古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第17話

「ウィンディア、良い人達だったな。それに強くて優しくて思いやりがあって……

母上の形見の指輪を大切な物と見抜いて受け取らないなんて、不謹慎だがホッとしている」

 

 薄暗い洞窟を教えられた道順に走って出口まで向かっている、少しでも早く迷宮を出る為に。

 幸い未だモンスターには遭遇してないが、ゴブリン程度なら今のボロボロの私達でも余裕で倒せるので心配は無い。

 

「そうね、実質グレートデーモン六匹を一人で倒せる強さを持ってるわ。

信じられないけどポイズンミストって初級の攻撃魔法よ、何かオリジナリティーを組み込んでいるわ。

普通のなら幾ら傷付けていたとは言えグレートデーモンに効くとも思えない。

しかも貴族の暗部を理解しているし、私達の周りの馬鹿共とは違う既に一人前の立派な戦士で紳士ね。だけど……」

 

 だけど自らの保身の為には私達を殺すと言った非情な面も持っている、なら何故助けたのかの矛盾も抱えているわ。

 会話の中に御礼や報酬の事が一つも無かった。つまり私達を助ける事を前提として行動してくれた事になる、貴族としては甘すぎる対応だわ。

 お互いに名乗って身元も知られているし同じ派閥の一員だし、何故無償で命懸けで助けてくれたのか謎だわ……なにか裏が有るのかしら?

 ルーテシアは剣技に関しては既に武門デオドラ家の中でも上位に食い込む程凄いが貴族令嬢として大切に育てられた為に、世間知らずで他人を無意識に信じてしまう甘さと危うさが有るの。

 その為にデオドラ男爵様は私を傍に付けた、陰の護衛として。だから私は善意だとしても疑わなければならない。

 今回の件は本当に私の力の至らなさが原因で此処まで追い込まれてしまった。 でも未だ挽回出来る、早くデオドラ男爵様に相談出来れば……

 

「バーレイ男爵家と言えば前大戦の英雄、ディルク様の事だ。彼は英雄の息子なのだな、だから魔術師なのにあれ程の強さと騎士の心を身に付けているのか……

このまま他人として関わりを断つのは勿体無い男だ」

 

 珍しく男に興味を持ったのは良いけど、彼は駄目でしょ!

 助けて貰ったお礼は他人の振りをしろって事なのよ、貴女が男に興味を持ったとか知られたら……彼に多大な迷惑が降り掛かるのが分かる、特にデオドラ男爵様自らが何かすると思う。

 あの親馬鹿は必ず何かやる、どうせやるならエリックとビクターにヤレば良かったのに。

 いや、確か騎士団練兵場に二人を呼び付けて、デオドラ男爵一族の巌つい騎士達を並べて娘に手を出したら殺すって脅してたわね。

 それだけ脅されていたのに今回の惨事をデオドラ男爵様にどう説明するつもりかしら?

 

「駄目よ、彼は自分が微妙な立場に立たされたのを理解してるのに私達を助けたの。

貴女が何の面識も無い彼に接近したら怪しむ連中が必ず出てくるから、結果的に恩を仇で返す事になるの。

彼等とは何処かで会っても初対面として対応するのよ、分かった?」

 

 彼はコレを心配していたんだろう、善意で良かれと思って行動しても結果的には悪い方に転がる。

 でも分かっていても非情に成り切れない優しい人、他人から見れば馬鹿って言われても仕方ないのに。

 

「そっ、そうか……残念だが諦めるしかないのか。

それにしてもデモンソードは欲しかったな。

レイス系にもダメージが与えられる武器は高いし数が少ないんだ」

 

 なによ、色恋の他には武器しかないの?この脳味噌筋肉娘は? 

 この娘は貴族令嬢として何処へ出しても問題無い礼儀作法を身に付けているのに、思考が脳筋なのは何故なのかしら?

 暫くは他愛無い話をしつつも周囲を警戒しながら走る、確かこの角を曲がれば後は真っ直ぐ進めば出口だわ。

 先ずは管理事務所に行って、その後に冒険者ギルド出張所に報告。そして辻馬車を捕まえてデオドラ男爵家に逃げ込まないと……

 でもリーンハルトって言ったかしら?

 良い男よね、見た目も悪く無いし身を挺して私達を守れる強さと優しさを持っている。

 この件が一段落したら普通の出会いを演出して会ってみましょう、彼の本心を確かめる必要が有るし……

 流石に此処まで世話になってちゃんとした御礼も無しは失礼だし、要は周りに気付かれない配慮をすれば良いのよね?

 出来れば彼にもルーテシアを守る事に協力して欲しいけど、それはやってはいけない事か……勿体無い人材なのに残念だわ。

 

「ウィンディア、出口だぞ」

 

「ええ、ルーテシア。コレから大変だけど頑張りましょう!」

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「む、何だ?寒気がしたぞ……」

 

 突然背中に氷を差し込まれた様な寒気が襲ってきた、思わず立ち止まり両手で体を抱えてしまった。

 

「リーンハルト様、汗をかいて体が冷めてしまったのでは?」

 

 心配そうに僕の手を握り暖めようとするイルメラの手をやんわりと離す、これは……この寒さは物理的な寒さではない。

 何か、こう先程のグレートデーモンに魔力無しの裸一貫で向かうような?

 

「いや、大丈夫だ。さて二階層のモンスターはコボルドか。犬顔のモンスターで多種多様な武器を操る。

ドロップアイテムはノーマルがダガーでレアがスタンダガーか……

微妙だな、ダガーは嫌な思い出が有るし」

 

 買取価格もダガーは銅貨5枚でスタンダガーは銀貨7枚、スタンと名が付くだけあって傷付けると低確率で相手を麻痺させるんだが……

 そもそもダガーで接近戦をする事自体が少ないと言うか無いな。

 盗賊系なら投擲も有りだが普通にスローイングダガーか弓とかの方が効果的だな。コレは投げるに適した形じゃないし。

 前方の床に魔素が集まり輝き出した、コボルドと初対戦だ。青銅製のポーンゴーレムを四体、ロングソードとラウンドシールド装備で召喚する。

 魔素が濃くなり実体となって三匹のコボルドがポップした。犬顔で背丈は140㎝程度、簡素な皮鎧を着ていてゴブリンよりも身綺麗だ。

 武器はショートソードとスピアと、ヤバいショートボゥだ!

 

「イルメラ!魔法障壁を……

この階からモンスターは飛び道具を使ってくる、つまり後衛職にも攻撃が届くぞ!」

 

 思った通り、コボルドは僕を狙って弓矢を射ってきた!

 

「障壁よ、我等を守り給え!」

 

 飛んでくる矢を魔法障壁が弾く、僕等後衛職は基本的に布の服だから見た目も実際も防御力が低い。

 もう少しレベルが上がれば魔法障壁を常時展開出来るのだが……

 

「有り難う、イルメラ。

次は前衛三体の他に中間に盾持ちのゴーレムを二体、後方警戒に一体の計六体で行こう。

弓矢ならまだしもスピアとか投げられたら危険過ぎるぞ」

 

 単体攻撃力は低いが多種多様な武器使いって場合によっては強敵だ。戦士系みたいにチェーンメイルなら怖くないだろうけど……

 ゴーレムの編成を見直しコボルド狩りを続ける。

 一階層はボス部屋の出入りを繰り返していたので他のパーティとは会わなかったがコボルドを求めて迷宮を探索していたので結構な数のパーティと擦れ違った。

 皆さん一様に六体のゴーレム軍団には驚いていた。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「そろそろ帰る時間だね、締めに二階層のボスを倒して終わりにしようか?」

 

 コボルドを72体倒してドロップアイテムも大分溜まった。ダガー28本にスタンダガーが15本だ。

 

「はい、二階層のボスはオークです。醜い豚野郎ですがゴブリンやコボルドと違い大型で力強いモンスターですね。

分厚い脂肪と筋肉のお陰で耐久力が高く生半可な攻撃では致命傷になりません。ドロップアイテムはノーマルがハイポーションでレアが耐魔のアミュレットです」

 

 イルメラがマップを広げて、そこに書かれているボスの詳細を教えてくれる。

 

「一階層のウッドゴーレムの生身版か、出現数はランダムで最大三匹ね。ならばゴーレムは攻撃力の高い両手持ちアックス四体に盾持ち二体で行けるな」

 

 レベルアップの恩恵で最大制御数が青銅製ゴーレムなら20体まで可能になった。

 鋼鉄製ゴーレムならナイトにしても四体まで大丈夫だ。

 空間創造もレベルアップして拡張されたが、今は時間が無いから調べるのは後回し、帰ってからにしよう……

 周囲を警戒しながらボス部屋の前に到着する。

 扉の把手を握ると鍵が掛かっているのか回らない、耳を澄ませば誰かが中で戦っている音がする。

 

「イルメラ、先客が居るから少し待とう。アリバイ作りにも丁度良いから印象を付けておくか……」

 

 僕がわざわざゴーレム六体も召喚し練り歩いているのは、他のパーティーにも午後は二階層に居たと思わせる為だ。

 擦れ違うパーティには声を掛けて挨拶をしておいた。ゴーレム六体に子供二人、一人は僧侶で一人は魔術師となれば記憶に残るだろう。

 

「流石はリーンハルト様。

擦れ違った他のパーティ連中は全てリーンハルト様の掌の上で踊る道化なのですね!」

 

 今日一番の輝く笑顔だが、内容が大変宜しくない。確かにアリバイに利用するから言う通りだけど、もう少しオブラートに包んでほしいと願うのは無茶だろうか?

 イルメラの性格矯正のプランを本格的に計画してる途中で前のパーティのボス戦が終わったみたいだ。

 扉を開けて出てきたパーティーは……満身創痍だな。典型的な戦士中心のパーティ、戦士四人に盗賊一人それと魔術師が居る。

 全員男で20代後半位かな?

 その内の二人は重症だな、ボスを倒した後は部屋の中は安全なのに治療もせずに出て来たとは、回復手段が無いのか……

 

「イルメラ、緊急事態だ。回復魔法を掛けてやってくれ」

 

 僕のゴーレムを見て固まっていた連中だが、治療と聞いて慌しく動き出した。

 

「すまない、ポーションが切れてしまって、このままでは治療も出来ないから急いで担いで外に出るつもりだったんだ」

 

「助かる、恩に着る」

 

 戦士二人は重傷だ。一人は右肩から脇腹までを切り裂かれ、もう一人は腹を突かれている。

 イルメラは腹を突かれた男から治療を開始した。

 血塗れになるのを厭わず両手を傷口に添えて回復魔法を掛ける、暫くすると傷口が塞がり出血が止まった。

 もう一人は傷口に添って手を翳して傷を癒す、流石はモア教の現役僧侶だけの事は有る見事な治癒魔法だ。

 彼女の為に水で濡らしたタオルを用意する、血だらけの手では嫌だろう。

 

「イルメラ、お疲れ様。はい、手を拭くと良いよ」

 

「有り難う御座います、リーンハルト様。一応の応急措置はしましたが、教会に行って本格的な治療を受けて下さい」

 

 呻き声を上げながら起き上がる元怪我人達……

 

「凄い、これが僧侶の治癒魔法か……ポーションとは即効性が段違いだな、有り難う。

礼を言わせて欲しい、僕等は『蒼き狼』で僕はリーダーのフォルケンだ」

 

 そう言ってイルメラに抱き付こうとしたので慌てて彼女は僕の後に隠れる、咄嗟の事で僕もゴーレム達に武器を構えさせてしまった。

 怯えるイルメラを守りながら武器を構えて睨み合う一触即発な状況だったが、フォルケンの頭を魔術師がブン殴って土下座させた事で雰囲気が和んだ。

 

「この糞リーダー!命の恩人に警戒されるって馬鹿なの?死ぬの?しかも幼い女の子を怯えさせて、この性犯罪者の幼女愛好家のクズが!」

 

 迷いの無い蹴りを尻に入れ捲る魔術師、多分彼は普段から変態なのだろう。

 武器は下ろしたがイルメラの周りにゴーレムを配置して変態の視線から彼女を完全に隠す。

 幼女愛好家とは結婚適齢期が15歳から25歳の時代に、14歳以下の子供に性的欲情をする連中の事だ。

 彼等は10歳前後に最大の魅力を感じるらしいが、未だ未成熟な子供に不埒な欲望をぶつけるなら……

 

「この場で始末するのが世の子供達の為か?」

 

 空間創造からカッカラを取り出して構える、所々焦げているが磨けば大丈夫だろう。

 

「まっ、待って、大丈夫だから!もう落ち着いたから、大丈夫ですから!」

 

 チラリと魔術師を見るが頷いたので大丈夫なのだろう、他の連中も苦笑いを浮かべているから普段からこんな感じなのかも知れないな……

 

「女性にいきなり抱き付こうなんて変態行為は感心しませんよ。

次からは気を付けて頂かないと半自動制御のゴーレム達がイルメラを守る為に動きますからね」

 

「大丈夫、嬉しさのあまり感謝の表現がオーバーになっただけだから。

うん、もう落ち着いたから大丈夫です」

 

 これ以上関わっても無意味だな、イルメラも落ち着いたから良いか……

 

「では僕等はボスに挑戦する為に部屋に入ります」

 

 一礼して話は終わりにする。

 

「待ってくれ、治療のお礼を受け取って欲しい。

教会で治したら一人金貨5枚は寄付が必要な怪我だったから二人で金貨10枚だ。

受け取って欲しい」

 

「そうですか、有り難う御座います。はい、全部イルメラの分だよ」

 

 『ブレイクフリー』を代表してリーダーの僕が受け取り、全額イルメラに渡す。

 これはイルメラの治療行為に対する報酬だから僕は受け取れない。


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