古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第164話

 久し振りに懐かしい友人と夕食を共にした、色々な情報を交換し有意義な時間だった。

 特に魔術師ギルドについての情報は有り難かった、裏を取ってから接触してみる予定だ。

 だがコレットの父親と名乗ったドレイヌさんについては何も聞けなかった、複雑な親子関係が有りそうで踏み込むのを躊躇ってしまったんだ。

 僕より一つ下で既に冒険者ランクはD、一人で活動するコレットにも色々な悩みや葛藤が有るのだろうが僕は未だ踏み込めない。

 好奇心で聞いて良い内容では無いだろうから……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 翌日、実家に相談に行く事にした。父上は討伐遠征に参加したので一週間の休みを貰っている。

 僕は参加しなかったが王都に凱旋し中央広場で国王自ら労いの言葉を貰った事で、インゴも何かを感じてか真面目に訓練に取り組んでいるそうだ。

 バーレイ男爵家を継ぐには聖騎士団に入団は必須、成人後には正式に入団する事になる。

 今回の討伐遠征でインゴは逃げずに武器を構えていたが、その武器をモンスターに振り下ろす事が出来なかった、騎士団員は戦う事が、戦える事が最も重要なのだ。

 エムデン王国に仇成す者に断罪の一太刀を振り下ろせなければ、インゴはバーレイ男爵家を継いでも家は衰退するだろう。

 

 家族へのお土産を用意した、インゴにはパティストリーワイズの焼き菓子を父上には一本金貨十枚のワイン、エルナ嬢には高級柑橘系フルーツ盛合せを用意、妊娠すると酸っぱい食べ物を欲しがると聞いた。

 勿論事前に知らせてはいない、エルナ嬢主催のお茶会の用意をさせない為だ。

 出来ればメディア嬢のお茶会の後にしたい、先にキツい方を終わらせたいんだ……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 久し振りに実家の門を潜る、庭を掃除しているメイドが手を止めてお辞儀をしてくれたので片手を上げて応える。

 玄関に向かえば既に使用人が待ち構えていた。

 

「お帰りなさいませ、リーンハルト様」

 

「ただいま、タイラント。父上は居るかい?」

 

 出迎えてくれたのは執事であるタイラントだ、未だ二十五歳と若いのだがバーレイ本家から父上の為に遣わされた中々に有能な若者だ。

 洗練された所作、皺一つない執事服を着こなす目付きが少し悪いのを本人も気にしているのは内緒。

 

「生憎とインゴ様と共に聖騎士団駐屯場の方へ出掛けております。帰りは午後になるかと……」

 

「そうか、連絡を入れて無かったから仕方ないな」

 

 父上とインゴが居なくてエルナ嬢だけが居るのは最悪のパターンだな、今日は諦めて帰るか。

 

「タイラント、今日は帰って出直すよ」

 

 む?何故そんな申し訳なさそうな顔をするんだ、連絡無しで訪ねたんだから不在位は想定内だぞ。

 

「それがリーンハルト様が戻られましたらエルナ様の所に顔を出す様に言い付かっております。既にメイドから連絡が行ってる筈でしょう」

 

 そっちか!タイラントも僕が側室や妾候補の顔見せを兼ねたお茶会の参加を渋っているのは知っている。

 だが仕えし主人の正妻からの頼みは断れない、だが急にお茶会など開けないのも事実。

 普通は招待状を送り迎える準備にも時間を掛ける、それが貴族のお茶会だ。

 

「構わないよ、僕は応接室に居るからエルナ様に声を掛けてくれるかい?」

 

 父上の正妻であり本人が義理の母と言ってくれるが、女性の部屋を訪ねる訳にはいかない。

 

「その、実はエルナ様は接客中でして……」

 

 複雑な顔のタイラントを見て察した、アルノルト子爵家からの使いが来ているのだな。

 僕に指名依頼で子供を作れとか馬鹿過ぎる事を平気で実行するのがアルノルト子爵家だ、出来れば絡みたくは無い。

 

「分かった、自室に引き篭っているよ。客が帰ったら連絡をくれれば良い」

 

「その、本日のお客様はベルニー商会のビヨンド様の一人娘であるルカ様と、モード商会のクロップド様の次女のマーガレット様です」

 

 早速か、早速ベルニー商会のビヨンドさんの娘と会う事になろうとは……だがモード商会は知らないな。

 

「タイラント、モード商会について教えてくれ」

 

「はい、モード商会はベルニー商会と同じく交易商人です、お二方の商会は陸路だけでなく海路も利用します」

 

 海路、船か……

 

 実は僕は海が苦手だ、海産物は大好きだがゴーレム使いに海は天敵、召喚出来るのは船の上だけで後は沈んでしまう。

 川と違い深いから一度沈めば重たいゴーレムは二度と浮かんでこない。

 だが海戦は負け無しだった、僕のリトルキングダム(視界の中の王国)なら敵船の上に一方的にゴーレムを召喚し蹂躙出来たから。

 だが自分が乗船する旗艦は常に狙われていて船が沈めば助からない、自分ではどうしようもないその恐怖が嫌だったんだ。

 大陸以上に海、特に海底は謎が多く理解不能、僕は魔術師だから自分が知識が全く及ばない事に恐怖したんだ。

 

「リーンハルト様、奥様が応接室の方でお待ちしております。ですが御召し物を用意しておりますので、先に着替えをお願い致します」

 

「む、着替えか?」

 

 現実逃避して黄昏れていたがメイドの言葉に引き戻された、逃げ出す事は既に不可能で頑張るしかない。

 メイドさんに先導されて自室に向かう、後ろではタイラントが深々と頭を下げていた。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「失礼します、エルナ様」

 

 メイドに案内され応接室に入る、ソファーにはこちらを向いて座っているエルナ嬢と後ろ姿しか見えない女性が二人。

 彼女達がルカ嬢とマーガレット嬢か?

 

「丁度良かったわ、紹介します。ルカさんとマーガレットさんよ」

 

 ソファーに座っていた二人が弾かれた様に立ち上がりお辞儀をしたが……

 

「る、ルカです。始めまして、リーンハルト様」

 

 長い赤毛を左右で縛った髪型をしている元気そうな娘だな。

 

「マーガレットです、宜しくお願いします」

 

 こちらは金髪を後ろで一つに纏めた髪型をしている、落ち着いた感じの娘だな。

 

「リーンハルト・フォン・バーレイです。お邪魔して申し訳ないですね、エルナ様とのお茶会を楽しんでいたのでしょ?」

 

 若い、若いと言うよりは子供だ、二人共に十歳前後だろう……

 安心した、仮にも彼女達を側室や妾にしろと言われても五年以上は先だな、その頃には状況も変わるだろう。

 緊張している二人に笑い掛けながらエルナ嬢の隣に座る、直ぐにメイドがカップに紅茶を注いでくれたので一口飲んで気持ちを落ち着かせる。

 良かった、同い年位の女性で直ぐにでも話を進めるとかの流れじゃないな、未だ子供だし生々しい話じゃなくて良かった。

 

「あらあら、二人共真っ赤よ。リーンハルトさん、何か話して彼女達の緊張を解して下さいね」

 

 ふむ、二人共確かに真っ赤になって下を向いているな、自分の相手が年上で緊張したんだろう。

 未だ未だ子供だし側室とか意味も分からない年頃だからな、知り合いの年上のお兄さん程度に思って貰えれば良いのか?

 

「ふむ、僕は魔術師で冒険者故に華やかな貴族的な話は出来ませんが……」

 

 年下の子供相手に余裕は出来たが、だからと言って会話に花が咲く訳ではない。さて、どうしたら良いのだろうか?

 

「つ、土属性の魔術師様と聞いてます!花嫁行列の銀色のゴーレムさん達が凄かったです」

 

「あんなに綺麗に統制の取れた動きをさせるのって凄いです!」

 

 両手を胸の前で握って興奮した感じで話し掛けてくれるが、二人の動作がシンクロしてるぞ。そしてエルナ嬢、生暖かい目を向けないで下さい!

 

「そうですか、あの花嫁行列を見てくれたんですね。僕は基本的には人型ゴーレムしか作りませんが、一応動物も作れますよ。

大型の動物なら馬や水牛、中型なら犬、小型なら猫や子犬、好きな動物を即興で作りましょうか?」

 

 子供ならお菓子や動物が好きだろう、アーシャ嬢やジゼル嬢に不評だったが彼女達なら喜ぶかな?

 

「子猫!子猫が良いです」

 

「私は兎が可愛いと思います」

 

 子猫に兎か、案の定可愛い動物を選んで来たが金属製だとどうだろうか?

 

「では……はい、どうぞ」

 

 テーブルの上に両手を翳し魔素を掌に集めてイメージを固めて錬金する、真鍮の子猫と白銀の兎を。

 

「「まぁ!」」

 

 なるべく可愛いらしい仕種をさせながら二人の方へ歩かせる、目の前で止めて首を傾げる仕種をさせると大喜びだ。

 更に子猫は毛繕いを兎は後ろ脚で立ち上がり鼻をヒクヒクさせてみる、実は前回の雪辱を晴らす為に小動物の動きは観察していたのだ。

 

「リーンハルトさん、私は子犬が好きです」

 

 ここでエルナ嬢が参戦、子犬か勿論大丈夫だ。両手を膝に上向きに乗せて子犬ゴーレムを錬金しエルナ嬢の膝の上に飛び乗らせる、少し重いが珍しげに撫でてくれた。

 

 その後、昼食を挟み父上とインゴが帰って来る迄女性陣とゴーレム遊びで時間を潰した。

 エルナ嬢主催のお茶会、取り敢えず一回は参加した事実は作れたから良しとしよう。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 実家に帰った本命、エムデン王国聖騎士団ライル団長からの指名依頼について漸く父上と相談出来る。

 未だ応接室にはルカ嬢達が居るが僕は父上と相談が有るのでと席を外した。

 疑う様なエルナ嬢の耳元で冒険者ギルド本部にライル団長から指名依頼が入ったので請ける前に父上と相談に来たと正直に話した。

 エルナ嬢は驚いたがランクCとはいえ聖騎士団団長から直々に依頼が入る事に驚きと喜びを見せてくれた、立派になってと涙目になった時は慌てたが……

 既にインゴはお土産のパティスリーワイズの焼き菓子を渡したら自室に行ってしまった、直ぐにでも食べるのだろう。

 執務室に設えたソファーセットに父上と向かい合わせに座る。

 

「先ずはおめでとう、冒険者ランクCに昇格したそうだな。父親として誇りに思うぞ」

 

 父上からの純粋な言葉に胸が熱くなる、転生前は親子関係など敵対関係と変わらなかったから……

 

「有り難う御座います、漸く一人前と認められる位置に辿り着いただけです。これに驕らず精進して行きます」

 

 頭を下げるとワシワシと少々乱暴に頭を撫でられる、武骨な愛情表現だが今はそれが嬉しい。

 

「実は父上もご存知かとは思いますが、ライル団長より直々に指名依頼が有りまして……」

 

「ああ、聖騎士団との模擬戦の事は俺も聞いているぞ、お前と我等が蜜月な事を知らしめる為と……

もしかしたら本来の聖騎士団の働きをせねばならないかも知れぬのだ」

 

 聖騎士団の本来の仕事、つまり戦争の事だ。旧コトプス帝国絡みでウルム王国と事を構える事も辞さない。

 それがエムデン王国の上層部の考え方で、ライル団長はより実戦的な訓練を団員に課すつもりか。

 

「戦争……国家の上層部は戦争も視野に入れているのですか?」

 

「断言は出来ないが可能性は低くない、ならば少しでも勝率を上げる努力をするのが我等の務め。聞けばリーンハルトのゴーレム制御数は五十体を越えるのだろ?」

 

 曖昧な笑みを浮かべる、まさかレベル30になったら制御数が百体になりましたとは言えない。

 だが聖騎士団との演習は僕のゴーレム制御の訓練には願ってもない相手だ。今回の依頼、父上の迷惑にならない事が確認出来ただけでも良しとしよう。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 バーレイ男爵家のお茶会に呼ばれた、来年廃嫡する長男の側室候補としての顔見せ。

 実はリーンハルト様本人の事をお父様が調べてから話を受けた、モード商会にとって有益か否か。

 私の旦那様はお父様のお店の為に役に立つか立たないかで決まるのは知っている、でも私だって女の子だから出来れば強くて優しくハンサムでお金持ちで若い方が良かった。

 

「リーンハルト様ですか……」

 

 成人前で既にレベル30、冒険者ランクも二ヶ月でCまで昇格した将来性が有る事は子供の私でも分かる、お父様は何としても頑張ってくれと念入りに頼み込んで来たけど……

 

「無理だわ、完全に子供扱い」

 

 仮に今の私が欲しいと迫って来たら受け入れないと駄目なのは分かるけど……

 

「幼女愛好家の変態なんてお断りしたいわ」

 

 7年後ならリーンハルト様が21歳で私が15歳、理想的なカップルだけどお父様のお店的には7年も待てない。

 それにあの方は私達に遠慮し配慮もしていた、つまり本命と噂のジゼル様と熱々なのは本当なのね、羨ましいわ。


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