古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第172話

 模擬戦を終えてレディセンス様から手荒いスキンシップを受けながら観覧席に戻る、何やらコチラも不思議な雰囲気を醸し出しているな。

 中央のテーブルにジゼル嬢とメディア嬢が座り右側のテーブルにイルメラ達が座り、左側のテーブルには『リトルガーデン』の面々が何故か座らずに立っている。

 

 ジゼル嬢とメディア嬢がにこやかに笑い合い、イルメラとウィンディアとエレさんは困った顔をしている。

 『リトルガーデン』の面々は困惑しているのは未だ新しい雇い主との距離感が掴めないからか?

 

「リーンハルトよ、やっぱり納得出来ないぞ。お前終始手加減してたろ?」

 

 この微妙な空気の中で我関せずに意見を言えるのは流石と言うか何て言うか……

 立たせておく訳にも行かず中央のテーブルに座る、謀略系令嬢二人の労りの言葉が嬉しい。

 

「手加減では有りません、模擬戦は実戦ではないので色々配慮しただけです」

 

 これが僕の全力全開!とか戦えば悪いが圧勝し、僕はニーレンス公爵家及び派閥から恨まれる最悪のストーリー。

 

「お兄様と戦うのに政治的な意味で勝つ訳にはいかないのです。

仮に勝ってしまったら取り巻き連中が一斉にリーンハルト様に何かしらの良くない行動に移るのは明白、端から見ても接戦で引き分け、最後は正々堂々の一騎打ち、見事な演出ですわ」

 

 演出とか言い切ったぞ、メディア嬢も策士としては微妙だと聞いていたが中々どうして良く考えているな。

 

「まぁそうだよな、確かに俺が負けたら五月蝿い奴等は多いよな、お前の立場を考えずに悪かったな」

 

 微妙な詫びの言葉を頂いた、やはり脳筋だな、理解は出来ても欲望に走り易い。

 

「それにレディセンス様の目的は模擬戦を通じて互いの現状の力を確かめる事、それは存分に分かった筈ですわ」

 

 輝くばかりの笑顔で言い切った、今は絶対に勝てないですよねって!

 

「ジゼル、お兄様を虐め過ぎですわよ。もう少しソフトな表現をしなくては駄目ね、お兄様はリーンハルト様との実力差を理解しましたね、と……」

 

 コチラも見惚れる笑顔で言い切ったぞ!

 しかも互いに良い笑顔で笑い合ってるけどレディセンス様の顔は苦虫を噛み潰したみたいだ、僕は胃が痛くなって来た。

 

「なぁリーンハルトよ、アイツ等って仲が悪くなかったか?なのに何故仲良く俺を虐めるんだ?」

 

 椅子に浅く座り身体をのけ反らせ右手で額を押さえながら聞かれたが、僕には真実は答えられません。

 

「喧嘩友達ですよ、見目好い淑女の口喧嘩など可愛い物じゃないですか?」

 

 実際に少し前迄は互いに嫌っていただろう、最近になってから関係が良い方に変わった。

 同族嫌悪に近い物が有ったかも知れないが互いに理解し合い歩み寄れば良い友になれるだろう、同じ謀略系令嬢だからな。

 だからこそ怖い部分が有る、僕では太刀打ち出来ない部分だから頼もしいのだが敵に回すと厄介でしかない。

 

「お前って達観してるって言うか老成してるって言うか……まぁ指名依頼は達成だな、次も頼むわ」

 

 無理です、もう嫌です、模擬戦の相手はデオドラ男爵だけで手一杯です。

 だが曖昧な笑みで返事をはぐらかす、面と向かって拒絶は出来ないのが僕とレディセンス様の立場と関係。

 

 後でメディア嬢に頼むか……

 

「リーンハルトさん、負けた癖にこんな事を言うのは悪いけど、何故レディセンス様と本気で戦わないの?失礼じゃないの?」

 

 ベルリーフさんからの言葉、確かに挑まれて手加減したなど武人として失礼だって意見は正しい、手加減は格下と認めているからだと思われる。

 

「ベルリーフさん、レディセンス様や僕は貴女と違い貴族なのです。

貴族とは本人の意志とは関係無く爵位や派閥による上下関係が発生するのです、個人の能力にそれらが上乗せされた物がレディセンス様の力であり僕の力。

今は圧倒的にレディセンス様の方が上ですし魔術師と戦士を比較するのも本来なら正しくは無い。

貴女達は貴族と言う者の理解が足りてないですよ」

 

「リーンハルト様は貴女達が私の役に立つから無傷で負かせたのです、何故リーンハルト様に勝てるって思った根拠が知りたいですわ、何故ですの?」

 

 それは僕も聞きたい、レディセンス様絡みで結構な情報が流れている筈なのに勝って当然みたいに挑まれた。

 僕は三秒で最大五十体、本当は百体を召喚し同時運用出来るのだが六人パーティで勝てると思った自信は何なんだ?

 

「それは土属性魔術師が火属性魔術師に勝てるなんて事は……」

 

「アウトですわ、私も土属性魔術師です。確かに私が貴女達と直接戦えば負けるでしょう。ですが私は上級貴族、侮辱されたと貴女達を抹殺する事が簡単に出来るのですよ。

これが貴族の本当の意味を知らない貴女達の愚かさです。

リーンハルト様は自分と仲間達の安全を考えて行動しています、どちらがパーティのリーダーとして正しい姿なのかわかりますか?」

 

「そんな不条理な……常に周りを見て卑屈に生きるなんて……そんなのって……」

 

 現実を知って悲壮な顔をしてるけどさ、バーバラ嬢との付き合いも有った筈なのに大丈夫だったのか?

 あの見栄っ張りの見本みたいな貴族令嬢の下に居たんだよな、しかも交渉して褒美にマジックウェポンを頼む位に……

 今みたいな態度を取ったら大事じゃないのか?

 

「時と場合によりです、現にリーンハルト様は宮廷魔術師序列八席、『魔弾の狙撃』の二つ名を持つアンドレアル様の御子息であるフレイナル様と正々堂々と戦い見事に圧勝していますわ」

 

 メディア嬢、それは秘密ですよ!貴族間の決闘の結果は立会人だけの秘密ですから。

 

「フレイナル様って宮廷魔術師入りが確実って言われてる火属性魔術師の若手No.1の実力者ですよね?そんな彼に圧勝って……」

 

「どの属性が一番強いとかは無いんだ、条件次第で何とでもなるんだよ。

今回の件も君達は奥の手である魔術師の呪文が『サンアロー』だと教えていた、直線に照射する呪文だからこそ僕の耐火仕様ゴーレムで防げた。

これが白炎のベリトリアさんみたいな『ビッグバン』なら防げなかったよ」

 

 任意の場所に魔素を集めて爆発させる『ビッグバン』だったら魔法障壁頼りでしか防げなかった。

 彼女達は自分の必勝パターンの肝である『サンアロー』を脅しの意味でも使ったのが敗因だ、切り札は最後まで隠し通すのが普通なんだ、僕の水属性魔法の毒と一緒にね。

 

「リーンハルト様、ご苦労様でした。後は私とジゼルで処理しておきますのでお帰り下さい、ジゼルも良いわね?」

 

「ええ、構いませんわ。リーンハルト様、お疲れ様でした」

 

 謀略系令嬢二人に帰れって遠回しに言われた、つまり『リトルガーデン』は二人に説教か……ご愁傷様だね。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「お兄様、もう帰って良いですわ。ベルリーフ達も今日は帰って良いです、ですが明日の午後に私の屋敷に来なさい」

 

 人払いをしてまで私と二人切りで話したいのね、ですが今のやり取りでレディセンス様とメディアの力関係が分かったわ。

 レディセンス様は基本的に妹達には優しい(甘い)けどメディアだけは別格なのね。

 

 渋るレディセンス様と『リトルガーデン』を追い返した、ギルド職員まで下げて闘技場には私と二人切り、ここなら誰にも見られず聞かれない。

 

「先ずは謝っておくわ、お兄様と討伐遠征から帰って来た内の二人が居なくなりました。

調べた結果、一人はラデンブルグ侯爵に買収され残りの一人は他殺体で見付かりました」

 

 テーブルに向かい合わせに座るなり問題発言をしたわね。

 

「つまり討伐遠征における本当の功労者が知られてしまった、ラデンブルグ侯爵ともう一人の誰かに」

 

 ラデンブルグ侯爵は分かる、自分の領地での事件の真相を知りたいと思ったのだろう。

 自分が送り込んだ討伐部隊は全滅、真相を知る為にレディセンス様の配下を買収し、そのまま自軍に引き込んだのでしょう。

 ですがもう一人の方は殺された、つまり情報が誰に渡ったか調べ様が無いわね。

 

「良く話してくれましたわ、しかし内通者を殺す程の非情な相手……」

 

「内容を聞いて口封じをしなければならなかったのか、最初から始末するつもりだったのか?どちらにしても嫌な相手だわ」

 

 リーンハルト様の力を知った連中は勧誘か排除か、折角手に入れた情報を使わない訳は無いわ。

 

「リーンハルト様だけじゃないわよ、貴女も気を付けなさいな」

 

「私?」

 

 確かにそうだわ、リーンハルト様に近しい人物が危険に晒される可能性は高い、脅迫に有効なのは人質、旧コトプス帝国の連中も同じ事をして効果を上げたわね。

 思わずリーンハルト様から貰った『召喚兵のブレスレット』に触る、彼はこの可能性を知って危険を承知でコレを私に渡した?

 

「早くリーンハルト様と結婚しなさい、私の情報だと姉であるアーシャ様に遠慮しているんでしょ?」

 

「なっ?ななな、何を言ってるのよ!」

 

 嫌らしい笑みを浮かべて見詰めるが、私が動揺した事により更にニィと口を吊り上げた、腐っても貴女は公爵令嬢でしょ?

 

「私にだって情報網は有るのよ、貴女の屋敷の中にもね、お互い様でしょ?

確かにアーシャ様はリーンハルト様の事が好きみたいね、しかも互いに悪くは思っていない。

アーシャ様は誕生日パーティで社交界へのお披露目を兼ねる、結婚の申し込みも多いでしょう。

私の情報ではエムデン王国の武の重鎮たるデオドラ男爵に気に入られようと脳筋共が群がるわ、貴女は彼女の為にリーンハルト様と結ばれるのを躊躇している。

何故ならアーシャ様の気持ちを知って彼女に宛がわれる相手では幸せになれない事も理解出来るから。

アーシャ様の幸せはリーンハルト様と結ばれる事、でもデオドラ男爵家としては愛でるだけの華の彼女では弱いわよ。

謀略を司る貴女とリーンハルト様が結ばれる事が一番なのは自分でも分かってるでしょ?」

 

「それは……」

 

 メディア、我が家の使用人を買収してるわね、私も同じ事をしてるから文句は言えない。

 でも正論を突き付けて来るとは思わなかった、アーシャ姉様との結婚なら他から付け入る隙があるのに何故譲るの?

 

「私はね、リーンハルト様が貴女の婚約者だから、将来は伴侶だから勧誘は諦めて普通に友好的な関係を結んでいるのよ。

他の女や敵対派閥に取られる位なら……あの方はニーレンス公爵家として排除しなければならない程の脅威となる」

 

「メディア、貴女は他人を怖いと思った事があるかしら?」

 

 理屈では分かる、頭は理解しているが感情が躊躇するのよ、貴女はリーンハルト様の秘密をしらないから言えるんだわ!

 

「何かしら?恨めしげに睨んで……ジゼル、貴女もしかしてリーンハルト様が怖いの?」

 

 小馬鹿にしたわね、鼻で笑ったわね!

 

「メディアに何が分かるのよ!」

 

「リーンハルト様は確かに年不相応の実力と落ち着きが有りますわ、異常とか異質とか感じる人も居るでしょう、彼は未だ十四歳。

ですが後五年もすれば同じ様な方々は沢山居ますわ、貴女は自分が知らない事が怖いのです。

何でも知ってるつもりになって、自分が理解出来ない人を恐れ壁を作る……違うかしら?」

 

 私が恐れているのは自分が理解出来ないから、リーンハルト様を拒絶する?

 

「あの殿方は敵と味方、大切な人と違う人の区別をします、残酷な位に……

私も最初は警戒され敵視され冷たい対応でしたわ、当然私に原因が有ったから。

でも今は違いますわ、多分ですが味方寄りになっているのでしょう。

ですがジゼル、貴女は彼の大切な人の括りの中に居るのに自分の軽い頭で彼の強さを理解出来ないから壁を作る。

なんて愚かで恥知らずなのでしょう。

何か有れば力になりますわ、私の大切なナイト様を預けているのです、良く考えなさい」

 

 言いたい事だけ言って帰ったわね、ですが……ですが感謝致しますわ、有難う御座いました、メディア。

 味方として大切にして貰っているのに、互いに能力を認め合い頼られているのに、馬鹿な考えに取り付かれて自ら壁を作る愚かさに気付かされるなんて。

 


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