古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第173話

 ニーレンス公爵家からの指名依頼の一つ、レディセンス様との模擬戦は引き分けに持ち込んで終わった。

 途中でメディア嬢の姉であるバーバラ嬢の横槍が有り『リトルガーデン』とも戦う事になったが問題無く勝てたし彼女達もバーバラ嬢からメディア嬢の配下へと鞍替えした。

 ベルリーフさん達は貴族という者達の理解が足りなかった、初期の頃の僕と同じ危うい存在だったがメディア嬢の配下となった事で改善されるだろう。

 そして彼女はレディセンス様が好きらしい、確かにレディセンス様は苦み走った渋い青年だから戦士系女子には堪らないのだろうか?

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 午後から魔法迷宮バンクを攻略する、今回から六階層に踏み込む事にする。

 迷宮攻略で嬉しい特典が使える様になった、五階層のボスである『リザードマン』を倒すと初回のみドロップする『レッドリボン』を持っていると各階層を自由に移動出来るエレベーターが使用可能になる。

 これにより下層への移動の時間短縮と通路でポップしたモンスターを倒した時のレアドロップアイテムの目撃者が激減する嬉しい特典だ。

 

 バンク一階層の最奥にエレベーターが有る、僕等は殆ど各階ボス部屋しか行かないから実は初めて通る道でも有る。

 久し振りに一階層でポップするゴブリンを倒しながらエレベーターへと向かう。

 

「此処がエレベーターか……」

 

「正確にはこの小部屋の先の小部屋よ、この壁面パネルのスイッチで呼び出しをするの」

 

 唯一の経験者であるウィンディアが壁の腰高に有る突起を押した、だが呼び出しって誰か来るのか?

 暫く待つと鐘が鳴り横引き扉が自動で開いた……

 

「この小部屋と言うか籠に乗るのよ。それで行き先階数が書かれた突起を押すの」

 

 全員が籠に乗り込んだのを確認したウィンディアが数字の六と刻まれた突起を押す、すると手を触れてない横引き扉が自動でしまり浮遊感というか落下する感じが……

 

「変な感覚だ、でも確かに降りているな」

 

「小部屋自体が上下するなんて凄い仕掛けですね」

 

「初めての感覚、なんだか気持ち悪い」

 

 イルメラもエレさんも不思議な感覚に戸惑っている、一分間程で希望の六階層に到着、鐘が鳴り自動で横引き扉が開いた。

 エレベーターから降りて直ぐにゴーレムポーンを八体錬成する、籠の中は狭いのでゴーレムは乗れなかった、あと重量制限が有るらしい。

 

「此処が六階層か、エレさん案内宜しくね」

 

 地図を片手に頷いてくれた、冒険者ギルドで販売している地図だが彼女は自分なりに色々と書き足している。

 パーティの周囲に魔法の明かりを八個浮かべ照明を確保、じっくりと周りの警戒と確認する……

 城の中みたいな石造りの廊下だな、壁・床・天井共に規則正しい大きさとパターンで隙間無く石が積まれている。

 五階層と同じ黴臭い空気、それと少し肌寒い。

 

「この階層からゾンビの他に『徘徊する鎧兜』もポップする。ボス部屋に現れるのも同じ『徘徊する鎧兜』だ。

魔力の付加された武器や防具をドロップするので楽しみだな」

 

 通路にポップする奴は効果が低く魔力が付加された物はランダムらしいが、ボス部屋に現れる奴は強いが必ず魔力が付加された武器か防具をドロップする。

 ノーマルがロングソードやショートソード、メイスやアックス等の武器類で効果が低い魔力付加品。

 レアが同じく効果が低い魔力付加品だが兜や小手、盾や稀に全身鎧等の防具類が出る。

 リザードマンの『鋼鉄の槍』と違い魔力付加の効果は低いが種類が豊富な為に需要は高い。

 この階層でパーティの装備品を整えてから七階層から下に挑む、モンスターの強さは段違いらしい。

 

 エレさんの案内で薄暗い通路を歩く、魔法の明かりに照らされているのに10m先は良く見えない、何等かの力が働いているのだろうか?

 最下層への登竜門的なフロアなので数組のパーティと擦れ違ったり見掛けたりするが流石にレベル20以上で構成されたパーティばかり、戦い方も安定している。

 鎧兜を破壊する為に戦士職はアックスやメイスといった打撃系武器を装備している、普通は剣を使う連中が多いのだが目的に合わせて変更しているのだろう。

 だが斬撃系と打撃系は扱いが違うので戦士職は慣れるまで大変だろうな、剣術と棒術は別物だし得物が変われば慣れる迄に時間が掛かる。

 例えば機動性重視の軽戦士に重量武器を使わせるとか、戦闘スタイルが全く違うからね。

 僕のゴーレムの汎用性は迷宮攻略には有効なのが本当に有り難い。

 

「流石に六階層ともなれば中堅クラスのパーティばかりだな」

 

「そうですね、私達も負けてはいられませんね」

 

 他のパーティの戦闘を邪魔しない様に迂回したり待機したりしながらボス部屋に向かう、だが漸く六階層での初戦闘になりそうだ。

 

「前方に魔素が集まりだした、モンスターがポップするぞ。ゴーレムポーンよ、六体で攻めろ、二体は僕等の防御に専念だ!」

 

 魔素から実体化したのは『徘徊する鎧兜』が三体、全部がロングソードにラウンドシールドを装備している。

 コイツ等を倒すのは本体である鎧兜を破壊するしかない、ゴーレムポーンは両手持ちアックス装備、二体一組にして襲い掛かる!

 金属同士の激しくぶつかり合う音が鳴り響きモンスターの兜が割られ胴体部分にアックスの刃が突き刺さる。

 中から魔素が流れ出し、次第に鎧兜の部分も崩れる様に魔素となり大気中に消えて行った……

 通路にポップする連中はゴーレムポーンで大丈夫みたいだがボスはゴーレムナイトに切り替えるか。

 

「ドロップアイテムが有るな、ショートソードか?」

 

 床に一振りのショートソードが落ちていた、エレさんが拾い鑑定したが結果は普通のショートソードで魔力付加は無い。

 受け取ったショートソードは確かに数打ちの量産品レベルだが売れば金貨一枚位にはなるか?

 そのまま空間創造に収納する、そう言えば他のパーティは大きな荷物を背負っていたがドロップアイテムなんだろうな。

 

「最初からは無理だね、だがボスは必ず魔力付加されたアイテムをドロップするらしいから頑張ろう」

 

 その後少し進むと目的のボス部屋に到着した、驚いた事にボス部屋の前に待ちのパーティが居る、つまり更に他のパーティが現在戦闘中らしい。

 

「こんにちは、ボス戦待ちですか?」

 

 5m程手前で戦う準備をしているパーティに声を掛ける、盗賊職が魔法の収納袋から両手持ちアックスとフレイルを取出し戦士職に配っている。

 パーティ構成は戦士四人に盗賊二人、合計六人の内、戦士の二人は女性。

 男性が両手持ちアックスで女性がフレイルを装備している、フレイルは連接棍と言って長い棒の先端に鎖などで打撃部分を接合した武器で高い技量を求められる。

 だが攻撃力は高く騎士の鎧ですらダメージを与えられる、元々は領主に反旗を翻した農民軍が農具からヒントを得て考案した武器らしい。

 長柄の先端は鉄製の刺付き棒だが乱戦には向かないな、通路は天井も低いし取り扱いが難しい。

 

「若いね、それにゴーレムが八体か……君達は今噂の『ブレイクフリー』か美少女ゴーレム使いのどっちだい?」

 

 僕とウィンディアを交互に見ている、今日の僕は革鎧に魔術師のローブを着ているからな。

 しかし未だ『ワイルドカード』の流した噂話が生きてるのか、いや余計に広まってないか?

 

「僕等は前者の方です、六階層は初めてですがバンクには通い詰めてますけど、噂の美少女ゴーレム使いは見た事が無いですよ」

 

 彼等の後ろに一列で並ぶ、流石に魔法付加のアイテムが必ずドロップするとなれば挑戦する連中もいる。

 

「そうだよな、俺達も聞いたのは最近なんだよ。俺達はスターズ、煌めく星の集まりさ」

 

「僕等はブレイクフリー、自由への旅立ちです」

 

 互いに恥ずかしい挨拶を交わして暫く雑談する、ボス部屋の中からは怒号や金属音が聞こえるが冒険者パーティの方が優勢みたいだ。

 最後の一体だとか、止めだ、とか聞こえる。

 

『やったぜ!チェインメイルだ』

 

『久々だぜ、レアドロップアイテムだぞ!』

 

 どうやらボスを倒して確率3%のレアドロップアイテムが出たらしい、普通は三十回に一回程度だから嬉しいよな。

 僕等は連戦出来て、しかも確率は30%、三回に一回はドロップするから感動が少なくなってるのか?

 

 扉を開けて出て来たパーティは誇らしげにチェインメイルを担いでいた、『スターズ』が拍手をしていたので追従する。

 

「おめでとう、やったな!全身鎧は少ないんだよな」

 

「おぅ、サンキューな。俺達もレアドロップアイテムは半月振りだぜ」

 

 意気揚々と帰るパーティを見送る、アレが普通の反応で僕等はレアギフトの恩恵の凄まじさを理解した。

 

 多分だが午後一杯頑張れば二十回はボスに挑戦してレアドロップアイテムも五個は手に入るだろう。

 

「さて、俺達も頑張るぜ!」

 

 僕の肩を軽く叩いて『スターズ』はボス部屋に入って行った、普通の冒険者パーティの現状を知れた良い機会だった。

 このレアギフトは秘密にしないと大変な事になると改めて認識した……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 結構長いな、スターズが入ってから待ち時間は十分過ぎた位か?

 部屋の中から打撃音が聞こえる、『徘徊する鎧兜』の本体はフルプレートメイルだから金属を破壊しないと倒せない。

 念の為にゴーレムナイトに変更し両手持ちアックス装備を十体で対応するか、だがアックスは鎧兜に叩き込むと食い込んで抜き取る時に僅かながら時間が掛かり無防備になる。

 ならば打撃系の武器も混ぜての編成するか、長柄の先端が刺付きの球体の『モーニングスター』とかはどうだろう?

 太い刺は金属製の鎧にも穴を開ける事が出来るし弾き飛ばす事も可能だ、半数ずつ装備させてみるか……

 

「リーンハルト君、黙り込んで……また何か魔法絡みで考え込んでたでしょ?」

 

 ウィンディアが右腕に抱き着いて顔を近付けて来たが、むやみやたらと異性に抱き着く癖は治した方が良いぞ。

 黙っていれば美少女だし勘違いする男は居るだろう、なにより僕がウィンディアが他の男に抱き着くのは嫌だ。

 

「ウィンディア、その抱き着き癖は治すんだ。他の男に……」

 

「なになに?リーンハルト君は私が他の男にも抱き着くと思ってるなら酷い誤解だよ。私はリーンハルト君以外には抱き着かないもん!」

 

 右腕に強く抱き着いて睨まれた、私本気で怒ってますみたいに睨まれた。

 

「む、いや済まない。そういう意味じゃないんだ、他の男に抱き着くのは嫌だなって……」

 

 何を言ってるんだ、僕は彼女の恋人でも何でもないのに独占欲が強いみたいな事を言うなんて。不味い、ウィンディアが真っ赤になって目が潤んで……

 

「それって、私はリーンハルト君のモノ宣言?」

 

 首を傾げながら、でも微笑む彼女は綺麗な……

 

「はい、それ迄です。スターズの皆さんの戦闘が終わりました」

 

「暑い、この魔法迷宮は暑い」

 

 思わず我に返って身体を離す、前回の指輪騒動の件でイルメラとウィンディアに対しての自分の気持ちを確認しているからな。

 昔みたいに遠慮や照れが無いので突き進みそうで怖い、だが今は色事に現を抜かすのは駄目なんだ。

 

「よう、待たせたなって妙な雰囲気だが何か有ったのか?」

 

 無傷とは行かなかったみたいだが『スターズ』は全員無事でボス部屋から出て来た、ドロップアイテムはノーマルで革の鞭だったそうだ。

 てか鞭系の武器は初めてだが使い勝手は悪そうだよな、長さは3mで二本の革を編み込んで途中に金属片を固定している。

 使い方は巻き付けて引っ張るのかな?

 

「残念ながらノーマルドロップアイテムだ、しかも鞭なんて売るしかないぜ」

 

「一寸特殊過ぎますね、攻撃力も低いし扱い辛い。僕も初めて見ました」

 

「頑張って倒してもハズレだと意気消沈だぜ、まぁお前等も頑張れ」

 

 淋しそうにボス部屋から立ち去る『スターズ』の背中は煤けていた、強敵を倒しても微妙なドロップアイテムだと悲しいよね。

 

「さて今度は僕等の番だ、頑張ろう!」

 


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