いよいよ六階層のボスに挑戦だ、扉を開けて中に入るが未だ閉めない。
先ずは魔法の明かりを八個、部屋全体を照らせる様に壁際に均等に浮かべる、広さは20m四方位だな。
次にゴーレムポーンをゴーレムナイトに変更、八体の内両手持ちアックスとモーニングスター装備は半々にする。
『徘徊する鎧兜』の本体は金属製の全身鎧、アックスの刃が食い込んで抜けない場合も考えて弾き飛ばせる打撃系の武器も混ぜてみた。
ポップ数は一体から最大三体、ゴーレムナイトを八体用意したのは二体一組で攻撃に六体、僕等の護衛に二体の配分だ。
今回もエレさん達にクロスボゥを渡す、一応近距離なら鉄板を貫通させる威力が有るが牽制と操作に慣らす為と割り切る。
「準備が出来た、エレさん扉を閉めてくれ」
「ん、分かった」
扉を閉めると部屋の真ん中辺りに急速に魔素が集まり出した、塊は三つ最初から最大出現数だ。
魔素が人型に形成されていく……
先手必勝、二体一組で敵一体に対して左右から肩を目掛けて両手持ちアックスとモーニングスターを振り下ろす!
激しい金属音が響き渡り『徘徊する鎧兜』は両肩が凹み衝撃で兜も外れて倒れ込んだ、両手持ちアックスはV字型に切り込んでいるがモーニングスターは直径20cm程の窪みとなって刺の部分に穴が開いている。
どちらも威力としては十分だ、何も出来なかった『徘徊する鎧兜』は膝を付いてから前に倒れて魔素となって消えた。
一応だが女性陣のクロスボゥの矢もゴーレムナイトを避けて敵に当たっていた、眉間の急所に一発、右胸と脇腹に各一発当たっていた。
因みにだが人間の心臓は乳頭と乳頭の間に有る、良く左胸が急所と思いがちだがドキドキ感じるのは心臓から血液が送り出される太い血管が多いからだ。
「僕のゴーレムナイトは六階層のボスにも通用する、だが制御は未だ全盛期に及ばない、訓練有るのみだ」
「リーンハルト様、ノーマルとレアが一個ずつドロップしました」
イルメラが嬉しそうに手渡してくれたのはハンドアックスとラージシールドだ、鑑定するとハンドアックスは『物理攻撃UP:効果低』でラージシールドには固定化の魔法が掛けられていた、昔盗賊ギルドのオークションで出品されていた硬化の防具シリーズだな、大体定価の三倍位の価格で競り落とされていた。
「そうだ、エレさんは盗賊ギルドにも所属してるよね?」
扉の前で待機するエレさんが黙って頷く、基本的に彼女は無口なんだよな。
「魔法迷宮で発見された魔力付加アイテムは冒険者ギルドでオークションに掛けるけど、幾つか出品した方がエレさん的に嬉しいの?」
盗賊ギルドについては良く知らないがノルマ的な事とか有るのだろうか?
彼女は首を傾げて考え込んでいるけど思い出せない程些細な事なのかな?
もしノルマ的なモノが有るなら何点かは盗賊ギルドにオークションを頼むか……
「多分大丈夫だと思うけど、ヘラかマーサに聞いてみる」
いや所属ギルドには絶対に何かしらの貢献が必要だぞ、やはり数点は彼女経由で盗賊ギルドのオークションに出品しよう、幸いだが効果は低いが魔力付加のアイテムはある程度は手に入るだろうし……。
「じゃ外を確認してくれる?」
扉を開けるとスターズが未だその場に居た、エレさんが声を掛けているが休んでいるみたいだ。
パタンと扉を閉めたので今はボス戦に集中する為に前を見詰める、直ぐに魔素が集まりだすが今度は部屋の中央と右奥の二ヵ所に分かれた、今回は二体で離れているのか。
ゴーレムナイトを三体一組に変更し中央は実体化と同時に攻撃、右奥は移動が間に合わないので実体化してから攻撃する。
「今だ、やれ!」
実体化した徘徊する鎧兜に三体で襲い掛かる、前回と同様に二体は左右から肩目掛けて攻撃し残り一体は後方で待機、二体の攻撃で倒す事が出来たので防御に専念させる。
右奥に向かわせたゴーレムナイトは横一列で接近し一斉に武器を振り下ろした、不用意な接近に『徘徊する鎧兜』もロングソードを振り下ろしたが肩当ての部分で食い止めた。
僕のゴーレムナイトは戦士レベルに換算すればレベル30以上、しかもダメージ無視だから攻撃されても怯まない。
問題無く二体の『徘徊する鎧兜』を倒した。
「はい、リーンハルト君!」
元気良く一対の小手を渡してくれた、鑑定の結果は毒を15%の確率で防いでくれる『防毒の小手』だった。
これは盗賊ギルドのオークションで出品されていたな、確か金貨五十枚前後で落札されていたかな?
目線でエレさんに扉の開閉と外の確認を頼む、だが扉の外には未だ『スターズ』が居るらしい、声を掛けるも交代はしないみたいだ。
エレさんはそのまま扉を閉めた、彼等は十分な休憩をしてから再度ボスに挑むのだろうか?
「今は気にしても仕方ないな、三回目のボス戦だ!」
扉を閉めると今度は部屋の中央後方に魔素の塊が三つ、これでは接近して具現化直後に攻撃出来ない。
二体一組に変更し各々に攻撃させる、どうやら『徘徊する鎧兜』は固定武装らしく毎回ロングソードで飛び道具は無さそうだ。
盾で片方の攻撃は防ぐもゴーレムナイトは二体、着実にダメージを与えて三合打ち合う前に倒す事が出来た。
「はい、リーンハルト様。今回はノーマルドロップアイテムですね」
因みに扉の開閉係はエレさんでドロップアイテムは、イルメラとウィンディアが交代で拾う役目と決まっている。
「うん、有り難う。これはレイピアだね」
レイピアは華美な装飾が施された貴族の武器のイメージが強いが、これは簡素で装飾などは施されていない。
鞘から抜いて魔法の明かりに照らして見ると刃紋に炎の揺らめきが浮かんでいる、鑑定の結果は火属性が付加されていて攻撃が当たると追加で火属性のダメージを負わせる。
だがダメージ量は少ない『火属性のレイピア』だな。
「いきなり毎回魔法の付加が付いた武器や防具が手に入るね、初級とは言え嬉しいものだな」
自分で錬金する方が高性能だが、何か出るか分からない楽しみが有る。
四回目の挑戦の前に部屋の外を確認して貰うと未だ『スターズ』の面々が居るみたいだ。
「すみませんが暫くボス狩りを続けたいのですが、また再戦しますか?」
一応確認の声を掛ける、ボス部屋は独占出来ないので戦いたいと言えば交代するつもりだが『リトルガーデン』の件も有るので余り知られたくない。
僕等が何時、何回連続でボス狩りをしていると分かれば幾ら換金したとか予想されてしまう、要らぬ騒動は避けたい。
「ん?ああ、もう少し休んだら再戦したいんだ。お前等みたいに連戦は普通無理だぞ」
なる程、これが普通のボスに挑戦するペースか、特に六階層は魔力が付加された武器や防具が必ず手に入るからチャレンジする連中も多い。
だが流石に十回連続で戦う連中は居ないし殆どは交代してしまうんだろうな。
「そうですか、では準備が出来たら声を掛けて下さい」
結局最初の交代は六回目で次は十三回目、最後は二十回目と微妙に連続十回は達成出来ずボーナスアイテムは手に入らなかった。
だがトータル二十回で倒した数は四十二体、ノーマルの武器が七個、レアの防具も七個手に入った。
武器は物理攻撃力UPのハンドアックス・火属性のレイピア・体力UPのロングソード・筋力UPのウォーピック・10%の確率で毒付加のショートスピア・10%の確率で麻痺付加のロングソード・10%の確率で麻痺付加のロングソードと微妙なラインだ。
防具は防毒の小手・硬化の小手・硬化のスモールシールド・硬化のラージシールド・硬化の革鎧・防麻痺の靴・回避力UPのマントだ。
全身鎧系は硬化の革鎧だけだが回避力UPのマントは鎧の上から羽織れるので利用価値は高そうだ。
◇◇◇◇◇◇
最後の交代で『スターズ』がボス部屋に入ったので僕等は帰る事にした、彼等にそれとなく聞いたが負傷具合にもよるが一日大体三回から四回位ボスに挑むそうだ。
ノーマルドロップアイテムでも二個か三個は手に入るので売れば金貨百枚前後になるので一日の稼ぎとしては悪くない、同時に良い武器が見付かれば自分達の装備にするから一石二鳥、稀にレアドロップの防具が出たら嬉しい。
六階層は敵が強くなる七階層以降の準備の為に攻略する冒険者パーティが多い、連続十回攻略は難しいな。
今回は約二時間半で合計二十回、残念ながら誰もレベルアップはしなかった、リザードマンと違い討伐数が少なかったので仕方ないか……
パウエルさんに相談する為に冒険者ギルド出張所に顔を出す、幸い買取客は居ない。
「今晩は、パウエルさん」
「ああ、リーンハルトさん。模擬戦お疲れ様でした、実際の強さを見せて貰えて嬉しかったですよ。今日は買い取りですか?」
厳つい顔に丁寧な言葉遣いは未だに違和感が強い、だが冒険者ギルドの中では一番お世話になっている恩人だ。
カウンターに近付き顔を寄せる様にして小声で話し掛ける。
「実は今日は六階層のボス狩りをしましてノーマルの武器とレアの防具を各七個手に入れたのですが鑑定とかどうしたら良いでしょうか?」
「ほぅ?初回でレアドロップアイテムの防具を七個もですか」
何だろう、凄く嬉しそうにしているが?
「ノーマルの買い取りは此処で、レアは鑑定を含めて冒険者ギルド本部で良いですか?」
確かにレアドロップアイテムの防具類は大きくて目立つからカウンターに幾つも並べては良からぬ連中に目を付けられるか。
最下層階を攻略している実績を持つパーティなら問題無いが成人前の少年が率いる美少女だけの『ブレイクフリー』は嘗められるからな。
ランクCなのに未だに陰口を叩かれたり絡んで来る連中も多いのもそうだ。
「パウエルさんに相談なんですが、盗賊ギルドに所属しているエレさんの為に幾つかは盗賊ギルド主催のオークションに出品しても大丈夫ですか?」
僕は冒険者ギルドに貢献する対価として優遇して貰っている、普通マジックアイテムは買取価格よりも高くなるオークションに出品するのが普通だ。
冒険者ギルドの買取価格はオークションの初期設定価格に近い、だが財政が豊かな僕等は冒険者ギルドに恩を売る方が良い。
パウエルさんはエレさんを見て微笑む、失礼とは思ったが意外と親しみ易い笑みだった。
「なるほど、確かにオークションに多く出品する事は盗賊ギルドに貢献したと認められますね。
出来れば防具は我々に武器は盗賊ギルドのオークションで良いですか?」
レアドロップアイテムである魔力が付加された防具は五個売却でギルドポイントが貰える、武器は特に関係無いからベストかな。
「分かりました、その割り振りで考えてみます」
丁寧に頭を下げる、何時も配慮して貰い有り難うの感謝を込めて……
「まさか半日でレアドロップアイテムの防具を七個も集めるとは驚きました。
ですがオークションに出品する数は考えて下さい、大量に出品すると色々と勘繰られますから」
確かにそうだな、ノーマルドロップアイテムとは言え不用意に他のギルドにボス狩りの実績を教えるのは危険だ。
噂としてボス狩りは広まっているが一日に何十回も繰り返してるのは知られてないのだから……
「有り難う御座います、三個位ずつ小出しに出品して様子を見てみます」
冒険者ギルドを立てれば盗賊ギルドが立たず、パーティメンバーの為とは言え難しいものだ。
今日は買い取って貰わずに帰る事にする、流石に模擬戦二回に魔法迷宮攻略は精神的にも肉体的にも疲れた、今日は早く帰って寝よう。
乗合馬車の停留所の待ち人は疎らだ、待合室の椅子に座る事が出来た。次の馬車には乗れるから十五分待ち位かな?
左右にイルメラとウィンディアが互いの腕が付く程の距離で座っているが、別に混んでないから詰めなくても平気なんですよ。
エレさんはイルメラの膝を枕に既に寝ている。
「あら、リーンハルトさんじゃない?」
最近本当に良く会う『春風』のフレイナさん達が笑顔で近付いてきた。