古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第175話

 ニーレンス公爵家からの指名依頼の一つ、レディセンス様との模擬戦を終えた、結果は引き分けで依頼は達成。

 午後から魔法迷宮バンクの六階層のボスである『徘徊する鎧兜』に挑んだがゴーレムナイトで問題無く倒せた。

 この敵はノーマルが武器をレアが防具をドロップするが必ずアイテムには魔法付加が掛かっている、バンク最下層を攻略の為に装備を整えるには最適だ。

 そのお陰かボス部屋は大人気、何時もの十回連続ボーナスアイテムが貰えなかった、魔法付加の付いた武器や防具をドロップするボスのボーナスアイテムだから期待していたのに残念だ。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 乗合馬車の停留所の待合室で休んでいたら『春風』のリーダーであるフレイナさんに話し掛けられた、待合室には他に誰も居ないので王都まで一緒だ。

 

「今晩は、最近はバンクの攻略ばかりなのね。他の依頼とかは請けないの?」

 

 柔和な笑顔にゆっくりとした動作、先入観が無ければ好意を持つ相手だ。

 だが気になって観察すれば計算された態度だと分かるし後ろのメンバーの作り笑いは怖い。

 自然な動きで待合室の向かい側に座る、僕の正面にフレイナさんだ。

 

「そうですね、僕等の場合は指名依頼が多いので一般の依頼は短期物しか請けられないです。

今回も七件請けて二件達成ですが残りは騎士団との模擬戦とか錬金術による城壁の補修やアクセサリーの作成とかですね」

 

彼女達が一緒に出来ない依頼だけ教える、ボーンタートル討伐なんて絶好の依頼だ。

 思った通り困った顔をしている、付け入る隙が無いのだろう。

 

「私達と一緒の依頼をやってみない?」

 

 直球でお願いが来たが断る言い訳も用意している、問題は無い。

 

「残念ですが僕等は優先的に冒険者ギルド本部が厳選した依頼を請ける義務が有るのです、それが優遇して貰える対価。

その合間を縫って気に入った短期の依頼を請けるのですが、今はバンクでのドロップアイテム収集の継続依頼を請けています。

悪いのですがフレイナさん達との合同依頼は時間的に無理ですね、申し訳ないです」

 

 そう言って頭を下げる、丁寧な対応をする相手に強引には頼めないだろう。

 右手人差し指を頬に当てて考え込んでいるが可愛い仕草だな、今度イルメラかウィンディアにやって貰おうかな?

 

「でも冒険者ギルドの言いなりは良くないわよ、冒険者は自由でないと……」

 

「確かに自由には憧れますし努力して勝ち取りたいと思ってます。

フレイナさん、僕は新貴族の長男ではありますが来年成人と共に廃嫡します。

側室の息子ですから正妻が産んだ次男の弟に家督を譲るのです、ですが魔術師の僕を手放すには惜しい。

だから実家に囲われるのを断る為に冒険者ギルドとデオドラ男爵を頼り力を蓄えているのです。

今の僕は本当の自由を勝ち取る為に必死なので余計な事に煩わされたくない。

フレイナさん、分かりますか?」

 

 本当は父上もエルナ嬢もインゴも僕を実家に拘束しようとか思ってない、愛すべき家族達だ。

 廃嫡の件で気を付けなければならない敵はアルノルト子爵家だけだ、必ず廃嫡前に何かしら絡んでくるだろう。

 

「そう、なんだ……」

 

 

 それから王都に着く迄はお互い無言だったが、何かをずっと考えていたフレイナさんの表情が気になって仕方がなかったんだ。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「若いのに色々考えているんだ、少し見直したわ」

 

「そうだね、私達につれない態度ばかりだったけどさ。私達の悪い噂話も知ってれば余計に警戒もするか……」

 

「フレイナ、もうブレイクフリーに絡むのは諦めようよ……フレイナ?」

 

 何が分かりますよね?だ、餓鬼の癖に何でもお見通しみたいな態度で見下して!

 

「フレイナ?どうしたの、怖い顔して」

 

「気に入らない、餓鬼の癖に何でもお見通しみたいに見下しやがって!

貴族が何様だってんだ、廃嫡するから力を蓄える?本当の自由だって?あはははは、気に入らない、気に入らないよ、全くさ!」

 

 あの諭すような物言いと目が気に入らない、聞き分けの無い小娘みたいに上から目線で言いやがって!

 思わず持っていたショートソードの鞘で街路樹を叩いてしまう、だが気持ちが収まらず右手が痺れた。

 

「フレイナ、あんた……」

 

「皆も良いの?簡単に扱われてさ!何様だよ、未だ餓鬼の癖に!」

 

 考えれば最初から相手にされてなかった、私達の苦労も知らないで何が分かりますね?だとか諭すな。

 何故か無性に腹が立つしムカムカするわ!

 今度は鞘から抜いたショートソードで街路樹の枝を払う、スパスパと切れるが気持ちは良くならない。

 

「止めなよ、あの子は私達とは住む世界が違い過ぎるわ。だから冒険者ギルド本部やデオドラ男爵が優遇するのよ、普通じゃないよ」

 

「全くだ、分かりますねって分かるよ、お前が異常なんだよ、絡みたくも無い。フレイナも諦めようよ、あんなのと絡んでも損するだけだわ」

 

 損?そうね、私達の利益にはならない、寄生させてくれない、何より私達を見下して相手にしていない!

 

「私達は『春風』よ、あと少しでランクCになれる冒険者なのよ。それを見下して馬鹿にして……許せる訳が無いじゃない!」

 

 利用しようと近付いた相手に全く相手にされず、尚且つ諭された、私の冒険者としてのプライドは粉微塵に砕けたわよ!

 ショートソードを街路樹に突き刺す、あの子の顔を思い浮かべて何度も刺す。

 

「はぁはぁ、確かに私達はゴミ溜めみたいなスラムで育った、他人を利用して蹴落として生きてきたけどさ」

 

 荒くなった息を整える、興奮が冷める所か沸々と沸き上がるわ!

 

「今でこそ優しいお姉さん風にしてるけどさ、私達は皆を見付けて一緒に行動する迄は荒んでたじゃん。

あの坊やは上品に事を運んでるけど昔の私達みたいに頑張ってるんだよ。もう放っておこう、お互いのためにさ」

 

 ふぅ、そうね。私は育ちの良い優しいお姉さんなんだ、もうスラムのゴミ溜めでヘドみたいな奴等に弄ばれていた餓鬼じゃない。

 だが久し振りに素が出る程ムカついたわね。

 

「分かった、分かったわよ。でも絶対に一泡吹かせてやるわ。私達『春風』を舐めた事を後悔させなきゃね」

 

 ショートソードを一振りして刀身に付いた樹液を払い鞘に納める、全く私らしくない醜態を曝したわね。

 でもチャンスが有れば絶対に仕返ししてヤルわ、必ず見返してヤルから覚えてなさい!

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 聖騎士団の演習には何故かデオドラ男爵とジゼル嬢が同行する事になった。

 既に『エルフの里』への同行と、レディセンス様との模擬戦の依頼は終えた。

 残るは指名依頼は聖騎士団との演習とメディア嬢へのアクセサリー作成、ボーンタートルの討伐に魔術師ギルド依頼の砦の補修だ。

 

 バンクのドロップアイテム収拾依頼は除く、アレは長期継続依頼だから……

 

「悪いな、急に予定を変えさせて模擬戦を行う事にしてしまった」

 

「早朝の使者殿には驚きましたが、何か気になる事でも有りましたか?」

 

 当日の早朝に使者を寄越し直ぐにデオドラ男爵本人とジゼル嬢が迎えに来るなど問題が無い訳がない。

 困った時のジゼル嬢に視線を送るが目を逸らされた、微妙に頬が赤いが熱でも有るのだろうか?

 

「ジゼル様の体調が優れない様ですが、大丈夫なのですか?」

 

 珍しいな、真っ赤になって下を向くなんて……やはり風邪か何か病気なのだろうか?

 

「デオドラ男爵、一旦屋敷に戻られた方が?」

 

「問題無い、ジゼルが赤いのは照れだ」

 

 てれ?てれって照れ臭いの照れ?

 

「まぁ分かり辛いだろうがアレだ、自分の過失って奴だな」

 

 過失?今日の予定を言い忘れたとか?

 

「連絡ミスですか?珍しいですがデオドラ男爵本人が同行する事を思えば言い忘れたのは痛いミスで」

 

「違わないけど違います!実は、そのですね」

 

 言葉を遮られたが彼女の言い訳を纏めると……

 

「つまり聖騎士団副団長の子弟に父親経由で言い寄られていて、その人からの手紙が模擬戦の申し込みと、その日程だとは知らずに放置していて、昨夜捨てる前に念の為に見て気付いたと?

それはジゼル様に過失は無いですね、そもそも僕に送るべき内容の手紙でしょう」

 

「俺の許婚に手を出すな、直接掛かって来いって意味だな?」

 

「指名依頼を請けた本人に手紙を寄越せって意味です、それで相手は配慮をしなければ駄目な方でしょうか?」

 

 武闘派の重鎮の娘に懸想する相手だ、副団長の息子とはいえ、それなりの身分と武力を持っているだろう。

 む?未だ微妙な感じだな、デオドラ男爵はニヤニヤしてるしジゼル嬢は更に赤くなって膝の上で握った手にも力が入ってるな。

 

「もしかして勝つのは駄目な相手ですか?」

 

 勝たねばジゼル嬢の婚約者である僕の評価が下がる、相手はジゼル嬢に相応しくないと言ってくるだろう。

 

「私に言い寄ってくるのは魔導師団員のカーム、宮廷魔術師序列五席であるユリエル様の愛弟子、風属性魔術師です」

 

 ユリエル様の愛弟子で魔導師団員?何と無くパズルのピースが嵌め込まれてきたぞ、しかしユリエル様は二つ名の『台風』の意味の通りに周りに被害を撒き散らすな。

 この話の流れならば僕はカーム殿と魔術師として模擬戦を行う事になる、宮廷魔術師に推薦の話も有る僕が現役の魔導師団員に勝つ事の意味は大きい、まさかユリエル様の差し金か?

 

「ユリエル様が影で操っている可能性は低くないですよね、聖騎士団の演習に託けて話を持って来るのですから。

現役の魔導師団員ですが負けはしないでしょう、問題はカーム殿の顔を潰さない勝ち方ですね、どうするかな?」

 

「リーンハルト殿、カーム殿じゃない、正確にはカーム嬢だ」

 

「はい?」

 

 カーム嬢?女性?ジゼル嬢に言い寄るのが女性?

 

「だから知られたく無かったのです!私はノーマルなんです、同性と恋愛なんて出来ません。

あの方の本心をギフトで読んだら、本物の同性愛者なのです、あんな妄想を私に向ける相手なんて大嫌いです!」

 

 珍しく感情剥き出しで真っ赤になって吠えたが、どんな妄想をギフトで読んだんだ?

 

「分かりました、全力でブチ殺します。愛の形は数有れど押し付けるのは唾棄すべき行為……

最近僕も男性から言い寄られた事が有りまして、ジゼル嬢の気持ちは痛い程良く分かります」

 

 あの冒険者ギルド本部での屈辱が蘇る、ミュールヘルンと名乗ったBランク冒険者に唇を奪われたんだ!

 

「リーンハルト様もですか?」

 

 その憐れみと同情を含んだ瞳で見ないで下さい、心が折れそうです。

 

「はい、ミュールヘルンと名乗っていましたが、凄い屈辱的な扱いを……」

 

 この感覚はジゼル嬢のギフト(人物鑑定)だ、あの記憶を思い出した心を読まれたな!

 

「なんて破廉恥な……リーンハルト様、口直しをしますか?」

 

 口直し?誰とだ?イルメラかウィンディアか?

 

 いや未だ早い、それは僕が成人後に独り立ちしてから慎重に事を運ぶ必要が有る問題だ。

 

「リーンハルト様?何を考えているのでしょうか?」

 

 しまった、動揺して彼女のギフトをレジストするのを忘れた、大失態だ!

 

「は?いや、えっと……その、申し訳ないです」

 

「リーンハルト様も思春期、男女間の事に疎いと思っていたのですが、婚約者の私や好意を抱かれているアーシャ姉様を差し置いて?」

 

 駄目だ、僕が口直しの相手にウィンディアを思い浮かべたのが完全にバレている。

 

「なんだ、リーンハルト殿にも懸想する相手が居るのだな、誰なんだ?」

 

「ウィンディアですわ、未だ清い関係みたいですが親密な関係に進んだみたいですわね?」

 

「そうか、ウィンディアがか!リーンハルト殿、手を出すのは構わないが責任は取って貰うぞ、あれも俺の娘みたいなものだ、泣かせる事は許さないぞ」

 

 バンバンと嬉しそうに肩を叩くが一番知られたくない人達に知られた、理由はどうあれ僕とデオドラ男爵家との楔として送り込まれた彼女が本来の任務を達成した訳だから。

 




人間成せば成るモノですね、2月28日まで予約投稿しました。
これからもう一つの連載作品の執筆に移りますが、其方は行き詰まってるんです……

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