古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第161話

 我が愛娘に、手塩に育てた大切な愛娘を側室に迎えたいという要望が我が家に寄せられた。

 気立ても器量も良い我が娘には、何時か来ると思ったが相手は未だ成人もしてない来年廃嫡する新貴族の男爵家の長男だという。

 正直フザケルナ!って気持ちで一杯だったが、話を持ち込んだバーレイ男爵夫人エルナ様はアルノルト子爵の縁者でも有るので無下には出来ない。

 仕方が無いので相手を調べる事にした。

 

 先ずは彼が一躍有名になった『ラコック村の英雄』事件だが、わざわざ現地に行って聞き込みをしたが噂通りだった。

 冒険者になって一月足らずでも既に土属性魔術師としては一人前だったのだろう、数十体のゴーレムを率いて名有りの『錆肌』とオーク二十体以上を五分と経たずに殲滅した。

 この成果により近年の大型新人の四番目として世間に知られる事になる。

 

 次はヒスの村の件だ、ザルツ地方で異常繁殖したオークの群れを一日で倒したのが彼がリーダーを勤める『ブレイクフリー』だった。

 しかも後日にデオドラ男爵の副官として再びヒスの村を訪れたらしい。

 何でも彼はデオドラ男爵の愛娘を本妻として成人後に迎えるらしい、村長がデオドラ男爵本人から直接聞いたから間違いない。

 

 能力については認めるしかない、最近僅か二ヶ月でランクCに上がった事も考えて将来性は抜群だろう。

 

 次に女性関係について調べた。

 先ずはラコック村については風属性魔術師の少女と良い関係らしいし、ヒスの村では『春風』のフレイナに言い寄られて断っていたのを何人かの村人が目撃している。

 それにヒスの村の村長が娘を差し出したが手を出さなかったそうだ、身持ちは固いか風属性魔術師の少女に操を立てているか……

 

 今日実際に会って話したが、貴族の子弟にしては傲慢さが無く人当たりも悪く無かった。

 自分の立場や相手の立場についても良く考えている、優良物件には違いないが我が娘は未だ早い!

 

 我が愛娘ルカは未だ八歳の純真無垢な天使なのだ、側室などお断りしたい。

 だが妻は乗り気満々だ、確かに平民の娘の嫁ぎ先としては良い方だろう、冷静に考えれば若く有能で将来性も有り見た目も性格も悪く無い。

 しかも娘も、ルカもライラック商会の娘の花嫁行列で白銀に輝くゴーレムを率いた姿と、先日のザルツ地方のオーク討伐遠征からの凱旋帰国をした時の姿を見て気になって仕方ないみたいなのだ。

 あのエムデン王国で武闘派の重鎮とまで言われたデオドラ男爵の副官として、家紋入りのサーコートを羽織っていた凛々しい姿に愛娘はメロメロだ。

 

 最初は白銀の鎧を纏い花嫁行列の中核を担い、次はデオドラ男爵の後で騎士然とした姿で凱旋帰国をする、最近街娘の噂話にも良く話題に上るらしい。

 

「お父様、今お店にリーンハルト様がいらしてると聞いたよ?」

 

「おお、ルカよ。その衣装は良く似合ってるぞ!」

 

 ああ、私の天使!まだ誰にも奪われたく無い純真無垢な私の天使よ。

 

「うん、有り難う。それでね、リーンハルト様が来てるんだって、お父様は会ったの?」

 

 目をキラキラさせて他の男の話をするなんて、今から父親泣かせの娘になるなんて……

 

「ああ、少しだけ話したよ」

 

 噂通りの少年だったぞ、だが娘は未だやらん!仮に嫁がせるとしてもルカが、ルカが十五歳の誕生日を迎えた後で……

 

「どんな話をしたの?店員のお姉さんの話では気さくで優しい方なんですって!ルカ、お茶会が楽しみ」

 

「そうだね、それで……アレだ、その衣装は気に入ったかい?」

 

「うん、凄く気に入ったよ。早くリーンハルト様に見て貰いたいな」

 

 無邪気に喜ぶ娘の為に最高に着飾らせて送り出そう、我が最高の娘を選ばなかったら分かってるだろうな?

 選んでも直ぐに手を出したらどうなるか分かってるだろうな?

 

だが八歳の娘を側室に選ぶ十四歳って実際どうなんだろうか……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 ライラック商会を後にして行きたくないが冒険者ギルド本部に向かう、行けば必ず指名依頼の話になるだろう。

 だが情報も欲しい、特に『リトルガーデン』や『春風』、それと勧誘をしてきたクラン等の情報が欲しい。

 

 購入した衣装はサイズ合わせの仮縫い状態なので後日自宅の方に届く様に手配した、イルメラとウィンディアは先に辻馬車を捕まえて帰した。

 あの華やかに着飾った衣装で冒険者ギルド本部に行くのは場違いで迷ったし、変な奴に絡まれるのは我慢ならない。

 僕は錬金で直ぐに鎧兜を装着出来るから問題無い、直ぐに適当な裏路地に入り空間創造からマントを取出して羽織る。

 次に革鎧を錬金して身に纏い最後にロングソードを腰に吊して完了、何処から見ても駆け出し戦士だ。

 

 大通りに戻り露店を冷やかしながら途中で気に入った食べ物を購入しては空間創造に収納していく、辛い遠征で温かい食べ物がいかに気力や体力を回復するか学んだ……

 串焼き肉に焼き魚、各種フルーツに瓶入りの果汁水など金貨十枚近く買い込んだ。

 露店が途切れて暫く歩くと漸く目的地が見えて来た、冒険者ギルド本部は今日も賑やかで何人もの冒険者達が出入りしている。

 

 先ずは依頼書が貼ってある掲示板に向かう、ランクEやFは混雑しているがランクCやDの掲示板には数人、ランクAやBには誰も居ない。

 全体の5%以下のランクAやBは殆どお目に掛かる事は少ない、全体の10%程のランクCはそれなりに居るのだろう。

 自分が単独で請けられるのはランクC、パーティとしてならランクD、取り敢えず情報を得る為にランクCの掲示板を見る。

 

 ジャイアントスパイダーの討伐は報酬金貨百五十枚、だが洞窟に巣を作ったので子供達も含まれる。

 

 はぐれオーガーの討伐は報酬金貨百枚、広い森の中を捜す必要が有る。

 

 カミオ村とミオカ村に引き寄せられるモンスターの原因究明、報酬は応相談ってランクC相当の依頼を押し付け様としたな、村長のモータムめ!

 

「熱心に掲示板の依頼書を見ているね、何か良い依頼は有ったかい?」

 

「はい?えっと、参考迄に見ていただけですよ」

 

 気付かない内に既に隣に立っていた美女みたいな男……

 他の人に当たらない様に周囲を警戒していたのに全く気付けなかった、見た目は華やかな布の服を纏ってかなり肌が露出してるから男と判別出来た。

 良く制御された中々の魔力、だが腰の両側に魔力を帯びたレイピアを吊している。

 武術に関しては相当の手練だと僕ですら感じ取れるのに魔術師としても高レベルだぞ、デオドラ男爵やベリトリアさんを足して二で割った様な人だ。

 

「君だろ?ブレイクフリーのリーンハルト。魔法戦士と聞いたが……」

 

「ああ、この格好ですね?防御力向上の為にローブじゃなくて自作の錬金で防具を作り装備しています。魔法戦士ではないです、僕は土属性魔術師ですから」

 

 頭から爪先迄じっくりと値踏みされた、しかも笑顔が美女に見えるから質(たち)が悪い、周りも僕等を意識し出した。

 

「私はミュールヘルン、ランクBの冒険者さ。私達は君を仲間にしたいと考えているんだよ」

 

 ランクBの冒険者から勧誘だと?だがミュールヘルンと言う冒険者を僕は知らない、ランクBと言う数少なく警戒が必要な連中を情報収集を怠けていたから知らないんだ。

 

「僕もパーティを率いているので、申し訳ありませんが、お断りします」

 

 イルメラやウィンディアと別れるつもりは無いし一緒にと言われても嫌だ、僕は彼女達と成長して行きたいんだ!

 

「ああ、彼女達も一緒で良いよ」

 

「それでも嫌です。それにランクBのパーティに僕なんか……」

 

 人差し指で口を押さえて黙らされた、相当に恥ずかしいぞ。

 

「もし私が君を急に襲ったらどうする?」

 

 話題を変えられた、いやプレッシャーを掛けて来てるから脅されているのか?

 どうすると言われても武術では敵わない相手だからな、魔法障壁を頼りに山嵐で距離を取りゴーレムナイトで飽和攻撃かな。

 距離さえ取れば幾らでも方法は有るだろう。

 

「それだ、君は今幾つかの方法を考えているね。私のレベルは75、君の倍以上有る。

普通は考えなくても君を含めて周りの有象無象共を纏めて蹴散らせるレベル差なんだよ。

私の仲間にレベル66の火属性魔術師が居るが、魔力量や魔力制御の技術が君と大差無い、何故だい?」

 

「買い被り過ぎです、僕はレベル30の新人冒険者です」

 

 嫌に絡むな、だが転生の秘術を使った僕は普通とは違うのも確かだ。

 多分だがレベルアップの恩恵は三倍程度は有るだろう、元々レベルは100を越えていたし転生の秘術は能力や魔力、記憶や経験も持ち越せる術だった。

 実際はレベルは下がりレベルアップにより元の力を取り戻しているのが正しい感覚だ。

 

「可愛いな、君は。食べてしまいたい位に……だが良く考えてくれ、私等が君を欲している事をね」

 

 顔が近付いて来て、いや近いし抱き着かないで……

 

「む、むぐっ?なっ、ななな何をするんですか!」

 

「ナニってキスだよ、接吻でも口づけでもベーゼでも構わないが、御馳走と言っておこう」

 

 唇を奪われた上に軽く抱擁までされた、男にだ!

 

「何て屈辱だ!」

 

 空間創造からカッカラを取出して一回転させて振り下ろすが、既にミュールヘルンと名乗った男は居なかった。

 周りはヒソヒソ話で盛り上がり酷い奴は指を差して笑っている、この場に居る全員を口封じで抹殺したい。

 

「災難でしたね、リーンハルトさん。まぁコチラの応接室へどうぞ、さぁさぁどうぞ」

 

 クラークさんが話し掛けて来たが近くで様子を伺っていたのは知っていた、一刻も早くこの場所を去りたいので彼の後に付いて二階に有る応接室に移動する、また酷い噂話が飛び交うだろうな。

 イルメラ達には言えない、昨今流行りの『妖かしの恋』だとか思われたら……

 

 応接室に入ると既に紅茶のポットが用意されていたので自分で注いで頂く事にする、ストレートで飲むと独特の香と渋味で気持ちが落ち着く。

 

「災難でしたね、彼は気に入った男には何時もあの様な事をしますから……」

 

 最悪な人種だな、なまじ本人が高レベルで強いだけに手に負えない。

 

「すみません、取り乱してしまいまして……

色々と聞きたい事が有るのですが先ずは『鋼鉄の槍』の鑑定と買い取りをお願いします、全部で二百七十三本です。

一応鑑定はしたので、この五本は魔力が付加されてます」

 

「ええ、パウエルから報告が上がって来てますよ。コチラが指名依頼書になります、三本納品でギルドポイントを皆さんに1ポイント差し上げます」

 

 クラークさんが懐から取出した紙束の一番上の物をテーブルの上に置く、パウエルさんから聞いた内容が書かれた依頼書だが……

 あの束が全部指名依頼書って事は無いよね?

 

「有り難う御座います、早速ですが『鋼鉄の槍』は此処に並べて良いですか?」

 

 クラークさんが呼び鈴を鳴らすとギルド職員が二人、大きな籠台車を二台押して来たので空間創造から取出した槍を入れていく、自分で言うのもアレだが結構な数だ。

 

「相変わらずのレアギフトの恩恵ですね、では暫く時間が掛かるので本題に入りましょう」

 

「はい、お願いします」

 

 先に色々情報を教えてくれとは言えない雰囲気だ、あの紙束を弄りながら笑顔を向けるクラークさんからは相当のプレッシャーを感じる。

 

「リーンハルトさん、貴方に各方面から指名依頼が大量に来ています」

 

 黙って頷く、その紙束を意味ありげに弄ってるから多分百件位有るんだろう。

 

「今回は難しい、貴方はオーク討伐遠征で力を示し過ぎた。一応情報漏洩への手は打ったが関係者の口止めは出来なかった。

ニーレンス公爵家からの指名依頼は私達冒険者ギルド本部でも断り辛いのです」

 

 レディセンス様からだな、側で全力の戦いを見せてしまったからな、状況は仕方なかったし身分の上の者には口止めも頼めない。予想通りの展開だな。

 

「予想はしてました。それでニーレンス公爵家からの指名依頼内容とは何ですか?」

 

 クラークさんが黙って紙束の二枚目と三枚目を差し出して来た、いきなり二件もかよ。

 


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