古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第162話

 ニーレンス公爵家からの指名依頼、冒険者ギルド本部でも無下には出来ない上級貴族からのお願いと言う名の命令だな。

 クラークさんが渡してくれた二枚の指名依頼書、先ずは一枚目だが……

 

「メディア様からですね、装飾品の作成依頼か。余程手鏡が気に入ってくれたんだな、今度は正規の依頼としてネックレスかペンダントが欲しいです、か……」

 

 依頼書の一番下に彼女の直筆で書かれていた一行の文のお願い、これは問題無いだろう。

 だが時期的にはアーシャ嬢の誕生日パーティの後じゃないと駄目だな、確かメディア嬢も誕生日パーティに呼ばれていたのに二人が僕の作成したアクセサリーを身に付けているのは良くない。

 メディア嬢には今別の依頼で作成中と言って納期を延ばそう、希望を聞いたり材料を集めたりと直ぐには作れないので大丈夫だろう。

 それに先にジゼル嬢へのブレスレットを作らないと駄目だ、あとデオドラ男爵用のフルプレートメイルもだな。

 

 次は二枚目の依頼書はレディセンス様からだが……

 

「あの戦闘狂め、模擬戦の申し込みだと?立場的に僕が勝つ事は出来ないが、引き分けに持ち込めば大丈夫かな?」

 

 レディセンス様も確かに強いがデオドラ男爵やミュレージュ様と比較したら一段落ちる、引き分けに持ち込む事は難しくない。

 可能ならば場所や観客の制限はお願いしたいが、これは模擬戦に託(かこつ)けた能力調査だろうな。

 どちらも難しい話では無いが何か心配事が含まれているのだろうか?

 

「特に問題は無いと思いますが、何か懸念事項でも有りますか?」

 

 基本的に二人共善人の部類だ、僕を陥れるとかは無いと思うが?

 

「メディア様に相当気に入られましたね、彼女は色々と策を弄する人物であり自分の姉妹達と敵対しています。彼女と親しくする事はデメリットが大きいですよ」

 

 ああ、最初は腹黒令嬢かと思ったが本人と接してみたら心配される程酷くは無い。

 彼女の姉妹達から目の敵にされる事を差し引いても距離を取らないと駄目な娘ではないな。

 

「心配して頂き有り難う御座います。ですが彼女と距離を置くと喧嘩友達であるジゼル嬢との関係も悪化するでしょうから拒否はしたくないです」

 

 深い溜め息を吐かれたが仕方ないだろう、あの二人はアレで仲は悪くない。

 だが歪んだ友情は悪化すると深い憎しみに変わる、それは回避したい。

 

「まぁ良いです、貴方の方が彼女達を理解していると……次にレディセンス様からの模擬戦ですが、どうします?」

 

 どうしますって選択の余地が有るなら断りたいけど、現実的には無理なんですよね?

 

「断れないですよね?」

 

「断れませんが色々と条件は付けられます、出来れば人目は避けたいですよね」

 

 上級貴族からの断れないって言われた指名依頼だ、淡い期待は粉々に砕け散ったか……

 出された紅茶が急に苦くなった気がしたので砂糖を一つ入れてスプーンで掻き交ぜる、よくバルバドス師は大量の砂糖を入れて飲めるものだ。

 

「条件が可能ならば余人を交えずに二人切りでと条件を付けたいのですが、この模擬戦の裏は僕の能力調査ですよね?」

 

「後は勧誘でしょうね、レディセンス様とは面識も有るみたいですし出来れば派閥に加えたい。ニーレンス公爵は財務系、配下も内政系が多く直接武力は低い連中ばかりです。

唯一の例外が実子のレディセンス様ですね」

 

「確か派閥に冒険者が居ますよね?確か『リトルガーデン』ですか?」

 

 ここで気になっていた事を聞いて見る、まさか事前の情報収集の為に監視されていたとか?

 

「リトルガーデン?ああ、彼女達はニーレンス公爵家がパトロンでしたね。

バランスの良いパーティですが決定打に欠けるんですよ、まぁ冒険者ギルドとしては期待してますよ。彼女達が何か?」

 

 前衛の戦士と後衛の盗賊職・僧侶・魔術師と全て揃っているバランスの良いパーティだ、だが突き抜けた技能を持った個人は居ないのか。

 

「バンク五階層でボス狩りをしていた時に部屋の外で僕等の様子を伺っていたのです。

魔力探索で引っ掛かり逃げ出したので真意は分からないのですが僕もレアギフトという秘密を持つ身、何時バレるか心配です」

 

「彼女達が、ですか?監視だとニーレンス公爵家絡みでしょうか?

個人パーティでリーンハルトさん達を見張る必要性は……なる程、弱みか秘密を見付けたいかですね?」

 

 弱みは無いが秘密は有る、そしてその秘密は迷宮の通路でポップするモンスターを倒した時点で、ヒントを与えてしまう程に隠し様が無い。

 

「今の所は大丈夫です、敵対もしてないし関係は普通かな?メディア様かレディセンス様に会った時にそれとなく聞いてみます」

 

「そうですね、私達も未だ問題を起こしてない彼女達に何も言えないですし……」

 

 その後、最近関係が出来たり絡んで来たりした連中の情報を聞いていると鋼鉄の槍の鑑定結果が出た。

 魔力付加された槍は合計十二本、二百七十三本の内に十二本だと大体3%から5%の予想は間違いなさそうだ。

 魔力付加された槍の売値が金貨千八百枚、普通の槍が合計二百六十一本で金貨七百八十三枚、合計で金貨二千五百八十三枚とは一財産だな。

 流石は他のパーティより十倍レアドロップ率が高くゴーレム二十体以上を運用し前衛戦力が消耗品扱いなのが大きい、普通なら二十分の一以下の金貨百枚程度しか稼げないだろう。

 

「魔力付加の効果中が付いた武器は貴重です、出来ればもう少し欲しいですね」

 

 新しい紅茶をカップに注ぐ、長い話し合いだから既に四杯目でお腹がタプタプだ。途中で女性職員さんが焼き菓子を持って来てくれた、本当に待遇は良い。

 

「分かりました、もう何日か五階層を攻略してみます。さて他の指名依頼ですが……」

 

 気になっていた紙束を漸く見せてくれた、テーブルに無造作に置かれたがどれから見れば良いんだ?

 

「これを全部請けろって訳じゃないですよね?流石に全部だと数ヶ月は掛かりますよ」

 

 厚さ2㎝、つまり百件以上は有るだろう、依頼には期限も有るだろうし迷宮探索を含めたら現実的には不可能だぞ。

 

「その紙束は冒険者ギルド本部で不可と判断した物です、しかし色々な派閥から色々な依頼が来てましたよ。これなんて笑えますよ、指定の女性と子供を作れとはね」

 

「はぁ?種馬じゃないんですよ、魔術師としての子供が欲しいとか馬鹿らしい」

 

 悪意しか感じられない依頼だぞ、しかし本気で誰が依頼人か知りたい。

 依頼人の欄を見れば、アルノルト子爵と書かれている……もしかしなくても喧嘩を売られたのか? 

 エルナ嬢には教えられないな、実家が暴走してるなど知ったら、あの心優しい女性の悲しみは計り知れないだろう。

 

「そちらの依頼の殆どはリーンハルトさんと縁を結びたいか陥れたいかですね。さて、こちらが冒険者ギルド本部が厳選した本当の依頼書です」

 

 懐から本命の依頼書を出してテーブルに並べた、今回は残り四件、既にニーレンス公爵家絡みを二件、冒険者ギルドから一件請けるから合計で七件か……

 

 最初の依頼書は、デオドラ男爵からの依頼で僕だけだ、内容はエルフの里への買い出し同行と商品の鑑定、報酬は金貨百枚でギルドポイントは1ポイント。

 

「エルフの里、ゼロリックスの森と違い人間との交易の為の集落か。これは興味深いので請けます」

 

 次の依頼書は、聖騎士団のライル団長からの依頼で僕だけだ、内容は騎士団員との模擬戦。

 ダメージ無視のゴーレムだから相手が出来る、完全防御の敵を想定した模擬戦の相手、確かに動かぬ的に幾ら突撃しても訓練にはならないからか。

 報酬は金貨五十枚でギルドポイントは1ポイント。

 

「ライル団長にはお世話になってますので請けさせて頂きます」

 

 だがライル団長の所に行く前にデオドラ男爵とジゼル嬢に相談するべきだな、後は父上にも知らせておかないと駄目だ。

 

 次の依頼書は、これも依頼主は冒険者ギルド本部だ。

 ブレイクフリーに依頼、報酬は金貨三百枚と討伐数による素材の買取金額が上乗せ、ギルドポイントはパーティ全員に1ポイント。

依頼内容はブルーム川に繁殖時に集まり片っ端から周囲の生き物を食い尽くすボーンタートルの討伐か。

 ボーンタートルは全長3mにもなる肉食の大亀だ、普段は大人しいが繁殖時になると狂暴化し目に付く動く物に構わず食い付く。

 その顎の力は強力で人間の手足など簡単に噛み切る事が出来るのだ。

 だが卵や肉は高級食材として珍重されている、毒を持ち食べれる部位は特殊な処理を施しても一頭当たり5kgにも満たない。

 そして王侯貴族からの需要が高い、対象ランクはC以上の上級モンスターだが冒険者ギルドとしては主に人気の高い卵を確保して王侯貴族に恩を売る気だと思う。

 繁殖期には番いで巣を守る連中だ、並の冒険者なら返り討ちで食われて終わり。

 食い物が無くなると共食いや近隣の集落の近くまで出没する困った連中だから適度に間引けば良いのだろう。

 

「分かりました、請けましょう。ですが未だ繁殖時期には早いですよね?」

 

「でも移動に三日掛かります、遅くとも来週末には出発して下さい」

 

 来週末か、アーシャ嬢の誕生日パーティ後だから問題無いな。

 

 最後の依頼書だが、老朽化した砦の解体と修復?

 エムデン王国の王都を守る為に関所を兼ねた砦が幾つか有るが、その砦の改修工事の手伝いか。

 国の施設は多くの職人達の他に土属性魔術師も参加する、主に固定化の魔法だが錬金による構造物の構築も含まれる。依頼人は……

 

「む、依頼人が魔術師ギルド本部になってますが?」

 

「ええ、土属性魔術師の派遣は本来は魔術師ギルド本部の領分。ですが今回は宮廷魔術師の方々から口添えが有ったらしくて、魔術師ギルドの代表名で依頼を頼んで来ました」

 

「方々って、大方ユリエル様やアンドレアル様でしょうか?確かに討伐遠征とかで野営陣地の構築をして知られてるから仕方ないのか?」

 

「ライラック氏の花嫁行列でコーカサス地方に行く途中で幾つかの野営陣地を作ったのが未だ残ってたらしくて、調べたら技術的にも合格らしいですよ」

 

 笑顔だが厭味だな、ちゃんと隠す所は隠せよって事だ。依頼は僕だけで報酬は応相談、期間も書かれてない不十分な依頼書だな。

 

「必要事項欄に空白が多いのですが、これでは請けられないですよ。一度魔術師ギルドに打ち合わせに来いって事ですよね?

まぁ一度は行ってみたかったので良いのですが、何か嵌められているみたいで嫌だな……」

 

 ベリトリアさんからも一度は魔術師ギルドに行ってみた方が為になるとは言われているけど、いざ打合せ込みでとなると正直尻込みをする。

 対価を必要とするのは昔も今も変わらないのだが、僕は今の魔術師の常識を知らない。

 普通は自分の師匠に教えて貰うのだろうが僕には居ない、いやバルバドス師は居るが聞きには行けない。

 

「珍しく考え込んでますね、何か心配事でも?」

 

「僕は魔術師ですが魔術師ギルドについては殆ど知らないのです。既に冒険者ギルドに所属しているのに他のギルドに行くのはどうなんでしょうか?」

 

 一応冒険者ギルドに所属しながら魔術師ギルドにも所属出来る事は知っている、エレさんも盗賊ギルドと冒険者ギルドに所属しているし。

 だがクラークさんがどう思っているか知る必要が有る、魔術師ギルドに所属し魔術の深淵を研究し始めたら僕は……

 

「私達に気を使ってくれるのですね?

盗賊と魔術師は専門のギルドが有りますが基本的に重複して所属は問題無いですよ、私達ギルド側も連携してますから。

ただ今回の件は宮廷魔術師が横槍を入れて来たので、魔術師ギルドとしてもリーンハルトさんを試したいと思っている筈です」

 

「つまり未記入部分は腕試しをしてから能力により値が決まる訳ですね?」

 

 黙って頷かれてしまったが、確かに魔術師ギルドとしても所属会員外の若造を使えって言われても困るのは分かる。

 ユリエル様達も何か考えが有るとは思うが、正直迷惑なので本当に勘弁して下さい。

 




年末特集連続一か月更新も今日で終了、来年からは通常の週一回木曜日更新に戻します。
皆様、今年一年本当に有難う御座いました。
オリジナル作品部門では断トツのUA数ですし総合評価も上位に食い込んで素人作品としては高評価を頂いている事に感謝しています。
来年は個人的に忙しくなりますが週一の更新ペースは守るつもりです。

今年一年間有難う御座いました、来年も宜しくお願いします。

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