古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第169話

 僕が『エルフの里』に行っている間にイルメラとウィンディアの様子が変わってしまった。

 特に変という訳ではないが妙に距離感が縮んだ気がする、別に困らないので良いけどね。

 

 そして今日はレディセンス様からの模擬戦の依頼だ、冒険者ギルド本部が幾つかの条件を付けてくれた。

 先ずは場所だが冒険者ギルド本部に付属する闘技場にて行う、立会人は双方十人以内、致命的な怪我は負わせないの三点だ。

 場所を冒険者ギルド本部にする事で監視の目を光らせ多数の人が目撃しない様にする、ニーレンス公爵本人は冒険者ギルド本部になど足を運ばないから直接の干渉は無い。

 最後の致命的な怪我については保険的な意味合いで、僕もレディセンス様も加減は弁えている。

 因みに僕側の立会人は『ブレイクフリー』の女性陣とジゼル嬢の四人だ、ジゼル嬢とイルメラ達は知らない内に友好を深めていた。

 デオドラ男爵が俺も行きたいと散々駄々を捏(こね)たらしいが、ジゼル嬢とアルクレイドさんで何とか宥めたらしい、貴方が来たら絶対に俺も参加するとか言いそうで怖い。

 

 指定の時刻は十時、僕等は午後からバンクの六階層に挑戦する予定を組んでいる。

 先方は身分上位者だから余裕を見て九時に冒険者ギルド本部に到着、何故かパウエルさんとクラークさんが審判員を引き受けてくれた、てかパウエルさんはバンクを放り出して大丈夫なんですか?

 

 闘技場は冒険者養成学校の午後の実技でも使っていたが僕は一度も参加しなかったので行った事が無かった。

 通されたのは応接室、模擬戦の前の打合せだろう。

 

「おはよう、リーンハルトさん。今日は大変かもしれませんが宜しくお願いします」

 

 開口一番お願いされたが、やはりニーレンス公爵の実子との模擬戦は色々と問題が有るのだろうな。

 向かい合わせにソファーセットに座る、特に不安は無いのだろう、その台詞の後は和やかに雑談で時間が流れた。

 そんな長閑な時間が無くなったのはレディセンス様一行が冒険者ギルド本部に到着したからだ。

 慌てて駆け込んで来た職員がクラークさんに耳打ちする、苦虫を噛み潰した顔をしたぞ。

 

「リーンハルトさん、レディセンス様の立会人ですがメディア様と姉の二人、バーバラ様にフェンディ様、それと『リトルガーデン』が来ました」

 

 確かメディア嬢は姉妹とは不仲な筈、それと『リトルガーデン』はニーレンス公爵がパトロンだったな。

 付けた条件は十人以内だから問題は無いが何かしらの意味が有って同行したのだろう、出来れば事前にレディセンス様かメディア嬢に会っておきたい。

 それと常にメディア嬢に同行しているレティシアが居ないのも気になる。

 

「クラークさん、模擬戦前にレディセンス様とメディア様に挨拶をしておきたいのですが、出来れば他の姉妹の方や『リトルガーデン』とは会わずに……」

 

「ふむ、真意を探るですね。私も姉妹の仲が悪い事で有名なメディア様が二人の姉と一緒に来たのが不思議です。姉妹喧嘩を冒険者ギルドに持ち込まれても困りますからな」

 

 報告に来た職員と小声で話し合っているが難しい顔をしている。

 

「部屋割りが不味いですね、メディア嬢は姉二人と一緒でレディセンス様は『リトルガーデン』と同室です。訪ねるのも呼び出すのも難しいですな」

 

 疑惑の姉達と『リトルガーデン』が同室、身分上位者を呼び出すなど無理、事前打合せは不可能か……

 考えられるのはメディア嬢お気に入りらしい僕に対して何かしたい姉達、だがレディセンス様は『リトルガーデン』を何故同行させた?

 当初は監視か弱点でも見付けたいのかと考えていたが、同行したとなると分からない。レティシアが不在だから代わりの護衛?

 

「ジゼル様はどう思いますか?」

 

 黙って持っていたカップを見詰める謀略系令嬢に話し掛ける、この中で一番ニーレンス公爵家の事情に詳しいのは彼女だ。

 

「メディアの姉二人、見た目は美人ですが中身はスカスカの愚か者で見栄と嫉妬心しか詰まってません。

確実にメディアが自慢するリーンハルト様に何か仕掛けてきますわ。

そしてバーバラの配下が『リトルガーデン』です、最初に彼女達をニーレンス公爵家に引き込んだのは彼女ですが今はレディセンス様の方に傾倒しています。

私の考えでは『リトルガーデン』をリーンハルト様に嗾(けし)かけて来ますわ」

 

 同業者である『リトルガーデン』は戦士・盗賊職・僧侶・魔術師が揃ったバランス型のパーティだが戦って負けるかと言われれば……

 

「悪いけど『リトルガーデン』程度なら負けない、レディセンス様と一緒じゃなければ問題無い」

 

 レディセンス様と連携されたら手強いが彼女達だけなら何とでもなる、火属性魔術師の魔法が厄介だが三秒凌げばゴーレムポーンで取り囲める、他の連中がサポートしても対処は出来るから問題は無い。

 

「お父様と互角の戦いが出来るリーンハルト様が負けるなど私も考えていませんわ。

問題は負かした後です、ニーレンス公爵家お抱え冒険者を負かす、姉妹でお気に入りの冒険者同士を戦わせて負かす、予想がつきませんわ、いえ悪い予想しか出来ません」

 

「レディセンス様の模擬戦は引き分けか僅差の負けにします、勝つと問題だから負けても構わない。だが『リトルガーデン』には勝ちます、冒険者として負ける訳にはいかない」

 

 

 身分上位者の理不尽は構わない、周りも仕方ないと思ってくれるが同業者に負ける訳にはいかない。

 だが『リトルガーデン』は違う、同業者として公式の場で負けたなど今後に関わる失態だ、悪いが圧勝させてもらおう。

 

「そうですわね、格下の冒険者に負けるなんて許せません。『リトルガーデン』の件は私とメディアで何とかします、あの愚かな姉二人に思い知らせて差し上げますわ」

 

 ジゼル嬢、やはりメディア嬢の事が嫌いじゃないんだな、普通に協力と言うか共犯前提だし。貴女方二人が組んだら殆どの事が何とかなりませんか?

 

「何です、その生暖かい目は?」

 

「いえ、何でも有りません」

 

 目元を少し赤くして恥ずかしそうに睨まれた、彼女は結構可愛い所が有るよな。

 

「兎に角『リトルガーデン』は派手に勝っても大丈夫ですが、レディセンス様には手加減して下さい」

 

 方針が決まったら時間となってしまった、無言だったイルメラ達にジゼル嬢が何やら耳打ちをしていたのが気になる。

 にこやかに笑い合っているが本当に知らない内に仲良くなってるのが不思議だけど、信頼している彼女達の仲が良いのは喜ばしい事だよな、そうだよな?

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 定刻になったので闘技場に向かう、屋外施設だが屋根付き観覧席も完備した聖騎士団の駐屯地にも負けてない。

 広さは100m×50mの長方形で地面は赤土が踏み固められていて硬い、戦うには十分な広さが有る。

 既に観覧席には立会人が座り審判としてパウエルさんとクラークさんが闘技場の中心に立っている。

 僕は皮鎧を着て右手にカッカラを持ち魔術師のローブを羽織っている、対戦するレディセンス様はフルプレートメイルを着込み手にはハルバードを持っている、最初に会った時と同じ格好だ。

 

「あの、何か観覧席が騒がしくないでしょうか?」

 

 向かい合って戦意を高めようとしたが観覧席が騒がしい、具体的にはメディア嬢と姉二人が言い争っている、年頃のレディとしてはどうかと思います。

 

「チッ、また妹達の喧嘩かよ。絶対に邪魔しないって言うから立会人にしたのによ。悪いが一寸行って来るぜ」

 

 頭をガシガシと掻いているが癖だったのか、どうせレディセンス様より先に『リトルガーデン』と戦えとかだな。

 先ずはお兄様と戦う資格が有るか確かめるとか聞こえて来たし……

 

「同行します」

 

「すまねえな、身内の姉妹喧嘩とか恥ずかしいったらないぜ」

 

 僕達が近付くのを見ると互いに笑顔に戻った、ジゼル嬢は呆れイルメラ達は困惑し『リトルガーデン』は無表情だな。

 

「お前等、俺の模擬戦に口出しするな」

 

 一喝するも声には遠慮が有る、レディセンス様も妹達には弱いのか……

 

「ですがお兄様と模擬戦など思い上がりも甚だしいのです、どうせメディアが実力を誤って言っているだけですわ」

 

「そうそう、そんな冒険者風情など『リトルガーデン』に任せれば良いのです」

 

 思い切り見下された、そんな冒険者風情と言われたが表面上は真面目な顔をする、ジゼル嬢の予想通りで笑いを堪えるのが辛い。

 メディア嬢は不満顔だな、だが僕は彼女の配下でも派閥でも無いのだが何と無くメディア嬢と姉達の代理戦争っぽい流れだぞ。

 

「何を馬鹿な事を……コイツの実力は俺がその目で見て知っている、だから武人として模擬戦を申し込んだんだ。それを実力を確かめろとか……」

 

「レディセンス様、私達に『ブレイクフリー』と戦わせて下さい」

 

 む、僕だけじゃなくてイルメラやウィンディア、エレさんも巻き込む気か?

 僕個人が標的になるのは構わないがイルメラ達を巻き込む訳にはいかない、それに彼女達から模擬戦を望むとは何かメディア嬢の姉達と裏取引でもしたのか?

 嫌々じゃない、彼女達はやる気に満ちているのが傍目からも分かる、つまり僕等を踏み台にして更にニーレンス公爵家に擦り寄る気か……

 

「メディア様、彼女達は何を言っているのでしょうか?」

 

 此処で簡単に喧嘩を買っては駄目だ、ニーレンス公爵家内の姉妹喧嘩にしないと責任を押し付けられる。

 メディア嬢の為に仕方なく返り討ち、これが彼女の面子を守り僕等をも守ってくれる、勝手に戦うと勝っても負けても責任を負わされる。

 

「リーンハルト様の功績が信じられないそうです、私が嘘をついていると……酷い侮辱です」

 

 ハンカチを取り出して目元を押さえた、嘘泣きには見えないがこの程度で泣く様な弱さは無いだろう。

 嘘泣きと言うか何か意味が有っての事だろうな、無意味に弱さを見せる事はしない。

 

「そんな子供が出来る訳が無いでしょう、嘘だと言うなら『リトルガーデン』に勝てるでしょ?」

 

「そうですわね、嘘じゃないと証明して貰わないと……ねぇ、メディアさん?」

 

 追い撃ちを掛けてるつもりかも知れないが、掌の上で転がされてるんだぞ。

 

「では私の言う通りにリーンハルト様が勝ったらどうしますか?」

 

「勝ったら?面白いわね、何でも言う事を聞いてあげるわよ」

 

 ああ、それを言わせたかったんだろうな、満面の笑みを浮かべたし。

 

「ならばリーンハルト様が勝てば『リトルガーデン』は私が貰います、負ければお父様から頂いたこのブローチを差し上げます」

 

「それはニーレンス公爵家の家宝!馬鹿ね、メディアさんは。火属性魔術師に土属性魔術師が勝てる訳はないのよ」

 

 僕の勝利に家宝を賭けてくれたが『リトルガーデン』をメディア嬢の傘下にする事の方がメリットが高い、何をしてるか分からなかった彼女達に干渉出来るからね。

 そろそろ条件が出揃ったから良いかな、余り欲張るとご破算になるし……

 

「分かりました、『リトルガーデン』との模擬戦を受けましょう。メディア様が家宝を賭けてまで僕の実力を信じてくれたのですから、全力で行かせて頂きます」

 

「ベルリーフ!負ける事は許しません、勝てば約束通りマジックウェポンでも何でも買って差し上げますわ!」

 

 うわっ、物欲かよ。確かに報酬としては定番だけど、あからさま過ぎるだろ!

 

「リーンハルト様、勝つ事が出来たら……」

 

 慌てて言い出したが自分がケチと思われるのが嫌とかじゃないよね?

 

「僕が勝てたら、メディア様からお褒めの言葉を頂きたい。それだけで僕は十分です」

 

「まぁ、流石は私のナイト様ですわ」

 

 感激なさってますが、金品を受け取ってしまっては上下関係が発生してしまうのです。

 それに『リトルガーデン』がメディア嬢の配下になるなら都合が良い。

 

「お前が納得してるなら良いけどさ……じゃ早く始めろよな。それとサラっとメディアを口説くな!」

 

「ははは、御冗談を。メディア様の信頼に応えるのに褒美などは要らないのです。さて『リトルガーデン』の皆さん、お相手しましょうか?」

 

 レディセンス様との模擬戦の前の肩慣らしと思えば良いだろう、ヤル気満々の彼女達に声を掛けた。

 




インフルエンザかかりました、一週間の特別休養が出来たと思えば良いのか……
1日3話と執筆進むので2月中は毎日連載に挑戦してみます。

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