古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第16話

 一歩間違えれば死んでいたグレートデーモンとの死闘、何とか勝てたが代償は大きかった。

 自身の怪我もそうだ。イルメラの防御魔法で威力は削がれているが全身軽度の火傷状態だ。

 特にクロスして顔や口元を守った両腕のダメージは酷い。

 装備も大分やられた。カッカラは傷だらけローブはボロボロ。木の腕輪が一個と木の指輪の六個が焦げてしまい壊れた。

 昨日頑張って作った魔力石五個も全て使ってしまった。だが僕とイルメラのレベルは大幅に上がった、流石は最下層に出現するモンスターだ、経験値も半端無い。

 僕はレベルが一気に13から18に、イルメラはレベル26から27に上がった。

 レベルアップ時に魔力は全快するが体力はそのままなので、泣きそうなイルメラから過剰とも思える回復魔法を掛けられている。

 

「イルメラ、もう大丈夫だ。回復魔法はもう良いよ」

 

 何時までも回復魔法を掛け続ける彼女を止めて立ち上がり、グレートデーモンのドロップアイテムを拾う、苦労に見合った物だと良いが……

 

「指輪が二個にロングソードか」

 

 迷宮の床に転がっていたドロップアイテムを拾う。指輪は銀色で深い青色の宝石が填まっていて強力な魔力を感じるし、デザイン性も悪くない。

 ロングソードを鞘から抜き刀身を見る……仄かに魔力光が放たれているな……

 

『デモンリング:自然魔力回復力増(効果:中):重複装備不可』

『デモンソード:レイス系ダメージ大』

 

 鑑定の結果は驚きの内容だ!

 僧侶と魔術師にとって魔力は攻撃と防御の全てに必要なので自然回復力の増加は重要だ、しかも効果が中なら期待出来る。

 物理攻撃の効く生物系モンスターには毒という切り札が有るが、レイス系のような実体の無いモンスターには有効な攻撃方法が無かったので助かる。

 調べてコピーすればゴーレムに持たす事が出来るな。

 

「イルメラ、デモンリングを装備して。

少し状況の整理をしないと駄目だからボスを倒して落ち着ける場所を確保するよ。そこの二人、話を聞かせて貰うぞ」

 

 僕等がグレートデーモンを倒した後に、仲間の傍まで駆け寄りこちらを睨んでいた赤い髪の戦士に話し掛ける。

 そういえば名前は知っているけど本人からは聞いてなかったんだよね。

 全くドロップアイテムも経験値も美味しかったが、どう見ても貴族の柵(しがらみ)でガチガチな未来予想が見えてきた、自業自得なのだが頭が痛い。

 

「ああ、分かった。確かに話をしないと駄目みたいだな。此方も少し頼み事も有るんだ」

 

 デモンソードを見つめる彼女から隠すように空間創造にしまう、戦士にとって魔力付加の武器は垂涎モノだが渡さないよ。

 魔術師の女も回復したのか此方を窺うように立ち上がって女戦士の後ろに隠れている。助けたのだが凄い警戒されているな、まぁタダ(無料)で助けられたとか思ってないのかも知れない。

 冒険者稼業は実力が全てでギブ&テイクが基本だから、僕等が善意で助けたとは思ってないだろう。

 だが欲張って色々要求すればデオドラ男爵家の力を容赦なく使ってくるかもしれない、貴族とはそういう連中だ……

 

「出来れば説明をしてほしい。ボスを倒して安全な場所を確保してから話そうか……イルメラ、行くよ」

 

 両手持ちアックスを装備した青銅製ゴーレムを四体召喚する。レベルアップにより青銅製ゴーレムなら二十体、鋼鉄製ゴーレムなら六体は召喚し制御出来そうだ。

 

「ゴーレム達よ、敵を部屋の隅まで押し込んでから倒せ!」

 

 青銅の塊の暴力は既にウッドゴーレムでは足掻く事すらさせて貰えず粉砕された。うん、レベルアップの恩恵はデカイな、格段に制御し易くなってる。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「君達は『デクスター騎士団』のメンバーで間違いないよね?グリム子爵の息子は一人で逃げ出したのを確認しているよ。

先ずは何が有ったか話してくれ、その後でどうするか決めよう」

 

 放置しても碌な事にならないならば、少しでも僕等が有利な方向に話を進めなければ不味い。関わってしまったが、『デクスター騎士団』の醜聞隠しの為に利用されるのは御免だ。

 勿論、彼女達は自分達が悪いと思っていても僕等に感謝していても無駄な場合が有る。実家のグリム子爵家やデオドラ男爵家が秘密を知った僕等に黙って感謝だけはしないな。

 良くて『デクスター騎士団』に強制的に入れさせられて扱き使われるか、最悪は罪をでっち上げて序でに彼等の汚名も被せられて抹殺だ。

 空間創造から机と椅子をだして残りの冷たい紅茶を振る舞った。彼女達も大分落ち着いたみたいだが同性であるイルメラの存在が大きいだろう。

 

「私はデオドラ男爵家の次女、ルーテシア。彼女は幼馴染みのウィンディア……」

 

 ウィンディアと呼ばれた少女が頭を下げる。まだ杖を両手でしっかり握っているのは全てを信用してないんだな。その目は疑いに満ちている。

 

「僕はバーレイ男爵家の長男、リーンハルト。彼女はモア教の僧侶のイルメラ、『ブレイクフリー』のメンバーでもある」

 

 少し調べればバレるので本名を教える。

 僕が同じ派閥に属する貴族と知ってか大分軟化して、取り敢えず武器から手を離してくれた。

 

「それで?何故、一階層にグレートデーモンが居たんだ?アレは迷宮の最下層に居るモンスターだぞ」

 

「それは私から話します。ルーテシアは難しい話が不得意だから……」

 

 これが幼馴染みって奴か?ルーテシア嬢の事を難しい話が出来ないと言ったぞ、普通なら不敬罪が適用されるぞ!

 前の日に見掛けた彼女はオドオドして大人しい印象だったが、猫でも被っていたのか……油断しない方が良いな。

 彼女の説明によると、普段は冒険者ギルドからランクB前後の冒険者を派遣してもらい彼等と一緒に迷宮を攻略していた。

 しかし昨日その派遣された彼等の態度の悪さに『デクスター騎士団』のリーダーが腹を立てて彼等を解約した。態度の悪さと言うが無謀なリーダーを諌める時の言葉遣いが気に入らなかったのが真相だそうだ。

 そして今日初めて『デクスター騎士団』のみで迷宮攻略を始めた。五階層までは順調だった、何も問題は無かった。

 五階層には九階層まで降りられるエレベーターと呼ばれる魔法設備が有り、これは五階層のボスを倒すと必ずドロップするレッドリボンを持っていれば起動するそうだ。

 同行していたギルドメンバーは五階層から下は未だ早いと言って行かせてはくれなかった。

 でも我々だけなら誰も止める人は居ないから……

 

「だから五階層からいきなり九階層まで降りたの?」

 

 黙って頷いたが、無謀どころじゃないな。無知故の蛮行とでも言えば良いのか、魔法迷宮を甘く見過ぎだろうに……

 

「ええ、エレベーターを降りて直ぐにグレートデーモンに遭遇して戦いを挑んだけど、ビクターが速攻で倒されて……

パニックになったエリックが逃げ出そうとしたら、床に設置されていたテレポーターの罠に引っ掛かってモンスターごと転送されたの。

それでエリックは逃げ出して私は傷付き倒れ、貴方達が助けに来てくれた……」

 

 うわっ?話し終えて目を伏せてるけどさ、これって大問題だぞ。

 先ずグリム子爵のエリックだが仲間を置いて逃げ出した。グリム子爵は息子を何人か騎士団に入団させている武闘派の一族だ。

 現当主は戦いより策略好きと聞くが一族には脳筋が多い。

 仲間を見捨てて一人で敵前逃亡など不名誉極まりない。しかもビクターって仲間は死んでいるだろう、状況は最悪だな。

 

「そのビクターも貴族なんだろ?」

 

「ええ、ビクターはマードック男爵家の三男よ」

 

 グリム子爵家とマードック男爵家は蜜月な関係の……要は悪仲間だ。だがデオドラ男爵家は違う、此方は騎士団繋がりで無理矢理頼み込んでルーテシアに入ってもらったのかな?

 

「ウィンディアの口の悪さは咎めないでくれ。『デクスター騎士団』内では敬語不要としていたんだ」

 

 僕が難しい顔で考え込んでいたのを勘違いしたのか?彼女達の仲は良さそうだな、流石は幼馴染みって奴か……

 

「僕等から提案とお願いが有る。

先ずはお願いだが、グレートデーモンを倒して助けた事は秘密にしてくれ。例えば他の筋肉ムキムキな高レベルのパーティに助けられたが、貴族のゴタゴタは御免だからと名乗らず去ったとか二人で口裏を合わせてくれ。

さもないと助けた僕等の立場が悪くなる。

同じバーナム伯爵の派閥の一員だからな、良くて『デクスター騎士団』に強制参加、悪ければ罪を擦り付けられて始末される。

グリム子爵は面子や世間体の為には、それくらいはやるよ」

 

 グリム子爵については碌な噂は聞かないし金を持ってる連中だからな、やりたい放題だろう。

 

「そんな事は無い、とは……」

 

 ほら、押し黙ってしまったのが証拠だ。否定する事が出来ないんだよね。

 

「無くはないだろ?君達が『デクスター騎士団』に入った理由も似たり寄ったりじゃないのか?」

 

 少女二人が俯いていると何だか悪い事をしているみたいで嫌になる。

 

「だが実家に話せばちゃんとしたお礼が貰える筈だ。恩人に何も報いないのは……」

 

「恩を仇で返す事になるから秘密にして欲しいんだ。公表するなら僕等は君達の口を封じるしか無い。

此処はボス部屋だし、殺して放置すれば後はモンスターが後始末してくれる。それだけ君達に関わるのはリスクが高いんだ。

僕もイルメラを危険に晒してまで君達を助けた事を後悔はしていないが反省はしている」

 

 事前に彼女の事を知っていたのは秘密だ。孤児院繫がりで助けたとか教えなくても良い。

 

「分かった、恩を仇で返す訳にはいかない。貴方達の事は納得出来ないけど秘密にするわ。

ウィンディアも良いわね?」

 

「ええ、あの豚野郎ならそれくらいの事はするわよ。

今回の『デクスター騎士団』だって馬鹿エリックのお遊びに付き合わされただけですもの。それをデオドラ男爵様に無理難題を言ってルーテシアをパーティメンバーに入れたの。

だけど魔法迷宮は危険だからと保険の意味でもギルドから応援を頼んだのまで断って……」

 

 ウィンディア嬢の愚痴を暫く聞く事となったが、君達には時間が無いんだぞ。適当な所で彼女の話を終わらせる。

 

「次は提案だ、君達は生きているがエリックは死んだと思っている。

彼は今頃グリム子爵に泣き付いているだろう『デクスター騎士団』の壊滅をどうしたら良いかを……。

下手したら死人に口無しで全ての罪を君達に背負わすかも知れないよ、早くデオドラ男爵の所に行くべきだ。

冒険者ギルドや管理事務所に顔を出して事実を説明しておくのをお勧めする、揉み消しは大変だと思わせるために。

最終的には死んだビクターが悪役になりそうだが、僕等は巻き込まないように頼むよ」

 

 ウィンディア嬢を見ながら噛み砕くように説明した。良くも悪くも素直な感じのルーテシア嬢には向かない話だから……彼女も思う所が有ったのだろう、直ぐに立ち上がった。

 情報戦は時間が勝負、先に噂を広められては打ち消すのに苦労する。

 幸いデオドラ男爵家はグリム子爵家より爵位は低いがバーナム伯爵はデオドラ男爵家の力を必要としている。 

 どちらを切るかと言えばバーナム伯爵はグリム子爵を切ると思う。

 

「何から何まで有り難う御座いました。ほら、ルーテシア行くわよ。下手したら私達に罪を擦り付けられてしまうわ」

 

 彼女はそのまま飛び出して行きそうな感じで慌てて礼を言った、どうやら貴族の暗部をよく知っているみたいだが、酷い毒舌だな。

 デオドラ男爵家の令嬢と幼馴染みという事は家来の娘さんか何かか? 不思議な関係だね。

 

「あっああ、分かったよ、ウィンディア。リーンハルト殿、有り難う御座いました。

貴殿の事は必ず秘密にしますから……

それと少ないですがお礼にコレを受け取って下さい」

 

 彼女が自分の指から抜いて差し出したのは妙に古ぼけた指輪だ。

 鑑定すると『守りの指輪:自然体力回復力増(効果:小):重複装備不可』となっている。

 報酬とすれば大した物だがウィンディア嬢の表情を見れば、彼女にとって大切な物なのだと容易に想像がついた。

 

「この守りの指輪って大切な物なんだろ?これを手放す気持ちだけで十分だ、コレは貰えないよ。

それにグレートデーモンのドロップアイテムだけで儲けは有ったからね。

さぁ急いで行くんだ。僕等はアリバイ作りを兼ねて二階層でモンスター狩りをしてから帰るよ。

この部屋を出たら僕等は知らない他人同士だよ、分かるね?」

 

 ルーテシア嬢の掌に守りの指輪を乗せて握らせる。善意は嬉しいが由緒有りそうな指輪だし裏側に小さくデオドラ男爵家の紋章が彫られていた。先祖代々受け継いできた宝物の可能性が高い。

 こんな物を持ってる事がバレたら一大事だ。

 ルーテシア嬢は感激して泣いていたが、僕は笑顔でスルーし彼女の背中を軽く押してボス部屋の外へ出した。

 何度も後を振り返り頭を下げる彼女を見て、きっとなんて良い人なんだとか勘違いをしてるんだと苦々しく思う。

 

「漸く厄介者が居なくなったか……イルメラ、アリバイ作りの為に二階層に行くよ」

 

「分かりました。一階層に飛ばされた彼女達と会わない事にする為にですね、流石はリーンハルト様です。

すみませんでした。あの時私は止めなければならないのにリーンハルト様を厄介な事に巻き込んでしまい……」

 

 モア教の神官であるイルメラは人々を幸せに導くのが本来の仕事だから見捨てるとかには抵抗が有るから仕方ない。

 それに孤児院に寄付してくれた彼女は間接的に恩人だ。彼女を見殺しにしていたら凄く後悔し悲しんだだろう。

 

「いや、見捨てたら僕が嫌な思いをしたからね。

幸いレベルも上がったしレアドロップアイテムのデモンリングも使い勝手が良い。結果論からすれば助けて正解だと思うよ」

 

 予備のローブに着替えてボス部屋をでて下に降りる階段に向かう、一気にレベルが18まで上がったのは良かった。

 これで目標のレベル20までは何とか上がるだろう、 後は彼女達が上手く動いてくれれば大丈夫だな。


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