少しだけムカムカして来ましたわ、私という婚約者には怖いと言った癖にウィンディアの事は一人の女性として扱っているのよね?

 共に大切には思ってくれているのに釈然としないのは何故かしら?

 

 リーンハルト様の一大決心を聞いた後、馬車は目的地である聖騎士団駐屯地に到着した。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 思わぬ所で未だ相手の気持ちも確かめずに求婚さえしていない相手を娶ると宣言してしまった、しかも相手はデオドラ男爵とジゼル嬢にだ。

 今思えば僕は転生前を含めても告白も求婚もした事が無い、転生前の宛がわれた側室達は全く僕の意見など無かった。

 当然だが側室とはいえ王族に嫁ぐのだから容姿端麗で品行方正な女性達だったが思惑と愛情は別だった、婚姻外交に当事者の愛情など無いのが当たり前だったけどさ。

 

 馬車を降りるとライル団長と父上、それと見た事は有る中年の騎士と痴女が居た、露出狂の痴女だ……

 

「ジゼル、会いたかったわ!」

 

 身体のラインが丸見えの薄絹を羽織った容姿は整っているのに残念な女性がカーム嬢か……

 金髪碧眼の典型的なエムデン王国民の特徴を兼ね備え髪を肩で切り揃えた目付きの鋭い痴女だ。

 見た目ではワンドを持っているので辛うじて魔術師だと分かる、身に纏う魔力が理解出来れば別だが。

 未だ『火の鳥』のネーデさんの方が肌を隠しているぞ。

 

「ご機嫌よう、カーム様」

 

 ジゼル嬢が飛び付く彼女を避けて僕の背中に隠れた、しかしライル団長やデオドラ男爵が居るのに最初の挨拶がジゼル嬢で良いのか?

 値踏みする様な何とも嫌な視線で頭から足元まで見られた後でニヤリと笑ったな。

 

「貴方がリーンハルト様ね?私はカーム、宜しくしなくても良いわよ」

 

 貴族的建前とマナーが全く無いけど本当に良いのか?

 周りを見れば呆れてはいるが特に何も言わないのは何時もの事なのだろう、だが非礼に非礼で返すのは愚者の対応だ。

 

「リーンハルト・フォン・バーレイです、宜しくお願いします」

 

 貴族的作法に則り短いが礼を損なわない挨拶を返す、別に媚びる必要は無いが敵対する意味も無い。

 

「あら?ジゼルが自慢するだけの事は有るわね。凄い鉄面皮だわ、纏った魔力に揺らぎ一つない、普通は呆れたり怒ったりすると乱れるのよ」

 

 いえ、感情の変化で纏った魔力が揺らぐのは中級者迄です、痴女の貴女を見た位では何も感じませんし思いません。

 

「ライル団長、ご無沙汰しております。指名依頼を頂きまして有り難う御座います。騎士団員との模擬戦、全力でお相手させて頂きます。

それと初めてお目にする方が居ますので紹介して貰っても宜しいでしょうか?」

 

 カーム嬢への返事は目礼で済ませてライル団長へ話を振る、本日の依頼人で一番偉いのがライル団長だ。

 

「む、ああそうだったな。コイツは俺の部下でジョシー副団長だ」

 

「リーンハルト・フォン・バーレイです、宜しくお願いします」

 

 寡黙な人らしく握手を求めて来ただけだ、握る手には力が入っているが『ドワーフの腕輪』の効果で耐えられる。

 

「ふむ、それなりに鍛えてはいるな。中々の筋力、それに胆力だ」

 

 何故この厳つい父親から痴女が生まれたのだろうか?

 握り返した掌はゴツゴツとした拳ダコが有り鎧から見える肌には無数の傷が有る、歴戦の戦士が第一印象だ。

 

「有り難う御座います、僕は魔術師ですが最低限の鍛練は怠ってはいません。では早速依頼の模擬戦を……」

 

「待ってよ、折角魔術師が二人も揃ったのよ。それにジゼルを取り合う仲じゃない、此処で白黒はっきりさせておかない?」

 

 呆れた、自分の父親の上官を前に我が儘を言い始めたぞ、しかもレディセンス様の時と同じ僕と戦いたい流れだ。

 だがエムデン王国に魔導師団員は百人弱しか居ないエリート集団でもある、ある程度の我が儘は許される地位でもある。

 

「魔術師二人、共に研鑽したい気持ちは分かりますがジゼル様の件は理解不能です。何故正式な婚約者の僕と女性であるカーム様が白黒付けるので?」

 

 心底分からないって顔でカーム様を見る、同性愛者なのはバレバレなのだが正式に聞いてないし違うと言われたら侮辱した事になる。

 それにユリエル様が暗躍してるならば、此処で戦うのは策に嵌まる気がしてならない。

 

「あら、自信が無いのかしら?坊やなのね」

 

「純粋な魔力比べなら応じますがジゼル様を対象にする事の意味を聞いています、僕の質問が理解出来ますか?」

 

 この挑発にムッとした顔をして魔力も揺らいだな。

 だが痴女みたいな服だが見覚えが有るんだよな、微妙に魔力を感じる。僕は転生前も今も痴女に知り合いは居ないのだが……

 

 そうだ!海洋の魔女セイレーンの薄絹だ、それを模倣した耐魔力付加のマジックアイテムが有ったな。

 名前は忘れたが同じ薄絹で重ね着すると効果が落ちる、僕からすれば失敗作だと記憶している。

 作った男の趣味がモロに反映されたが魔法攻撃の耐性は中々だった。同時に物理攻撃には耐性皆無だったな……

 

「無礼な男ね、魔導師団員序列三席の私に対して良く言ったわ!」

 

「僕は土属性魔術師です、つまり攻撃手段はゴーレムや山嵐等の物理のみ。勝負するのは構いませんが、貴族の男としては女性に対して直接攻撃は躊躇われます」

 

「そうね、確かにスマートじゃないわね。では私と貴方で騎士団員との模擬戦をして優劣を付けましょう」

 

 おぃおぃ、騎士団を巻き込むって馬鹿なの?

 

 騎士団員は色々な派閥に所属しているんだぞ、彼等に勝つのを前提とした模擬戦って不味いだろ!

 横目で見たライル団長は無表情、父上は呆れてジョシー副団長は諦めの顔だ。

 

「騎士団員の方々を使う勝負に僕が決められる訳が……」

 

「良いですよね、お父様、ライル様?」

 

 言葉を遮られたがエムデン王国において魔導師団員って地位は高いのか、それともジョシー副団長の爵位が高いのか?

 

「リーンハルト殿、済まないが模擬戦の依頼として請けてくれ。

リーンハルト殿はジョシー副団長の隊員十人、カーム殿はバーレイ副団長の隊員十人をそれぞれ相手をする。隊員は上位十人だ、異存は無いな?」

 

「ふふふ、余裕だわ。貴方に見せてあげるわ、ユリエル様の一番弟子である『毒霧』のカーム様の力をね!」

 

 馬鹿な、騎士団員に恥をかかせるのか?だがライル団長が決めた事に反論は出来ない、仕方ない相手をするしか無いな。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 駐屯地の練兵場には聖騎士団員全員が集まっている、好意的な雰囲気は一切無い。

 公平を期す為に僕は皆と離れた場所で一人待機、ライル団長と両副団長は中心で腕を組んで苦い顔をしている、それを遠巻きに囲む騎士団員達も厳しい顔だ。

 彼等からすれば魔術師同士の力比べに強制的に参加させられただけだ、しかも魔術師一人対騎士団員十人で勝つと宣言している。

 

「早く始めましょう、淑女を待たせるのは紳士ではないわよ」

 

 挑発が酷い、どの時代のどの国も魔導師団と騎士団の仲は良くないのだが、此処まで馬鹿にした態度を取るのは今の宮廷魔術師達は何を考えているんだ?

 配下の引き締めはトップの最低限の役目だ、それを日常から亀裂を入れる態度を取る女が序列三席?笑わせる。

 

「バーレイ副団長、準備が出来ました」

 

 父上の配下の方々が闘気を漲らせて横一列で並んでいる。

 だがカーム嬢は風と水の二つの属性を持つ魔術師、しかも二つ名を『毒霧』と名乗った、つまり毒や麻痺に耐性の低い騎士団員が負ける確率は高い。

 僕のストックしているレジストストーンを渡せば結果はひっくり返るが、それは出来なかった。

 

「全力で潰せ、手加減は要らない」

 

「ハッ、お任せ下さい」

 

 全力と言っても騎士団員の武器は刃を潰した訓練用の武器だ、しかもロングソードとラウンドシールドの標準装備、投擲用の武器が有れば牽制しながら接近出来るのに……

 

 互いの距離は30m、接近する前にカーム嬢の魔法に耐えられるかが問題だな、ライル団長の掛け声と共にラウンドシールドを前に掲げて突撃する騎士団員、中々の迫力だが……

 

「突貫とは愚かしいですわ、命の水よ敵の動きを封じろ、パラライズミスト!」

 

 結果的には30mを走り抜ける間にカーム嬢は三回魔法を仕掛けた、麻痺毒を含んだ広域呪文にレジスト30%でも負ける。

 彼女に辿り着く前に騎士団全員が片膝を付いた事により負けが決まった。

 

「当然の結果、当然の勝利、私に掛かれば騎士団など的でしかないのですわ!」

 

 練兵場の真ん中で高笑いをする痴女を僕は呆れ周りは憎々しく思っているのだろう、だが呪文の詠唱速度、練り込んだ魔力量共に高いレベルだ。

 大口を叩くだけの実力は持っているが政治的センスは皆無だろう、アレでは自分の父親の立場は丸潰れだぞ。

 

 ライル団長の呼び掛けにより練兵場の中心にと歩いていく、今度は僕の番だが騎士団員の方々の面子を保つ為にはどうするか?

 転生前も騎士団との関係改善には頭を悩ませたのが甦る、前回は自業自得だったが今回はカーム嬢が原因で僕は全く悪くはないんだぞ!

 


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