古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第156話

 魔法迷宮バンクの五階層攻略、ボスであるリザードマン達にもロングボゥによる一斉攻撃は有効だ。

 討ち漏らしはイルメラ達によるクロスボゥの攻撃で牽制しゴーレムポーンの第二射迄の時間稼ぎをしてくれる。

 三十体のゴーレムポーンによる二回の斉射で確実に倒せる、経験値が多いのかは未だ分からないが、エレさんがレベルアップする迄は頑張るつもりだ。

 リザードマンは六階層以降、敵が強くなるので戦えるかの試金石的なモンスターだ。

 だが僕等ブレイクフリーは大丈夫、リザードマンとの戦いにも十分余裕を持って戦えている。

 魔法迷宮バンクは複数有る魔法迷宮でも初級だが、それでも最下層を攻略するにはレベル30は必要とされる。

 未だ僕だけがレベル30を超えていて一番下のエレさんはレベル23、目標はレベル25にしよう。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「そろそろ一休みしようか?」

 

 リザードマンを狩り続けて三時間、丁度五十回目を終えた。

 トータルで三百匹でエレさんのレベルが24になった、経験値的には美味しいがドロップアイテムは微妙だ……

 鱗の盾が六十四枚に鋼鉄の槍か七十本、時間が無かったから鑑定はしていない、冒険者ギルド本部で鑑定と買い取りらしいが行けば指名依頼を頼まれるだろうから未だ行かない。

 お楽しみの十回毎のドロップアイテムだが、『帰還のタリスマン』だった。

 

 これは使えば一回限りだが魔法迷宮の出口にテレポート出来る魔法迷宮探索の必需品だ!

 バンク五階層とは下層階へ行く為の試金石で有ると共に必要なレアアイテムを用意してくれていると穿った考えが頭を過ぎる、一体魔法迷宮とは誰が何の為に造ったんだ?

 

「少し早いですが昼食にしましょう、今日はリーンハルト様の大好物のナイトバーガーです」

 

 イルメラの言葉を聞いて急にお腹が空いてきた、現金な物で先程迄は全然平気だったのに今は我慢出来ない位に空腹だ。

 空間創造からテーブルと椅子を取出しテーブルクロスを敷く、もう野外での小洒落た昼食会と変わらない内容だな。

 女性達が手際良く料理を並べているのを黙って見る、イルメラとウィンディアが切り分けエレさんはお皿を並べる、マジックアイテムの収納袋からは熱々の料理がそのまま保存出来るから便利だ。

 

 メニューはナイトバーガーに温野菜サラダ、ポテトフライに果汁水、デザートはグレープフルーツと迷宮探索中で食べれる内容ではないがボス部屋という安全圏だから可能だ。

 エレさんも料理を習い始めたが未だ二人には遠く及ばない、練習あるのみだろう。

 

「「「「いただきます!」」」」

 

 ナイトバーガーは裏返して軽く潰し丸かじりが父上から教わった聖騎士団伝統の食べ方だ。

 

 元々は野戦食だから手軽に素早く栄養バランス良く腹持ちも良い、肉と野菜が両方食べれる理想的な料理だと思っている。

 だが目の前で上品に食べるイルメラ達は、ナイトバーガーをキッシュの様に切り分けて食べている……女性に手掴みで物を食べさせるのはアレだしな。

 緊急時は手掴みだろうが水筒の廻し飲みだろうが出来るから構わないけどね。

 基本的に食事中は無言だ、この辺は全員育ちと教育が良いのでマナーも良い、依頼人が貴族や権力者の場合は助かる、荒くれ者が多い冒険者の中で冒険者ギルドも依頼によっては礼儀正しいパーティしか請けさせない内容も有る。

 護衛や交渉が絡む場合とか腕っ節だけでは無理だからな。

 

「ご馳走様でした!はい、リーンハルト君どうぞ」

 

 食事を終えるとウィンディアが敷布を広げ編み上げブーツを脱いで女の子座りをして膝をポンと叩いた。

 

「いや、そのな……」

 

「はい、リーンハルト君。遠慮無くどうぞ!」

 

 笑顔の圧力に押されて彼女の膝に頭を乗せる、イルメラはミルクみたいな甘い香りだが彼女は柑橘系の爽やかな香りだ。

 

「じゅ、十五分ほど頼む」

 

 髪を梳く事で了承したと伝えてきたが、これは子供扱いで恥ずかしい。

 転生前には母上にすらされてない行為だが嫌ではない、何故か安心出来るんだ……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 ウィンディアに膝枕をされながら考えた、ロングボゥによる攻撃陣形には大分慣れた。

 これなら制御数を最大五十体、いやもっと増やしても問題無いだろう。

 中遠距離攻撃が可能だが有効最大射程は水平射ちしかしてないが50m位だと思う、今度野外で斜め45度で射ってみて最大射程距離を測ろう。

 ロングボゥは連射も可能で六秒に一回は射れるが、問題は攻撃力が低い事だ。

 通常のモンスターなら大丈夫だが金属製の鎧兜や盾を持っていると致命傷を与え辛い、リザードマンも固い鱗にラウンドシールドを装備してるので一射目で全滅は殆ど出来なかった。

 ならば次の攻撃方法を試すべきだ……

 

 膝枕効果なのか次々とアイデアが頭の中に浮かび上がる、短距離で射撃で攻撃力が高い。

 

「ウィンディア、有り難う。大分考えが纏まったよ」

 

「えっと、リーンハルト君は私の膝枕を堪能しながら何を考えていたの?」

 

 早く試したくて目が冴えてしまった。

 

「休憩も済んだし午後も頑張ろう、目標は百回迄だ」

 

 急いでテーブルと椅子を片付ける、早く効果的か試したい。

 

「ウィンディアさん、駄目です。リーンハルト様にスイッチが入りました」

 

「また何か魔法絡みで考えてると思う、コレは止まらない」

 

 

 酷い言われ様だが事実だから仕方ない、確かに僕は魔法関連については熱くなりやすく自重出来ない。

 午前中とは違いゴーレムポーンを十体二列の二十体錬成し前後左右少し幅を広げて配置する。

 

「数を減らして武器も装備してないよ」

 

「これからだよ、ロングボゥ装備には慣れたけど一撃の破壊力が乏しいだろ?だから次は投げ槍にする」

 

 ロングボゥの攻撃力が低いのは装填する弓矢の大きさと重さがが限られてるから、だが投げ槍なら先端も太く重い。

 これならロングボゥの数倍の攻撃力が有るが、反面射程距離は短く命中率も低い。

 だが今回はポップするリザードマンは六匹と固定で場所も殆ど定位置だから、投げ槍の習熟度を上げるには丁度良い。

 

 全長150㎝、先端は鋼製でランス形状にして柄は木製だ、頭が重い方が安定して飛びやすい。

 

「投げ槍かぁ……確かに当たればダメージは大きいね」

 

「慣れが必要ですが、今回の敵は固定ですし条件も良い、慣れるのには最適ですね」

 

「ああ、そうだよ。これならリザードマンでも一撃で倒せるだろう。エレさん、扉を開けて外を確認してくれる?」

 

「大丈夫、誰も居ない。閉めるけど準備は良い?」

 

 頷く事で了解と伝える、扉を閉じると直ぐに部屋の真ん中辺りに魔素が集まりだす。

 大体十五秒でリザードマンは実体化して最初に周囲を確認、盾持ちは直ぐに防御体制を取り武器持ちは接近を企てる。

 だから実体化して直ぐに槍を投げなければならない、二列二十体に槍を構えさせて待ち実体化と共に一斉に投擲する!

 

「ゴーレムポーンよ、ヤレ!」

 

 実体化した六匹のリザードマンに対して二十本の投げ槍が殺到、反射的にラウンドシールドを構えるも貫通した。

 成功だ、弓矢と違い貫通力も破壊力も大きい為にラウンドシールドを貫通してリザードマンの身体に突き刺さる。

 だが最低一匹に三本は割り振ったが狙う場所が胴体にしたので避けられたり腕で守られたりと致命傷を受けてない奴も居る。

 

「凄い、でも討ち漏らしが一匹居る。油断しないで!」

 

 エレさんの放ったクロスボゥの矢がリザードマンの右目に突き刺さる!

 

 ー断末魔の悲鳴を上げて、のけ反る様に倒れる。エレさんの狙撃能力は高い、ワンショットキル……一撃で急所を狙い撃ちだ!

 

「エレさんのクロスボゥの扱いは凄いな!僕のゴーレム運用技術も向上したつもりだが、エレさんの上達速度には敵わないよ」

 

「そんな事は無い、このクロスボゥが高性能なだけ」

 

 前髪で隠れて見えないが照れているのは分かる、下を向いても手とかも真っ赤だし……

 だがクロスボゥの修練はエレさんにとっては良かった、ブレイクフリーの中で圧倒的に戦闘経験が少ないのは彼女だ。

 イルメラは冒険者として活動しランクDになってたし、ウィンディアはデオドラ男爵の下で扱かれていた。

 だがエレさんだけは盗賊ギルドに所属はしていてもレベル6の初心者だったのを僕等がパーティの恩恵でレベル23まで押し上げてしまったんだ。

 当人のレベルに比較しても圧倒的に経験が少なかったけど短期間でクロスボゥの扱いが急上昇した、つまり才能は有る。

 

「エレさんは積極的にクロスボゥで敵を倒してくれ、不足していた戦闘経験を積もう。君には才能が有る、もっと強くなれるよ」

 

 未だ少し赤い顔で僕を見上げてきた、真剣な表情だ……

 

「皆の迷惑にならない位に強くなれるかな?」

 

「今だって迷惑じゃない、周囲の警戒に罠の解除、そして狙撃能力。エレさんは立派にブレイクフリーのパーティメンバーとして活躍してるよ」

 

 つい頭を撫でてしまう、僕はエレさんに対して妹か娘みたいな感情が芽生えている。しかしサラサラだな、ずっと撫でていたいな……

 

「むぅ、嬉しいけど毎回子供扱い?」

 

 はい、娘扱いですとは言えずに黙って微笑む。

 

「エレちゃんが娘ならイルメラさんが本妻で私が側室だよね?」

 

「そのネタは以前にもやりましたよ、少しお黙りなさい!」

 

 イルメラの逆鱗に振れたのかウィンディアが叱られている、だがその配役は近い、殆ど正解だ。

 少しずつだがブレイクフリーは良いパーティに成長している、もう少し力を付けるまでエムデン王国が平和で有れば良いな。

 

 それと物理攻撃と防御を僕のゴーレム頼りにしているが戦士職のパーティメンバーも必要だろうか?

 僕不在の時には後衛職しか居ないのは不安だ、何か彼女達の為に物理攻撃や防御に対応するマジックアイテムでも造るか……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 午後の休憩から三時間、目標のボス狩り百回を達成した。

 連続百回、倒したリザードマンは六百匹でエレさんだけがレベル24に上がった。

 ドロップアイテムは鱗の盾が百八枚に鋼鉄の槍が百四十本、鑑定はしてないが数本は魔力の付加を感じている。

 

「少し早いけど帰ろうか?」

 

 そろそろ魔力の枯渇が激しい、ゴーレムポーンが維持出来る内に帰るか。

 ボス部屋の外に出ると久し振りに攻略待ちの冒険者パーティが居た、戦士三人に盗賊と魔術師が一人ずつだが全員が若い、未だ二十歳になってないだろう。

 

「早かったな、扉が閉まってから三分位だぞ。てか凄い数のゴーレムだな、最近噂のバンクに現れた美少女魔術師なのか?」

 

 扉を開けたら中を覗かれた、未だ二十体のゴーレムポーンを錬成したままだった。

 目敏く見られたが既にライラック商会の花嫁行列でも見せてるから大丈夫かな。

 

「へぇ、そんな凄腕美少女魔術師が居るんですか?残念ですが、このゴーレムは僕が錬成したものですよ」

 

 ワイルドカードめ、いらん噂を流しやがって。だが情報撹乱には利用出来るかな、いや撹乱する程の情報も無いか。

 

「少年魔術師、ゴーレム使い……ブレイクフリーのリーンハルトか?

なる程な、狂った迷宮探索のボス狩りって事実かよ!俺等はレッドリボン狙いで今日が初めてボスに挑むんだけどさ、君等は何回倒したんだ?」

 

「まぁそれなりですよ。確かに僕等はブレイクフリーだけど君達は?」

 

 名前も知らない相手が僕達の事を詳しく知ってるのは何か嫌だな、イルメラ達も無表情で無言だし。

 

「ん?俺等か、『ブレーマーハーケン』の俺はリーダーで戦士のアロイス、ラムサールとエドムントは同じ戦士、盗賊のエアハルトに魔術師のエッボ、これでも全員ランクDだぜ」

 

 ほぅ、全員ランクDとは若いのに中堅クラスか……

 

「僕がリーダーのリーンハルト、僧侶のイルメラに魔術師のウィンディア、盗賊のエレ、宜しく。じゃボス戦頑張って!」

 

「ああ、お互い頑張ろうぜ!」

 

 特に何か言われる事もなくボス部屋に入っていった、流石に初級の魔法迷宮でも五階層ともなれば強いパーティが居るんだな。

 


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