魔法迷宮バンクの攻略を始めて三日目が終了、色々と教わる事も多い。
今迄は自分達の事だけで忙しく手一杯だったが、冒険者ギルド本部は僕達の噂を広めると言った。
つまり不特定多数が僕達の事を知っているが、僕達は相手を殆ど知らない。
今日も『リトルガーデン』と言う冒険者パーティが話し掛けて来たが、彼女達の思惑を勘違いしていた。
これから色々な冒険者達が僕等と関わって来ると思うが情報が無ければ対応を間違えてしまうのが怖い。
有能で好意的なパーティに対して隔意を持たれるのは僕等の今後にとってもマイナスだから……
◇◇◇◇◇◇
明日も魔法迷宮バンク五階層のボスが十回毎に落とすレアアイテムの『帰還のタリスマン』を集める為に迷宮探索を行う予定だ。
連続で冒険者として活動する場合、メノウさんからエレさんを僕等の家に泊める事は了承して貰っている。
一緒に住めば行動するのも楽だし彼女だけ自宅から合流も大変だ、大切な盗賊職が何かのトラブルに巻き込まれて同行出来ないのは辛い。
だが女性が多いと自宅でも寛げないんだ。
「エレさん、玉ねぎと人参とポロネギとセロリを切って下さい。ウィンディアは牛肉の下拵えを水分を取ってカラシを塗って下さい……」
「了解、エレちゃんは幾つ食べる?」
「二個で大丈夫」
「お肉にカラシを塗ったら切った野菜を万遍なく乗せた後に巻きますよ」
「ルラーデン(牛肉のロール巻き煮込み)か、リーンハルト君の好物なんでしょ?」
「そうです、肉を焼いたらトマトベースのスープに野菜と一緒に煮込んで塩コショウで味を調整します」
華やかな台所には主は立入禁止らしい、居間でお茶を飲んでて下さいと言われても手持ち無沙汰だ。だが部屋に篭っていてもする事が無い。
居間を見回す、女性が多くなったから防犯に力を入れるか……
今は留守中の警備は半自動制御のゴーレムポーンを玄関や窓の内側に立たせて侵入者を捕縛する命令をしている、合計八体のゴーレムポーンが窓際に立ち尽くすのは不気味かな?
ご近所様から何か言われるかな?
「アーシャ様達には不評だったが置物として動物シリーズはどうだろう?」
先ずは番犬ゴーレムを錬金する、牙と爪が鋭く人型よりは動きが低く攻撃を防ぎ難い。しかも置物と油断して近付いて来やすくないか?
番犬ゴーレムを制御し家の中を歩き廻らせる、だが結局侵入者を攻撃するなら一緒だな。
「番犬が駄目なら番豹、いや番虎、どれも一緒で変わらない駄目か……」
やはり侵入者を拘束するなら人型しかない、結論として今迄と同じ。暇なので鋼鉄の槍を鑑定する事にする、稀に魔力付加された物が有るらしい。
先ずは空間創造から一本取り出す、室内で扱うには長いが仕方ない。
鑑定するも特に魔力は付加されていない、取り敢えず壁に立て掛けて二本目を取出して鑑定……魔力は付加されてない。
三本目……四本目……五本目駄目だな、普通の槍だ。
七本目……八本目……九本目は……む、これは魔力付加されているな。
鑑定結果は付加された魔力は『体力UP効果:中』で過去にも見付かった物と同じだが買取金額は金貨百五十枚だ。
多分固定化の魔法を掛けてオークションに出品すれば倍位で売れるのだろう、効果が中以上は希少価値が有る。
だが僕等のパーティに槍使いは居ない、でも一本位は売らずに残すか?
残り全て合計百四十本を調べたが魔力付加が付いていたのは五本だけだった、『体力UP効果:中』が二本に『筋力UP効果:中』が二本、最後に『魔力UP効果:中』が一本だ。
魔力が付加された槍は確率的にはレアドロップアイテムの中で更に3~5%程度の確率か……
五本で買取金額は金貨七百五十枚、付加無しも一本金貨三枚だから合計金貨一千枚以上で一財産だな。
「リーンハルト君、居間を武器で散らかしちゃ駄目だよ。直ぐに夕飯だから片付けてよね」
居間の入口から顔だけ出したウィンディアに叱られてしまった。
「えっと、ごめんなさい?」
確かに百本からの鋼鉄の槍が壁に立て掛けられているのは邪魔で危ないな。
最近家ではメイド服姿が定番になりつつあるウィンディアに叱られたので、鋼鉄の槍を空間創造に収納する。
何故かエレさんもメイド服を着たがったが彼女達とサイズが違い残念そうにしていた、きっとお揃いの服が着たかったのだろう。
ウチのパーティメンバーは仲が良いので助かる、もし追加で入れるとしたら何職だろうか?
基本職は網羅し不足は無い、敢えて言うなら戦闘系だがゴーレムで代用出来るんだよな。
「不足は無いんだ、今は考えなくても良いだろう……」
キッチンから肉の焼ける良い匂いが漂って来てお腹が鳴ってしまった、ウィンディアの作るルラーデンは旨いんだ。
◇◇◇◇◇◇
魔法迷宮バンク攻略四日目、天気は生憎の雨で少し肌寒い。
どんよりと厚く曇った空を見上げる、今日は一日中雨は止まないだろうな。
だがバンクの中は一定の温度だ、他の魔法迷宮は灼熱や極寒が有り専用の防御系アイテムが無ければ歩く事も辛いらしい。
まだ先の上級魔法迷宮だが攻略が楽しみだ。
雨具としてフードコートを羽織り中はハーフプレートメイルを着込んだ、魔術師のローブや革鎧より重いが体力をつける為に暫くは着続ける事にする。
「おはようございます」
「おぅ!最近頑張ってるな、連日だろ?」
「はい、指名依頼の前に少しでも攻略しようと思って……」
既に何組もの冒険者達がバンクに入っているが『リトルガーデン』と『春風』それに『ワイルドカード』と『ザルツの銀狐』達も記帳していた、だが馴染みの人達は来ていないな。
何時もの手順でゴーレムポーンを召喚しウィンディアに補助魔法を掛けて貰いエレさんの道案内で迷宮内を進む、珍しく一階層でモンスターと遭遇するが難無く撃破、更に奥へと進む。
「よう!おはよう、頑張ってるか?」
三階層まで下りた所で他の冒険者パーティと遭遇し声を掛けられた。
「おはようございます、程々に頑張ってます」
「迷宮は危険だ、程々位の気持ちの余裕が無いと駄目だからな」
そのまま擦れ違う、僕のゴーレムポーン十体にも驚かない連中を観察するが戦士五人に盗賊職一人、リーダーらしき声を掛けて来た男の手には大剣が握られている。
全員が三十代前後と思うがレベルは高そうだな。
「有り難う御座います、皆さんも頑張って下さいね」
中々レベルの高そうなパーティだったな、それに落ち着きも有ったし。
三階層から四階層へ下りる、此処からはアンデットモンスターが現れる、ゴーレムの武装を両手持ちアックスに持ち替える。
前方に魔素の集まる光を確認する、今日は良くモンスターと出会うな。
「ゴーレムポーンよ、六体向かえ。四体は防御に専念しろ」
声を出して指示しなくても大丈夫なのだが余り隔絶したゴーレム運用技術を見せない様にジゼル嬢から言われている、もう既に手遅れ感で一杯だけど……
実体化したモンスターはゾンビ四体、先攻で四体を向かわせ二体を少し遅らせて突破に備える。
だが動きの鈍いゾンビはゴーレムポーンの攻撃をまともに受けて魔素に還って行った。ドロップアイテムは毒消しポーションが二個か……
「はい、リーンハルト君」
「有り難う、ウィンディア」
彼女が拾ってくれたドロップアイテムを受け取り空間創造に収納する、地味に回復アイテムが貯まるな。
暫く進むと五階層のボス部屋に前に到着したが、珍しく他のパーティがボスに挑んでいるみたいだが……
『おい、ヤバイぞ。逃げ……』
『馬鹿野郎、逃げ場なんて……』
「怒声が聞こえるな、だが何かヤバイ感じだぞ」
皆の表情が硬くなる、だがボス部屋は勝つか負けるかしないと扉は開かない、助けに行けないんだ。
『やだ、助けて……コッチに来るな、来るなよ……』
『ニール、お前だけでも逃げ……グハッ!』
『ヨルンさん?ヨルン、うわぁ……』
未だ子供の様な声も聞こえた、これがボス部屋に挑む現実だ。
僕等みたいにダメージ無視の前衛ゴーレムポーンが大量に運用出来る力技が使えないと、一人が倒されると途端に形勢が悪くなり逃げ場が無いので全滅するんだ。
「リーンハルト様、中の方は……」
イルメラが不安そうな顔をしている、部屋の中から断末魔っぽい叫び声が聞こえた。
「ああ、負けたみたいだな。助かりはしないだろう」
無理に嘘を言ってもバレるから事実を伝えるしかない……
部屋の中から音がしなくなった、全滅の文字が頭の中に浮かぶ。
震える彼女の手をなるだけ優しく握る、人の死を一番悲しむのは僧侶でもある彼女だろう。
「あっ?狡いよ、イルメラさんだけリーンハルト君に慰めて貰ってる!」
「あ、いや、その……違うんだけど、違わない」
暗い雰囲気を吹き飛ばす様にウィンディアが腕に抱き着いて来た、彼女は何時も沈んだ空気を変えてくれる有り難い存在だ。
「ウィンディア、何時も有り難う」
「えっ?リーンハルト君は、私が抱き着くのが……その、嬉しいの?」
「私、何時も空気だ」
毎回エレさんが謎の落ち込みをして流れが終わる、だが気持ちの切り替えは出来たと思う。
ボス部屋の扉の取っ手を握って回す、回ると言う事は中の連中は全滅間違い無しだな。
だが全滅したパーティは次に部屋に入ると消えて無くなっている、何故だろう?
「さて気持ちを切り替えてボス狩りを始めようか、今日の目標は百回だ!」
◇◇◇◇◇◇
「ふーん、優しいじゃない。てかハーレムパーティね、僧侶と魔術師を色恋沙汰で拘束してるのか……
勧誘は無理ね、でも前のパーティが全滅しても躊躇なくボス部屋に入ったわ」
私達のパトロン、ニーレンス公爵家からブレイクフリーを調べ可能なら勧誘しろと言われた。
私の敬愛するレディセンス様から直々に頼まれたので偶然を装い接触し、五階層でボス狩りをすると聞いて張っていたが……
彼等の結束の秘密の一端を見れた気がする、損得でない愛情で結ばれたハーレムパーティね。
私達は同郷の仲間達でパーティを結成した、結成当時からメンバーは変わってない。
「ねぇ、ベルリーフ。彼等はデオドラ男爵の娘の婚約者だからさ、幾ら何でも勧誘は無理だよ」
「そうね、ジゼル様以上の相手か条件でも付けないと無理よね。チロルはさ、彼等と戦って勝てる?」
一応私達『リトルガーデン』がニーレンス公爵家のお抱え冒険者パーティの筆頭、万が一彼等『ブレイクフリー』が雇われたらライバルとなる。
「私は魔術師の中でも最強の火属性だよ、土や風に負ける訳無いわ。何時も通り皆で撹乱して私のサンアローで仕留めれば大丈夫よ」
「確かにゴーレム十体は凄いけど所詮は青銅製、私とミュレルとラミエルで撹乱出来る。風魔術師はレイロンの弓で牽制すれば良いか……」
チロルの自信はサンアロー、最大1200度の熱線は青銅製のゴーレムなど溶かしてしまう、風魔術師は厄介だが呪文を詠唱さえ邪魔すれば大丈夫。
ブレイクフリーの弱点はメンバーに戦闘職が居ない事ね、ゴーレムは確かに強力だけど過信し過ぎたわね。
後は僧侶であるハームが防御と治癒を担当すれば万全ねって?
「もう出て来たわよ?そして直ぐに扉を閉めたわね、連戦するの?」
最初に入ってから三分と経っていない、そんな馬鹿な事が……
「あ、また出て来て左右を確認して扉を閉めた。ねぇ?あの人達って変だよ、絶対におかしいわ」
「リザードマンは簡単に倒せる相手じゃない、私達だって倒せるけど連戦は気力も魔力も続かないから不可能よ、それこそ十分位の休憩は挟みたいわ。
だけど本当に五分と掛からずに倒して扉を開けている」
「ダメージ無視のゴーレムのレベルがリザードマンを上回っているのね、リザードマンは単体でもレベル20以上ないと倒せないわ。
つまり彼のゴーレムはレベル20以上で十体操れるならば可能だわ、理解出来ない強さじゃない」
ゴーレムって使い方次第では有効なのは分かったけど、それでもチロルの有利は変わらない。だけど汎用性では向こうが一枚も二枚も上手なのね。
「今はこれだけの情報が有れば良いわね、私達も負けない様にレベルアップに専念しましょう。彼は既にレベル30、私達はレベル25前後、少しでも差を縮めたいわ」
私達なりの迷宮攻略方法が有るのよ!