古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第157話

 バンク五階層のボスであるリザードマン狩りを百回繰り返し延べ六百匹を倒した。

 経験値的には美味しいが実入りは少ない、ノーマルの鱗の盾は金貨一枚、レアの鋼鉄の槍は金貨三枚、だが十回毎にドロップする帰還のタリスマンは冒険者ギルド本部でも品薄で売値が金貨百枚の人気商品だ。

 どの魔法迷宮でも何階層でもパーティを確実に出口までテレポートさせる命綱的なアイテムだからイルメラ達全員に二個ずつ持たせた。

 最悪の場合、迷宮内のトラップ等で離れてしまったら躊躇無く使う様に言い含めた、消費しても再度手に入れるのは簡単だ。

 この帰還のタリスマンを集める為に明日もリザードマン狩りをする、最低でも二百回戦い合計二十枚は手に入れよう。

 

 バンクの冒険者ギルド本部出張所に顔を出す、エレさんのレベルアップによる冒険者カードの書き換えとドロップアイテムの買い取りだ。

 今回の戦利品は鱗の盾が百八枚に鋼鉄の槍が百四十本だが、鋼鉄の槍は冒険者ギルド本部に持ち込まなければならない。

 冒険者ギルド本部に行けば厳選された断れない指名依頼を聞かされるだろうから様子見だ、幸いお金には困ってない。

 鱗の盾だけでも金貨百八枚になる、一日の稼ぎとしたら十分だ。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 買い取りコーナーが混んでいたので暫く待たされたがパウエルさんに驚かれた、鱗の盾が百枚以上なら鋼鉄の槍も同じだけ有るんだろうと……

 未だ冒険者ギルド本部には行きたくないので笑顔で肯定しておいたが、考えれば魔力付加が無くても買い取り金額は一本金貨三枚、百四十本だと金貨四百二十枚になるな。

 改めてレアアイテムドロップ率UPのギフトとダメージ無視のゴーレム運用の出鱈目な恩恵を感じる、他のパーティ十組分の稼ぎだから……

 

 冒険者ギルド本部出張所を出る、噂の拡散は十分なのだろう、僕等がブレイクフリーであると気付く連中も多い。

 

「アンタ達がブレイクフリーか?」

 

 目の前に飛び出した革鎧を着た赤髪の若い男が訪ねて来た、同い年位だろうか?

 盗賊職と言うよりは軽戦士だろうか、だがレベルは低そうで装備も貧弱だ、メインの武器がショートソードか……

 

「ええ、そうですが何か?」

 

「俺はメッチェ、未だレベル9の戦士だけど仲間にしてくれ!」

 

 いきなり頭を下げられたが……何時かは来ると思っていた、勧誘じゃなくて仲間になりたいと志願してくる連中が。

 

「申し訳ないがパーティメンバーを増やす予定は無いんだ、諦めてくれ」

 

 メッチェが真剣なのは目を見れば分かったが、僕等ブレイクフリーは少数の利点を生かすパーティだ。

 いずれは戦士職が欲しいとは思ったが今は要らないし、色々な秘密を共有出来るかも分からない。

 

「嫌だ!入れてくれるまで付き纏うぞ」

 

 周りの冒険者達も面白い見世物みたいな感じで遠巻きにニヤニヤと僕等のやり取りを見ている、甘い対応は志願者が続出する可能性が高いよな。

 

「僕等に君をパーティメンバーに加えるメリットが有るのか?悪いが戦士職は僕の錬成するゴーレムで間に合っているんだ」

 

 話は終わりとメッチェの脇を通り抜ける、悪いとは思うが一々相手をしてたら志願者が後を絶たないだろう。

 それだけ僕等は短期間で成果を上げている有望株なパーティだ、入れれば恩恵は大きいだろう。

 

「待ってくれ!腕を確かめもせずに断るのは酷くないか?せめて少し位は考えてくれても……」

 

 腕を掴まれそうになったので避ける、何か理由は有るのだろうが相手の都合を考慮する余裕は無い。

 悪いとは思うが同情して仲間に入れてもお互いに嫌な思いをするだけだ、メッチェが僕等を利用したいだけなら違うかも知れないけどね。

 

「メンバーを増やす予定が無いのに話を聞いてもお互い無駄な時間を費やすだけだよ、悪いが他を当たってくれ」

 

 既にイルメラとウィンディアは権杖とスタッフを握り締めてエレさんはダガーの柄に手を乗せた……お嬢様方はやる気満々か?

 

「だけどっ!」

 

「冒険者のパーティに入りたいなら冒険者ギルドの斡旋を頼むか、何処かのクランに加入する事をお勧めするよ。

あと強引な勧誘は力ずくで排除しても良いと冒険者ギルド本部で確認している、これ以上しつこいと……分かるよね?」

 

 メッチェの肩を軽く叩き今度こそ脇を通り抜ける、彼にも譲れない思いは有るのだろうが今の僕等は役割分担が出来ている理想的なパーティだ。

 それに僕の秘密を教えて良いのかも分からない、仮にパーティ加入を認めるにしても相手を見極めてからで会って直ぐになど無理だな。

 見世物が予想以上に詰まらなかったのか野次馬達が愚痴りながら散って行った、彼等でさえメッチェを仲間に誘おうとは思わないのだろう。

 

 嫌な気持ちになりながら乗合馬車の停留所に向かう、待合室は結構な人だかりだ、二台位は待たされるかな?

 王都方面の待ち客は十八人、僕等は四人だから二台目か……

 長椅子に並んで座る、他の待ち客も先程のやり取りを見ていたのか僕等をチラチラと見ている。

 

「健気な少年戦士を突き放したじゃない、可哀相だったよ?」

 

 向かいに座る同い年の少女が疑問形で話し掛けて来た、所々に鉄板で補強した革鎧を着てショートスピアを持つ戦士職かな?

 周りのパーティメンバーと思われる連中は静観しているが、メッチェと違い中々の強さを感じる。

 

「彼は強いパーティのメンバーになれば恩恵は大きい、だけど僕等はレベルの低い彼をパーティメンバーに入れるメリットは無い」

 

「確かにね、あの坊やは強いパーティに入って早くレベルを上げたいって感じだったね。でも彼じゃなくて美少女だったらパーティに入れた?」

 

 ああ、ポーラさん恨みますよ、貴女が盗賊ギルドに僕が若くて才能が有って美少女ならレベルは低くても構わないって間違った噂が広まってます。

 

「いえ、誰が来ても結果は同じです」

 

「あら?じゃ私がパーティに入れてくれるなら身体を自由にしても良いって言ったら?」

 

 艶っぽい目で僕を見詰めて脚を組み替えて色気をアピール?改めて見れば確かに美少女だが……何だ?隣から凄いプレッシャーが!

 恐る恐る見るとイルメラとウィンディアが見惚れる笑みをしているが何故か怖い。

 

「間に合ってます」

 

「酷い!自分の女と私を見比べて断るって何よ」

 

 睨まれたが確かに誘われてイルメラ達を見てから断る、お前じゃ俺の女に勝てないから無理みたいに感じたのか?

 

「勘違いはしないで欲しいのですが、僕にはデオドラ男爵のご息女であるジゼル様という婚約者が居ます。他の女性との色恋沙汰はご法度、色仕掛けも無用、ついでに元々パーティメンバーを増やす予定も無いですね」

 

 この手の輩は、はっきりと言葉にして断らないと自分の都合の良い解釈をしてくる、強か者と感心すれば良いのか図々しいと呆れれば良いのか分からない。

 

「ふーん、模範解答よね。貴方って他の冒険者とは違う感じがする、貴族様なのに偉ぶってもいないし一般的な冒険者みたいに粗野な感じでもない。私は『リトルガーデン』のリーダー、ベルリーフよ」

 

 リトルガーデン?小さな庭園?聞いた事は無いが実は僕は他の冒険者達の情報収集を殆どしてない、これは不味いか?

 

「僕は『ブレイクフリー』のリーダー、リーンハルト。彼女は僧侶のイルメラ、魔術師のウィンディア、盗賊職のエレ。理想的なパーティメンバーでしょ?」

 

「あら、惚気られたわ。私の右隣が戦士のミュレル、左隣から戦士のラミエルと僧侶のハーム、魔術師のチロルに盗賊職のレイロン、理想的なパーティメンバーでしょ?」

 

 やられた、もしかしなくても『リトルガーデン』とは有名な冒険者パーティに間違い無い、彼女達は勧誘やパーティ加入志願者でもない。

 情報収集か何か別の思惑で絡んで来てる、初期対応としては間違ってはないが協力的では無いと判断されたな。

 

「お互い理想的なパーティメンバーですね、バンクは何階層を攻略してますか?」

 

 ボス部屋に篭る攻略方法を取る僕等は他の冒険者パーティと擦れ違う確率は低い、だから五階層迄で彼女達に会った事は無い。

 折角の機会だ、逆に色々と聞いてみるか?

 

「五階層よ、主に武器庫を攻略してる。五階層ともなれば魔力付加の付いた武器や防具も稀に手に入るわ。君達は?」

 

 僕は宝箱から見付かるのはダガーばかりですけどね、五階層ともなれば下級の魔力付加の品物が見付かるのか。

 

「僕等も五階層ですよ、主にボス狩りをしています」

 

「あら?一緒ね」

 

「ええ、奇遇ですね」

 

 お互いに笑顔を浮かべる、後で冒険者ギルド本部に行って情報収集しないと駄目だな。

 丁度乗合馬車が到着し彼女達は先に乗って王都へと帰って行った、僕等は次の馬車だ。

 

「不思議な方々でしたね、彼女達『リトルガーデン』は若いながらも冒険者歴は三年以上有ります、私がイェニー様と冒険者として活動していた時に少し話題になった新人でした」

 

「なる程ね、メッチェよりも強いとは感じていたが既に中堅クラスだったのか……」

 

「私も聞いた事が有るわよ、彼女達は既にランクDらしく主に魔法迷宮の探索をしているみたい」

 

 魔法迷宮探索も先輩か、明日パウエルさんに聞いてみるか……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「どう思った?」

 

 私はタイミングが悪くて警戒されたと感じた、二ヶ月で冒険者ランクCまで駆け上がった期待の新人は悪人ではなさそうだ、真っ当な成果を評価されて冒険者ギルド本部が優遇しているが強いだけでは……

 私達以上に優遇されている秘密が知りたくて絡んでみたけど、礼儀正しく慎重な位しか分からなかった。

 後は既にパトロンを捕まえてる手の早さと実際にオークの群れを殲滅出来る強さを持っている、だけど私達だってパーティで挑めば可能だわ。

 

「あのパーティメンバーだけど少なくとも二人とは恋愛関係じゃないかな?パトロンの娘の件は派閥引き込みの楔だね」

 

「私もそう思う、前にバルバドス三羽烏の誰かにあの僧侶さんが絡まれた時、凄い切れてたもん」

 

 仲間を大切に思っているのか、自分の女に危害を加えられそうになって切れたか……

 冷静沈着そうだったけど熱くなる事も有るのか、そこは好感度アップだけど基本的に自分達が大切で周りには非協力的かな?

 

「冒険者ギルドの出張所で鱗の盾を売っていた、ボス狩りは本当みたいだけど百枚は有ったよ」

 

 百枚か、ドロップ率を考えても三百匹以上だから何日か頑張ったんだね。

 

「管理小屋の記録を調べたけど四日間は通ってた」

 

「ボス部屋のリザードマンは六匹固定、鱗の盾のドロップ率は30%だから約三百匹、五十回か……四日間なら少ないわね」

 

「おそらく五階層は昨日と今日の二日間よ、一昨日は山の様にスタンダガーを売ってた」

 

 スタンダガーね、四階層のボス狩りかしら?コボルドリーダーと配下のコボルド達を狩れば可能よね。

 

「呆れた、本当にボス狩りだけしてるんだ。

ボスのドロップアイテムは固定、宝箱は出ないから他のアイテムは手に入れられない。

だけど戦士職は不要のゴーレム運用だから武器や防具は余り必要じゃないか……」

 

 冒険者にとって支出の一番は武器と防具、次がポーション等の消耗品、そして意外に馬鹿にならないのが治療費だ。

 武器や防具は必要無くポーションも僧侶で代用出来る彼等の財政は豊か、二日間で金貨百枚とは羨ましいわね。

 

「私もメインが火属性で土属性も持っているけど常時ゴーレムを十体運用とか無理だわ、噂では金色ゴーレムを二十四体も操っていたそうよ。

規格外だけど、あのゴーレム運用が冒険者ギルド本部が彼を優遇する秘密だと思う、正直ご教授願いたい程だわ」

 

 ウチの最大火力の『鬼火のチロル』にそこ迄言わせるとはね、彼女はレベル25で灼熱魔術サンアローは1000度を越える高熱の照射魔術、トロールにだって負けないのに……

 

「懇意にするには良いパーティだと思うわ。別に敵対する訳でもないし難易度の高い依頼は複数パーティが基本だし」

 

 女だけのパーティは協力者を探すのも大変なのよね。

 


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