古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第170話

 レディセンス様との模擬戦の際に彼の姉妹喧嘩に巻き込まれた。

 メディア嬢が他の姉妹と仲が悪いのは聞いていたが、あからさまに仕掛けてくるとは驚きだ。

 相手は上級貴族であるニーレンス公爵の娘だが、レディセンス様とメディア嬢が側に居れば大丈夫だろう。

 それに最近付き纏っていた『リトルガーデン』がマジックウェポン目当てに挑んで来た、元々はニーレンス公爵家がパトロンだったが直属はバーバラ嬢だったらしい。

 これを機に彼女達をメディア嬢側に引き込む、それなりにバランスの良い冒険者パーティだから彼女の手足となれば力を発揮するだろう。

 だが上下関係はハッキリさせねばならない、ここは圧勝して自分達の立場を分からせる。

 僕はメディア嬢の配下ではないが同列と思われるのはお断りだ、ハッキリ下だと分からせる必要が有る。

 だが熱い瞳で僕を見詰めるメディア嬢と凍える瞳で僕を見詰めるイルメラとウィンディアが怖い、何か手順を間違えただろうか?

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「で、では始めましょうか?」

 

 格好を付ける場面で吃ってしまった、反省。

 

「分かった、『ブレイクフリー』何かに負けないからね」

 

 ベルリーフさん達が各々の武器を構えながら立ち上がる、バーバラ嬢ともう一人の姉の嬉しそうな顔が凄く歪んで見える、その愉悦の顔を浮かべられるのも後少しだぞ。

 

「違うよ、相手は『ブレイクフリー』じゃない。僕だけで十分だ」

 

 イルメラとウィンディアに目を合わせてお願いする、以心伝心で分かってくれたみたいだ。

 二人でエレさんを抑えて耳元で何か呟いていた、渋々納得したみたいだ。

 

「アンタ、私達を馬鹿にするつもり?土属性魔術師が火属性魔術師に直接対決で勝てると思ってるの?」

 

「しかも六対一って自惚れも度が過ぎると哀れだっての!」

 

「いくら致命傷は駄目って言っても私達を怒らせたんだ、足腰立たない位にボコるからね」

 

 ヤレヤレ、尾行されてたみたいだが何を根拠に僕に勝てるって自信を付けたんだろうか?

 いきり立つ『リトルガーデン』を冷めた目で見る、物欲に負けてバーバラ嬢に与した連中に僕が負けるとでも?

 

「レディセンス様、売られた喧嘩です。好きに買い叩いても構いませんよね?」

 

 この場の最上位者はニーレンス公爵の直系男子のレディセンス様だ、他の姉妹は女性だから一段下がる。

 

「お前な、手加減してやれよ。ウチの関係者の中じゃ上位なんだぞ。ベルリーフ、お前も何でリーンハルト殿に突っ掛かるんだよ?」

 

「それは、その……」

 

 目元を赤くして目を逸らした、そう言う事か。恋する乙女が意中の相手に認めて貰いたい、ついでにマジックウェポンも貰いたい。

 好感は持てるが売られた喧嘩に負ける事は出来ない、だがバーバラ嬢よりメディア嬢の方がマシな雇い主だから感謝しろよな。

 

 闘技場の中心に向かいながら空間創造からカッカラを取り出して一回転させる、先端の宝環がシャラシャラと澄んだ音を奏でる。

 

 さて今回はどうやって戦おうかな?

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 余裕を崩さず笑うバーバラとフェンディの優しそうに見えて侮蔑の篭った笑みに心が痛む、対してメディアは本心から嬉しそうな笑顔だ。

 まるで茶番な模擬戦だ、リーンハルト殿が負ける訳が無い、メディアはそれを承知で家宝を賭けて『リトルガーデン』の引き抜きを持ち掛けた。

 バーバラは格下貴族や平民など弱い者と決め付けているからな、特にリーンハルト殿は成人前の子供、しかも火属性魔術師のチロルを率いる『リトルガーデン』に一人で立ち向かう、六対一で普通なら勝てない。

 

「普通なら『リトルガーデン』の勝ちだが普通じゃ無いんだぞ、なぁメディア?」

 

「私はリーンハルト様の勝利を信じるだけです、そして彼の献身を褒めるだけですわ」

 

 いい笑顔だな、普段からそういう顔を浮かべてれば社交界で更に人気が出るだろうに、企みばかり上手くなりやがって……

 

 逆にジゼル嬢の笑顔は怖いな、完全に作り笑いなのが分かるし意味も伝わってくる『茶番に付き合わせないで下さい』だな。

 確かに自分の婚約者が勝手に騒動に巻き込まれるのが嫌なのは分かる、だが俺も辛いんだぜ。

 

「しかし『リトルガーデン』が馬鹿な行動をするとは思わなかったな、そんなにマジックウェポンが欲しかったのか?」

 

「レディセンス様は少し女心を学ぶべきですわ、ですが今回は『リトルガーデン』はお仕置きです。そうよね、メディア?」

 

「勿論よ。私の配下になるのですもの、躾は必要だわ」

 

 お前等仲悪くなかったか?何故息がピッタリなんだよ、おかしいだろ?

 

「お前等、アレだ、程々にな……」

 

「「ええ、勿論ですわ」」

 

 だから何故いがみ合っていた筈なのに息がピッタリなんだよ、お前等少し変だぞ。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 何か観覧席が騒がしいが今は『リトルガーデン』と戦う事に集中するべきだ、幾ら自信が有るとはいえ彼女達も一人前の冒険者、油断は禁物だ。

 パウエルさんが心配そうに見ているが大丈夫だと手を振る。

 

 改めて『リトルガーデン』と30mの距離を離して向き合う、彼女達はロングソードとラウンドシールドを構えた戦士二人を前衛として次に司令塔のリーダーとショートボゥを構えた盗賊、最後尾に僧侶と魔術師というフォーメーションだ。

 定番だな、前衛の戦士が接近戦を仕掛けて盗賊が弓で牽制、リーダーが全体を見渡して僧侶は守りと回復、最後に魔術師の魔法で仕留める。

 

「今謝れば許してあげない事もないわよ?」

 

 疑問形で最後通牒を出されてもな、でも絶対許す気なんてないだろ?

 

「悪いが同じ言葉を返そう、今なら許してやるよ」

 

 信じられないって顔をしたな、自分達の勝利を疑ってない、何か隠し玉でも有るのだろうか?

 

「馬鹿な男ね、私達の踏み台になりなさい。

ミュレル、ラミエル、奴を近付けさせないで!レイロンはショートボゥで牽制、ハームは防御魔法、チロルの魔法で決めるわよ!」

 

 多対一なら理想的な布陣だな、だが惜しむらくは全員が視界に収まっている事だ、この闘技場なら全ての場所に僕はゴーレムを三秒で錬成出来る。

 でも正攻法で攻めるかな、不用意に力を見せる必要は無い。

 

「クリエイトゴーレム!ゴーレムポーンよ、勝ちに行くぞ」

 

 前方に十体三列、合計三十体のゴーレムポーンを錬成、全てロングソードにラウンドシールド装備だ。

 

「早いわよ、召喚の邪魔をする暇がない」

 

「卑怯者!五倍って何よ、聞いてないわよ」

 

「不味いわ、ミュレルとラミエルは左右から迂回して攻めて制御を乱して!」

 

 普通ゴーレムは常に制御してないと動かない、だから術者にプレッシャーを掛けるのが定番だけど僕のゴーレムポーンは半自動制御だ。

 

「突撃!」

 

 まさかレディセンス様から僕の最大制御数を聞いてなかったのか?

 彼にはゴーレムポーンが最大五十体、更にゴーレムルーク二体の同時運用を見せている、これでも手加減してるのだが……

 

 前衛十体が左右に五体ずつ分かれて戦士を牽制する、勿論ロングソードは刃引きしてるから大怪我にはならないだろう。

 

「不味いわ、チロル?」

 

「任せて、後少しでサンアローを撃てるわ!」

 

 おいおい、致命傷は与えないのが約束じゃないのか?

 構えた杖がまともに僕に向いてるが、彼女のサンアローなら最大でも1200度位か……

 だが防げない訳じゃない、青銅製ゴーレムは無理でも最近バルバドス師と共に考え出した耐火レンガを使ったゴーレムなら保つぞ、試してみるか。

 

「クリエイトゴーレム、耐火仕様のゴーレムを倒せるかな?」

 

 自分の正面に全長3mの耐火レンガ仕様の大型ゴーレムを錬成、盾を前面に構えさせ前進させる。これで敵の魔術師の射線から完全に隠れた。

 

「大きい、あんな化け物ゴーレムが作れるなんて聞いてないわよ!」

 

「準備が出来た、撃つよ。サンアロー!」

 

「耐えろ、ゴーレム!」

 

 白熱の光線がチロルの杖から放たれるが耐火仕様で重量級のゴーレムが光線の圧力にも耐える。盾も問題無い、この耐火仕様のゴーレムは使えるな。

 

 チロルの総魔力量では照射時間は十秒にも満たない、これで勝負はついた。最大火力の魔術師が無力化すれば後は数で押せば問題無い。

 残り二十体のゴーレムポーンを突入させれば勝負はついたな。

 最後の足掻きでゴーレムに隠れて接近していた盗賊が矢を放ったが魔法障壁で弾く、一呼吸おいてからゴーレムポーンを突撃させる。

 

 合計三十体の青銅の暴力に『リトルガーデン』は屈した。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「まぁ当然だな、ワイバーンやトロールを瞬殺出来るんだ。六人程度に負けるかよ」

 

「そうですね、また新しいゴーレムですか……火属性魔術師のサンアローを防げるなんて何と言うか、また問題が生まれましたわね」

 

「3m級の巨大ゴーレム、サンアローの熱量や圧力にも負けないとは、今後の土属性魔術師の立場が変わるかもしれません。

バルバドス様と一緒に研究した成果かしら、あの耐火仕様の盾は前に一度見せて貰いました」

 

「元宮廷魔術師のバルバドス様と共同研究の成果なら煩く言われないかしら?」

 

 ゴーレムポーンで取り囲む事で戦意を喪失したのか、リーダーのベルリーフが両手を上げて降参の意を示した事で審判のパウエルさんが勝敗を決定した。

 一旦観覧席に戻るが既にメディア嬢の姉二人は居ない、『リトルガーデン』が負けて直ぐに帰ったそうだ。

 

「リーンハルト様、お疲れ様でした」

 

「リーンハルト君、おめでとう」

 

「ああ、有難う……それで直ぐに模擬戦をしますか?」

 

 勝って当たり前、負けるつもりは1mmも無かった、特に疲労も無いので連戦も可能だ。

 出来れば早めに済ませてバンク攻略に向かいたいのが本音だな。

 

「お前は少し休め、連戦なんてさせられるか!」

 

 レディセンス様に肩を捕まれ椅子に座らされた、休むと言っても大して疲れてないのだが……

 

「な、何でしょうか?」

 

 見目麗しい貴族令嬢が二人並んで目の前に立たれるとですね、笑顔なのに無言の圧力が凄い。

 今回は何も悪い事はしてない筈だし迷惑を掛けられたのは僕の方ですよね?

 この場で一番偉いレディセンス様に目で助けを求める、横を向いて視線すら合わせてくれない!

 

「リーンハルト様」

 

「はっ、ハイ。何でしょうか?」

 

 メディア嬢がズィッと前に出て来た、横目で見たジゼル嬢は無表情、肩越しに見えるイルメラとウィンディアは不機嫌そうだ。

 

「私の為に、私だけの為に、見事な勝利でしたわ」

 

 溜めて二回同じ事を言われた、メディア嬢の為だけじゃないけど。

 スッと手を差し出して来たがアレか、手の甲にキスする貴婦人に対するナイトの……

 この状況で躊躇する事は出来ない、彼女の中では僕は未だ彼女を守るナイト役なんだろうな。

 椅子から立ち上がり片膝を突いてメディア嬢の手の甲に軽く触れる位のキスをする、何だか照れ臭い。

 

 因みに手の甲にキスは目上の者に対する敬愛を表し、手のひらへのキスは愛情を求める、つまりプロポーズと同じ意味だ。

 

「リーンハルト様の無償の献身に対して、この花を授けます」

 

 胸に付けていた百合のコサージュを外し手渡してくれた、生花だし価値は低いが家紋の百合を使っているからな、有る意味重い。

 

「有り難き幸せ」

 

 軽く頭を下げて終了、様式美に従った流れで、この茶番の模擬戦を締め括る。

 観覧席の外には『リトルガーデン』が並んで頭を下げている、今後の雇い主であるメディア嬢の言葉を待っているのだろう。

 

「メディア様……」

 

「何でしょう?私のナイト様は無欲ですが何か恩賞の希望でも有るのですか?」

 

 恩賞は要らない、貰うと上下関係が生まれて面倒臭くなるから。

 

「彼女達は事前に僕等の事を調べていました、誰の指示でどんな意味が有ったのかは確認しておいて下さい」

 

「分かりました、キッチリ調べておきますわ。ジゼル、手伝って下さる?」

 

「ええ、勿論ですわ。裏の裏まで聞き出しましょう」

 

 この二人、組ませたら駄目だったんじゃないか?顔が引き攣っている哀れな『リトルガーデン』に黙祷を捧げた。

 

 


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